2018年3月19日月曜日

19- 数年前に得られた田中実氏生存情報を 政府は何故いまリークするのか

 2014年、日・朝でストックホルム合意がなされたときに、北朝鮮は、拉致被害者田中実さん(失踪当時28歳)が「現在平壌で家族と共に生活しており、現地に残る意向であると日本側に伝えていたことを、17日、共同通信がスクープしました。
 天木直人氏は、これは官邸が意図的にリークした情報で、当時公表しなかったのはその情報が日本側にとって都合が悪かったからだと見ています。
 生存の情報は日本にとって朗報なので都合が悪い筈はないのですが、それを機に政権に就いてから全く拉致問題に取り組んでこなかったことを、国民から批判されるのをおそれたのでしょう。自分の面子を守るためにそうした情報を秘匿するとは呆れる話です。

 因みにストックホルム合意とは、2014526日から3日間かけて、スウェーデンの首都ストックホルムで会議を行って得られた合意で、日朝平壌宣言に則って,不幸な過去を清算し,懸案事項を解決し,国交正常化を実現するとして、北朝鮮側が包括的拉致被害者の特別調査委員会を立ち上げ調査を開始する時点で,人的往来の規制措置,送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対し講じている特別な規制措置や北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置を解除し、人道的見地から,適切な時期に,北朝鮮に対する人道支援の実施を検討するなどを取り決めました。
 しかし、北朝鮮が20162月に長距離弾道ミサイルの試射を行ったのを機に、日本はいつものことながら北朝鮮を一方的に非難して合意を破棄しました。

 ところで米朝首脳会談の実施が決まってからも、日本は相変わらず制裁の強化を主張し、拉致問題の解決を南北宥和の条件に加えることなどを要求しています。しかしそうした日本の行動は当然北朝鮮にとっては極めて不快なものです。

 果たして朝鮮中央通信は17日、「最近の急変する情勢に慌てふためいた日本が、制裁や圧迫の雰囲気をあおっている」、「日本が不届きなふるまいを続けるならば、永遠に入国切符を入手できなくなることもありえる」として、北朝鮮に対して圧力をかけ続けるのであれば、日本との対話は困難だとの立場を示しました。
 いずれにしても安倍政権の北朝鮮に対する態度は、とても拉致被害者の救済を目指すものの態度ではなく、拉致問題を解決する意思があるのかが疑われます。

 天木氏は、安倍首相は米朝首脳会談で拉致問題を決着させるつもりであり、仮に解決できなかったとしても、「米朝会談でトランプ氏に頼み込んで得られた結論なのでもはやそれを受け入れるしかない、そう言って拉致被害者家族たちに最終決着を受け入れることを迫るつもりなのだろうと述べています
 家族たちがそんな論理を受け入れる筈は勿論ありませんが、さすがに天木氏は、安倍首相が拉致問題の解決を目指して最大限の努力をするのではなく、どうすれば体裁よく決着をつけられかということだけを考えている人間であることを見抜いています。
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拉致被害者の入国を北朝鮮が今になって認めたという情報操作
天木直人のブログ 2018年3月18日
 きのう3月17日、共同通信が驚くべきスクープを報じた。
 すなわち、北朝鮮が2014年に、日本政府が拉致被害者と認定している田中実さん(失踪当時28歳)について、「入国していた」と日本側に伝えていた事が16日、分かったと。
 本人は平壌で家族と共に生活しており、現地に残る意向であると。
 そう日本政府に北朝鮮が伝えていたというのだ。
 日本政府関係者が明らかにしたという。この共同通信のスクープ報道は極めて意味深長だ。

 2014年と言えばストックホルム合意がなされた年だ。
 つまりストックホルム合意に至る交渉の過程において、北朝鮮はあらたな拉致被害者を認定し、しかも北朝鮮で生きている事を日本政府に伝えていたというのだ。
 物凄い新たな情報である。
 こんな重要な情報がなぜ当時公表されなかったのか。そしてなぜ今ごろになって報道されたのか。しかも共同通信のスクープとして。
 共同通信のその記事は、外務省に確認を求めたが「コメントできない」と答えたという。
 外務省にとって都合の悪い情報が流れたということだ。
 しかし外務省の内部告発ではないだろう。
 こんな情報を告発しても告発者にメリットはないからだ。
 おそらく日本政府関係者とは官邸筋に違いない。しかも内部告発ではなく意図的にリークして書かせたのだ。

 おりから米朝首脳会談が5月にも開かれる事になり、安倍首相は拉致問題も米朝首脳会談の議題にして米国の圧力での進展を期待している。
 その為に、このタイミングで拉致被害者がほかにも存在し、しかも生きている事をアピールしたかったのだ。
 しかし、これは大きな賭けだ。
 もし横田めぐみさんをはじめとした拉致被害者の中心的な人たちの解放が米朝首脳会談でさえも出来なければ、その失望と反発は大きいものになる。
 そして、私は解放される可能性は限りなく少ないと思う。
 もし解放されるなら、あのストックホルム合意の後に、解放に向けた動きがあったはずだ。しかし、頓挫したままだ。

 ストックホルム合意が出来た2014年5月は、私が突然目の機能障害に見舞われて長期入院を余儀なくされていた時だ。
 することがなく毎日病院でニュースを眺めていた。
 そして偶然テレビのキャスターがとんでもない失言をした事を見つけた。
 つまりストックホルム交渉とは、途中から拉致被害者救出の交渉ではなく、記者発表をどうするかというアリバイ作りに終始した交渉になったと、舞台裏をばらしたのだ。

 あの時、北朝鮮側は、今度のスクープで明らかにされた田中実さんも含め拉致被害者の情報をすべて日本側に伝えたに違いない。
 しかし、その情報が日本側にとって都合が悪かったの日本側は受け取れなかったのだ。
 もちろん公表など出来なかった。
 だから交渉を更に続けるという形でごまかしたのだ。

 あくまでも交渉継続の手続きと内容の合意だけにして、拉致問題の解決は全員を生きて返すという出来もしない解決策に向かって永遠に交渉を続ける芝居をしたのだ。
 あの時、菅官房長官は記者会見でうろたえた。ウソをつくしかなかったからだ。
 その狼狽ぶりを私は見逃さなかった。

 繰り返し書く。
 3月17日の共同通信のスクープ報道は意味深長だ。
 米朝会談でトランプに頼み込んでも解決出来なかった、あるいはトランプ大統領のおかげで拉致被害者の解決に向けた進展が見られたが、その結果は残念なものだった、しかしトランプ大統領が解決してくれたのだからもはやそれを受け止めるしかない、そう言って安倍首相は拉致被害者家族たちに最終決着を受け入れる事を迫るつもりなのだろう。
 どっちにころんでも、米朝首脳会談で拉致問題を決着させるつもりなのだ。

 あるいはひょっとして米朝首脳会談が決裂し戦争が起きるかも知れない。
 そうなったら拉致被害者問題も吹っ飛ぶ。
 やはり安倍首相は今度の米朝首脳会談で拉致問題を終わらせるつもりだ。
 私はそう推測している。
 それにしても、これだけ意味深長な共同通信のスクープ記事なのに、なぜ大手紙が後追いして調査報道をしないのだろうか(了)


北朝鮮「日本はピョンヤン行けない」圧力路線の転換要求
NHK NEWS WEB 2018年3月18日
北朝鮮の国営メディアは、「日本が不届きなふるまいを続けるならば、ピョンヤン行きの切符を入手できなくなることもありえる」として、北朝鮮に圧力をかけ続けるのであれば、日本との対話は困難だとの立場を示し、圧力路線の転換を要求しました。

これは北朝鮮国営の朝鮮中央通信が、17日、論評として伝えました。この中で、「最近の急変する情勢に慌てふためいた日本が、制裁や圧迫の雰囲気をあおっていると主張し、米朝首脳会談や南北首脳会談が開催される見通しになる中、北朝鮮に圧力をかけ続ける姿勢を示す日本政府を非難しました

そして、「日本が不届きなふるまいを続けるならば、永遠にピョンヤン行きの切符を入手できなくなることもありえる」として、北朝鮮に対して圧力をかけ続けるのであれば、日本との対話は困難だとの立場を示し、圧力路線の転換を要求しました

北朝鮮の国営メディアでは、このところ、アメリカのトランプ政権や韓国のムン・ジェイン(文在寅)政権への非難が目立たなくなっていて、日本政府への非難を通じて、国際的な圧力に反発する姿勢を示し、米韓両国の出方を慎重に見極めようとしていると見られます。