2018年3月27日火曜日

27- 自民改憲案で弁護士6団体が共同声明 「自衛隊の違憲論争続く」

 護憲派の弁護士らでつくるつの法律家団体は26日、憲法9条に自衛隊を明記する自民党の改正条文案に「自衛隊違憲論争がなくなることはあり得ない」、「9条改憲案は、現行憲法とその下で制定された安保法制ではできないことを可能にするためのものにほかならない」として、反対する共同声明を発表しました。
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自民改憲案で弁護士ら共同声明 「自衛隊の違憲論争続く」
東京新聞 2018年3月26日
 護憲派の弁護士らでつくる六つの法律家団体は26日、憲法9条に自衛隊を明記する自民党の改正条文案に「自衛隊違憲論争がなくなることはあり得ない」として、反対する共同声明を発表した。
 自民党は、戦力不保持などを定めた9条2項を維持した上で、別立ての「9条の2」を新設して自衛隊の存在を規定する方向で調整している。

 声明は、自衛隊明記により、集団的自衛権行使を認めた安全保障法制による活動が合憲化され、海外での武力行使も可能になり「2項は実質的に死文化する」と指摘。「自衛隊の任務や権限に変更はない」との安倍晋三首相の説明に反論した。(共同)


緊急声明 自民党改憲案の問題点と危険性
(「澤藤統一郎の憲法日記」http://article9.jp/wordpress/?p=10117 より転載)
はじめに
昨日3月25日、自民党大会が開催され、憲法改正の基本的な方向性が確認された。もともと同党は、この大会で党としての改憲案をとりまとめ、今年中の改憲発議にはずみをつける思惑であった。ところが、財務省による森友学園への国有地売却にかかわる決裁文書の「改ざん」問題や、「働き方改革」法案における誤ったデータを根拠とした裁量労働制拡大部分の撤回、自民党議員が介入してなされた公立中学校での前川喜平氏の講演会に関する文部科学省の調査など、国民主権と議会制民主主義の根幹を揺るがす安倍政権の失態が相次ぐ中、確定案の策定までには至らなかった。しかし、昨日の自民党大会で明らかにされた改憲の基本的な方向性について、それらの問題点と危険性を指摘して世に問うことは、法律家としての使命であると考え、以下、表明する。

1.どれも現行規定を死文化させる9条改憲
自民党の「憲法に自衛隊を明記する」改憲案は、この間、①9条1項と2項を維持し「自衛隊」を明記、②9条1項と2項を維持し「自衛権」を明記、③2項を削除し「通常の軍隊」を保持の3案が検討されてきた。3月22日の同党憲法改正推進本部の全体会合では、具体的な条文案は①の方向で党大会後にとりまとめる方針となり、その作成は本部長に一任された。しかし、これらは、いずれも現行の9条2項を死文化させ、1項を変質させるものである②がいう「自衛権」には集団的自衛権が当然に含まれる。③の「2項削除、軍隊保持」は現行9条を明示的に否定するものである。①の場合でも、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な(自衛の)措置をとる」と憲法に明記される自衛隊は、今でも違憲性が疑われている安保法制による活動が合憲化されるばかりか、それを超える海外での武力行使さえも可能となる。こうして、9条2項は維持されても、「後法は前法に優る(を破る)」との法の一般原則に従って、9条の2により実質的に死文化する。

いずれの案を採用しても、安倍首相が言うような「自衛隊の任務・権限は変わらない」、「自衛隊違憲論争がなくなる」などということはありえず、むしろ現行9条の下では政府自体も否定している「集団的自衛権の全面的な行使」や「海外での武力行使」が可能となる。自民党の9条改憲案は、現行憲法とその下で制定された安保法制ではできないことを可能にするためのものにほかならず、このことを決してあいまいにしてはならない。

2.いつでも武力攻撃時に適用可能な緊急事態条項
自民党の「緊急事態条項」に関する改憲案は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」の際の内閣による政令制定権(非常事態権限)と国会議員の任期延長について定めている。しかし、大地震などの自然災害に対応するための措置権限であれば、すでに災害対策基本法や大規模地震対策特別措置法などによって規定されており、憲法で、内閣に立法権を委ねることなどあってはならない。
また、この「緊急事態条項」は、自然災害にとどまらず、軍事的な緊急事態における内閣の権限拡大と人権の大幅な制限に適用される危険性がある。現に下位法たる「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)では、武力攻撃によって生じた災害を「武力攻撃災害」と呼んでいる。自民党の改憲案における「その他の異常かつ大規模な災害」からこの「武力攻撃災害」が除外される保証は今のところ見当たらない。

.選挙制度の基本原則を破壊する「合区解消」改憲案
自民党の憲法47条改正案では、参議院選挙での「合区」解消や、衆議院選挙での小選挙区間の「一票の価値の平等」の要件緩和が画策されている。しかし、これらは、憲法14条、44条に基づく「選挙権の平等」や、憲法43条が規定する衆参両院議員の「全国民の代表」性という、国民主権の下での選挙制度における基本原則を著しく損なうものである。

これらの原則に則りながら、国会議員と有権者との間の近接性の確保や選挙区割における行政区画や地域的な一体性に配慮することは、議員の総定数の見直しや選挙制度の抜本的な改革によって可能なはずであり、それは憲法改正ではなく法律改正で実現できる。以上の理由から、自民党の47条改憲案は、憲法の基本原則に背馳するとともに、かつ法律改正で可能なことを無理に憲法改正事項とするものである。

.教育の充実につながらない26条改憲案
もともと「高等教育を含む教育の無償化」という謳い文句で提起された26条改憲案は、いつのまにか「教育環境の整備」に向けた国の努力義務規定に変質した。「高等教育を含む教育の無償化」それ自体は、国際人権A規約を批准した際に13条2Cにつけた留保を撤回した今では、国会と内閣がその気にさえなれば、憲法改正によらずとも法律や予算措置で可能であり、そのような施策の実現を強く望む。

他方、今回の自民党の26条改憲案では、教育が「国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものである」と規定することで、国民の教育を受ける権利を定めた現行26条に対して、国家の教育権限を強調するものとなっている。前述の学校主催の講演会に対する文科省の調査などに鑑みて、自民党の改憲案は、教育に対する政治介入、国家統制の拡大を招く危険性があり、かつそれを意図したものと読まざるを得ない。

結語
以上、今回の自民党大会を通して明らかになった同党の改憲の基本的な方向性は、いずれもが、改憲の必要性・合理性を欠くうえに、日本国憲法の平和主義、国民主権、議会制民主主義、基本的人権の尊重などの基本原理を変質させ、破壊する性格の強いものである。こうした改憲案が現実のものになれば、「現在及び将来の国民に対し」て「信託」された日本国憲法の基本的な価値は大きく損なわれる。そのような改憲を断じて許してはならない。

私たち法律家6団体は、これらの案が基となる改憲発議を許さないための大きな国民世論を「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が提起する3000万人署名の早期達成によって作り上げること、そのために全力を尽くすことを、現在及び将来の国民に対する法律家の責任として、ここに声明する。
2018年3月26日
            改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター自由法曹団青年法律家協会弁護士学者合同部会日本国際法律家協会日本反核法律家協会日本民主法律家協会 代表者名は省略