2018年3月16日金曜日

自民改憲案 自衛隊(や自衛権)の明記は9条2項と整合しない

 自民党の憲法改正推進本部は15日、議員を対象に会合を開き、「自衛隊の明記」について、戦力の不保持などを定めた92項を維持する5つの案と、削除する2つの案の、合わせて7つの条文案を示しました。
 このうち会合では、92項を維持したうえで「必要最小限度の実力組織として、内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と規定した「9条の2」を、新たに設ける案が有力でした(結論は来週以降に)。

 しかしほぼ70年来、日本では9条2項の制約により「集団的自衛権は行使できない」ことが定説となっていたのに、現政権はそれを弊履のごとくに打ち捨てたのですから、「必要最小限度の実力組織」が、いつなんどき「必要最大限度の実力組織」に変わらないという保証はありません。
「必要最小限度」という表現ではいくらでも拡大解釈ができるので歯止めにはなりません。それは「自衛隊」が「自衛権」に変わっても同じことです。

 朝日新聞(3月15日)の「2項・自衛隊併記 透ける狙い」と題した「考論」のコーナーに、阪田雅裕・元内閣法制局長官木村草太首都大学東京教授(憲法学)の自民党改憲条文案に対する見解が載っています。

 阪田氏は、「2項を維持したまま自衛隊を明すれ矛盾が生じる条文案に書かれている自衛隊が、なぜ2項が禁じている戦力に当たらないのという説明が文章として表れていないことが最大の問題だ」として、「自衛隊を明記すれば合憲となるが、この案ではいまの自衛隊以上の無制限の集団的自衛権まで合憲化してしまう。仮に9条の前条の範囲内でと補ったとしても、れが何を意味するのが明らかではないという意味で同じことになる」、「いまの自衛隊を条文に書くとすれば、限定的な集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連扱の内容をそのまま書くしかないが、そうしないのは、自衛隊に許される動範囲をさらに広げたいという下心があるからではないか」(以上いずれも要旨)と述べています。

 また木村氏は、「自民党内で検討されている自衛権明記、自衛隊明記、国防軍創設の9条改憲案の本質は全く一緒だ。本来なら、集団的自衛権の行使を容認すべきか否かを問わねばならないのに、あえて自衛隊の任務の範囲をあいまいにしたまま、国民投票にかけようとしている。国をごまかして何となく国民投票で可決した後に、集団的自衛権の行使を含めて国民は承認してくれた』と言いたい狙いが透けて見える。本命の自衛隊明記案も任務の範囲が不明確なままでは憲法上の歯止めが利かず、国防軍と同じ任務となる可能性がある」、「自民党が問おうとしているのは自衛隊明記ではなく集団的自衛権の行使容認の是非である(同上)」と述べています。

 いずれも「2項を維持するから何も変わらない」という虚言の下に、憲法に「自衛隊」あるいは「自衛権」を盛り込むことで、「普通の軍隊を合憲化する=制限のない集団的自衛権の行使ができる」ことが自民党改憲案の本質であるという指摘です。
 2項と整合性のある自衛権の表記は、安倍内閣が登場する以前の、憲法第13条「国民の幸福追求権」と整合する「急迫不正の侵略に対する自衛権」とするしかない筈ですが、それは安倍氏や自民党が望むところではないのでしょう。
 したがって2項と整合性を取ることはもともと無理なので、いきなり自衛隊ないし自衛権を書き込むことで「制限のない集団的自衛権の行使ができるようにする」しかないというのが、いまの自民党改憲条文案の本質です。到底許されないことです。
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(社説)9条改憲 自民案/条文先行 本質論置き去りに
 東京新聞 2018年3月15日 
 憲法9条改正の必要性といった本質の議論が置き去りにされたまま、具体的な条文づくりだけが先行している、と言わざるを得ない。
 自民党憲法改正推進本部(細田博之本部長)がきのう執行役員会で、最大の焦点となる9条改憲の条文案について計7案を提示した。
 意見集約の軸となるとみられるのが、安倍晋三首相(自民党総裁)の提言に沿った案だ。

 戦力の不保持などを定めた9条2項を維持しながら、「必要最小限度の実力組織」として「内閣総理大臣を最高指揮監督者とする自衛隊を保持する」と記した。別立ての「9条の2」として新設する。
 9条改憲に慎重な与党・公明党への配慮と共に、できるだけ国民に受け入れやすいマイルドな条文案を狙ったのだろうが、正面を避け迂回(うかい)路を目指したため、「付け焼き刃」となった感が否めない。

 「改正しなければいけないというのが先にきている。中身よりも通りやすいものでという感じになってしまっている」(福田康夫元首相)という声が出るのも当然だろう。
 それゆえに、党内では異論が依然として根強い。2項を削除して、「陸海空自衛隊」を保持する石破茂元幹事長の案や「国防軍」創設を掲げた2012年党改憲草案なども併せて示された。

 そもそも政府見解は自衛隊合憲で貫かれており、国民の多くがそれを支持してきた。にもかかわらず、あえて明記するのはなぜなのか。
 学者らの自衛隊違憲論の「呪縛」から解き放したいというのが、安倍首相の言い分だ。「『自衛隊は違憲かもしれないが、何かあれば命を張って守ってくれ』と言うのは無責任」と主張する。

 安倍首相は自衛隊を明記しても、任務や権限は変わらない、と強調する。しかも、国民投票で否決された場合であっても、自衛隊の合憲性は揺るがないとも言う。
 それでは現状追認のためにわざわざ約850億円(衆院法制局試算)という多大なコストをかけ、国民投票にかける意味に乏しい
 結局は「自衛隊員が気の毒」という感情論の域を出ていないのではないか。改憲の必要性、妥当性が認められるだけの立法事実が存在しない現状の裏返しと言っていい。

 学校法人森友学園(大阪市)に関する財務省の決裁文書改ざん問題で与野党対立が深まった今の状況では、改憲論議のテーブルに着くことさえ、困難な状況にある。
「改憲よりも政権の信頼回復が先」という石破氏の発言はもっともと言えよう。実際、当初もくろんでいた今月25日の党大会での改憲案提起は見送られる方向だ。
「初めに改憲ありき」と疑念を抱かれるような案では到底、国民の理解が得られない。安倍首相のレガシー(政治的遺産)づくりのための9条改憲であってはならない。


自民 「自衛隊明記」意見集約見送り 来週改めて議論へ
NHK NEWS WEB 2018年3月15日
憲法改正の焦点となっている「自衛隊の明記」について、自民党の憲法改正推進本部は、9条2項を維持したうえで、「自衛隊を保持する」と規定するなど、7つの条文案を示して議論しましたが、意見がまとまらず、来週改めて議論することになりました。

自民党の憲法改正推進本部は15日、すべての議員を対象に会合を開き、焦点となっている「自衛隊の明記」について、戦力の不保持などを定めた9条2項を維持する5つの案と、削除する2つの案の、合わせて7つの条文案を示しました。

会合では、7つの条文案のうち、9条2項を維持したうえで「必要最小限度の実力組織として、内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と規定した「9条の2」を、新たに設ける案に対し、「幅広い理解が得られる現実的な案だ」などと、賛同する意見が相次ぎました。

一方で、「2項を維持したままでは、憲法と自衛隊の整合性がとれない」として、2項を削除する案が望ましいという意見や、2項は維持するものの、「自衛隊」を明記するのではなく、「自衛権の発動を妨げない」と規定すべきだという意見も出されました。
議論は3時間近く続き、「さらに議論を行うべきだ」という声も出たことから、本部長を務める細田前総務会長は、15日の意見集約を見送る考えを示し、来週改めて議論することになりました。