毎日新聞が、自民党がまとめている憲法9条改憲案について、どの条文案も問題があるとする社説を掲げました。
まず9条の2項を残したまま、「自衛のための必要最小限度の実力組織」を保持すると謳う案については、時の政権が恣意的に「最小限度」の解釈を変更できる余地が残るとしました。
「実力組織」を「自衛隊」と言い換えてもやはり自衛の範囲が定まらず、自衛隊の名称を憲法に書くのは憲法に明記のない防衛省との不均衡が生じるとしました。
また「前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない」とするのは、実質的に2項を無視するもので論外としました。
性格付けをしないで「自衛隊を明記」することはあり得ないものの、安倍首相が望む「集団的自衛権の行使を可能」とする性格付けが、2項と両立することもまたあり得ないことです。
安倍首相はかつて「集団的自衛権の行使が憲法上可能」とする理論づけをするために個人的な諮問委員会を作りました。そこが最終的に出した報告書は長文でしたが、憲法上可能であるとする説明は全くなくて、単に、情勢が変化しているので集団的自衛権の行使は必要で、行使できるようにしたい … という「希望を表示」したに過ぎないものでした。
自衛隊の明記を目指す9条改憲案の作成作業は、そもそも理論的に不可能なことを行おうとするものです。
この「不可能な作業」が、果たして3月の自民党大会に間に合うものか、どんなものにまとまるのか、お手並みを拝見するしかありません。
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社説 自民党の9条改憲論議 どの条文案も問題がある
毎日新聞 2018年3月1日
自民党が自衛隊の存在を憲法に明記する9条改正案の検討を進めている。所属議員から集まった条文案から、その方向性がみえてきた。
この議論はもともと安倍晋三首相が昨年5月、9条1項(戦争放棄)、2項(戦力不保持)の規定を維持して自衛隊を明記する案を提起したことから始まっている。
自民党憲法改正推進本部が昨年末にまとめた論点整理では、2項を削除して自衛隊を戦力と位置づける案も併記していた。今回集まった条文案は2項維持案の方が多かった。
ただし、その書きぶりをみると「自衛隊の任務や権限に変更が生じない」という首相の主張を条文化するのがいかに難しいかがわかる。
9条2項に「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあるのに自衛隊が違憲とならないのは、政府が「自衛のための必要最小限度の実力組織は戦力に当たらない」との憲法解釈をとってきたからだ。
9条3項または9条の2として「自衛のための必要最小限度の実力組織」を保持する規定を新設すれば、政府の憲法解釈を明文化できる。
しかし、その「最小限度」とは自国のみを守る個別的自衛権の範囲に限られるのか、それとも、同盟国も守る集団的自衛権を含むのか。
安倍政権は従来の政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を安全保障関連法の制定によって限定的に可能としたばかりだ。時の政権が恣意(しい)的に「最小限度」の解釈を変更できる余地は、憲法に明記しても残る。
「実力組織」を「自衛隊」と言い換えても、自衛の範囲が定まらない問題は同じく残る。自衛隊の名称を憲法に書くことに対しては、憲法に明記されていない防衛省などの行政組織との不均衡も指摘される。
「前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない」など、自衛権全般の行使を可能とする案も出されたが、論外だろう。これでは9条の縛りが事実上かからなくなる。
自民党内には、とりあえず自衛隊を明記した後、2項削除へ進む2段階改憲論もくすぶる。本音は9条空文化にあるのではと疑いたくなる。
憲法に自衛隊を明記する首相の提起を否定するものではない。だが、自民党が検討している条文案はどれも問題があると言わねばならない。