放送法の解釈を巡り14~15年当時の安部首相官邸と総務省とのやりとりを記した「内部文書」によって、
・礒崎陽輔首相補佐官が、放送法の「政治的公平」について総務省と1年以上秘密裡にやりとりし、「一つの番組のみでも、『政治的公平』を欠いていれば、放送番組準則に抵触する」ことを認めさせようとして総務省を恫喝したこと
・総務省出身の山田真貴子首相秘書官も含めて、同省が「それは言論弾圧になる」と抵抗したこと
・最終的に安倍首相の意向に沿って、高市総務相(当時)がまず総務委員会で総務大臣が答弁する形で、「一つの番組でも政治的公平性を確保する必要がある」旨を述べるという段取りが決められたこと
・15年5月12日、総務委員会において高市総務相がその通り答弁したこと
等が明らかにされました。
しんぶん赤旗日曜版12月号にそうした経緯を要約した記事が載りました。
お知らせ
都合により14日は記事の更新が出来ません。ご了承ください。
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放送法解釈変更 安倍政権の意向
しんぶん赤旗日曜版 2023年3月12日号
放送法の解釈を巡り2014~15年当時の安部首相官邸と総務省とのやりとりを記した「内部文書」ー総務省は7日、全て「行政文書」だと認めました。同政権下では、公共放送NHKの人事にまで介入するなど「報道の自由」を侵害する強権政治が横行。今回の内部文書で浮き彫りになったのは、民放の個別の番組にまで介入する仕組みづくりの舞台裏です。(役職はいずれも当時)
磯崎氏「けしからん番組取り締まる」
問題の文書は14年11月26日、礒崎陽輔首相補佐官が放送法の「政治的公平」について総務省に説明を求め、高市早苗総務相が15年5月12日に国会答弁で放送法の解釈を一転させるまでを記録。首相官邸と総務省の1年以上に及ぶ秘密裡のやりとりで、磯崎氏が「けしからん番組は取り締まる」(15年3月6日)ことを目的に、総務省に圧力をかけていました。
14年11月26日、同省が放送法の「政治的に公平であること」について、「一つの番組だけではなく、放送事業者の番組全を見て判断する」と説明すると、磯崎氏は「一つの番組でも明らかにおかしい場合がある」と反発。12月25日には「もっと(補佐官の)意に沿ったものを持って来てほしい。ここで抵抗しても何のためにもならない」と脅しています。
翌15年1月9日、同省は初めて「一つの番組のみをもって」政治的公平を欠き、放送法に抵触すると考えられる事例を提示。礒崎氏は「もう少し普遍性があってもいいのでは」と自身の答弁案を送付し、難色を示す同省に「疑心暗鬼になり激高」したことも。同省は再三「堪えられるものか確認」「ギリギリの線」と慎重さを求め、2月18日に同省出身の山田真貴子首相秘書官は「言論弾圧ではないか」とまで述べてくぎを刺しました。
ところが、磯崎氏はこうした発言を意に介さず、同月24日に菅義偉官房長官にも相談するよう提案した同省に対し、「俺の顔をつぷすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」と脅迫。3月6日にも桜井俊総務審議官の名を挙げ、「『無駄な抵抗はしないほうがいい』と伝えておこうと思う」と発言しました。
総務省が文書は全て「行政文書」だと認めた以上、政権にとって都合の悪いメディアを「取り締まる」自的で政治的圧力がかけられたことは明らかです。
最終的に決断を下したのが安倍首相
「政治的公平」の解釈を変更する答弁について、最終的に決断を下したのが安倍首相です。
15年3月5日、磯崎氏や山田氏らが安倍氏に説明する場が持たれました。山田氏らは「総理単独の報道が萎縮する」などと懸念を示したものの、安倍氏は「極端な例をダメだと言うのは良いのではないか」などと発言。「『今すぐ』やる必要はない」「国会答弁をする場は予算委員会ではなく総務委員会」「総務大臣から答弁してもらえばいいのではないか」と述べました。
これに対し山田氏が「一度整理をすれば個々の事例の『あてはめ』が始まり、官邸と報道機関の関係にも影響が及ぶ」と危惧を表明。安倍氏は「有利不利ではない」「全部が全部とは言わないが、正すべきは正す」との立場を示したとされます。
その2ヵ月後の5月12日。安倍氏がゴーサインを出した筋書き通り、参院総務委員会で高市氏が「政治的公平」について答弁します。高市氏は、これまで礒崎氏が求めてきた内容に沿って「一つの番組のみでも … 極端な場合においては、一般論として政治的に公平であることを確保しているとは認められない」と答えました。
答弁の文言は礒崎氏が1月に送った答弁案とほぼ同じ(下図)。質問した自民党の藤川政人議員の発言内容も礒崎氏が作成した「質問者の『シナリオ』」通りでした。
「政治的公平」の判断にあたっては「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」としてきた従来の政府解釈を根底から覆すものです。
ところが政府は補充的な説明をしただけで「解釈は変えていない」と言い張っています。しかし、一連の経過を見れば、官邸が圧力をかけて解釈を変更させたことに疑いの余地はありません。
従来の政府解釈がとられてきたのは、「表現の自由」を保障する憲法21条と、「放送による表現の自由」を確保する放送法1条を担保するためです。
高市氏の答弁は16年に政府統一見解としても示され、表現の自由を侵害する解釈変更は現在も続いています。高市氏の答弁と16年の政府統一見解の撤回が急務です。磯崎氏など関係者の証人喚問を行い、官邸の圧力で放送行政がゆがめられた疑惑の徹底解明が必要です。
磯崎氏の答弁案(15年1月13日)
・一つの番組のみでも、次のような極端な場合においては、「政治的公平」を欠き、放送番組準則に抵触することとなる。 |
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高市氏の答弁(15年5月12日)
・一つの番組のみでも、選挙期間中又はそれに近接する期間において殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の時間にわたリ取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぽすと認められる場合 |