2023年3月31日金曜日

パイプライン破壊工作の真相を調べる必要はないと判断した国連安保理

 櫻井ジャーナルが、ロシアとドイツがバルト海に敷設した2本のパイプライン「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が22年9月26日から27日にかけて破壊された経過を明らかにしました。
 この事件について調査するようにロシアと中国は安保理に提起しましたが、賛成がロシア、中国、ブラジルの3カ国で、日本を含めた他の国々は棄権しました。
 民間ベースでは明らかな犯罪行為ですが、ロシアのウクライナ侵攻との関連でどう判断すべきは議論が分かれるところなのでしょう。大半が棄権したのはその顕れですが、単に米国への忖度なのかも知れません。
 とはいえロシアからの天然ガスの供給が停止されてからNLGに切り替えたことで俄かにコストが高騰したことで困窮している独国民は、ウクライナ戦争終結後も同ラインからの供給が望めなくなったことへの怒りは大きいことでしょう。
 フランスでは年金給付開始年齢が2年延びたことに対し、350万人の国民が反対行動に立ち上がりました。当然、対ロシア経済制裁に伴う仏国民の生活苦がその背景にあります。
 生れも良く欧州のエリート層である政治家たちは生活苦とは無縁で、意気軒昂に米国の意向に沿おうとしていますが、その陰で政治家と国民との分断は深まっています。
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パイプラインに対する破壊工作の真相を調べる必要はないと判断した国連安保理
                          櫻井ジャーナル 2023.03.30
 ロシアとドイツがバルト海に建設した2本のパイプライン「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が2022年9月26日から27日にかけての間に破壊され、天然ガスが流出した
 瞬間的に大きな穴が空いたと見られ、1カ所あたりの爆発エネルギーはTNTに換算して100キログラム以上だとされている。パイプの構造から考えて事故でそうしたことが起こる可能性は小さく、当初から爆破工作だと推測されていた。
 この天然ガス流出について調査するように求める決議をロシアと中国は国連の安全保障理事会に求めたが、賛成したのはロシア、中国、ブラジルの3カ国にすぎず、アルバニア、イギリス、ガボン、ガーナ、マルタ、モザンビーク、アラブ首長国連邦、アメリカ、フランス、スイス、エクアドル、日本は棄権した。
 国際的に大きな影響を及ぼした破壊工作が行われた可能性が高いにもかかわらず、真相を明らかにする必要はないと12カ国は考えたわけである。状況から考え、実行国はアメリカ、あるいはその従属国だと考えられているが、棄権した国々もそう判断したのだろう
 破壊直後、ポーランドで国防大臣や外務大臣を務めたラデク・シコルスキーは「ありがとう、アメリカ」と書き込み、その後、ノードストリームの破壊はプーチンの策略の余地を狭めるとも書いた。ロシアはバルブを締めれば天然ガスを止められるが、緩めれば再稼働できる。そうした状況ではロシアがEUへプレッシャーをかけられるわけで、そのことをシコルスキーは理解していた。

 ロシアとヨーロッパは天然ガスを通じて関係を深めていた。輸送はパイプラインで行われ、その多くはウクライナを経由していたことから、アメリカの支配層はロシアとヨーロッパを分断するためにウクライナを完全な属国にしようとする。そこでバラク・オバマ政権は2013年11月から14年2月にかけてウクライナでネオ・ナチを使い、クーデターを実行したわけだ。
 しかし、ウクライナを迂回するため、ロシアとドイツはバルト海を経由する2本のパイプライン「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」を建設した。
 NS1は2010年4月に建設が始まり、11年11月から天然ガスの供給が始められる。ウクライナの体制がクーデターで変わった後の2015年6月にガスプロムとロイヤル・ダッチ・シェルは共同でNS2の建設を開始、18年1月にドイツはNS2の建設を承認、21年9月にパイプラインは完成した。
 アメリカやポーランドはNS1やNS2の建設や稼働に強く反対し、ドナルド・トランプ政権下の2020年7月には国務長官のマイク・ポンペオがNS2を止めるためにあらゆることを実行すると発言。2021年1月に大統領がジョー・バイデンに交代しても状況に変化はなく、22年1月27日にビクトリア・ヌランド国務次官はロシアがウクライナを侵略したらNS2を止めると発言している。2月7日にはジョー・バイデン大統領がNS2を終わらせると主張し、アメリカはそうしたことができると記者に約束した。

 2022年2月24日にロシア軍はウクライナに対する軍事作戦を開始、アメリカ政府の圧力でEUは新パイプラインの稼働を断念。アメリカはさらにNS1も止めさせようとした。
 パイプラインが爆破された1分後にイギリスの首相だったリズ・トラスはiPhoneでアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官へ「やった」というテキストのメッセージを送ったと伝えられている。携帯電話がハッキングされたようだ。
 その当時、イギリスの閣僚が使っていた電話がハッキングされていたことを疑わせるできごとがあった。イギリスの​ベン・ウォレス国防相は10月18日、アメリカの国務省や情報機関の高官と会うために同国を秘密裏に訪問しているのだ。
 閣僚が使う通信手段はセキュリティーの信頼度が高いはずで、通常なら電話で済ませるはずなのだが、本人が出向いた。そこで通信のセキュリティーに不安があったと考える人もいたが、その推測は正しかったようだ。その直後、「ジョーカーDPR」と名乗るハッカー・チームがウクライナ軍の指揮統制プログラムにハッキングしたと主張している。

 そして今年2月8日、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュはアメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊したとする記事を発表した。
 ハーシュによると、アメリカのジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、その中には統合参謀本部、CIA、国務省、そして財務省の代表が参加している。12月にはどのような工作を実行するか話し合ったという。そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を具申している。
 2022年1月27日にビクトリア・ヌランド国務次官は、ロシアがウクライナを侵略したらノード・ストリーム2を止めると発言、2月7日にはバイデン大統領がノード・ストリーム2を終わらせると主張、記者に実行を約束した。こうした発言の背後には爆破計画があったわけだ。
 爆破計画の拠点として選ばれたのはノルウェー。イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長の母国だ。ハーシュによると、3月にはサリバンのチームに属すメンバーがノルウェーの情報機関に接触、爆弾を仕掛けるために最適な場所を聞き、ボルンホルム島の近くに決まった
 プラスチック爆弾のC4が使われたが、仕掛けるためにはロシアを欺くためにカムフラージュが必要。そこで利用されたのがNATO軍の軍事演習「BALTOPS22」だ。その際にボーンホルム島の近くで無人の機雷処理用の潜航艇を使った訓練が行われた。
 ハーシュの記事が発表される4日前、ジョー・バイデン大統領の命令で中国から飛来した気球をF-22戦闘機が高度1万8000メートルで破壊した。アメリカ政府はその時点でハーシュの取材内容を知っていただろう。西側の有力メディアはバルーンの破壊に熱狂することになる。