2023年3月9日木曜日

09- 高市氏 内容がねつ造でないなら議員辞職/虚偽公文書作成罪で告発する「覚悟」はあるのか

 3日の参院予算委で立民党小西洋之議員が提示したA4判78枚の文書は、松本総務相が正規の行政文書であることを認めました。同文書は「放送法の政治的公平に関する政府解釈変更」に係わる総務省マル秘の内部文書で、小西議員の後輩の総務省官僚から渡されたものです。分量的にも体裁的にも捏造文書ではあり得ないものでした。

 この「政府解釈変更」問題は、礒崎陽輔首相補佐官(当時)が安倍首相(当時)の意を受けて口火を切りましたが、最終的に同首相の意向のままに「解釈変更」を確定したのは高市早苗総務相でした。その後は官邸の気に入らないTV番組のMCやコメンテータたちが続々と交代させられたのでした。当時高市総務相は、国会で公然と「停波処分」(放送事業禁止=TV局解散)を口にしてTV局を震え上がらせました。
 磯崎氏はいまは落選中ですが、現役の経済安保相である高市氏は必死になって同文書を「捏造」呼ばわりし、そうでなければ議員を辞職するとまで断言しました。
 安倍元首相もかつて同様の発言をしましたが、内閣が総力を挙げてカバーしました。しかし今回は松本総務相が坦々と事実関係を述べるなどしていて、高市氏をカバーする動きはありません。
 安倍氏のお気に入りでこれまで羽振りを利かせていた高市氏をはじめ稲田 朋美氏、丸川珠代氏、杉田水脈氏らは、一方で「人を喰った」ようなところのある人たちでした。彼女らも絶大なる後ろ盾を失ったからにはこれまでの様にはいきません。

 植草一秀氏が「内容がねつ造でないなら議員辞職」とする記事を出しました。そのなかで高市氏が、「私と安倍総理の電話の内容が文書に残ってるとしたら、盗聴器でもついているんでしょうか」と捏造を強調していることについて、「盗聴器がついていなくても高市氏が電話のあとで電話の内容を官僚等に口述していれば、このようなメモが作成されても不思議ではない」としています。
 そして「岸田内閣が高市国務相を防御する姿勢を示していないことが鮮明」で、内容的にも高市氏の分が悪いのは歴然としているので、野党は高市議員の進退について厳正な追及を行う必要があると述べています。
 また、郷原信郎氏は弁護士の視点から、「高市氏には、虚偽公文書作成罪で告発する『覚悟』はあるのか? ~加計学園問題と共通する構図」という記事を出しました。併せて紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
内容がねつ造でないなら議員辞職
                植草一秀の「知られざる真実」 2023年3月 8日
3月3日の参院予算委員会での立憲民主党小西洋之議員による質疑で表面化した高市早苗国務相の議員辞職問題。
高市国務相は窮地に追い込まれており、野党の追及が適正であれば、早晩大臣辞職、議員辞職に追い込まれることになると考えられる。
安倍内閣の下で放送法の政治的公平に関する政府解釈が変更されようとした問題。
国会質疑に工作を施して政府解釈の変更を既成事実化したことが裏付けられている。
この問題に関する質疑で高市早苗国務相(経済安全保障担当)は、
「信ぴょう性について大いに疑問を持っている」「悪意を持って捏造されたものだ」
と答弁。小西議員から
「もし捏造でなければ議員辞職するのか」と問われ、
「結構ですよ」と答弁した。
高市氏は小西議員が提示した文書を「ねつ造文書」だとして、文書がねつ造でなければ議員辞職すると答弁していた。
ところが、松本剛明総務相が、当該文書が正規の行政文書であることを認めた

このことから、高市早苗国務相の議員辞職問題がクローズアップされている。
ところが、高市氏は高市氏に関する記述が事実ではなく「ねつ造」にあたると主張し始めた
当初は当該文書がねつ造文書でなければ議員辞職すると受け取られる答弁を示していたが、当該文書が正規の行政文書であることを現総務相が認めてしまったため、当該文書の高市氏に関わる部分が事実でないと主張し、議員辞職する必要はないと主張している。
加計学園問題で前川喜平元文部科学事務次官が文科省内に「総理のご意向」文書が存在したことを明らかにして「行政が捻じ曲げられた」ことを告発した際に、当時の官房長官である菅義偉氏は、「出所や、入手経路が明らかにされない文書については、その存否や内容などの確認の調査を行う必要ない」と述べて文書が行政文書であるかどうかの確認さえ行わない姿勢を示した。
しかし、その後の野党やメディアの追及に屈して政府は調査を実施。
指摘されていた文書の多くが行政文書として存在することを認めた。

今回のケースでは総務相が文書の存在を否定せず、直ちに行政文書であることを認めた。
岸田内閣が高市早苗国務相を防御する姿勢を示していないことが鮮明だ。
2015年3月9日の文書に、「政治的公平に関する件で高市大臣から総理に電話(日時不明)」と書かれたものが存在する。
文書には、安倍元総理から、『「今までの放送法の解釈がおかしい」旨の発言があった』などと記載されている。
高市氏は3月3日の予算委員会で、
「もしも、私と安倍総理(当時)の電話の内容がですね、そのような文書に残ってるとしたら、私の電話に盗聴器でもついているんでしょうか。まったく、それは、ねつ造文書だと私は考えております」と答弁した。
盗聴器がついていなくても高市氏が電話のあとで電話の内容を官僚等に口述していれば、このようなメモが作成されても不思議ではない
この答弁に対して小西議員が
「仮にこれが、ねつ造の文書でなければ、大臣、そして議員を辞職するということでよろしいですね」と問い、高市氏が「結構ですよ」と答弁したのである。

官僚が事実でないことを「ねつ造」して行政文書を作成したのであれば「虚偽公文書作成罪」が成立することになる。
郷原信郎弁護士が指摘されているが、「ねつ造」であるか否かが高市議員の議員辞職に直結する問題であるだけに、高市氏は当該文書作成者を「虚偽公文書作成罪」で刑事告発することが必要になる
刑事告発が受理されれば捜査が行われる。
その結果として「虚偽公文書作成」の事実が存在したのかどうかが明らかになる。
高市氏の分が悪いのは歴然としている。
野党は高市議員の進退について厳正な追及を行う必要がある。

千載一遇の金融大波乱 2023年 金利・為替・株価を透視する
(ビジネス社、1760円(消費税込み))https://amzn.to/3YDarfx 

日本経済の黒い霧 ウクライナ戦乱と資源価格インフレ 修羅場を迎える国際金融市場
(ビジネス社、1870円(消費税込み))https://amzn.to/3tI34WK 

をぜひご高覧ください。Amazonでの評価もぜひお願いいたします。
             (以下は有料ブログのため非公開


高市氏には、虚偽公文書作成罪で告発する「覚悟」はあるのか? ~加計学園問題と共通する構図 
                          郷原信郎 2023年3月8日
3月3日、参院予算委員会で立憲民主党の小西洋之議員が、安倍政権下で放送法の政治的公平性をめぐる新解釈が加わる過程で、当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省側に働きかけた発言、当時の安倍晋三首相、高市早苗総務相のものとされる発言などが記録されている文書を、総務省内部文書として公表し、質疑を行った。当時の総務大臣の高市早苗氏(現経済安全保障担当大臣)は、3月3日の参院予算委員会でこの文書を
「信ぴょう性について大いに疑問を持っている」
「悪意を持って捏造されたものだ」
とし、小西参院議員から「もし捏造でなければ議員辞職するのか」と迫られると
「けっこうですよ」と答えた。
放送法が規定する「政治的公平性」をめぐっては、政府は従来一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体をみて判断する
と解釈してきたが、安倍政権下の2015年5月、高市氏が国会答弁で
「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」
と新たな解釈を示した。小西議員が公表した文書は、この放送法の解釈に関する総務省内のやり取りと安倍氏と高市氏の電話などを内容とするものだった。
松本剛明総務大臣は、7日午前、
「すべて総務省の行政文書であることが確認できた」と明らかにした。
文書が捏造でなかった場合、議員辞職も辞さない考えを示していた高市氏は、会見で自身の進退について問われ、
「私に関係する4枚の文書は不正確だと確信を持っている。ありもしないことをあったかのように作るというのは捏造だ」とした。
「閣僚辞任や議員辞職を迫るのであれば、文書が完全に正確なものであると相手様も立証されなければならない」とも述べた。

このような総務省内部文書に対する高市氏の発言や対応が、森友学園問題が初めて国会で取り上げられた2017年2月17日の衆議院予算委員会で、当時の安倍晋三首相が
「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたい」
「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」
などと述べ、それが発端となって、当時の財務省理財局長の国会での虚偽答弁や決裁文書改ざんなどに発展していったことと対比して論じられている。

しかし、むしろ、放送法についての総務省文書や高市氏の発言の問題は、森友学園問題と同時期に表面化した加計学園問題とも併せて対比した方が、構図を正しくとらえることができるように思う。
2017年5月17日、朝日新聞が「これは総理のご意向」等と記された加計学園の獣医学部新設計画に関する文部科学省の文書の存在を報道した。菅義偉内閣官房長官は、この報道について、
「全く、怪文書みたいな文書じゃないか。出どころも明確になっていない」と述べた。
5月25日、前任の文科省事務次官だった前川喜平氏が、記者会見を開き、文科省内に「総理のご意向」文書が存在したことを認め、「行政が捻じ曲げられた」と明言したことで、この問題をめぐる構図が大きく変わった。
その直近まで文科省事務次官という中央省庁の事務方のトップの地位にあった人間の発言や、その省内で作成された文書によって、「不当な優遇」を疑う具体的な根拠が示された。それによって、国会の内外で安倍首相や安倍内閣が厳しい追及を受ける事態に発展することになった。

その後も、文科省内部者からの匿名の告発・証言が相次ぐ中、菅義偉官房長官は、6月8日の記者会見で、
「出所や、入手経路が明らかにされない文書については、その存否や内容などの確認の調査を行う必要ないと判断した」
との答えを繰り返していたが、翌9日午前、松野博一文科大臣が記者会見を開き、「文書の存在は確認できなかった」としていた文科省の調査について、再調査を行う方針を明らかにした。
その再調査の結果、同省内部者からの存在が指摘されていた19文書のうち14文書の存在が確認された。
文書が確認できなかったとした当初調査の後、複数の同省職員から、同省幹部数人に対して「文書は省内のパソコンにある」といった報告があったのに、こうした証言は公表されず、事実上放置されていた。「文書の存在が確認できなかった」とした当初の調査も、実質的に「隠ぺい」であった疑いが濃厚になった。

こうした中で、前文科次官の前川喜平氏が、記者会見でそれが正式な文書だと公言する動きを見せるや、読売新聞が、前川氏の「出会い系バー通い」に関して、官邸筋からの情報に基づくと思える記事で「売春、援助交際への関わり」を印象づけるような真実性に重大な問題のある記事を掲載したり(読売新聞は死んだに等しい)、義家弘介文部科学副大臣が、参院農林水産委員会で、「国家公務員法違反(守秘義務違反)での処分」を示唆したりするなど(菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって“残念”)、文科省側からの告発封じのために、あらゆる手段が講じられた。
森友学園問題では、安倍氏と昭恵氏が、同学園の認可あるいは国有地払い下げに関わったのかどうかという「安倍氏自身の側の問題」についての安倍氏自身の国会答弁が発端となって、財務省側が様々な問題行為を行い、決裁文書改ざんを命じられた赤木俊夫氏の自殺という痛ましい出来事に至ったのであるが、加計学園問題では、「総理のご意向」文書について、その意向の当事者である安倍首相の総理官邸側が、朝日新聞が報じた「文科省文書」を「怪文書」扱いして、「行政文書」であること自体を否定し、その否定が続けられなくなるや、ありとあらゆる方法で、文科省文書の信憑性を否定しようとした。
加計学園問題で問題になったのが文科省の文書に記載された「総理のご意向」だった。国家戦略特区に関する権限を有する総理大臣と、加計学園理事長が「腹心の友」であることで、文科省が所管する獣医学部新設の認可が捻じ曲げられた疑いが問題とされた。

今回の放送法に関する総務省の文書でも、当時の安倍首相の意向で、総務省が所管する放送法の解釈が捻じ曲げられた疑いが指摘されている。しかし、両者の展開は大きく異なる。
加計学園問題では、首相官邸側が、当初、新聞で公開された文科省文書を「怪文書」と切り捨て、その意向を受けた文科省の大臣・副大臣が、内部文書の信憑性を否定しようとする方向に動き、それに反発する文科省からの内部告発の動きも封じ込めようとした。
それに対して、高市氏は、安倍氏自身が、首相として放送法への不当な介入に関わったという批判につながりかねない総務省の文書の信憑性を必死に否定しようとし、小西議員が公表した文書を、当初は、「捏造」と決めつけたが、松本総務大臣以下総務省側が、小西議員が公表した文書についてただちに調査を行い、当該文書が「行政文書」であることを明確に認めたことで、総務省の「行政文書」であることが否定できなくなった。そこで、高市氏は、「捏造」を「不正確な文書を作り上げた」という意味にすり替えて、「捏造ではなかった場合には大臣も議員も辞職」と明言したことによる辞任を免れようとしている

しかし、安倍氏亡き後、「最大の政治的な後ろ盾」を失った高市氏にとっては、一人で、放送法の解釈変更についての「安倍氏の意向」が示されたことを否定しようとしても、加計学園問題について、官邸・政府を挙げて文科省文書の信憑性と「総理のご意向」の事実を否定しようとした状況とは全く異なる。
高市氏は、大臣会見でにこやかな表情で余裕があるように装っているが、内実は、土壇場に追い込まれていることは否定できない。
正式な行政文書と認められた「公文書」について、「意図的に不正確な記載が行われた」というのであれば、その文書は「虚偽公文書」に該当することになる。高市氏が、その主張を通すのであれば、不正確だと確信を持っているとする「4枚の文書」の作成者を「虚偽公文書作成罪」で告発するのが当然、ということになる。
高市氏が検察に告発を行えば、検察が捜査に乗り出し、文書の作成者を特定して、その内容の正確性について捜査することになる。文書作成者は、安倍氏と高市氏との電話の内容について何らかの情報があったからその文書に記載したはずだ。意図的に虚偽の記載をしたと疑われる状況がなければ、「意図的に虚偽の記載をしたこと」は否定され、不起訴処分ということになる。(捜査の結果判明した文書作成の時期によっては、公訴時効完成による不起訴となる可能性もある。)

同様に虚偽公文書作成罪で告発され、検察の捜査の対象とされた森友学園への国有地売却についての決裁文書については、多くの記載が削除されていても「決裁文書の内容に実質的な変更はない」との理由で不起訴となった。しかし、高市氏は、「不正確な記載」を意図的に行ったことを「捏造」として問題にしているのであり、虚偽公文書作成罪の成否と、高市氏が問題にしている「不正確な記載」のレベルは、実質的に一致することになる。
高市氏は、総務省文書についての現在の主張を貫くのであれば、虚偽公文書作成罪で告発すべきだが、もし、検察の捜査の結果、不起訴となった場合には、逆に、高市氏の側に虚偽告訴罪の問題が生じることになる。
「虚偽公文書作成罪による告発」を行うのか、高市氏には、その「覚悟」が問われている。