2018年3月17日土曜日

文科省が前川前次官授業の報告を要求 名古屋市立中に

  先16日、名古屋市の公立中学校の校長が面識のあった前川前文科省事務次官を総合学習の時間の講師に招きました。前川氏は、生徒と保護者ら約500人を前に「これからの日本を創るみなさんへのエール」と題して講演し、不登校や夜間中学校、学び直しなどについて語り、終了後は教員や生徒、さらに住民と一緒に記念撮影するなど、好評でした。
 講演を聞いた50代の主婦は「夜間中学校について、熱く語られたのが印象残っています。とても勉強になりました」と感想を語っています。
 
 ところがこれを知った淵上孝・教育課程課長が上司と相談の上、課長補佐を通じて先月19日、市教委に電話で問い合わせ、今月1日にメールで「授業内容を知りたい」として、前川氏が天下り問題で引責辞任し、出会い系バーを利用していたと説明し「どのような判断で依頼したのか」「どんな狙いの授業か」など15項目に渡り陰湿にかつ執拗に質問を繰り返し、授業の録音データの提供なども求めました。
 
 前川氏の出会い系バー利用は内閣調査室からの情報によるものですが、関係者や同バーの従業員たちの証言で、それは清廉潔白な調査行動であったことが既に明らかにされています。それを敢えて質問のメールに書き込んだのは、前川氏の印象を悪くするための中傷と思われます。
 
 学校教育を巡っては、市町村の教委が指導や助言をするのが原則で、いじめによる自殺防止を防ぐなど緊急の必要がある場合以外は、国が学校の授業内容を調査することは基本的に認められていません。名古屋市教委の幹部は「今までに聞いたことがない話で、文科省にはどういう意図で問い合わせをしてきたのか、あらためて聞きたい」と話しています。
 
 藤田英典共栄大教授(教育社会学)は、この件に関して
今回のケースは明らかに過剰な干渉。授業内容が知りたいのなら、前川喜平氏本人に聞けばいい。文科省が現場に問い合わせれば萎縮を招く。現場の裁量権を抑圧しようとする意図すら感じる。 元文科省職員として経験豊富な人物を授業に呼んだことに目くじらを立てる必要があるとは思えない(共同)
と語っています。
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前川前次官授業の報告を要求 文科省、名古屋市立中に
中日新聞 2018年3月16日
 名古屋市内の公立中学校が二月、前川喜平・前文部科学次官を授業の講師に呼んだ後、文科省が市教育委員会を通じ、授業内容の確認や録音データの提出を求めていたことが分かった。国が個別の授業内容を調査するのは異例で、批判の声も上がりそうだ。

 文科省や市教委によると、授業は先月十六日、八王子中学校(同市北区)であり、前川氏は面識のあった校長から、総合学習の時間の講師に招かれた。生徒と保護者ら約五百人を前に「これからの日本を創るみなさんへのエール」と題して講演し、不登校や夜間中学校、学び直しなどについて語った

 文科省は新聞報道で事実を把握。淵上孝・教育課程課長が上司の高橋道和・初等中等教育局長とも相談の上、同課の課長補佐が同十九日、市教委に初めて電話で問い合わせ、今月一日には「授業内容を知りたい」とメールを送ったメール内容は前川氏が天下り問題で引責辞任し、出会い系バーを利用していたと説明し「どのような判断で依頼したのか」「どんな狙いの授業か」など十五項目ほど質問。授業の録音データの提供なども求めた

 学校側は授業内容などの概略は報告したが、録音データの提供は拒否。文科省は市教委とメールで二回やりとりした後、「前川氏の背景の確認が必ずしも十分でなかった。もう少し慎重に検討が必要だった」との趣旨のことを伝えた。「こうした授業は問題ないのか」との質問もあったが、市教委は「問題ない」と回答したという。

 淵上課長は十五日、記者団の取材に「文科行政の事務方トップを務めた人で、かつ天下り問題で国家公務員法に違反して引責辞任した人。そういう人を授業に呼ぶ必要があったのか、事実確認する必要があった」と話した。授業内容は「特に問題ない」といい、問い合わせについて「異例ではない。現場にプレッシャーをかけた認識もない」と述べた。

 市教委の幹部は「今までに聞いたことがない話で、文科省にはどういう意図で問い合わせをしてきたのか、あらためて聞きたい」と話した。
 学校教育を巡っては、市町村の教委が指導や助言をするのが原則。いじめによる自殺防止を防ぐなど緊急の必要がある場合以外は、国が学校の授業内容を調査することは基本的に認められていない。国が戦前、教育内容を統制していた反省から、法律で権限を制限している


文科省が授業内容などの提出要求
前川前次官の中学校での授業で
NHK NEWS WEB 2018年3月15日
国が学校に授業の内容を問いただす異例の事態です。愛知県の公立中学校が文部科学省の前川前事務次官を先月、授業の講師に呼んだところ、文部科学省から教育委員会を通じて授業の内容や録音の提出を求められたことがわかりました。いじめなどの問題を除き、国が学校の個別の授業内容を調査することは原則、認められておらず、今後、議論を呼びそうです。

愛知県内の公立中学校で、先月、文部科学省の前川前事務次官が総合学習の時間の講師に招かれ、不登校や夜間中学校などをテーマに授業を行い、全校生徒のほか地元の住民らも出席しました
この授業について今月1日、文部科学省の課長補佐からこの学校を所管する教育委員会宛てに内容を問いただすメールが届いていたことがわかりました。
メールでは、前川氏が天下り問題で辞任したことや、出会い系バーの店を利用していたと指摘したうえで、「道徳教育が行われる学校にこうした背景のある氏をどのような判断で授業を依頼したのか」と具体的に答えるよう記しています。さらに、録音があれば提供することなど15項目について文書で回答するよう求めています。

関係者によりますと、中学校には教育委員会からこれらの内容が伝えられ、録音の提出については拒んだということです。教育委員会も授業内容は事前に了承していたということです。
今の法律では、いじめによる自殺を防ぐなど、緊急の必要がある場合は文部科学大臣が教育委員会に是正の指示を出すことが認められていますが、今回のように個別の学校の授業内容を調査することは原則、認められていません。

教育行政上の国の役割とは
戦前の愛国主義的な教育の反省に立ち、国による学校教育への関与は法律で制限されています。教育基本法16条にも「教育は不当な支配に服することなく」と記されています。
地方教育行政について定めた法律では、学校教育に対して、指導や助言などができるのは原則として教育委員会です。国は学習指導要領の作成など全国的な基準の設定や、教員給与の一部負担など教育条件の整備が主な役割です。
一方、いじめ自殺など子どもたちの命に関わる問題が相次ぐ中で、国による関与が必要だとする声も強まり、平成19年に文部科学大臣が教育委員会の対応が不適切だった場合、是正の指示ができるようになりました。

しかし、これも法令違反や子どもの命や身体の保護のため、緊急の必要がある場合に限定されていて、今回のように個別の授業内容を調査できる権限は原則、認められていません

聞いた主婦「とても勉強になりました」
講演で、前川氏が語ったのは中学時代の不登校体験や今、みずからも関わっている夜間中学校の必要性などについてでした。終了後は教員や生徒、さらに住民と一緒に記念撮影するなど、好評だったということです。

話を聞いた50代の主婦は「夜間中学校について、熱く語られたのが印象残っています。とても勉強になりました」と話していました。また、別の男性は「政治的な話は全くなく、和やかな雰囲気でした」と話していました。

日本教育学会会長「国の行き過ぎた行為」
日本教育学会の会長で教育行政に詳しい日本大学の広田照幸教授は、「国の地方の教育行政への関わりは、基本的に抑制的であまり口を出さないのが基本だ。学校の教育内容は教育委員会の管轄であり、何より個々の学校が責任を持って行うものだ。それに対し、明確な法律違反の疑いもないまま授業内容にここまで質問するのは明らかに行き過ぎだ」と指摘しています。
そのうえで、「行政が必要以上に学校をコントロールすることになりかねず、現場は国からの指摘をおそれて萎縮し、窮屈になってしまうのではないか。国があら探しするような調査をかけることは教育の不当な支配にあたると解釈されてもおかしくない」と話しています。

文部科学省「問題ない」
(後 略)