真理は全体像の中にあります。その一部の局面(例えば「ロシアのウクライナ侵攻」)を取り出して「天人共に許さざる不正義」と極めつけるのが西側の論理ですが、それでは事態は解決しません。
岸田首相が21日ウクライナを電撃訪問したことについて、鳩山由紀夫元首相が同日、次のようにツイートしました。
「中国が和平提案を示し習近平主席がプーチンと会談をしている時、岸田首相はゼレンスキーに会いに行くと言う。G7で自分だけ行ってないかららしいが、自分も欲しいという子供じゃあるまいし」、「世界は和平に向けて動き始め出した。単にウクライナを支援しますではなく、戦争終結の和平提案を出すべき時だ」。
ロシア軍が攻撃を始めて間もない段階でゼレンスキーはロシア政府と停戦交渉を始めたのですが、周到に準備してウクライナ戦争を引き起こした米国が認める筈もなく、キエフ側交渉メンバーのデニス・キリーエフは治安機関SBUによって射殺(3月5日)されました。
4月9日には英国のジョンソン首相がキエフへ乗り込み停戦交渉を止めるように説得し、4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長らがウクライナを訪問して説得しました。
独・仏の首脳らも同様であるのは言うまでもありません。
そうした経過に照らせば、ゼレンスキーが絶えずNATO諸国に武器や資金を要求するようになったのは止むを得ないことですが、米国をはじめ入れ替わり立ち替わりでウクライナを督戦してきた国々は、この先どうしようというのでしょうか。
対ロシア経済制裁に端を発した品不足と諸物価高騰の中でも、独・仏などの首脳らはひたすら米国の意のままに動いています。しかし自国が建設した天然ガスライン(ノルドストリーム)を米国に爆破(海底敷設部)されたことへのドイツ国民の怒りは大きいし、フランスでは年金改革反対を名目に全国300地区で延べ350万人が抗議デモに参加するなど、庶民の不満は欧州全域で高まっています(米国内の事情も多分同じでしょう)。
そうした中でもウクライナ国民(やロシア国民)の悲劇こそが最大のものなので、何をおいてもウクライナ和平こそが目指されるべきです。
植草一秀氏が「キエフ行き競う無意味さ」とする記事を出しました。
その中で、米国を中軸とする欧米は野放図にウクライナへの武器供与を繰り返し、南極点到達競争かのようにキエフ訪問を競ってきたのに対して、ゼレンスキーの要求は武器をくれの一点張りで世界中を飛び回って武器供与を要求しているのが現状であるとして、「いま追求するべきことは戦乱の収束であって戦乱の拡大でない。世界のなかで戦乱の収束を模索しているのはロシのプーチン大統領と中国の習近平主席だけ」と述べています。
ようやくウクライナ和平を具体的に提案できる国が登場したわけです。
併せて櫻井ジャーナルの記事「中露会談で生じた衝撃波が世界へ広がる中、岸田首相はウクライナを電撃訪問」を紹介します。
そこではウクライナ戦争に関する全体像の概要が記述されています。「習近平は和平案を提示し、プーチン露大統領は興味を示したようだが、ジョー・バイデン政権は和平を拒否した」という記述も見られます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
キエフ行き競う無意味さ
植草一秀の「知られざる真実」 2023年3月21日
岸田首相がインド訪問のついでにウクライナを訪問したことが報じられた。
WBCの試合終了直前にニュース速報として報じられた。
NHKは直後の正午の定時ニュースで30分の時間をかけて報道した。
日本全体は日本代表がWBC準決勝で劇的サヨナラ勝利を飾ったことから、これに釘付けになっていたことと思われる。
NHKだけがあらかじめ用意していたと思われる30分の放送を強行し、違和感が充満した。
直前に日本代表が逆転サヨナラ勝利を飾ったから、まさに新鮮なトップニュースだった。
しかし、NHKはニュースでWBCが存在した匂いすら漂わせなかった。
G7の首脳で岸田首相だけがウクライナを訪問しておらず、岸田首相はG7までにどうしてもウクライナを訪問したいと考えていたようだが、G7首脳陣の幼稚さが際立つ結果になっている。
鳩山元総理が「子どもじゃあるまいし」とツイートしたことが報じられたが、多くの賢明な国民が共感を覚えたと思われる。
ゼレンスキーはウクライナを支援する国に執拗に支援を迫り、どこへでも出向く対応を示し、ウクライナに武器支援する欧米諸国は南極点到達競争かのようにキエフ訪問を競ってきた。
ゼレンスキーの要求は何とかのひとつ覚えの如く、武器をくれの一点張り。世界中を飛び回ってしつこく武器供与を要求している。
米国を中軸とする欧米は野放図に武器供与を繰り返しており、このことによって戦場で多数の人命が失われている。欧米諸国の劣化が極めて深刻な状況だ。
いま追求するべきことは戦乱の収束であって戦乱の拡大でない。
世界のなかで戦乱の収束を模索しているのはロシのプーチン大統領と中国の習近平主席だけだ。
習近平氏はロシアを訪問して、プーチン大統領と膝をつき合わせて協議し、戦乱の収束方法を話し合ったと見られる。世界が追求するべき方向がこの方向であることは間違いない。
ウクライナが正義でロシアが悪との見立ても成り立たない。そもそもこの戦乱が生じた根本原因は、ウクライナがミンスク合意を一方的に踏みにじったことにある。
ゼレンスキー自身が2019年の大統領選でミンスク合意の履行と、それによるウクライナ東部の和平確定実現を公約に掲げていた。
ウクライナは2015年に東部2地域とミンスク合意を締結している。この合意にはロシア、ドイツ、フランスも関与した。合意は国連安保理で決議され、国際法の地位も獲得した。
ウクライナ政府が誠実にミンスク合意を履行していれば戦乱は発生していない。
ミンスク合意履行に強く反対したのはウクライナの極右勢力だ。ゼレンスキーは極右勢力の脅しに屈してミンスク合意を踏みにじる方向に転向した。
そして、この方向を強く誘導したのが米国のバイデン政権である。
ゼレンスキーは正義のヒーローとはほど遠い。発生する必然性のない戦乱を勃発させた張本人というのが妥当な位置付け。
国連でロシア非難決議等に140ヵ国以上が賛成したと伝えられているが、賛成した国の人口は賛成しなかった国の人口よりも少ない。人口比では6対4で賛成が少ないのだ。
G20が提唱した経済制裁も実施している国が10、実施していない国が10という状況だが、人口比では実施している国が2割、していない国が8割だ。
米国は米国による世界の一極支配を目論むが、現実の世界は多極化している。米国の一極支配主義=ワン・ワールド構想はすでに破綻している。
中東のイランとサウジアラビアの関係修復も、仲介したのは中国である。その中国がウクライナ戦乱に関して積極的に動き始めた。
ウクライナ自身も中国との関係は深い。中国による停戦に向けての行動を、実はウクライナも歓迎している。
このなかで、日本の行動が問われるわけだが、残念ながら、日本は米国のポチでしかない。
米国が、ロシア=悪、ウクライナ=正義の図式ですべてを報道せよと日本に命令すると、日本の報道は、その命令通りに一色になる。
NHKも恥ずかしい報道を続けている。
日本に自立と独立の気概があるなら、米国のポチをやめて、ウクライナ戦乱終結に向けての提案を示すべきだ。
キエフ詣でに血道を注いでも得るものは皆無。
NHKが30分もかけてウクライナ訪問を報じたこと自体が奇怪。
ウクライナ問題に関して私たちが力を注ぐべきことは戦乱の拡大でなく、戦乱の収束だ。
このことを日本国民が明確に認識するべきである。
『千載一遇の金融大波乱 2023年 金利・為替・株価を透視する』
(ビジネス社、1760円(消費税込み))https://amzn.to/3YDarfx
『日本経済の黒い霧 ウクライナ戦乱と資源価格インフレ 修羅場を迎える国際金融市場』
(ビジネス社、1870円(消費税込み))https://amzn.to/3tI34WK
をぜひご高覧ください。Amazonでの評価もぜひお願いいたします。
(以下は有料ブログのため非公開)
中露会談で生じた衝撃波が世界へ広がる中、岸田首相はウクライナを電撃訪問
櫻井ジャーナル 2023.03.22
インドを訪問していた岸田文雄首相はその足でウクライナへ向かったという。キエフでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会うのだろうが、すでにウクライナは国として機能していない。
2004年から05年にアメリカのジョージ・W・ブッシュ政権が仕掛けた「オレンジ革命」で大統領の座を奪取したビクトル・ユシチェンコは新自由主義的な政策を推進して経済を破壊、そうした政策への反発から2010年の大統領選挙で選ばれたビクトル・ヤヌコビッチは13年11月から14年2月にかけての時期に行われたネオ・ナチのクーデターで排除され、経済の崩壊は続いた。クーデターを仕掛けたのはバラク・オバマ政権だ。
ヤヌコビッチの支持基盤で、7割以上がロシア語を話す東部や南部では住民が憲法を無視したクーデターによる一方的な体制転覆を認めず、クーデター体制を拒否、内戦に発展する。当初、反クーデター軍が優勢だったが、ドイツやフランスが仲介する形で停戦が決まった。「ミンスク合意」だが、当事者だったアンゲラ・メルケル元独首相は昨年12月7日、ツァイトのインタビューでこの合意はウクライナの戦力を増強するための時間稼ぎに過ぎなかったと語っている。メルケルと同じようにミンスク合意の当事者だったフランソワ・オランド元仏大統領もその事実を認めた。
キエフのクーデター体制はミンスク合意を守ろうとしなかったが、ドイツもフランスも平和を求めていなかった。勿論、アメリカもだ。戦力を増強するための時間が欲しかっただけである。つまりミンスク合意で平和が訪れるはずはなかった。
反ヤヌコビッチ政権のクーデターが計画されていると2013年11月20日にウクライナ議会で議員として警告したオレグ・ツァロフは22年2月19日に緊急アピール「大虐殺が準備されている」を出している。ゼレンスキー大統領がごく近い将来、ドンバスで軍事作戦を開始すると警鐘を鳴らしたのだ。
その作戦にはロシア語系住民を狙った「民族浄化」が含まれ、キエフ政権の軍や親衛隊はドンバス(ドネツクやルガンスク)で自分たちに従わない住民を虐殺しようとしていると主張、SBU(ウクライナ保安庁)はネオ・ナチと共同で「親ロシア派」の粛清を実行するともしていた。
ツァロフがアピールを出した3日後にロシアのウラジミル・プーチン大統領がドンバスの独立を承認、2月24日にロシア軍はウクライナを巡航ミサイルなどによる攻撃を開始、航空基地や生物兵器研究開発施設を破壊したと言われている。
攻撃の際、ロシア軍は部隊を派遣して重要文書を回収している。そうした文書の中には、ゼレンスキーが1月18日に出した指示に基づいて親衛隊のニコライ・バラン上級大将が1月22日に攻撃の指令書へ署名、ドンバスを攻撃する準備が始まっていたことを示すものが含まれていた。2月中に準備を終え、3月に作戦を実行することになっていたという。
その攻撃計画が始動する直前にロシア軍が動いたことになる。住民をウクライナの親衛隊は人質にとり、脱出を図った人などを殺傷しているが、少なからぬ住民がロシア軍の救出され、アゾフ大隊などクーデター体制側の残虐行為を証言している。
ロシア軍が攻撃を始めて間もない段階でゼレンスキー政権はロシア政府と停戦交渉を始めるが、アメリカやイギリスの命令で話し合いの道は断たれた。
停戦交渉を仲介したイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットのインタビューが今年2月4日に公開されている。ベネットによると、話し合いで双方は妥協に応じ、停戦は実現しそうだった。ゼレンスキー大統領はNATOへの加盟を諦めるとしたようだ。
2022年3月5日にベネットはモスクワでプーチンと数時間にわたって話し合い、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけた。その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・シュルツ首相と会っている。ウクライナの治安機関SBUがゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺したのはその3月5日だ。SBUはCIAの下部機関だと見られている。
4月に入ると西側の有力メディアはロシア軍がブチャで住民を虐殺したと宣伝し始める。マクサー・テクノロジーズなる会社から提供された写真を持ち出され、3月19日に死体が路上に存在していたと主張しているが、その後の分析で事実でないことが確認されている。(この件については本ブログでも何度か書いているので、今回は割愛する。)
そうした中、4月9日にボリス・ジョンソン英首相はキエフへ乗り込んでロシアとの停戦交渉を止めるように命令。4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対し、ウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めている。
その後、アメリカ/NATOはウクライナへ武器弾薬を供給、兵士を訓練して戦闘を継続させたが、ウクライナ軍は「玉砕攻撃」を強いられた兵士は戦死者の山を築く。昨年11月30日に欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長はウクライナの将校(将兵?)10万人以上が戦死したと語ったが、アメリカで2月に報道された情報によると、ウクライナ側の戦死者や負傷が原因で死亡した兵士の数は約26万人に達し、負傷者や障害者は約25万人、行方不明8万人、捕虜3万人だと推測されている。
ロシア側の戦死者は1万人余りだとみられているが、部分的動員で集めた30万人から40万人は訓練の終盤で、まだ大半は戦線に投入されていない。そうした中、3月20日に中国の習近平国家主席がモスクワを訪問、22日までロシアに滞在する。その際、習近平は和平案を提示、ウラジミル・プーチン露大統領は興味を示したようだが、ジョー・バイデン政権は和平を拒否した。
中国とロシアの首脳会談がモスクワで行われている最中の21日に岸田首相はキエフを訪問したわけだ。G7の首脳で岸田首相だけがウクライナを訪れていないので突如訪問したということではないだろう。バイデン政権の指示があった可能性が高い。
モスクワで中国とロシアの首脳がウクライナの和平だけを話し合ったとは思えない。ウクライナの問題はアメリカをはじめとするアングロ・サクソンの支配層が19世紀から維持している世界戦略の中から生まれたのである。ロシアを征服することが最終的な目標だが、中国もアヘン戦争以来、狙われている。
習近平は東アジアでの戦争を想定、最新型の防空システムや極超音速ミサイル(マッハ12)のキンジャール(⇒ロシア製)についても議論されたと推測する人もいる。日本が軍事力を急ピッチで増強していることが刺激になっているだろう。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。