2023年3月18日土曜日

歴史問題にどう向き合うか 首相は自分の言葉で語るべきだ

 岸田首相は16日、初来日した韓国の尹錫悦大統領と首相官邸で会談しました。首相は会談後の共同記者会見で、元徴用工への賠償を日本企業に求めた18年の韓国大法院判決をめぐり、韓国の財団が肩代わりするとした「解決策」を「厳しい状態にあった日韓関係を健全なものに戻す」として評価し、11年以来途絶えていた両首脳が相互に往来する「シャトル外交」再開で合意しました。

 共産党の志位委員長16日の記者会見で2点ほど述べたいとして、
・未来にわたって心の通った友好関係を築こうというのならば、岸田首相は歴史問題にどう向き合うかについて、自分の言葉で語るべきである、
徴用工問題本質は植民地支配と結びついた人権侵害であり、両国間の請求権の問題は解決されたとしても、被害者個人の請求権は消滅させることはないことは、日韓両政府両国の最高裁が一致して認めていることで、今回の韓国政府の措置で終わりにしてはならない。と指摘しました。

 併せて日韓首脳会談に関する報道記事と「シャトル外交再開 日韓関係どこへ向かう」と題した解説記事を紹介します。
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歴史問題にどう向き合うか 首相は自分の言葉で語るべきだ
                        しんぶん赤旗 2023年3月17日
志位委員長が会見
 日本共産党の志位和夫委員長が16日の国会内での記者会見で、同日行われた日韓首脳会談について行った発言は次の通りです。
 2点ほど述べたいと思います。
 一つ目の点は、未来にわたって心の通った友好関係を築こうというのならば、岸田首相は歴史問題にどう向き合うかについて、自分の言葉で語るべきです。
 1998年の「日韓パートナーシップ共同宣言」では、「植民地支配への痛切な反省と心からのおわび」を表明しているわけですが、この「共同宣言」をふまえて岸田首相は自らの肉声で歴史問題に関する認識を語るべきです。
 今後、本当に心の通う友好関係をしっかり築いていくためには、植民地支配への真摯(しんし)な反省を土台にしてこそ、日韓の間に横たわるあらゆる懸案事項―徴用工問題、日本軍「慰安婦」問題、竹島問題を前向きに解決する道が開かれます。

 二つ目の点は、徴用工問題についてです。今回の韓国政府の措置で終わりにしてはならないということを言いたいと思います。
 この問題の本質は、植民地支配と結びついた人権侵害というところにあります。「日韓パートナーシップ共同宣言」の精神に立って、被害者の名誉と尊厳が回復されるよう日韓両国政府が引き続きともに努力していくことが大切です。
 その際、1965年の日韓請求権協定によって、両国間の請求権の問題は解決されたとしても、被害者個人の請求権は消滅させることはないことは、日韓両政府、ならびに両国の最高裁が一致して認めています
 この一致点を大切にして被害者の名誉と尊厳が回復されるまで、日韓の冷静な話し合いを続けることが必要です。


「シャトル外交」再開へ 日韓首脳会談 首相「おわび」言及せず
                         しんぶん赤旗 2023年3月17日
 岸田文雄首相は16日、初来日した韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と首相官邸で会談しました。首相は会談後の共同記者会見で、元徴用工への賠償を日本企業に求めた2018年の韓国大法院判決をめぐり、韓国の財団が肩代わりするとした「解決策」を「厳しい状態にあった日韓関係を健全なものに戻す」として評価。両首脳が相互に往来する「シャトル外交」再開で合意しました。韓国大統領の来日は11年以来。以後、シャトル外交は途絶えていました。
 一方、植民地支配の問題をめぐり、岸田首相は「日本政府は1998年10月の日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認」したと表明。ただ、同宣言に明記している「痛切な反省と心からのおわび」には直接言及しませんでした
 また、尹大統領は、韓国財団が賠償金を支払った後に相当額の返還を日本企業に求める「求償権」について、行使は「想定していない」と述べました。
 首相は中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に「現下の戦略環境の中で、日韓関係の強化は急務」だと表明。両首脳は中断していた日韓安保対話、次官戦略対話の再開で一致しました。さらに首相は、16日早朝の北朝鮮による大陸間弾道ミサイルの発射をふまえ、「日米・米韓同盟の抑止力強化」「日米韓の安保協力の推進」を強調しました。
 今回の会談を踏まえ、日本政府は大法院判決への事実上の対抗措置として19年7月にとった半導体関連3品目の輸出規制を解除。尹氏は、世界貿易機関(WTO)への提訴を撤回したことを明らかにしました。さらに尹氏は、輸出規制などへの対抗措置としてとった日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の運用も「正常化した」と述べました。両国の国家安全保障会議(NSC)レベルで経済安全保障に関する日韓の協議体を立ち上げることでも合意しました。


シャトル外交再開 日韓関係どこへ向かう
                       しんぶん赤旗 2023年3月17日
「戦後最悪」と言われてきた日韓関係が転機を迎えつつあります。両政府は16日の岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による会談を契機として日韓シャトル外交を再開。北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に置いた日米韓の軍事連携強化が背景にあることは明らかです。ただ、植民地支配をめぐる問題に真摯(しんし)に向き合わないばかりか、強硬策を重ねてきた日本政府の姿勢は今後も問われることになります。

戦後最悪の関係 日本に重大責任
 韓国大法院(最高裁)は2018年10月から11月にかけ、戦前の日本企業に強制連行された元徴用工をめぐる訴訟をめぐり、日本製鉄(旧新日鉄住金)、三菱重工業に賠償金の支払いを命じる判決を出しました。当時の安倍政権は、元徴用工の賠償は1965年の日韓請求権協定で解決済みだとして拒否。「日韓関係の法的基盤を根底から覆す」などと厳しく非難しました。
 そればかりか、判決への事実上の対抗措置として、19年7月、日本は半導体やスマートフォンのディスプレーなどに使われる3品目の化学製品について、韓国への輸出規制を強化。さらに8月、貿易管理上の優遇措置を受けられる「ホワイト国」のリストから韓国を除外しました。
 一方、韓国側でも日に対する反発が強まり、18年11月、日韓合意に基づき日本政府が拠出した10億円で、元「慰安婦」らへの支援を行ってき「和解・癒やし財団」解散すると発表。さらに19年8月、「ホワイト国」リストからの除外への抗措置として、日本と韓国が軍事機密を共有する日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を通知。米側の働きかけもあり、11月には終了を凍結しましたが、通知自体は現在も有効です
 こうして日韓関係「戦後最悪」の状態にりましたが、その大きな責任が日本側にあるのは明らかです。
 まず、元徴用工問題をめぐっては、日韓請求権協定で政府間の請求権の問題が「解決」したとしても、被害にあった個人の請求権は消滅していないことは、日本政府も国会答弁などで繰り返し表明しています。本来なら、日本政府と企業は、この立場にたって、被害者の名誉と尊厳老回復し、公正な解決をはかるために努力をつくすべきでした。
 ところが安倍政権は「ホワイト国」からの除外という対抗措置を強行。しかも、政治的紛争の解決の手段として貿易問題を使うのは、政経分離の原則に反する禁じ手″であり、二重三重に不当なものでした。

北朝鮮の動きへ 軍事連携の強化
 北朝鮮は21年のバイデン米政権発足以後、再び弾道ミサイル開発を強化。22年には大陸間弾進弾(ICBM)級、潜水艦発射型(SLBM)や「極超音速」と称するものも含め、過去最大を大幅に上回る発射を繰返しました。
 こうした中、同年6月にマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に、岸田曾相と尹大統領が両国首脳として初めて出席。5年ぶりとなる日米韓首脳会談も開かれました。
 さらに同年11月にプノンペンで開かれた日米韓首脳会談では、異例の共同声明を発表。「北朝鮮のミサイル警戒データをリアルタイム(瞬時)で共有する意図を有する」と明記し、日韓GSOMIA問題の解決にとどまらない軍事的連携強化をうかがわせました。

継続表明するおわび言及せず
 尹政権は今年3月日、▽韓国政府傘下の財団を通じて、韓国側が元徴用工裁判の原告に判決金・遅延利子を支払う ▽日本企業による、財団への「自発的貢献」を求めるという「解決策」を発表しました
 岸田首相は16日の会談でこれを「評価」し、「998年10月に発表された日韓共同宣言を含め、歴史認識に閣する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認」すると表明しました。
 ただ、首相は過去の植地支配に対する直接的な「反省」や「おわぴ」には言及せず、今後の火種は残ったままです。  (竹下岳)

■日韓関係をめぐる動き
    2018年10月 韓国最高裁、元徴用工問題で新日鉄住金(現・日本製鉄)に賠償命令
        11月 韓国政府、日韓合意に基づく「和解・癒やし財団」解散を発表
          韓国最高裁、三菱重工業にも賠償命令
    19年  7月 日本政府、半導体材料の対韓輸出規制の厳格化措置を発動
       8月 日本政府、優遇対象からの韓国の除外を閣議決定
          韓国政府、日韓GSOMIA破棄を決定
      11月 韓国政府、GSOMIA終了を停止
   22年 月 尹錫悦政権発足
       6月 NATO首脳会談(マドリード)で日米韓が会合
       11月 プノンペンで日韓首脳会談
   23年 3月 韓国政府、解決策を発表