植草一秀氏が「キシダノミクスで格差拡大加速」とする記事を出しました。
円安・物価高騰・インフレが進行し、一部の潤沢な大企業は大幅な賃上げを決定していますが、中小企業の状況はまったく異なり大半が賃上げが出来ません。大企業に勤める非正規労働者も同様です。
その結果生じるのが格差の一段の拡大です。そもそも大幅賃上げが実現する大企業でもその率は(長期的に)インフレ率には及ばないのですからなお更のことです。
植草氏は常に「インフレが進行すると実質賃金は減少する。逆に、デフレが進行すると実質賃金は増加する」と述べており、現在起きている物価上昇と賃金レベルの推移をグラフ化するとそれが明瞭に読み取れるとしています。
そして岸田内閣も、黒田日銀が追求した「インフレ誘導」を肯定しているように見えますが、それは根本的な誤りであるとして、インフレ誘導は労働者の実質賃金減少の元凶なので企業に賃上げを求めるのではなく、インフレを完全に遮断することが最重要の実質賃金引き上げ策であることを岸田内閣に認識させなければならないと述べています。
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キシダノミクスで格差拡大加速
植草一秀の「知られざる真実」 2023年3月29日
インフレが進行し、政府は企業に賃上げを求める。
一部の大企業は大幅な賃金引き上げ決定を公表している。
この結果生じている現実は何か。格差の一段拡大である。
自動車総連のメーカー部会に属する11メーカー労組のうち、トヨタ、日産、ホンダなど7つの組合は賃上げ要求に対する満額回答を獲得した。
大手電機メーカーも労組の要求どおりの月額700円の賃上げ満額回答を示した。
一部の大企業は高水準の賃上げを決定している。しかし、中小企業の状況はまったく異なる。
城南信用金庫が1月10~13日に東京都や神奈川県の顧客企業738社に対象に行った調査では、
「賃上げを予定している」と回答した企業は全体の26.8%。
「賃上げを予定していない」と回答した企業が全体の72.8%だった。
賃上げを予定している26.8%の企業でも賃上げ率は1~2%未満が35.4%で、大半が3%未満。
インフレ進行で企業は原材料費や水道、エネルギー価格の高騰に直面している。
本来は、中小企業でもコスト上昇分を商品やサービス価格に転嫁しなければ利益を確保できないが、上記城南信金調査では、
「価格転嫁ができていない」と回答した企業が80%を超えた。
日本に存在する360万社の企業のうち大企業は1万1000社強。
企業の99.7%が中小企業で大企業は0.3%に過ぎない。
労働者の数でも大企業は全体の約3割。7割が中小企業で働く労働者だ。
また、大企業で働いていても非正規従業員は企業内組合の賃上げ交渉の恩恵を受けることができない。
日本の労働者の賃金状況は悲惨な道筋を歩んできた。
労働者一人当たりの実質賃金指数は2021年5月に前年同月比3.1%増加を示した。
2020年5月のコロナ禍に伴う生産活動減退の反動もあり、記録的に高い伸びを示した。
ところが、本年1月の実質賃金は前年同月比4.1%減少を記録した。
2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた。
物価が上昇すればインフレ率を差し引いた実質賃金伸び率は低下する。
このとき以来の激しい賃金減少が観測された。
2021年5月から実質賃金伸び率はつるべ落としに下落し続けたのである。
この状況下で一部の大企業の賃金だけが増加する。
中小企業は賃上げしたくてもできない状況に置かれ続けている。
日本の労働者の実質賃金は1996年から2022年までの26年間に14.4%も減少した。世界最悪の賃金減少国。これが日本の実態だ。
OECDが公表する購買力平価ベースの労働者賃金水準で日本はG7のなかの最下位。
韓国にも追い抜かれている。
過去26年間の実質賃金推移を見ると、長期減少傾向のなかで5年だけ実質賃金がわずかに増えた年がある。
これと消費者物価指数上昇率推移を突き合わせると重要な事実が浮かび上がる。