東京五輪組織委員会理事の高橋治之氏が17日、受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されたことに関して、元JOC職員でスポーツコンサルタントの春日良一氏が日刊ゲンダイに「特別寄稿」しました。
東京五輪でのIOC会長の言動でひと際目立ったのは五輪の商業主義化でした。五輪が生き残り、選手が活躍する場を持続するためには財政基盤が必要というのが建前なのですが、あの熱狂的な招致運動の陰に利権が渦巻くのでは、このままでいいのか大いに疑問です。
高橋氏がコンサルタント料の名目でAOKIから5100万円(月100万円)を取得したことに驚きますが、それとは別に2億3000万円も懐に入れたということです。
その仕組みは、AOKIが東京五輪のスポンサーになるには名義料?として5億円を支払う必要があるようなのですが、それとは別に仲介手数として半額の2億5000万円が電通の子会社に渡り、そこから高橋氏の会社に2億3000万円が支払われたとされています(AOKIは総額7億5000万円を負担)。あまりに現実離れした金の流れでとても実感は湧きませんが事実なのでしょう。春日氏によれば、高橋氏は他にも招致委から使途不明の820万ドル(約9億円)を受け取っているということです。
東京五輪・パラリンピックでは、パソナによる人件費の非常識な中抜き(90%以上とも)なども起きました。最近 竹中氏が会長を辞任したのはそのことと関係しているという噂があります。
古い話ですが1998年の長野五輪では、五輪招致に関する帳簿が焼かれてその明細は不明となっっています。ここまで闇が深くなったまま東京五輪関係の組織が解散になるのであれば、今後は五輪の招致などすべきではありません。
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特別寄稿 春日良一
逮捕された高橋治之元理事には9億円 あぶり出される東京五輪招致の闇
日刊ゲンダイ 2022/08/18
「オリンピックは商業主義化した」とは、国際オリンピック委員会(IOC)批判の常套句だが、1984年ロサンゼルス五輪が民間資本だけで成功裏に終了し、しかも約500億円の黒字を出した。以降、IOCはそれまで神聖不可侵としてきたオリンピックシンボル(五輪)を売りに出すオリンピックマーケティングを本格的に展開。いくら商業主義批判が鳴り響こうが、一向に商業主義をやめようとしない。
なぜか? オリンピックが生き残り、選手が活躍する場を持続するためには確固たる財政基盤が必要であり、五輪の商業主義化は必然だったからである。80年モスクワ五輪が政治的圧力で不完全な五輪になって以来、政治からの独立のためにも民間資本での自立が肝心であった。
問題は商業主義化が五輪の理念を追求するための資財となっているかどうかであり、世界平和構築への火をともし続けているかどうかである。批判すべきはその点だ。そして、もしその商業主義が五輪の理念のためではなく、誰かの私腹を肥やすための手段とされていたら、そのことこそ天誅の的である。
■5億円の半分が手数料
17日の東京地検特捜部の高橋治之氏逮捕は、東京五輪2020組織委理事を務めた中で、大会サポーターとなったAOKIホールディングスから、五輪スポンサー選定に関して、5100万円の賄賂を受け取っていた受託収賄の容疑によるものだ。判決は先だが、既に彼の一連の行為はオリンピズムによって裁かれている。彼が私腹のために五輪に関わっていたのは火を見るよりも明らかだからだ。
以前から親交のあった青木拡憲AOKIホールディングス前会長に「7億5000万円を支払えば、公式スポンサーになれる」と打診したと側聞し、ピンときた。東京五輪のスポンサーシップ構造の最下層「スポンサー」は5億円が基準値であるから、残りは自らの手数料になる計算である。5億円の半分を手数料と見積もるのはこの世界では常識的だ。実際には、2億5000万円が電通の子会社に行き、そこから高橋氏の会社に2億3000万円が渡ったとされるが、2億3000万円というと、どこかで聞いた覚えがある。
思い浮かぶのは、東京五輪2020招致不正疑惑。2016年、アフリカ出身のIOC委員の票を獲得する工作に、ラミン・ディアク元IOC委員(国際陸連前会長)が関与していたことを英国の新聞が報じ、ディアクを別件で捜査中のフランス司法当局の調べで、東京五輪2020招致の買収疑惑に及んだ。
結果、東京五輪招致委は、ディアクの子息が関与した「ブラック・タイディングス社」の口座にコンサルタント料として200万ドル相当額を送金したことを明らかにした。この200万ドル、当時のレートで約2億3000万円になる。
招致当時、招致委の理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長に同社を紹介したのが他ならぬ高橋治之氏であった。ブラック社の代表は電通の系列会社の関係者だったとされるから闇は深く、当時、高橋氏は招致委から820万ドル(約9億円)を受け取っていたことも明らかになっている。JOC会長就任時に後ろ盾となってくれた幼稚舎から慶応大学に至る大先輩に逆らえるはずがなかった。「アフリカの票のため」と言われればなおさらである。
長野五輪招致活動経費の3分の1
私が、招致に関わった1998年の長野五輪の時もそうだったが、浮動票といわれるアフリカ出身のIOC委員の票をいかに獲得するかが招致成功の決め手のひとつだった。当時は、五輪コンサルタントの定義もなかったが、「どこどこの票を取れる」と売り込んでくるやからが招致委にやってくる。彼らの目的は五輪の成功ではない。集票活動によって私腹を肥やすのである。投票はIOC委員による無記名。本当にその人の活動が奏功したかどうかは天のみぞ知るである。これほどおいしい話はない。
それらの売り込みを精査するのも私の仕事だった。「アフリカの票を取れる」オファーは希少だったが、それゆえにむしろ慎重になった。結果、私は有象無象のやからを選ぶより確実な方法を採った。アフリカに強い国の力を借りたのだ。一銭もかからなかった。
東京五輪2020の招致委はアフリカ票の工作に200万ドルを動かした他に、多数の団体や個人とコンサルタント契約をして、活動費を支払っている。それでも、高橋氏への820万ドルを超す金額はない。思えば私の関わった98年の長野五輪の招致活動経費は25億円ほどだった。高橋氏への3倍にもならない。皮肉にも長野招致の帳簿は焼かれてその明細は不明となったが、東京招致の明細は焼けていないはずだ。
今回の受託収賄は入り口に過ぎない。高橋治之氏の逮捕は、東京五輪招致の闇を暴くべき機会である。それを日本のスポーツ界をクリーンにする第一歩にすればいい。オリンピックの商業主義化は個人の利益のためであってはならない。
春日良一 元JOC職員・スポーツコンサルタント
長野県出身。上智大学哲学科卒。1978年に日本体育協会に入る。89年に新生JOCに移り、IOC渉外担当に。90年長野五輪招致委員会に出向、招致活動に関わる。95年にJOCを退職。スポーツコンサルティング会社を設立し、代表に。98年から五輪批評「スポーツ思考」(メルマガ)主筆。