2018年3月29日木曜日

放送法4条「政治的公平」を撤廃し 新規参入を促す

 放送法4条は、「番組の公序良俗」「事実を曲げないこと」「政治的公平」「多角的報道」を倫理規定として放送事業者に求めていますが、これまで安倍政権は、放送法4条を法規範として持ち出し、放送局に対して番組内容に関する行政指導をしばしば行ってきました。
 それが一転してこの4条を撤廃し、テレビやラジオなどの放送事業と、インターネットなどの通信事業で異なる規制を一本化するということです
 規制改革の一環で、インターネット放送分野への新規参入を促す狙いと言われますが、当然、政治的に偏った番組が放送されること懸念されます。
 インターネット放送については、安倍首相はこれまでも特定の局に何度か出演してきました。
 
 毎日新聞の記事と「放送制度改革に対する民放労連の声明」を紹介します。
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放送制度改革案 「政治的公平」撤廃 政府、新規参入促す
毎日新聞 2018年3月28日
 政府が検討する放送制度改革案が明らかになった。放送番組の「政治的公平」などを定めた放送法4条を撤廃し、テレビやラジオなどの放送事業と、インターネットなどの通信事業で異なる規制を一本化する。放送分野への新規参入を促す狙いだが、政治的に偏った番組が放送されることなどが懸念される。

 放送法4条は、放送事業者に番組作りの原則として、政治的公平▽公序良俗▽正確な報道▽多角的な論点の提示--の4項目を求めている。改革案では4条に加え、娯楽や教養、報道など番組内容のバランスを取ることを求める「番組調和原則」、放送局への外資の出資比率を制限する「外資規制」など、放送事業特有の規制を撤廃する。この結果、通信事業者と同様に、番組内容に関する基準が事実上なくなることになる。
 放送番組の制作などのソフト事業と、放送設備の管理などのハード事業の分離の徹底も盛り込んだ。一方で、NHKについては規制を維持。公共放送の役割を重視し、民放と区別する。NHKには番組のネット常時同時配信も認める方向だ。

 改革案は規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)が取りまとめ、6月にも安倍晋三首相に答申する。早ければ今秋の臨時国会に法案を提出し、2020年以降に施行する方針。

 政府が放送制度改革に乗り出したのは、安倍首相の強い意向があるためだ。今年2月初め、「国民の共有財産である電波を有効利用するため、周波数の割り当て方法や放送事業のあり方の大胆な見直しも必要」と強調し、その後に改革に向けた協議が本格化した。
 これに対し、民放各社は「民放事業者が不要だと言っているのに等しく、容認できない。強く反対したい」(日本テレビの大久保好男社長)などと、反発を強めている。

 放送を所管する野田聖子総務相も22日の衆院総務委員会で「放送法4条がなくなれば、公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加する可能性がある」と述べるなど、政府内にも慎重な声がある。【浜中慎哉、犬飼直幸】


「放送制度改革」に対する民放労連の声明
2018年3月27日
日本民間放送労働組合連合会
 中央執行委員会
安倍政権が検討しているという「放送制度改革」の方針案が明らかになった、と報道された。放送法4条の「番組編集準則」を撤廃し、インターネットと放送の規制を一本化して新規参入を促す内容で、安倍晋三首相は今年になって「放送事業の在り方の大胆な見直しが必要」と繰り返し発言し、内閣府の規制改革推進会議などで検討を進めているという。

番組編集準則は「番組の公序良俗」「事実を曲げないこと」「政治的公平」「多角的報道」を放送事業者に求めているものだが、放送の自律に基づく倫理規定として運用されるのならば、視聴者に対する放送倫理の表明として認められるものだ。しかし、これまで自民党政権は、放送内容に介入するために放送法4条を法規範として持ち出し、放送局に対して番組内容に関する行政指導をしばしば行ってきた

憲法違反の疑いの強いこのような行政指導に放送局が従わざるを得なかったのは、放送免許が政府による直接免許制とされ、政府に睨まれると停波の危険があるからだ。このように電波法と結び付けた直接免許制こそ、一刻も早く改められるべきであり、独立行政委員会制度の創設など、国際社会で一般的な間接免許制に向けた議論を始めるのが先決だと私たちは考える。

一昨年の国会で行われた、当時の高市早苗総務相の「停波発言」を受けて政府が閣議決定した放送の政治的公平に関する「政府統一見解」で、現政権は、放送内容の政治的公平性を政府が判断することの正当性を改めて主張した。昨年11月に国連人権理事会から放送法4条見直しの勧告も出されていたが、これについては今月、日本政府としては「受け入れない」との態度を表明している。このようなこれまでの政府の姿勢とはまったく異なる方針案が唐突に示されたことに、驚きを禁じ得ない。総務省の検討会などでもこれほど大きな放送制度改革が議論された形跡はなく、政策の整合性の観点から強い疑問を持たざるを得ない。

約30年前に放送の公正原則を廃止した米国では、政治的な党派色を強めた番組が増え、社会の分断を助長したという指摘もある。今回の政府方針案には、情報流通の中心にインターネットを置いて、放送の社会的影響力を低下させようという狙いもあるのではないか。産業振興の色合いも強く、放送の社会的使命を軽視している様子もうかがえる。私たち放送で働く者が、放送倫理に基づく番組づくりで視聴者から信頼を得ようとしてきたこれまでの努力をないがしろにするかのような提案には、断固として反対をしていく

放送は国民の知る権利に応える機関として、この国の民主主義の基盤の一翼を担ってきた。政府はまず、方針案決定に至る過程について、国民各層への説明責任を果たすべきではないか。
以 上