2018年3月21日水曜日

21- 英国二重スパイへの毒ガス攻撃をロシアの仕業とするのは無理

 イギリスの二重スパイのセルゲイ・スクリパリとその娘のユリアが、滞在先のイギリスで毒ガスに接触して意識不明になりました。
 事件が発生すると、イギリスのテレサ・メイ首相は、殆ど間髪を入れずにロシア政府が神経ガス(ノビチョーク)を使用したためと盛んに非難しました。それは余りにも早い断定だったので却って疑念を抱かせるものでした。

 エマニュエル・マクロン仏大統領は、ロシアが行ったとする証拠が欲しいと述べ、英労働党首のジェレミー・コービン氏も、主張を裏付ける証拠を示すように求めましたが、メイ首相は何も示しませんでした。
 ロシアも、夏にサッカーのロシア・世界大会を控えたこの時期にそんなことをする動機がないとして、ロシアが行ったという証拠や毒薬の分析表の提示を求めましたが、提示されませんでした。
 セルゲイ・スクリパリは、ロシアで禁固刑を受けそれを済ませて釈放された人なので、いまさらそんな人間を殺害する理由はない筈です。
 それなのに米国の調整によって、いまや西側4カ国の首脳は一致してロシアの仕業だとして非難しています。

 考えてみればそれはおかしなことで、これはマレーシア旅客機撃墜事件に始まって、クリミア併合、イギリス国内でのロシア人に対するポロニウム攻撃、それにアメリカ大統領選挙への不正干渉というデッチ上げと同様に、これまでの西側の一連のロシアバッシングを更に強化したいと思う勢力によって行われたと見る方がずっと自然です。
 一例としてマレーシア旅客機撃墜事件について見てみると、それはまだ事件が起きる前からロシアが犯人とする宣伝が準備され、旅客機のブラックボックスが回収されてから1年も経って、ほとぼりが冷めた頃にようやくロシアの犯行の可能性が高いという、何の説得力もない(事実と異なる)発表がなされたのでした。
 
 財務次官補Paul Craig Roberts氏は、この事件は一連のロシア・バッシングのために仕立てあげられたものという見方を示しました。

 櫻井ジャーナルも、「ロシアを挑発するために英国政府が作った証拠のない御伽話」だとして、かつてやはり英国のスパイだったベレゾフスキーが英国で自殺したとされた事件は、ロシアへの帰国を強く希望した彼から情報が漏れるのを防ぐために行われたもので、その事例の再現であるという見方をしています。
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ウソは戦争を招きかねない
マスコミに載らない海外記事 2018年3月20日 (火)
Paul Craig Roberts 2018年3月15日
イギリスの公園のベンチに座っていた二人と、一人のイギリス人警官を攻撃するために、ロシア政府が軍用神経ガスを使用したと判断するのに、アメリカ、イギリス、フランスとドイツの政府は、いかなる証拠も必要としていないことに留意願いたい。これは意味をなさない。ロシアには動機皆無だ。http://www.informationclearinghouse.info/48963.htm  

動機は欧米にある。継続中のロシア悪魔化における最新の画策だ。悪魔として描きだすのは、軍安保複合体の権限と利益にとって、またトランプ大統領が関係正常化するのを阻止する上で大きな後押しになるのだ。軍/安保複合体の予算と権限には強力な敵が必要で、ロシアは敵役を割り当てられており、割り当てられた役から逃れることは許されないのだ。

ロシアに対するぬれぎぬは、こうした非難をし、支持をしている欧米諸国の信頼を損なうものだ。どの非難にも、証拠があった試しがないのだ。お考え願いたい。マレーシア旅客機、クリミア、イギリス国内でのロシア人に対するポロニウム攻撃、ソ連帝国復活を目指すプーチンの意図とされるもの、ロシアゲートや、アメリカ大統領選挙での不正、選挙不正や干渉という非難。今のスクリパル毒ガス攻撃。非難は山のようにあるが何の証拠もない。最後には、無頓着な欧米の国民たちさえ、証拠皆無の非難を真実に変えることに疑念を持ち始めるだろう。

ずっと前に引退したイギリスの二重スパイをロシアが毒ガス攻撃したと、一片の証拠も無しに、欧米主要四カ国の政治首脳が揃って非難するのを見て、少数の独立した主権国家の指導者や国民は一体どう思うだろう? 中国はどう思うだろう? イランは? インドは?
ロシアが、サダム・フセイン、カダフィ、アサド、イエメンがそうされたし、イランに対してされているのと同様、侵略するために、悪者として、はめられていると考え始めたことを我々は知っている。こうした全ての非難は外交で解決できる何らかの間違いではなく、それどころか、ロシアが軍事攻撃の対象としてまつりあげられていることに、ロシアもとうとう気付きつつあるのだ。

欧米がロシアに与えようとするこういう印象は、無謀で、無責任で、危険だ。スクリパル事件非難がウソであるのを理解しながら、私から見れば誤って、イギリスのメイ首相が、彼女のBrexitイギリスのEU離脱の困難さから注目をそらすため非難を画策したと主張している人々もいる。ロシア選挙をプーチンに不利に変えるための取り組みだと誤って主張する人々もいる。スクリパルは、でっちあげの“スティール文書”に関与しており、イギリスアメリカ欧米諜報機関によって、沈黙させられたのだと結論付けた人々もいる。

Moon of Alabamaのような炯眼の観察者でさえ、これらの説明で混乱させられている。それでも私は彼の記事をお勧めする。- http://www.informationclearinghouse.info/48966.htm-
フランス大統領、ドイツ首相とトランプ大統領が、イギリスのメイ首相の立証されていない非難を支持する前に書かれたのは明らかだ。アメリカの専門家もイギリスの専門家も、毒ガス攻撃事件とされるもので使用されたロシアの神経ガスとされたものが存在すると思っていないことを記事は示している。おそらく、これがイギリス政府がいかなる試験にも同意せず、証拠も提示できない理由だ。

Paul Craig  Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼 の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
ご寄付はここで。 https://www.paulcraigroberts.org/pages/donate/  



ロシアを挑発するために英国政府が作った証拠のない御伽話は
12年前の作戦の使い回し説
櫻井ジャーナル 2018年3月16日
セルゲイ・スクリパリとその娘のユリアをロシア政府が神経ガスで攻撃したとイギリスのテレサ・メイ首相は主張し続けている。それに対してフランスのエマニュエル・マクロン大統領は攻撃とロシアを結びつける証拠が欲しいと発言、同大統領のスポークスパーソンは「おとぎ話的な政治」は行わないとメイ首相の言動を批判していたが、そうしたフランスの姿勢は米仏両国が電話で話し合った後に変化、アメリカやドイツと同じように攻撃の責任はロシアにあると言うように変化している。イギリス議会では労働党のジェレミー・コービン党首もメイ首相の主張を裏付ける証拠を示すように求めたが、保守党だけでなく労働党の議員から罵倒される事態になった。

マクロン仏大統領やコービン労働党党首が言うように、メイ首相の主張には証拠がなく、おとぎ話にすぎない。ロシアの政府機関が何かイギリスに害を及ぼしたので批判しているのではなく、ロシアとの関係を悪化させるためにおとぎ話を作りだしたと考える方が自然だ。そのおとぎ話を真実だと信じることを要求している。その姿勢はアメリカのジョージ・W・ブッシュやバラク・オバマといった大統領、あるいは大統領になろうとしてヒラリー・クリントンと同じである。
(中 略)
ところで、セルゲイ・スクリパリはGRU時代にスペインで活動しているが、そのスペインで1995年にイギリスの情報機関MI6のエージェント、パブロ・ミラーにリクルートされ、99年に退役するまでイギリスのスパイとして活動していた。このミラーはロシアの治安機関FSBに所属していたアレキサンダー・リトビネンコともコンタクトをとっていたと言われている。リトビネンコはMI6の仕事をしていたことになるが、ロンドンへ逃げたオリガルヒのひとり、ボリス・ベレゾフスキーの下で働いていたと言われている。
(中 略)
2000年10月にリトビネンコはイギリスへ渡るが、FSB時代のリトビネンコは犯罪の取り締まりが担当で、イギリス側が望む情報を持っていなかった。それでも2001年5月には政治亡命が認められたが、06年11月に放射性物質のポロニウム210で毒殺されたとされている。言うまでもなく、放射性物質は明白な痕跡を残す。何十年も前から痕跡を残さないで人を殺せる薬物は開発されていると言われているので、ポロニウム210を使ったというのは不自然だ。

リトビネンコの死について弟のマキシム・リトビネンコはアメリカ、イスラエル、イギリスの情報機関に殺された可能性があると主張しているのだが、2016年3月に同じ主張をする人物が現れたリトビネンコはアメリカとイギリスの支援を受けたイタリア人に殺されたことを示す証拠を持っているとフランスの対テロ部隊創設に関わり、GIGN(国家憲兵隊の特殊部隊)を率いたひとりであるポール・バリルが語ったのだ。バルーガという暗号名がつけられたこの作戦はプーチンの評判を落とし、ロシアを不安定化させることが目的だったという。スクリパリのケースはこの作戦をまた使ったと推測している人もいる

なお、リトビネンコを雇っていたベレゾフスキーは2013年3月、バークシャーの自宅で死亡した。自殺とされているが​ベレゾフスキーと愛人関係にあったカテリーナ・サビロワによると、死んだ日に彼は娘と会う予定で、サビロワとはテル・アビブへ2週間の予定で旅行することになっていた。つまり、自殺する様子はなかった

ベレゾフスキーが死亡した後、ロシア政府は彼がプーチン大統領へ謝罪の手紙を書き、ロシアへの帰国を申し出ていたと発表した。ベレゾフスキーとビジネス上の関係があった人々はこの話を否定しているが、サビロワはロシアへの帰国をベレゾフスキーが強く望んでいたとしている。経済的に破綻していたことから帰国の望んだようで、手紙はかつてバートナーだったエレナ・ゴルブノワが11月、プーチンへ渡したという。手ぶらでロシアへ戻れば刑事事件の被告になる可能性があったので、交渉に使う何らかの情報を提供する用意があったという推測もある。当然、西側にとって都合の悪い情報だろう