17日夕、記者たちが「何のためにわざわざ集めたのか」と口にする首相の記者会見が行われました。
この会見は数日前に急に決まったため関係者は準備に大わらわだったそうですが、決まっていないものは書きようもなく中身のなさに記者から疑問の声が上がりました。
それは記事の書きぶりにも表れていて、「それなら今月末に具体策を取りまとめてから会見した方がよかったのではないか」と言う通りです。
しかし首相は低迷する内閣支持率が底を打ち、わずかながら上昇に転じたことに気をよくして、今後は露出を増やし子育て政策と外交で一気に反転攻勢だと息巻いているということです。それに付き合わされる記者こそいい迷惑です。
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財源も示さず選挙用の打ち上げ花火 増税・防衛費倍増 少子化対策 どっちが本気かは歴然だ
日刊ゲンダイ 2023/03/20
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
何のためにわざわざ記者を集めたのか。岸田首相が17日夕に開いた記者会見の中身のなさに疑問の声が上がっている。
前日の16日には、初訪日した韓国の尹錫悦大統領と首脳会談を行って共同記者会見に臨んだばかり。18日もドイツのショルツ首相の訪日に合わせて共同記者会見を開催し、3日連続の会見だった。
首相会見は通常、国会閉幕や予算成立、あるいは新型コロナ対策などの重要発表がある時に行われる。単独会見でどんな重大発表があるのかと思ったら、17日の会見で岸田は「本日は子ども・子育て政策について、基本的考え方をお知らせしたい」と語りだしたのだが、その内容は肩透かしもいいところだった。
少子化対策の基本方針として、「若い世代の所得を増やすこと」「社会全体の構造や意識を変えること」「全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援すること」を挙げたのだが、そんな当たり前のことを今さら得意げに発表されても困る。どうやってそれらを実現するつもりなのかが肝要だ。
岸田は男性の育児休業取得率を2025年度に50%、30年度に85%に引き上げると表明。産後の一定期間に夫婦とも育休を取得した場合、休業前の手取り額とほぼ同額の給付を得られるようにするという。また、世帯収入を増やすために、一定の年収を境に手取り額が減少するため配偶者の就労を妨げるとされる「年収106万円の壁」「130万円の壁」の見直しに取り組むと明言した。
他にも、賃上げや児童手当の拡充、高等教育費の負担軽減、若い子育て世帯向けの住宅支援などあれこれ並べ立てたが、いずれも「今月末をめどに具体的なたたき台を取りまとめるべく検討」を進めるそうで、実施時期や財源については明らかにしなかった。
支持率上昇に気をよくしている
目新しいところでは、子どもファースト社会の実現のため「子どもファストトラック」を全国で展開すると打ち出したことか。子連れの人が窓口で並ぶことがないようにする制度で、国立博物館など国の施設で導入するという。
これはすぐにも実現できそうだし、財源不要。ただし、少子化対策にどこまで効果があるかは不明だ。
質疑応答でも、児童手当の所得制限撤廃や「年収の壁」の是正などについての具体的な制度設計や、子ども・子育て政策の予算倍増について質問があったが、岸田は「3月末をめどにパッケージとしてお示しし、その上で、骨太方針までに政策内容の更なる具体化を進める」「政策の中身を詰めなければ、倍増の基準や時期を申し上げることは適当ではない」と言うばかり。
それなら、今月末に具体策を取りまとめてから会見した方がよかったのではないか。
「17日の総理会見は数日前に急に決まったため、関係者は準備に大わらわでした。ハッキリ言って、子ども政策の制度設計はまだ何も具体化していない。生煮えの会見だったことは否めません。しかし総理は、低迷する内閣支持率が底を打ち、わずかながら上昇に転じたことに気をよくしている。露出を増やし、子育て政策と外交で一気に反転攻勢だと息巻いています」(官邸関係者)
毎日新聞が18、19の両日に実施した全国世論調査では、岸田内閣の支持率は33%と2月の前回調査から7ポイントも上昇した。読売の調査でも支持率は前回から1ポイントアップして42%、NHKの調査では支持41%、不支持40%と7カ月ぶりに支持と不支持が逆転した。
「ラストチャンス」の大半を防衛費倍増に注力
「岸田首相は『異次元の少子化対策』だか『次元の異なる少子化対策』だかを華々しく打ち上げたものの、その具体策がサッパリ見えてこないことへの不満が有権者にはある。それで慌てて記者会見してみせたのでしょう。4月の補選や統一地方選を意識したパフォーマンスですよ。だから、児童手当拡充などのバラマキもにおわせた。しかし、子ども・子育て政策の大枠は6月の『骨太の方針』で明らかにするという見切り発車で、具体策や財源は先送りです。本当にやる気があるのかどうか。ありとあらゆる財源をかき集めて強行する防衛費倍増と比べると、本気度の違いは明らかです。岸田政権の子ども・子育て対策はまったく中身がないゴマカシだということをメディアがきちんと伝えないから、“やってる感”だけで支持率が上がるのです」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
岸田政権は今後5年間で総額43兆円を防衛費に投じることを決めた。現行水準からの増額分となる約17兆円の財源には、23年度予算案で4兆6000億~5兆円程度の税外収入を確保。具体的には、外国為替資金特別会計と財政投融資特別会計からの繰入金(約3兆7000億円)、東京・大手町の国有ビル売却収入(約4000億円)、新型コロナウイルス関連予算の返納金(約750億円)などだ。これを複数年度にわたって防衛費に充てる枠組みとして、「防衛力強化資金」を創設する。
だが、税外収入は本来、一般会計全体で使えるカネのはずだ。それを防衛費に特化することで、他の政策経費に使える財源が減る。当然、子ども・子育て政策にも使えなくなる。
本来は道路や橋などの公共事業に使われる「建設国債」の一部も、防衛費増額に充てられることになった。建設国債を防衛費に充てるのは戦後初めてだ。
少子化はミサイルより確実な危機
使えるものはすべて使う防衛費倍増の極め付きは、昨年末の税制改正大綱で、東日本大震災の復興予算に充てる「復興特別所得税」の一部を防衛費に転用することを決めたこと。こんな“禁じ手”まで使おうというのだ。
「復興目的の財源を防衛費に転用するなんて、どうかしています。東日本大震災からの復興は道半ばなのに、原発再稼働を進めて復興より軍拡を優先するのが岸田政権なのです。しかも、復興税を防衛費に回すことによって、徴税期間が14年も延長される。物価高で国民生活が痛んでいることへの対策は後回しで、増税に次ぐ増税で米国産の武器弾薬を爆買いすることしか頭にないのでしょうか。選挙前に多少のバラマキをすれば目くらましになると考えているとすれば、あまりに国民をバカにしています」(政治評論家・本澤二郎氏)
第2次安倍政権以降、「我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しうんぬん……」が常套句になり、岸田もそう言って防衛費倍増が時代の要請みたいな言い方をするのだが日本の防衛費をNATO並みのGDP比2%にすることに明確な根拠があるわけではない。岸田が勝手に米国のバイデン大統領に約束してきただけのことで、“国際公約”でも何でもないのだ。我が国が直面する少子化対策よりも優先する必要があるのかどうか。
「日本の国土を狙ってミサイルが飛んで来る可能性がどれだけあるかは分かりませんが、少子化は確実な危機です。岸田首相は、防衛費を倍増、子ども予算も倍増と気前のいいことを言っていますが、どこにそんなカネがあるのか。どのみち増税しか道はなく、ますます国民生活は疲弊する。防衛費倍増に注力することによってミサイル攻撃を受ける前に内側から社会が崩壊してしまいます」(五十嵐仁氏=前出)
岸田は17日の会見で、「2030年代に入るまでのこれから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と言っていた。だが、今後5年間の防衛費倍増計画にリソースを取られれば、ラストチャンスをフイにしてしまいかねない。ま、岸田の異次元少子化対策なんて、その程度のもの。口先だけということだ。