2022年8月13日土曜日

「有事に対応する内閣」の宣言と恐怖 ~ (世に倦む日々)

 岸田首相は10日に内閣改造を行い、新内閣を「有事に対応する政策断行内閣」と銘打ちました。世に倦む日々氏は、自民党政権は1年の年限で改造をするが慣例で、大臣の任期は1年であるとして、今回キャッチコピーとして「有事に対応する」としたのは、この1年間で対中戦争への態勢整備の断行を目論んでいることが分かると述べています。「この1年間で中国との戦争に対応すると宣言たのだということです。

 実に異常で恐ろしい話なのですが、日本には既にそういうことを指摘するリベラルな論客がいなくなってしまったとして、いまではアメリカの戦略を全面肯定し、日米同盟の論理と視点に乗っかった忌まわしい主張しかない人たちだけがメディアに登場していると述べています。
 そしてそもそも「中国にはソフトパワーがなく、国際社会で協力を得る味方陣営もいので、軍事力で物理的に干渉を排除して一つの中国の主権を守るしかない。そうすると米中対立はどこかの時点で臨界に達し、自衛隊も参戦する第三次世界大戦になるだろう」と。
 世に倦む日々氏の記事「『有事に対応する内閣』の宣言と恐怖 ~ 」を紹介します。
 併せて櫻井ジャーナルの記事「米国が軍事支援する理由は自分たちのターゲットと戦わせるため」を紹介します。
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「有事に対応する内閣」の宣言と恐怖 - 忽然と消えた中島恵の中国情報
                         世に倦む日々 2022-08-12
ペロシ訪台を機に起きた中国の軍事演習と台湾周辺の緊張について、客観的な立場からの報道や解説がない。テレビに出て発言するのは宮家邦彦や小野寺五典のようなグロテスクな右翼ばかりだ。日本のマスコミで公論化した中国叩きの口上を垂れ、中国との戦争のための準備を整えよと扇動する結論で終わり。不信と憎悪を刺激的に畳み込む準戦時モードの言説が流される。今週は、原爆の日(8/6・8/9)と終戦の日(8/15)の中間の日程で、本来ならこの国が最も平和主義の思想に包まれ、国民が反戦への誓いを新たにする時間帯だった。

一年中で最も暑いこの時期に、一年中でたった一度だけ、保守を含めた市民全体が憲法9条の理念に接近する。日本国の基本と原点について思い知る。ジブリ映画『火垂るの墓』が茶の間に流される。だが、今年は全くそうなっていない。10日に改造内閣を立ち上げた岸田文雄は、あろうことか新内閣を「有事に対応する政策断行内閣」と銘打った。有事とは、「戦争や事変など、非常の事態が起こること」の意味である。岸田文雄の「有事」が「台湾有事」を示唆しているのは明白で、

この内閣は中国との武力衝突の事態に備えた内閣だと、組閣発表時に首相が自ら内外に宣告した。前日に長崎平和祈念式典で、「恒久平和の実現に向けて力を尽くすことを改めてお誓い申し上げます」と述べたその口と舌で、新内閣は有事対応内閣だと言い放った。この欺瞞と厚顔に対して、マスコミは何も掣肘するところなく見逃している。「有事内閣」の不吉な語を捉えて批判しようとしない。マスコミもまた岸田文雄と同列にあり、中国との戦争を必然視し、それへの構えを国家の必須の課題とする立場だから、そこに何も違和感はないのだ。

通常、自民党政権は1年の年限で改造をする。それが慣例の行事で、秋国会前の9月にオーガニゼーション・チェンジ⇒組織変更・内閣改造を行う。大臣の任期は1年で、派閥がポストを議員に年功順送りで与えて行く。待機組が初入閣する。この第2次岸田改造内閣も、期限は1年である。政権が安泰であれば、来年9月に改造して新たな内閣に移る。ということは、今回のキャッチコピーの「有事に対応する」は、今後1年のこの内閣の任務と目的を言い上げたものだ。すなわち、この1年間で対中戦争への態勢整備の断行が目論まれている意図が分かる。

不思議で不満なのは、ペロシ訪台と中国軍事演習の緊張について、右翼以外の論者から発言がないことだ。例えば、田岡俊次や前田哲男などのリベラル系の軍事評論家である。80歳と83歳。二人とも高齢で体力がないのだろうか。私も高齢者に仲間入りする年齢となり、長い記事を瞬発的に書き上げる体力がなくなった。80歳と83歳の人に無理をお願いするのは酷のようにも思われる。が、二人より若い世代を探しても、適当な候補が思い浮かばない。統一教会問題で彗星の如く登場した鈴木エイトのような人材が、対中関係や台湾有事の論評で出現してくれないだろうか。

中国との外交安保に関わる問題で、右翼に対立して反論する者の姿が消えて果てた。東アジアの情勢についての議論は完全に一色に染まっていて、アメリカの戦略を全面肯定し、日米同盟の論理と視点に乗っかった忌まわしい主張しかない。中国は悪魔の敵国であり、討滅すべき国際社会の逆賊であり、一刻も早く戦争態勢を整えねばならず、邪魔な憲法9条を変えなくてはならない、と言う。それが現在の国論だ。最早、異論はなく、論争は絶えた。憲法9条や日中共同声明の原則と正論を言う者がいない。大平正芳の「一衣帯水」の旗を立て、地に踏ん張って抵抗する者がいない。

お気づきの者はいるだろうか。最近、中島恵の中国関連のレポートが Yahoo トップのニュース一覧から消えている。昨年までは月に一回ほどの頻度で案内され、屡々注目されて5chなどで話題になっていた。最近の掲載で印象に残っているのは、2年前に上がった「中国の日本風夏祭りのブーム」の記事で、その取材内容に驚かされたものだ。中国で日本の夏祭りのコピーがイベントとして流行っていて、屋台の露店が出て、女の子が浴衣姿で歩いている。日本人がクリスマスやハローウィンなど欧米の季節の催事を生活文化に根づかせたように、中国が日本の文化を精力的に摂取・導入している。

現代中国の文化風俗のトレンドを紹介し、特に中国人の日本文化への傾倒の強さに焦点を当てた中島恵の記事は、最悪の状態となった日中関係の中で一服の清涼剤の感を放っていた。日中の政治的緊張を大衆レベルでやわらげる、例外的な情報発信であり、貴重で有意味な友好効果をもたらしていたと言える。マスコミが振り撒く中国憎悪の感情を薄め、日本人が中国に好感を持つ契機となり得る材料だった。Yahoo がそれを陳列していた差配も、ある種のバランス配慮の政治だったと考えられる。中島恵の記事が消えたことは、戦前、アメリカ映画が配給停止になり、野球の「ストライク」が「よし」になった不毛な歴史を想起させる。

気になって調べると、中島恵の最新記事があり、「中国の夏祭りが『反日感情」で続々中止に」なっている事情が書かれていた。残念なことだが、国家の関係は相互的なものであり、日本でハリウッド映画を禁止して鬼畜米英を唱えていた頃は、アメリカでも日本人を強制収容してジャップ叩きのプロパガンダを煽っていた。もともと、中国の若者の日本文化への殺到と熱中は、中国政府が政策として促進した流れの延長と結果であり、それは中国の消費水準を引き上げ、中国製品の品質と付加価値を上げるために行われた経済戦略の副産物に他ならない。マンガやアニメを自前で制作する技量を養うために推進されたものだ。

無論、合わせて、文化と消費の面での親日化現象を演出して、日本人の中国への認識が少しでも好転し、20年間積み重なった中国への憎悪と敵意が改善される変化への期待もあっただろう。だが、中国の今年直近の動向を覗うと、従来とは逆の流れが起きていて、暗澹とした気分にさせられる。プノンペンで予定されていた日中外相会談を中国側が拒絶し、日本がG7共同声明で中国の軍事演習を非難したことに猛反発した態度も、この「夏祭り中止」の逆流事情と無縁ではあるまい。中国側に内在して言えば、我慢の限界を超えたという意味であり、中国における日本の位置づけと序列が下に変わり、日本への愛想とサービスはやめたという判断に違いない。

台湾有事の問題については、昨年4月に何本か記事を書いている。今読み返しても古くなく、正しく有意味な分析と考察を提供していると確信する。以前から論じているように、台湾有事とは、アメリカの側から仕掛けた軍事外交戦略であり、中国の体制(CPC⇒中国共産党)を転覆し、国家(PRC⇒中華人民共和国)を瓦解させる目的と方針の下で策定された、現在実行中の新冷戦プログラムだ。19年10月のペンス・ドクトリンの演説から始動し、バイデン政権に変わっても継承され、精緻で巧妙な工程表に落とし込まれて遂行されている。対中国の本格的な戦争(WW3)が構想されていて、そこへ至る主軸プロセスとして台湾工作が設計されている。

昨年3月に前インド太平洋軍司令官のデービッドソンの口を通じて、「6年以内に台湾有事」というスケジュールを公表した。クアッドとオーカスを組織し、IPEFを結成し、中国を挑発しながら、ブリンケンらしく有能に着実に歩を固めている。アメリカは繰り返し「一つの中国」の基本は守ると弁明しているが、これは口先だけのウソであり、佞悪で狡猾な詭弁にすぎない。現実の行動は「二つの中国」を既成事実化する露骨な一挙一動であって、台湾独立へ向けての環境作りに余念がない。アメリカと西側の高官を次々訪台させ、事務所を台北に設置し、事実上の外交関係を深め公然化させている。軍事顧問団まで送り込んでいる

アメリカの対中国戦略の動機は、21世紀も覇権国の地位を守ることである。このまま中国の経済的軍事的発展を座視すれば、中国にルールメーカーの首座を奪われてしまうため、先手を打って実力で阻止することである。この本音はアリソンの著書の中で詳しく書かれているし、一般論として公知の事実だろう。けれども、日本のマスコミはこの重要で本質的な背景を語らず、また、台湾有事が一貫してアメリカ側から仕掛けられた策動の上に積み上がった情勢である真実も言わない。そもそも、台湾は中国の一部であり、主権は中華人民共和国に属し、それが「一つの中国」の意味であり、アメリカもそれを認めてきた。

1979年にアメリカは台湾と断交し、台北のアメリカ大使館を閉鎖している。ペンス・ドクトリン以降のアメリカの台湾への干渉は、それがどれほど台湾市民に歓迎される行動であっても、中国との約束を破る国際法違反である。アメリカの一連の台湾工作こそ、力による現状変更の営みの典型である。中国の側は、アメリカの動きを警戒し牽制し、中止するよう強く要求してきたが、アメリカに方針撤回の意思がないことを悟り、遂に軍事的に対抗する姿勢に変わった。今年から明確にそうなった。今、米中の間には外交チャンネルは存在しないという説明になっていて、いつでも中台衝突が起こり、米中紛争に発展する危険性がある。

その意味で、台湾有事は、最早、アメリカが一方的に工作や作戦を仕掛けている構図ではなくなり、双方が対峙し手を出し合う一触即発の段階に入った。中国の方も戦争覚悟で対決する計画を立てる進行となった。黙って見ていれば押されるばかりで、アメリカの主導権で着々と既成事実を積み上げられる。アメリカの老獪な外交の手で翻弄され、気がつけば西側諸国すべてが「二つの中国」を容認する状況が出来上がってしまう。台湾を国連加盟させようという事態にまで一瞬で持って行かれる。ウクライナ戦争はアメリカの台湾工作に絶好の条件を与えており、中国側の危機感と焦燥は甚だしい。

中国にはソフトパワーがなく、国際社会で協力を得る味方陣営もなく、結局、軍事力で物理的に干渉を排除して「一つの中国」の主権を守るしかない。宮本雄二が指摘したように、武力に訴えて問題解決する方法と選択しかない。他に能力と基盤がない。ペロシ訪台で現出したアメリカと中国のチキンレースは、今後、さらに引火爆発の危険度を増しつつ延長戦が繰り返され、どこかの時点で臨界に達し、自衛隊も参戦する第三次世界大戦になるだろう。それを止める可能性は、偶然しかなく、アメリカで衝撃的な波乱と決壊が起きるか、中国の政治が劇的に変わるかしかない。親鸞の他力本願で平和を祈るしかないのが現実だ。


米国が軍事支援する理由は自分たちのターゲットと戦わせるため 
                         櫻井ジャーナル 2022.08.13
 アメリカ/NATOはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権に対し、軍事支援を続けている。言うまでもなくロシアと戦わせるためだ。その戦闘が始まる切っ掛けは2013年11月から14年2月にかけてバラク・オバマ政権がキエフで実行したクーデター。その実行部隊はNATOの軍事訓練を受けたネオ・ナチだった。
 ロシア軍がウクライナに対する攻撃を始めた今年2月24日以降、ウクライナの中央銀行は124億ドル相当の金を売却したというが、その金塊の一部は兵器に化けているだろう。アメリカが基軸通貨ドルを発行する特権を持ち、そのドルを回収する仕組みを作り上げているため、帳簿上は問題なく兵器を供給できる。ドル体制の崩壊はアメリカの支配層にとって深刻な問題だ。ドル体制を揺るがしているという点でもロシアと中国は打倒すべきアメリカの敵ということになる。
 ジョー・バイデン米大統領は今年5月、ウクライナに対する400億ドル相当の支援を行う法案に署名している。軍事的な支援に限ると、8月8日に​10億ドル相当の支援​を発表、2014年からの支援を合計すると118億ドルになるが、9日には国務省が8900億ドル相当の追加支援を今年度中に行うと表明している。
 供給された兵器を見ると、アメリカはHIMARS(高機動ロケット砲システム)、イギリスはM270-MLRS(M270多連装ロケットシステム)という高性能兵器をウクライナへ供給していることは知られているが、アメリカ製の空対地ミサイルAGM-88 HARMを秘密裏に供給していたことも発覚している。AGM-88は防空システムを破壊することを目的として開発された兵器だ。
 アメリカやイギリスをはじめとするNATO諸国がウクライナへ兵器を供給、将兵を訓練、特殊部隊や情報機関員を送り込んでいるのはロシア軍とウクライナ人を戦わせるためにほかならない。明治維新後、アングロ・サクソンが日本に対して行ったことと基本的に同じである。手先になる戦闘集団の育成だ。明治体制になって政府が国民に反アジア教育を徹底させたのも侵略のためにほかならない。その洗脳は世代を超えて伝わり、今でも影響を及ぼしている。
 反アジア教育で国民の多くが洗脳されている日本をアメリカやイギリスは中国との戦争に使おうとしている。明治維新の後、日本は米英両国に煽られ、アジア侵略を始めた。手始めに琉球を併合、次いで台湾に派兵し、江華島事件、日清戦争、日露戦争へと進んだ。東アジアでは当時と似た状況が作られつつある。
 日本で戦争の準備が本格化したのはウォルフォウィッツ・ドクトリンが作成された3年後の1995年。その時に何があったのかは本ブログで繰り返し書いてきた。そして日本はアメリカの戦争マシーンに組み込まれたのである。
 ウクライナ、EU、日本、台湾などに自分たちのターゲットと戦わせる一方、米英の支配層、つまり巨大資本は安楽椅子に座って殺し合いを眺めるつもりだろう。世界的に見るとそうした仕組みから脱出しようとする国が増えているのだが、日本はどっぷり浸かっている。それは破滅への道を歩んでいるということでもある。

ウォルフォウィッツ・ドクトリン  1992年2月にポール・ウォルフォウィッツが作成した世界制覇プラン