2018年3月31日土曜日

北朝鮮は中国の核の傘に入り再生することを決断した(世に倦む日々)

 今回の中朝首脳会談が意味するものについて、「世に倦む日々」氏は次のように考察しました。

 北朝鮮が中国の核の傘に入ることで自らの安全が保障され、核を持つ必要がなくなり、それによって経済発展を実現し、最貧国の地位から脱し、韓国とのGDPの格差を縮めて行くことができる。
 その選択で捨てるものは、核と主体思想のプライドだけであり、そうすることで中国の核の傘に入ることができ、安全を担保することができる
 米国と国交正常化して軍事上の脅威を取り払える。
 金正恩はその合理的選択をしたのに違いない。

 実に斬新で鋭い考察です。
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北朝鮮は中国の核の傘に入る
- 金正恩の核放棄の意思決定は本物だ
世に倦む日々 2018年3月30日
北朝鮮は中国の核の傘に入る。この結論を最初に置くことは、今回の中朝首脳会談の分析と北朝鮮の動向予測にあたっての、いわばコロンブスの卵だろう。この視点と仮説で考えると、すべてが腑に落ちてよく理解できる。中国の核の傘の下に入れば、北朝鮮の安全は保障されるのであり、米国の軍事的脅威から自国を防衛することが可能で、自ら核を持つ必要はない。金正恩の意中はこの一点だと推察される。北朝鮮と中国の間には「中朝友好協力相互援助条約」と呼ばれる軍事同盟が結ばれていて、第2条には「いずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する」という規定がある。この条項は2010年に解釈変更され、北朝鮮が韓国に先制攻撃を行って戦争になった場合には中国は北朝鮮を支援しないと、そう留保の通告が中国側からなされたが、現在でも条約は破棄されず維持されている。新華社の報道によると、今回の中朝首脳会談で習近平はこう語っている。「我々は中朝の伝統的友誼を絶えず伝承していくべきだと何度も表明している。これは中朝両国が歴史と現実に基づき、国際・地域構造と中朝関係大局を踏まえて行った戦略的選択であり、唯一の正しい選択である。一時的なことによって変えてはならず、変わることはない」。

習近平の言う「中朝の伝統的友誼」とは、具体的には「中朝友好協力相互援助条約」のことを指すと考えるべきだ。森本敏がよく解説で言うように、中国は原則の国であり、原則に従って外交を動かす国である。つまり、この習近平の言葉は、中朝軍事同盟の再確認の意味と解釈してよいだろう。北朝鮮が核開発に奔走し、六カ国協議を一方的に離脱して以降、中朝の関係は冷え込んでいく一方で、中朝同盟の存在と効力も有名無実化の方向に流れていたが、7年ぶりに行われた中朝首脳会談を通じてこの盟約が再確認されたことは明らかと言える。28日の朝鮮中央放送の報道によれば、金正恩の訪朝要請を習近平が受諾したとある。このことは中国側の発表にはないが、何の根拠もなく国営放送がこのような報道をするはずはなく、4月の南北会談と5月の米朝会談の結果を見きわめた上で、習近平が平壌を訪問する幕があると考えられる。非公式の会談だったが、中朝双方のテレビ報道が示した今回の首脳外交は実に豪華絢爛で、中国による北朝鮮の歓迎ぶりとその演出が際立っている。これほど目を見張るもてなしを北京で受けたのは、昨年のトランプ夫妻だけだ。

豪勢で壮麗な歓待について、中国が北朝鮮問題で出番を回復するためだとか、存在感を示し直すためだとか、嘗ての中華王朝の皇帝が周辺蛮国の王に威厳を張る朝貢外交の再演だとか、そういう見方も間違いではないが、私が確信するのは、金正恩が中国に対して非核化をコミットしたということである。非核化とは核放棄のことだ。事前の交渉で非核化をコミットしている。だから中国はあれほどの歓待で応じたのであり、具体的にどういうプロセスで非核化を実現するか、米国に対してどう提案するか、その中身を習近平に伝えたのだろう。中国外交部の発表では、金正恩は、「(米韓が)われわれの努力に善意で応え、平和実現に向けて段階的で歩調を合わせた措置を取るなら、半島非核化問題は解決できる」と述べている。誰もが知りたいのは、その「段階的で歩調を合わせた措置」の内容だけれど、それについての構想の概略も、おそらく北朝鮮側から中国側に伝えられ、中国側がそれを諒としたのだろう。非核化のゴールとロードマップのラフ(=概略が示されたと考えてよく、それへの中国の関与と役割が要請され、この地域の責任大国を自負する中国が大いに納得し、中朝間でほぼ完全な合意が得られたと見ていい。

北朝鮮の非核化という問題は、米国だけでなく中国にとっても同じ外交課題なのである。北朝鮮が米国にコミットする非核化は、中身は中国にとっても同じであり、同じでなければならないものだ。中国の安全保障にとって容認できないもので、国連五大国の一としてこの地域を自らの管轄範囲と考える中国にとって、速やかに問題解決しなくてはならない懸案事項だった。われわれは、今回の問題を米朝間の紛争として捉え、米朝間の軍事衝突ばかりをイメージするが、紛争は国境を接し合う中朝間で起きていて、長年友好関係だった中朝が間一髪の危機的事態になっていたことを考えないといけない。中国は北朝鮮に核放棄を要求し、拒否する北朝鮮を経済制裁で締め上げ、生命線である石油の禁輸にまで及ぶという最終段階に至っていた。そしてどうやら、北朝鮮が音を上げるように降参し、非核化の意思を国際社会に示す決断に至ったのは、やはり中国による経済制裁が与えた効果が大きいのだ。金正恩は36歳。人生の大半を、緩やかに経済が豊かになってゆく平壌で送っていて、北朝鮮が飢餓で苦しんだ90年代は遠いスイスで留学生活を送っている。

平壌に物資が行き渡るようになり、自動車や高層ビルや携帯電話が日常の風景になったのは、ひとえに中国の経済発展のおかげであり、隣国経済のトリクルダウンの恩恵を受けたからである。中国の安全保障上の庇護があったから、国際社会からの圧力と制裁にも屈せず、金王朝独裁体制を持続することができた。中国の存在感の大きさというのは、若い金正恩にとっては決定的なものだろう。金正日の時代は、北朝鮮はとにかく米国だけをフォーカスして、生き残りのため、米国との直接交渉のみを目標として足掻いていた。米国による体制保証を得るために、米国からの軍事攻撃を避けるために、あらゆる術策をめぐらせて騒動し、なりふり構わず、わがままな幼児が暴れるように周辺国に面倒をかけ、国際社会を手こずらせてきたのが北朝鮮だった。六カ国協議から北朝鮮が離れたのが10年ほど前のことである。そこから世界は変化した。安保・軍事の面では米国の一極支配は変わらず、米国の軍事力が圧倒的である点は変わらない。だが、経済の面を見ると、米国の一極支配に中国が割って入る状況が明確になっている点は否めない。

だからこそ、南シナ海の問題でもASEANは米国の意向どおりには動かない。米国のアジアをコントロールする力は弱まっていて、米国と中国が支配を二分する現状に変わっている。今回、中国からの本格的な経済制裁を受けて、金正恩は初めて自らの核開発の意味と影響を知ったのだろう。観念的でなく、皮膚感覚で破綻を直観したのに違いなく、これ以上続けるのは不可能だと悟ったのだろう。もともと、北朝鮮の核開発・核武装は、米国からの体制保証を得るための交渉のカードだった。外交の手段だったのであり、核武装して核戦力を持つことが目的だったわけではない。もし、中国の核の傘に入ることができ、安全を担保することができるのなら、核を自前で持つ必要はなくなる。自らの核を放棄し、米国と国交正常化して軍事上の脅威を取り払い、その上で、中国の核の傘でガードしてもらえればいい。金正恩はその合理的選択をしたのに違いない。今後の半島統一に向けての韓国との交渉を考えても、そうした方が北朝鮮にとって得策で、韓国に主導権を渡さずに済む。韓国の統一攻勢に引き摺られずに済み、DPRK(=朝鮮民主主義人民共和国の独立を維持することができる。その根拠となる。

核を放棄した北朝鮮が生き残る道はそれしかなく、逆に言えば、そうすることで北朝鮮は悠々延命することができ、国際社会に復活して、平和の裡に経済成長を遂げることができる。北朝鮮が棄てるのは、核と主体思想のプライドである。今後は、韓国と米国のような関係を中国との間で取り結んで生きていくのであり、それによって経済発展を実現し、最貧国の地位から脱し、韓国とのGDPの格差を縮めて行こうと模索するのだろう。中国は日本海に出口を持っていない。日本海に接する自国領の土地がなく港湾がない。一路一帯は北極海航路も含む巨大な経済構想だから、当然、日本海から北へ伸びるシーレーンも習近平の戦略と視圏の中に入っている。すなわち、現在、インド洋のスリランカで起きている出来事が、北朝鮮の東岸で今後発生するかもしれない。南北会談と米朝会談が終わった後、習近平が平壌を訪問し、その将来の絵が見えてくるだろう。いずれにせよ、今回の北朝鮮の核放棄の意思決定は本物だ。この核放棄は、米国に対して約束するものであると同時に中国に対して約束するものでもある。中国の経済制裁の威力と恐怖を痛感した上での旋回に他ならない。

踏み込んで言えば、金正男の死は、「一粒の麦もし死なずば」の意味になった。金正男が生きていて、張成沢の宮廷クーデターが成功し、金正恩が排除されていれば、もっと早く、今回と同じ北朝鮮の方針転換が図られ、核放棄と米国の体制保証が実現し、中国的な改革開放がスムーズに進行していただろう。金正恩が中国に核放棄をコミットしたのは、金正男を暗殺し、後顧の憂いを取り去ったからだと、そう考えることもできる。