2018年3月6日火曜日

自民の9条論 変える必然性が見えぬ

 北海道新聞の社説自民の9条論 変える必然性が見えぬ」を紹介します。

 社説は、安倍首相が「国民投票の賛否にかかわらず自衛隊は合憲」と述べたことについて、「ならばなぜ9条改憲を急ぐ必要があるのか」とし、「所管の防衛省には触れずに自衛隊を明記すれば、文民統制が担保を失う」し、そうかといって「自衛権」を記述するのは集団的自衛権と区別できなくなる問題があるとしています。
 そして首相が「国会には改憲の議論を深める義務がある」と述べたことに対しては。首相に課せられているのは憲法を「尊重し擁護する」義務であり、改憲論議を「義務」と位置づける理屈は、あべこべだとしています。
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(社説) 自民の9条論 変える必然性が見えぬ
北海道新聞 2018年3月5日
 自民党が憲法9条改定に向けた条文案づくりを加速させている。
 先の憲法改正推進本部では党所属の国会議員から募集した条文案を検討した。党執行部は今後、戦力不保持をうたう2項を残して自衛隊の存在を追記する安倍晋三首相の案を軸に集約する構えだ。

 首相は国会で、改憲の成否にかかわらず自衛隊の合憲性は変わらず、憲法に明記しても任務に変更はないと答弁した。ならばなぜ9条改憲を急ぐ必要があるのか。
 各種世論調査では、安倍政権下での改憲に慎重な声が多数を占める。首相の意向を優先するあまり民意を見失ってはならない。
 党内には、石破茂元幹事長らを中心に2項削除を主張する声も強い。その中で執行部が首相案での集約を目指すのは、現行の条文を維持することで公明党や一部野党の賛同を取り付ける狙いだ。

 だが、安全保障関連法で集団的自衛権の行使が可能となり「必要最小限度の実力組織」の線引きがあいまいとなった今、自衛隊の存在を明記すれば、交戦権を否認する2項との整合性が揺らぐ
 後に成立した法律が優越する「後法優先の原則」から、2項が空文化することも懸念される。
 所管の防衛省には触れずに自衛隊を明記することで、文民統制が担保を失うとの批判もある。このため「自衛権」と記述する案も浮上するが、集団的自衛権の範囲があいまいになる危険がある。
 まして2項を削除してしまえば平和主義の基盤が揺らぐ。そういった論点は棚上げし、発議への近道を探る姿勢は認めがたい。

 背景にあるのが任期中の改憲を目指す首相の前のめりな姿勢だ。今国会では、従来は抑制していた国会での論戦に踏み込んでいる。
 「改憲は国会が発議し、最終的に国民投票で決する。国民がその権利を実行するために国会で議論を深める必要があり、私たちにはその義務がある」とまで述べた。
 だが首相に課せられているのは憲法を「尊重し擁護する」義務である。改憲論議を「義務」と位置づける理屈は、あべこべだ
 首相は、自衛隊の正当性を明文化することが「わが国の安全の根幹に関わる」と主張するが、9条改憲を急ぐ理由としては説得力を欠く。
 自衛隊の合憲性を巡っては設立以来60年あまりを経て、共産党も当面の存続を認めるまでに議論が成熟してきた。首相と自民党は、この国民的な合意の重みこそ、再確認するべきだ