世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
岸田文雄のウクライナ訪問は電撃でも何でもなく、デリー(インド)の後にキエフに立ち寄るという情報は野党を含めて周知されていたと書き始めています。
日本がリーダーシップを取るべきはウクライナの和平であり、その内容は、ロシア軍は撤退し、クリミアはウクライナに返還し、東部ドンバスについては原点に還ってミンスク合意を再履行すべきであるとして、そのためにはウクライナの中立、すなわちNATO非加盟の宣言と遵守、実効性の保証が求められるとしています。
同時に、この和平案の実現性はゼロに近いとも述べています。和平というよりはウクライナ戦争の構造自体に絶望していることが伝わります。
ICCのプーチン(とマリヤ・リボワベロワ)の逮捕状発行については、政治臭が濃厚であるとしながらも、逮捕容疑が、色々擁護が可能な「ウクライナの子どもたちのロシア移送」であって西側が喧伝する「ブチャなどでの虐殺」でないことについては、ロシア軍による処刑とウクライナ軍による処刑の両方があるからだろうと推測しています。
読みの深さを実感させられるのは、逮捕状発行の目的が、米国が既にプーチンの暗殺の準備を完了していて暗殺が実行された場合でも、プーチンは犯罪人なんだからという認識を周知させておくことで批判を弱めることにあると見ていることです。
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岸田文雄のウクライナ訪問 - ICCの逮捕状とプーチン暗殺作戦
世に倦む日日 2023年3月23日
岸田文雄のウクライナ訪問は電撃でも何でもない。ずっと前から漏らしていて、公然の秘密の日程だった。インド訪問の機会にウクライナに足を伸ばすだろうという観測は、マスコミが既定事項のように報じていて、私もそれを見ていたから、3月11日の少子化問題についての記事の中で、「岸田文雄は(略)インドとウクライナを訪問し」と書いている。岸田文雄の今春の政局運営計画の一つとしてこの予定を当然視して挿入したのだった。マスコミの中で、岸田文雄がデリーの後にキエフに立ち寄る情報を知らなかった者はいないし、永田町の住人も同じだろう。21日朝のWBCの中継中にニュース速報のテロップが出た後、間髪を置かず泉健太と岡田克也の「歓迎」「評価」のコメントが出たのは、この件が予め調整済みで、野党が了承していた背景を意味する。
本来なら国会の事前承認が必要な問題で、さらには、戦争中の一方の当事国に肩入れして支援する目的の外遊という、異例の首相の外交行動だが、立憲民主党は即座に「歓迎」して後押しした。何やら一人だけ、原口一博が「帰ってきたら(内閣)総辞職してほしい」とツイートし、この件に批判的に見える態度を示している。私は、原口一博と党執行部とは政治分業の位置関係にあり、予め水面下で役割を決め、原口一博にこのパフォーマンスをさせているものと裏読みする。つまりプロレスの芝居だ。世論は岸田文雄のウクライナ訪問に賛成の者ばかりではない。事前の議論もなく強引に国会の慣例を破った暴挙に批判的な者もいる。それは、日本共産党やれいわの支持者に多いだろう。原口一博の発言は、左派方面を慰撫して党のバランスを演出する対策措置に違いない。
産経FNNが3月20日に発表した世論調査では、「ウクライナに首相は訪問すべきか」の質問に対して、「訪問した方がよい」が53.3%、「訪問しない方がよい」が39.9%の回答となっている。フジの世論調査でさえ、賛否の結果は5対4なのである。拮抗している。朝日新聞の3月19日の世論調査にはこの質問項目はない。もし朝日が調査に入れていれば、賛否の比率は逆転していたかもしれない。21日の番組の生放送で反町理は、この世論調査結果の円グラフをフリップに立てながら、国民の大多数が首相のウクライナ訪問を支持していると早口でまくし立てたが、とんでもない強弁であり意図的な誤報である。マスコミは、泉健太のエンドースコメント(⇒裏書保証)を早々と見せ、岸田文雄のウクライナ訪問を正義の行動として演出・宣伝し、その意義を100%肯定づけてセメント化しているが、実際の世論の事前評価では、賛否は拮抗だったのだ。
当然ながら、岸田文雄のこの行動は憲法違反である。国会の慣例破りの前に憲法違反だ。交戦中の外国を訪問すべきでないのは無論のこと、戦争当事国の片方に政府が継戦支援目的の過剰な援助をすべきではない。日本がするべきは、停戦の呼びかけと仲介であり、平和主義の外交努力である。日本はNATOの加盟国ではないし、憲法9条が国是の国であり、G7の他諸国とは基本的な立場と方針を異にする。トルコや中国が試みている和平の模索を日本も見倣うべき、否、率先垂範で取り組むべきで、インドと国連を誘ってロシアとウクライナの間に割り込むべきなのだ。軍事作戦の即時停止を実現し、粘り強く和平案の協議と合意の場を作り支える活動に挺身すればよい。両国の戦いを、武器による攻撃と殺傷ではなく、議論と交渉の応酬に転化させるべきなのだ。
無論、ロシア軍は撤退し、クリミアはウクライナに返還すべきである。東部ドンバスについては原点に還ってミンスク合意を再履行すべきだ。ただし、ロシア側にもそれを応諾する条件が必要で、ウクライナの中立、すなわちNATO非加盟の宣言と遵守、実効性の保証が求められる。NATOがウクライナから手を引くことが重要で、アメリカがNATO東漸の過誤と失敗を認めて反省することが鍵となる。アメリカが老ジョージ・ケナンの渾身の批判と警告に即いて頭を垂れれば、問題は根本解決に導かれる。戦争犯罪の裁きについては、ICC以外の中立機関を設立して執り行うか、ICCに中国やインドが臨時参加し、捜査と審理を中立化した上で事件を責任追及する変則方式の採用がベターだろう。NATOのヘゲモニーの下で法の正義を独占する現在のシステムとプロセスは有効ではない。
以上の和平の提案と構想は、現在のところは全く実現可能性がなく、絵に描いた餅と言えるほどの実質もない。読んだ者は鼻で笑うだけだろうし、ウクライナのNATO非加盟などと冗談じゃないと罵倒するだろう。けれども、もし状況が変わり、現在の金融不安が本格的な金融危機へと移行し、リーマン時を超える破壊的影響を市場に与える局面となれば、アメリカと西側諸国はウクライナ戦争どころではなくなるに違いない。21日に報道1930で紹介された「ユーロスコピア」の世論調査を見ると、「たとえウクライナがその領土の一部をロシアに渡さなければならないとしても紛争の早期解決を支持」する意見が、ドイツで60%、イタリアとスペインで50%に達していた。日本と比較して、いかに欧州でウクライナ・ファティーグ(⇒疲れ)の空気感が根強いかが察せられる。
■ ICC逮捕状の意味
ICCのプーチンとマリヤ・リボワベロワへの逮捕状発行については、やや腑に落ちない感想を抱く。それは、逮捕状のタイミングが遅すぎた点と、訴追理由がウクライナの子どもを拉致移送した容疑に据えられた点である。ICCの訴追は、まず何よりも「ブチャの虐殺」にフォーカスするだろうと予想していたからだ。昨年4月初の「ブチャ虐殺事件の発覚」の後、ICCのカーンが西側報道に登場し、捜査の着手と順調な進行を告げていて、早い時期に動きがあることを示唆していた。その後、検事総長のベネディクトワと人権監察官のデニソワが続けて解任される不具合が生じ、ICCの活動も西側マスコミに載らなくなった。捜査はどう進展しているのだろうと訝っていたら、ここへ来て急に逮捕状を出す進行になったが、容疑は肝心の「ブチャ虐殺」ではなく「子どもの強制移送」だと言う。なぜ「ブチャ虐殺」がオミットされたのか。
そこが不可解だ。普通に考えれば、「ブチャ虐殺」が最初の訴追案件になるはずである。現地を視察したカーンは西側マスコミに自信を見せていた。「ブチャ虐殺」も「子どもの強制移送」も、その告発と広報には失脚前のL.デニソワが関与している。私自身は、何度も述べたように、ウクライナ政府と西側が糾弾する「ロシア軍の戦争犯罪」には、どっちもどっちの要素と性格があり、「ブチャ虐殺」の犠牲者も、ロシア軍による処刑とウクライナ軍による処刑の両方があるものと推測している。子どものロシア領移送については、ロシア側が弁解するように、戦渦で親を亡くした子どもの保護の側面も一部はあっただろう。国連統計で民間人が8000人死んでいる。それだけ戦争孤児になった子どもも多くいる。親ロシア派住民の親がロシア軍に与して市街戦で民兵となり、ウクライナ軍と戦って命を落とした者の子どもも少なくないはずだ。
マリウポリとかでは特に多く出たに違いない。ロシア側の論理では、4州は併合したからロシア主権下のロシア領であり、幼い戦争孤児を安全なモスクワの施設に移送・収容して何が悪いという言い分になる。私はロシアを弁護する意図と動機は毛頭ないけれど、戦争の現実過程にはそうした複雑性が常にあり、一方だけを正義だと断定し、一方の主張だけを完全な真実だと鵜呑みにすることはできない。そして、今回のICCの動きもきわめて政治臭が濃厚で、おそらく、ブリンケンの差配でこの時期に発表したものと想像される。すなわち、①「子どもの強制移送」を罪状にするのは世界への世論効果が大きいという狙いと、②習近平のモスクワ訪問の意味を消すための先制打という狙いと、二つの目的のために投弾した情報戦の一撃だ。政治的な作為性が露骨に際立っていて、法的な正当性がよく確信しにくくなり、むしろ逆効果になっている。
■ プーチン暗殺作戦
東部戦線は膠着状態が続き、ロ・ウ両軍の消耗が前線で続いている。4月からはNATOから供与された大量の戦車群が入り、ウ軍の攻勢が始まると予告されている。今年に入ってから、高橋杉雄や堤伸輔の口調に変化が現れていて、アメリカの戦略スタンスが変わった兆候が窺われる。具体的には、プーチンの人格の全否定を強調するようになり、悪魔プーチンを始末しないと戦争は終わらないのだという方向に関心と解説を向けるようになった。どれほど高性能の戦車を投入し、戦闘機を投入しても、ウクライナの戦場での戦闘では戦争は決着しない、という認識が透けて見えるようになった。おそらく、CIAや戦争研究所がそうした分析と判断に傾いているのだろう。戦場での戦いでは戦争を終わらせられない、プーチンの首をもぎ獲るしかないという結論が、現在のCIAの本音なのではないか。
昨年の夏頃までは、アメリカの中にも「出口戦略」という議論があり、プーチンを暴走させないために「出口」を用意してやり、そこへ誘導して解決を図ろうという妥協案が囁かれていた。それが実現すれば、NATOとロシアが全面対決して核戦争になる最悪の事態を避けられると、そういう思考と気分とが流れていた。その頃は、戦闘機は出さないというNATO(アメリカ)の方針だった。それが変わり、あらゆる通常兵器を際限なく投入してロシア軍を壊滅させるという路線になり、さらには、そこまでやっても戦争終結は難しそうだから、プーチン斬首の秘密作戦しかないという本音を隠さなくなった。アメリカのことだから、おそらく、その作戦がプランされ、フィジビリティスタディ(⇒実現可能性の調査)され、計画レベルでは完全な内容に仕上がっているのだろう。大統領に報告され、裏で準備も進んでいるのに違いない。
大統領のゴーサインがあれば、直ちに決行できるように手回しがされているのだろう。そのための予備的な作戦として、ICC逮捕状の情報戦を打ち、プーチンは国際的に指名手配され逮捕断罪される戦争犯罪人なのだと決めつけたのである。秘密作戦で暗殺を決行しても、それを正当化できる国際政治上の素地を作ったのだ。今回のICC逮捕状にはその意味と目的があると考えられる。バイデンの思惑は、できれば今年中にウクライナ戦争を終わらせ、2024年の大統領選挙の争点から外すと共に、選挙で戦争勝利を華々しく宣伝することだろう。ウクライナ・ファティーグはアメリカの中でも徐々に無視できない世論になっている。共和党の有力候補のデサンティスは、ウクライナ支援反対の政見を述べ、大統領選の争点に持ち込む構えにある。トランプ的な発想と主張でこの問題に臨み、大衆の支持を得ようとしている。
もしも、来年の今頃もウクライナ戦争が現在と同じ泥沼のままで、アメリカが次から次へ青天井で資金と武器を供給し続ける状態のままだと、支援に反対する候補が選挙戦で有利な構図になるだろう。バイデンはその展開を恐れている。そしてまた、ペンタゴンからすれば、肝心の台湾有事が刻々と迫っていて、来年の今頃は当初計画での台湾有事勃発の3年前の時点だ。欧州戦線にリソース(⇒資源・資金)を割き続けることは得策ではないという認識になり、したがってなるべく早く、速やかで低コストな方法で、ウクライナ戦争の始末をつける選択をホワイトハウスに要望するだろう。