25日、都内のホテルに党所属の国会議員や都道府県連の代表らおよそ3500人集めて行われた自民党党大会で、安倍首相は「自衛隊が違憲だという論争に終止符を打つことが党の責務」だとして、憲法を改正し、自衛隊の存在を明記することに強い意欲を示しました。
朝日新聞など一部には安倍内閣はとても改憲に取り組める状況ではないという論調もあり、党内にもそうした意見はありますが、安倍首相は1か月も低姿勢を続けていれば支持率が回復すると考えています。実際、BS日テレに出演した自民党憲法改正推進本部の船田本部長代行は「年内に憲法改正の発議をしたい」と明言しています。
国会で改憲が発議された場合60〜180日間に国民投票が行われますが、その間の広告宣伝に関しては、「テレビ・ラジオによるコマーシャルが投票日の2週間前から禁止される」以外は全く自由です。新聞での意見広告も自由です。
広告宣伝の効果は大きく、一方から圧倒的な量の広告宣伝が行われると多くの人は違和感を持たずに洗脳されてしまいます。しかし、テレビ、ラジオ、新聞等での広告には莫大な資金が要るので、資金を潤沢に持ってないと「効果」を活用することができず、広告合戦で不利になります。憲法改正国民投票法に広告規制がないというのは、公平・公正な国民投票が行われる上で致命的な欠陥です。
広告代理店の博報堂に18年間勤め、『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット)の著書を持つ本間龍氏にLITERAがインタビューしました。
読んでいただくと、潤沢な資金を持っている自民党が、広告界の“雄”「電通」を使ってどのように周到な「改憲のための宣伝広告」を展開しようとしているのかがほの見えて、肌寒い思いになります。
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安倍首相が党大会で「改憲」強行を表明!
裏では電通に依頼して国民投票に向けた大規模広告戦略を計画
LITERA 2018年3月25日
森友文書改ざん問題で窮地に追い込まれている安倍首相だが、憲法改正はまったく諦めていないらしい。
自民党内では、9条2項の扱いをめぐって意見が対立し、憲法改正案の早急な取りまとめが難しいと言われていたが、22日の自民党憲法改正推進本部の会合では、細田博之本部長らが強引に「本部長一任」を取り付け、9条への自衛隊明記、参院選の「合区」解消、教育充実、緊急事態条項の4項目の条文案を固めた。
これは明らかに今日の党大会に間に合わせるためのもので、実際、安倍首相の党大会演説も、改憲を前面に押し出すものとなるという。
森友問題によって、改憲日程が狂ったなどとする報道もあったが、むしろ逆で、森友隠しのためにも、死にもの狂いで「改憲」を政治日程に乗せ、強引に発議まで持ち込もうというわけだ。実際、自民党憲法改正推進本部の船田元本部長代行は『深層NEWS』(BS日テレ)に出演し、年内に憲法改正の発議をしたいと明確に示した。
しかし、こうした動きについて、国民やメディアの間にも危機意識はほとんど広がっていない。というのも、世論調査でも憲法改正についてはまだ反対が多く、「発議されても国民投票で過半数がとれるはずがない」という楽観論があるからだ。
だが、これは大きな間違いだ。もし一旦発議されてしまえば、改正を食い止めることは難しいだろう。というのも、その後の国民投票に大きな落とし穴があるからだ。
あまり知られていないが実は、現行の国民投票法(「日本国憲法の改正手続きに関する法律」)は、発議した側と資金が潤沢な集団、つまり与党・自民党に絶対的に有利になっているのである。そのなかで大きな役割を果たすのが、大手広告代理店が躍動する“改憲広告”の存在だ。
本サイトは今回、広告代理店・博報堂に18年間つとめた著述家・本間龍氏にインタビューを申し込んだ。本間氏は元広告マンという視点から『原発プロパガンダ』(岩波書店)など多数の著書を発表。昨年には、国民投票法と“広告”の問題点を指摘した『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット)を出版している。はたして現在、憲法改正に向けて広告業界で何が起こっているのか、話を聞いた。
広告規制がないため、改憲勢力と護憲勢力の間に圧倒的な差が
──現在、マスコミ世論調査を見ると改憲に反対の声も多く、そうやすやすと改憲などできないと護憲派は思いがちです。しかし本間さんが国民投票法と広告の関係、問題を指摘した『メディアに操作される憲法改正国民投票』を読んで、そんな楽観論が吹き飛びました。
本間 まず強く指摘したいのは、国民投票法には大きな欠陥があるということです。そもそも投票運動期間、通常の言い方で言えば「選挙期間中」に、メディアの広告規制がほぼ存在しない。つまり事実上の無制限なんですね。その期間は最低60日。投票の2週間前から「投票運動」のテレビCMは禁止されますが、しかし「意見広告」などは禁止されていない。たとえば、著名人や企業が「私は賛成です」「反対です」と言った“意見”を述べる広告なら、投票当日までOKなんです。さらに問題なのは、その訴えの“量”に大きな差、つまり不公平さが生じることです。広告宣伝活動には莫大な予算、資金が必要で、金を持っている側が絶対的に有利になる。ですから当然、改憲派である自民党が圧倒的有利。なにしろ政党交付金をいちばん多く受け取っているのは自民党ですから(2016度は約174億円)。また、企業献金も自民党に集中しています(2015年度は約22億円)。
──改憲賛成派、反対派ともに、その主張を正しく国民に訴えることは重要だと思います。しかし、広告というお金がかかる観点から考えると、たしかに最初からお金持ちの自民党、改憲派が圧倒的に優位ですね。
本間 その通りです。金を持っている方がいくらでも金をつっこんで好きなことができる。改憲派には神社本庁や日本会議などの支援団体もいますし、莫大な資金源となるでしょう。その上、自民党には巨大広告代理店の電通がついています。広告規制のない国民投票は、広告屋にとっては非常にオイシイものです。金が無尽蔵にあって「何をしてでもとにかく勝て!」って言われれば、なんでもしますよ。広告屋にとって全ては金です(笑)。かなしいけどね。
──そこには企業として護憲とか改憲という考えはない?
本間 ないでしょうね。儲けるチャンスなんですから。広告代理店にしてみれば、別に改憲でも護憲でもどちらでもいいんです。そんなことは関係ない。お金をくれればきちんと仕事をする。それだけの話です。通常の企業商品のPRと同じなんです。そして、護憲派にとって致命的なのは、今の段階においてもその“中心”が決まっていないことです。どこが中心になって戦略を練るのか、立憲民主党なのか共産党なのか政党も決まっていないし、大きな支援母体もない。お金はあるのか、どこから出すのか、それすらも決まっていない。もうひとつ、広告戦略的に言うとアイコンが大切なんです。いわゆる“顔”ですね。改憲派の顔は、当たり前ですが安倍首相です。安倍首相が改憲を叫び、それが“絵”としてパッと浮かんでくる。だから広告戦略や企画も容易に考えられる。一方、護憲派のアイコンは誰なのかというと、いまだに決まっていない。
──たしかに野党政治家にしても“護憲の顔”が誰かというと、すぐには思いつきません。
本間 知名度も大切です。例えば共産党の志位和夫委員長にしても、広告屋の視点から見れば「知名度的にどうなんでしょう?」となります。相手は日本の首相ですよ。それに勝る知名度、対抗できるようなアイコン、例えば宮崎駿や坂本龍一などを探さなれればならない。しかし、もう今年中に発議がされようかという現時点でも、それが決まっていません。つまり広告屋的に言うと、護憲派はクライアントが存在せず、オーダーさえされていないわけです。国民投票が現実味を帯びているにもかかわらず、護憲派はその対策に何も動いていない。残念ですが今の護憲派には、勝つために何が必要かという考え方が足りません。これはもう、赤子の手をひねるよりも簡単で圧倒的な差でしょう。
広告枠さえ確保できない護憲派、安倍政権はメシ友のタレントを総動員か
──改憲派、自民党は国民投票に向けてすでに動いているということですか?
本間 それは確実でしょうね。たとえば今現在でも電通は各社の世論調査のデータを集計し、分析しているでしょう。さらにそうした様々な世論調査のビッグデータを解析し、自民党にアドバイスもする。また憲法関連のニュースを流して改憲を意識させる。さらに言えば、地方紙の社説などは護憲の論調が多いので、その対策も進んでいると思います。
──護憲派は発議じたいを阻止することが目的になっていますから、阻止できなかった場合を“想定していない”という側面はあるかもしれません。広告戦略において出遅れると、どういうことが起きるのでしょうか。
本間 それを説明するには、まず改憲派の視点から話す必要がありますね。自民党は、改憲発議を“する側”ですから、広告戦略にとって重要なスケジュールの把握が可能となります。当然、電通としてはテレビCMなどの広告枠、それも優良な枠の確保が容易になります。一方、改憲発議に反対する立場からは、そのスケジュールはまったくわかるはずもない。護憲派は、このままではまともな広告枠さえ確保できないでしょう。また、自民党はネット監視を行っていますが、電通も含めて、改憲に対するネット上のつぶやきなども解析していると思います。世論調査、ネットでのつぶやきなどをまとめ、全体で世論動向を見極めながら、ビッグデータの解析をする。さらに“敵”である護憲派はどういう層か、世代や男女比を分析して、その対策も練る。電通にとって、改憲をPRすることは、商品のパブリシティ(=報道媒体に取り上げてもらう活動)戦略となんら変わらないんです。しかもテレビCMにおける占有率(シェア)はダントツです。その得意の手法とメディアへの影響力で、改憲を猛プッシュするでしょう。
──タレントの起用も電通ならお手の物ということでしょうか。『メディアに操作される憲法改正国民投票』のなかで興味深かかったのは、電通ならテレビ番組などのコメンテーターを改憲派だらけにできるという話です。改憲派が優先的に広告媒体の優良枠を買い占めることで、新聞や雑誌の広告はもちろん、テレビCMも改憲一色になる。大量のタレントが日替わりで「改憲YES!」を訴えたり、番組枠買取りの『ニュース女子』のような番組が氾濫する。ネットでも主要ポータルサイトの広告を改憲派が押さえて、SNSでは改憲広告がおどる。想像しただけでクラクラするほどの不公平さです。ちなみに、安倍首相が芸能人と会食したり、トランプ大統領の晩餐会に呼んだりしていますが、これも一種の広告戦略なんでしょうか。
本間 何の見返りもなくタレントと会っているわけではないでしょう。広告戦略にタレントの影響力は大きいですから、たとえば食事をすることで、タレントの個人的信条が問われる場面でその壁が低くなることはあるでしょうね。「決起集会に出てくれる?」「じゃあ、後ろで立っているだけなら」とかね。それだけでも大きなイメージ戦略です。
国民投票法を改正して広告規制を
──国民投票になれば、そうしたタレントも動員しての連日のプロパガンダが繰り広げられるわけですね。テレビをつければ改憲派の主張一色。そんな事態になれば、改憲に賛成・反対という意見を決めていない人々は大きな影響をうけてしまいます。
本間 福島原発事故以前、電力会社のプロパガンダで7割もの国民が原発政策を支持していたみたいにね。広告宣伝のテクニックで国民の意識をある程度変えることが可能だということです。一方からの圧倒的な量の広告宣伝攻撃に晒されると、多くの人はそれを不思議と思わず、無意識に洗脳されてしまう危険性があるんです。問題はまだあります。こうした大量の広告出稿で潤うのが、他ならぬメディア企業だということです。さらに改憲派からの大量の広告が、そのオピニオンや報道内容、主張にどう影響するのかという懸念もある。
──聞けば聞くほど恐怖を感じます。その改憲シミュレーションを阻止するために、何か方法はあるのでしょうか。
本間 2016年からジャーナリストの今井一さんが主宰する「国民投票のルール改善(国民投票法の改正)を考え求める会」で話し合いが行われています。いろいろと議論がありますが、広告規制の問題に対しての危機意識はみなさん高いようです。今のままだとフェイクCMなども垂れ流されてしまいますから、最低でもテレビCMを無尽蔵に流すことだけは止めたい。そのために、たとえば国民投票は国の行事ですから、国が国民投票広報としてCM予算を全部出すという案や、企業、個人による「イエス! 改憲」みたいな広告は禁止するなどの法改正案や自主規制案を考えています。他にも現行法では、戸別訪問も物品を配ることも飲食のふるまいもOKですし、抜け穴がたくさんあり、“改憲うちわ”などがお祭り会場で配布されかねません。さらに、第三者の監視、検証機関についても法律で定められていないんです。ですから、まず国民投票法そのものを見直す必要があります。そして法改正のためには、国会議員の尽力も必要です。「求める会」の会合には民進党の桜井充氏や杉尾秀哉氏、立憲民主党の山尾志桜里氏、自由党の山本太郎氏などの現職議員も参加しています。また民放連も何も規制しないのはまずいという方針になっていると聞いていますが、しかしマスコミの腰は重いんです。なにもしないままの方が広告代理店やマスコミは潤うから(笑)。そしてもし憲法改正が発議された時点で、護憲派が何の準備もしていなかったら、それは罪だとさえ思います。そうならないためにも、国民投票法には広告規制がない、という致命的な欠陥があることが広く知れ渡ればいいと思っています。
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本間氏が語るように、改憲発議を目前にしてもなお、護憲派は有効なPRを準備できずにいる。その間、改憲派は自民党を中心に電通とタッグを組み、着々とリサーチや世論誘導を進めている。
すでに、世論調査の傾向を見ると、ずるずると改憲の方向へ引きずられている。たとえば共同通信が今年1月13・14日に行った調査では、憲法9条に自衛隊を明記する首相の提案には反対52.7%で賛成35.3%を大きく上回った。ところが、同じ共同通信が3月3・4日に行った調査では、同じ質問で賛成が39.2%と上昇し、反対が48.5%とついに過半数を割った。
何度でも言うが、安倍政権による憲法改悪は、緊急事態条項の新設からもわかるように、現行憲法で保障された国民の基本的人権や自由を奪い、国家に従順させようとするものに他ならない。しかし、現行の国民投票法は発議した側と金持ち、つまり自民党に圧倒的有利となっている。このまま状況を黙って見ているだけでは、改憲は食い止められない。その危機感を共有し、一刻でも早く行動に移すことが求められている。(編集部)