2022年8月5日金曜日

「検証 アベノミクス(1)(2)」 浜 矩子教授(しんぶん赤旗)

 しんぶん赤旗が、「検証 アベノミクス」という連載記事(全4回)を掲載しています。

 同志社大学教授の浜 矩子氏による検証です。
 安倍元首相はアベノミクス開始3年目に入る15年4月に米国で講演し、「私の外交安全保障政策はアペノミクスと表裏一体であと述べました。浜氏は、それは第2次世界大戦で世界が「経済政策を軍事戦略と結びつけるのは許されない」という原則を学び、GATT(関税貿易一般協定)体制に結実させた世界の智慧に反するものだと断罪しています。
 そして経済政策には2つの固有の使命があり、その第1は経済活動の均衡を維持し また崩れた均衡を回復することであり、第2は弱者を救済することであるとして、これらは人間の生存権に関わる絶対的な使命であると断言しています。
 何よりアベノミクスの最大の欠点 弱者を救済するという思想が全然ないことで、それでは底辺は冷えたまま放置され経済が暖まる余地がないとして、逆に弱者を救済して格差を埋めるという政策をとっていれぱ結果は全然違っていたと述べています。
 目から鱗が落ちる 胸のすくような話で。「単に聞き流すだけ」と言われるようになった岸田首相にはこの話は届かないのでしょうか。
 「検証 アベノミクス」の1回目と2回目を紹介します。
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検証 アベノミクス(1)
21世紀版大日本帝国を企て 経済と軍事一体化 
                  同志社大学教授 浜 矩子さん
                        しんぶん赤旗 2022年8月3日
 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は岸田文雄政権と黒田東彦日銀に引き継がれ、日本の経済社会を危険なにひきずりこんでいます。2012年末に第2次安倍政権が発足した直後からアベノミクスを批判し続けてきた同志社大学の浜矩子教授に聞きました。
                                 (杉本恒娼)
      はま・のりこ 
         1952年、東京都生まれ。一橋大学経済伊部卒。三菱綸命研究所初代
        英国駐在員事務所所長、同社政策・経済研究センター主席研究鏑などを
        経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授ら『グローバル恐慌j『人は
        なぜ税金を払うのか』『愛の讃歌としての経済』など著書多数。

 -アベノミクスの最大の問題点はどこにありますか。
 安倍氏は15年4月にアメリカを訪れ、笹川平和財団アメリカで講演しました。その講演の中で彼は述べました。「私の外交安全保障政策はアペノミクスと表裏一体であります」と。政治的狙いを達成するための手段として経済政策を使うという宣言です。ここに安倍式経済運営の最大の問題があります。
 安倍氏の政治的狙いは「戦後レジーム(体制)からの脱却」であり、戦前の世界に戻ることでした。21世紀版大日本帝国の構築を企てたのです。安倍式経済運営で富国を実現し、改憲で強兵を進める。今日的な富国強兵路線です。

世界大戦の教訓
 経済政策と外交安全保障政策が表裏一体だというのは、たいへんな不規則発言だといわなければなりません。経済政策を軍事戦略と結びつけるのは許されないことなのです。理由は二つあります。
 一つは、経済政策や対外的な経済関係に戦略性を持ち込んだために、世界がブロック経済化に向かい、第2次世界大戦に突入してしまたことです。
 領土拡張のために経済同盟をつくる。天然資源を確保するために特定の国・地域と経済協定を結ぶ。自国産品の市場を囲いこむ目的で排他的な経済連携関係を形成する。こうしたやり方の応酬をしているうちに、世界はブロック経済主義に陥り、本当の戦争になってまいました。
 だから、もう二度と同じ過ちを繰り返さないという共通認識に立って、戦後のGATT(関税貿易一般協定)体制がつくられたのです。経済の世界に戦略性を持ち込まないという思いで世界各国は一致しました。そうした戦後の出発点に真っ向から反することを、安倍氏はいっていたわけです。
 もう一つの理由は、経済政策には固有の使命があることです。
 経済政策の第一の使命は経済活動の均衡を維持し崩れた均衡を回復することです。第二の使命は弱者を救済することです。これらは人間の生存権に関わる絶対的なな使命です。経済政策にそれ以外の目的を持ち込んではいけません。いわんや政治的・戦略的目的のために経済政策を使うのは絶対に許されないことです。
 こうした二つの角度から考えて安倍式経済運営は容認しがたい政経一致路線です。

ウクライナ便乗
 -安倍氏の「功績」を引き継ぐと表明している岸田政権以、軍事貴倍増と改憲の路線を突き進んでいます。
 ウクライナ情勢に便乗してかねてから狙っていた軍拡と改憲を実現するという発想で突っ走っています。現行憲法を持つ日本にふさわしい軍事問題への関わり方はどういうものかと
いうことを全然踏まえず、財源をどうするかも示しません。
 まともな政治家のやることではありません。国民の生活と生命を守り、国民に尽くすために存在するのが政府であり、政治家たちだという構図を全く理解していません。白民党という政党がいかにまともな政治家一の集団ではないかということを示しています。

弱者の命の危険
 ー経済政策の第一の使命が経済活動の均衡の保持と回復だというのはなぜでしょうか。
 経済活動のバランスが崩れたときに、いの一番に傷つくのは弱者たちだからです。経済政策の第二の使命は弱者救済ですので、その使命に忠実であろうとすれば、経済活動の均衡を保持しておかなければいけません。
 日本経済の均衡がデフレ(持続的な物価下落)の方向に崩れたことで、多くの弱者が痛みました。物価が下がれば、企業はそれ以上のペースで賃金を下げようとします。デフレは経済活動が縮むということですから、職を失う人たちも増えます。もともと危うい立場にいた人たちの生活が破壊され、究極的には生命の危機に直面してしまいます。
 インフレ方向に崩れても同じです。いま、われわれはそれを目のあたりにしています。生活物資の値段がどんどん上がり、食べる物を節約しなければいけないという悲鳴があがっています。増えたコストを価格に転嫁できない中小零細企業では賃金に一段と下方圧力がかかりかねません。やはり弱者が傷ついています。
 だから弱者を生命の危機から守り、人びとの生存権を守るためには、バランスのとれた経済状態を維持しなくてはいけないのです。
 「表裏一体」というなら、経済の均衡保持と弱者済はまさに表裏一体で。これが経済政策におけ一体という言葉の正い使い方です。(つづく)(4回連載)


検証 アベノミクス(2)
弱者救済の思想ない 「リフレ政策」
                  同志社大学教授 浜 矩子さん
                        しんぶん赤旗 2022年8月4日
 ーアベノミクスは「デフレ脱却」をめさす「リフレ政策」だといわれました。それに対して浜さんは2013年5月に「これは『リフレ政策』ではない」(『「アベノミクス」の真相』)と指摘しています。資産インフレと実物デフレが同居することになるだけだ、という警告でした。その後、日本経済はこの予言通りの状況になりました。
 リフレーションとは「もう一度膨らます」という意味です。しぽんだ経済風船をもう一度ほどよいところまで膨らますという考え方は、それ自体が憲いわけではありません。
 しかむ安倍晋三政権と黒田東彦日銀がやり始めたことは、しぽんだ実物経済の風船に空気を送り込むリフレ行為ではありませんでした。リフレ政策を展開するという建前は、隠れみのだったのです。
 安倍氏の狙いは当初から、財政ファイナンス(中央銀行が政府に資金を供給すること)のために日銀にがんがん国債を買わせることでした。日銀を政府の打ち出の小づちにすることを正当化するために「リフレ派」といわれる論者を集めて体裁を整えただけでした。

バプル製造装置
 安倍氏のもう一つの狙いは、日銀をバプル製造装置にすることでした。21世紀版 大日本帝国づくりに協力してくれる大企業の株が上がれば仕事がしやすくなる、という発想だったのでしょう。まともなリフレ政策の考え方ではありません。
 日銀が国債を買いまくっても、資金はあまり市場に流れず、金融機関の日銀当座預金に積みあがりました。その余り金は生産的な投資に向かわず、個人消費の盛り上がりにもつながりませんでした。賃金が上がらないのに人々はカネを使いません。企業も内部留保を積み上げており、資金需要がありません
 結局、あふれ出たカネは株式市場に向かって資産インフレを高進させました。実物経済のシワシワ風船はしぽんだまま、もう一つ別のバプル風船がパンパンに膨らんだだけだったのです。
 -黒田日銀は「異次元の金融緩和」と称して株式投資信託や不動産投資信託まで大量に寅いました。
 もはや金融政策ではありません。日銀を除いて世界の中央銀行は株を買いません。中央銀行は節度のないことをやらない、という暗黙裏の大鉄則があるからです。
 金融政策の最大の使命は通貨価値の安定を図ることです。そういう使命を担う中央銀行にとって、価値の安定しないリスク資産への投資は明らかにふさわしくありません。ですから黒田日銀は本来の使命を果たそうという意志を最初から全く持っていなかったとしか考えられません。

下は冷たいまま
 -アベノミクスで実物経済が膨らまないのはなぜですか。
 安倍氏は、日銀の財政ファイナンスによってやりたいことに湯水のごとくカネを使える状態にし、「いけいけ、どんどん」的な日本経済をつくりだそうと考えたのでしょう。その中で大きな一角を形成しているのが軍備増強です。ほかにも「地方創生」や「観光立国」などを掲げました。
 教科書通りなら金融緩和と拡張財政に経済は反応するのですが、安倍式経済運営の枠組みではそうなりません。弱者を救済するという思想が政策の中に全然ないからです。日本経済の大きな問題は豊ふさの中の貧困です。たいへん豊かな国であるにもかかわらず、6人に一人が貧困者という状態です。
 弱者を救済して格差を埋めるという政策をとっていれぱ、結果は全然違っていたことでしょう。そこに目を向けず、ビッグプロジェクトにカネを使い、大企業に大盤振る舞いをしても、冷たいところにいる人たちには何の恩恵も及びません。
 上の方がオーバーヒートして資産インフレになっても、トリクルダウン(富が滴り落ちる効果)が働くわけもなく、下の方は冷たいままなのです。これでは実物経済が力強く回るはずがありません。 (つづく)