2022年8月4日木曜日

声明 憲法を守ろう/国葬の撤回を求める/カルトに寄生する政治家の即時退場を求める

 日本国憲法を守り発展させようと呼びかける「九条の会」の事務局は7月29日、参院選の結果を受けて、憲法を守り生かす草の根の運動を呼びかける声明を発表しました。
 東京弁護士会は2日、「安倍晋三元内閣総理大臣の『国葬』に反対し、撤回を求める会長声明」を出しました。
 世界平和アピール七人委員会は3日、「搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める」声明を出しました。
 
 3つの声明を紹介します。
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市民と共に憲法守ろう 参院選受け 九条の会事務局が声明
                        しんぶん赤旗 2022年8月3日
 日本国憲法を守り発展させようと呼びかける「九条の会」の事務局は7月29日、参院選の結果を受けて、憲法を守り生かす草の根の運動を呼びかける声明を発表しました。
 声明は、参院選で自民、公明、維新、国民の「改憲4党」が議席の3分の2以上を占め、改憲が加速的に進められようとしているとして、「この秋の臨時国会から来年の通常国会にかけて、改憲原案の作成、憲法審査会への提出、議論が進められようとしている」と警告しています。
 一方で、「改憲4党」は改憲項目の中身や目指す方向性で一致しているわけではなく、世論調査でも改憲賛成派と反対派は拮抗(きっこう)しており、「私たちの頑張り次第で国会内での改憲勢力の企てを止めることは可能」だと強調しています。
 声明は、岸田文雄首相がロシアによるウクライナ侵略と中国の脅威を口実に改憲の動きを強めているとして「敵対的な軍事同盟の強化ではなく、対話と協力の包摂的な平和の枠組みの構築の努力」が求められていると主張しています。
 最後に、「憲法9条とそれに基づく日本の社会が最大の危機を迎えている」と訴え、「草の根から市民の共同で憲法を守り、生かす取り組みをすすめることを呼びかけます」と表明しています。

九条の会事務局声明
 「九条の会」事務局が7月29日に発表した声明第26回参院選の結果について」は以下のとおりです。

 7月10日に行われた参議院選挙は、自民党、日本維新の会が議席を増やし、公明党、国民民主党を合わせた改憲4党の議席が3分の2以上を占めました。一方、市民連合の働きかけに応じた野党共闘は、過去二回の参議院選挙とは異なり限定的なものにとどまり、立憲民主党、共産党はともに議席を減らしました。改憲に向けた動きの加速が懸念されます。

 自民党は、選挙公約で、改憲4項目を提示し、「憲法審査会で改正原案の国会提案、発議を行い、国民投票を実施する」としています。維新の会は、「9条に自衛隊を明記」、「緊急事態条項を創設」との公約を掲げ、自民党に「憲法改正のスケジュールを示せ」と迫りました。国民民主党は「緊急事態条項の創設」を主張し、9条については「議論を進める」と述べ、公明党は「憲法9条1項、2項は今後とも堅持する」としつつ、憲法72条など別の憲法条項に自衛隊の存在を明記する「検討を進める」と、明文改憲に向け踏み込みました。

 岸田文雄首相は、選挙結果を受けて11日、選挙戦終盤の演説中に銃撃され死去した安倍晋三元首相の改憲への「思いを受け継ぐ」として、「具体的な内容について3分の2の賛成を結集し、できる限り早く発議に至るとりくみを進める」と述べました。さらに安倍元首相の国葬を強引に閣議決定し、これを最大限に利用しながら、この秋の臨時国会から来年の通常国会にかけて、改憲原案の作成、憲法審査会への提出、議論が進められようとしています。また、「敵基地攻撃」能力の保有と大軍拡、辺野古新基地建設をはじめとする南西諸島での軍備強化のごり押しなどを、強力におしすすめようとしています。

 しかし、4党の間にはめざす改憲条項や改憲への姿勢に隔たりがあり、改憲が一直線に進む状況ではありません。選挙終盤7月4、5日の朝日新聞の世論調査では、改憲賛成36%、反対38%と大きく分かれていました。多くの有権者は改憲を望んでおらず、今回の選挙で改憲の動きが支持されたわけではありません。私たちの頑張り次第で国会内での改憲勢力の企てを止めることは可能であり、これまでもそうしてきました。

 岸田政権は改憲の動きをロシアによるウクライナ侵略と中国の脅威などを口実に推し進めています。しかし、ロシアの蛮行を止めさせるために求められているのは、「戦争反対」「国連憲章守れ」との圧倒的な国際世論の結集であり、「核兵器使うな、なくせ」の世論の拡大であり、敵対的な軍事同盟の強化ではなく、対話と協力の包摂的な平和の枠組みの構築の努力です。東アジアの平和にとってもこの方向の探求が求められています。

 私たちは、憲法施行後75年にわたって憲法を守り抜き、これまでも改憲派が衆参両院で3分の2を占めるもとでも改憲発議を許してきませんでした。九条の会は、憲法9条とそれに基づく日本の社会が最大の危機を迎えている今、対話や署名・宣伝など創意工夫をこらして行動を起こし、草の根から市民の共同で憲法を守り、生かす取り組みをすすめることを呼びかけます。


安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に反対し、撤回を求める会長声明
                             2022年08月02日
                        東京弁護士会 会長 伊井 和彦
1 2022年7月8日、安倍晋三元内閣総理大臣(以下「安倍元首相」という)が、参議院選挙の街頭応援演説の最中に銃撃され死亡した。当会は、このような選挙の応援演説中の政治家に対する銃器等を用いた襲撃は、加害者の動機等に関わらずその行為自体が民主主義に対する重大な脅威であると判断し、これを糾弾し抗議する会長声明を本年7月11日に発した。
しかしながら、岸田内閣が、本年9月27日に安倍元首相の「国葬」を行うと決定したことについては、民主主義の観点からも、また国民の思想・信条の自由の観点からも、重大な懸念があり、これに反対するものである。
1人の政治家の死を葬儀の場で悼むことは、主義主張に関わりなく行われて然るべきであるが、安倍元首相の葬儀は既に親族において執り行われている。それにもかかわらず、政府が敢えてそれとは別に、閣議決定により「国葬」という儀式を執り行う意味が、問われるべきである。

2 そもそも「国葬」は、明治憲法下においては天皇の勅令である「国葬令」に基づき行われていたが、「国葬令」は憲法に不適合なものとして「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」第1条に基づき1947年の終了をもって失効しており、「国葬」を行うことについても、その経費を全額国費から支出することについても、現在は法的根拠がない。
1967年に吉田茂元首相の「国葬」が実施された際には、翌年の国会答弁で当時の大蔵大臣が「法的根拠はない」と答弁しており、1975年に佐藤榮作元首相が死亡した際に「国葬」の実施が検討されたときも、「法的根拠が明確でない」とする当時の内閣法制局の見解等によって見送られた経緯がある。
政府は、今回「国葬」を行う法的根拠について、内閣府設置法(1999年制定)第4条3項33号で内閣府の所掌事務とされている「国の儀式」として閣議決定をすれば実施可能との見解を示しているが、そもそも内閣府設置法は内閣府の行う所掌事務を定めたものにすぎず、その「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法的根拠もない。
したがって、政府が経費を国費から支出して「国葬」という形の儀式を行うことは、法的根拠がない以上、認められない。

3 また、政府は、安倍元首相を「国葬」とする理由について、「歴代最長の期間、総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残した」などとしているが、政府が特定の政治家についてその業績を一方的に高く評価し、その評価を讃える儀式として「国葬」を国費によって行うことは、その政治家に対する政府の評価を国是として広く一般国民にも同調を求めるに等しい。その政治家への評価は、主権者たる国民の一人ひとりが自らの意思で判断すべきことである。
政府は、今回の安倍元首相の「国葬」においては、国民に対し弔意の表明や黙祷等は求めないとしているようであるが、戦後唯一の「国葬」となった1967年の吉田茂元首相の「国葬」の際には、「歌舞音曲を伴う行事は差し控える」「会社、その他一般でも......哀悼の意を表するよう期待する」との閣議決定がなされ、テレビ・ラジオでは娯楽番組の放送が中止され、全国各地でサイレンが鳴らされ、学校や職場で黙祷が事実上強要された事案も発生した。
今回も「国葬」が近くなれば、安倍元首相の「国葬」に対する忖度から、公的機関のみならず民間機関に対しても同様の有形無形の同調圧力がかかることは容易に予想され、弔意の表明の事実上の強制が行われかねない。現に、兵庫県や北海道の一部自治体の教育委員会が学校現場に「国葬」の際の半旗の掲揚を求めたという報道もあり、忖度と同調を求める動きは今後も拡がることが予想される。
このように「国葬」の実施は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制する契機をはらむものであり、国民の思想・良心の自由(憲法第19条)との関係で好ましくない状況がもたらされかねない。

4 当会は、安倍元首相の在任中に行われた教育基本法改正、イラク特措法の延長、教育三法改正(以上第一次安倍内閣)、特定秘密保護法制定、労働者派遣法改正、集団的自衛権行使を容認する閣議決定、安全保障関連法の制定、共謀罪の制定、検察庁法の改正(以上第二次安倍内閣)等について、立憲主義及び憲法の基本理念に反するという立場から反対する旨の会長声明等を繰り返し発出してきた。特に集団的自衛権の容認と安全保障関連法の制定については、当会を含む全ての弁護士会が一致して明白に違憲として反対し、現在もその廃止を求めている。それにもかかわらず、これらの安倍内閣の各政策を国に対する功績と評価して安倍元首相の「国葬」を行うことは、立憲主義及び憲法の基本理念を揺るがすものであり是認できない。
また、安倍元首相が在任中及び退任後も声高に主張し、今後の国会における争点となり得る「憲法9条への自衛隊の明記」「緊急事態条項の設置」等の改憲や敵基地攻撃能力保持等の議論においても、「国葬」によって安倍元首相の意見を国是のように扱うことが起りかねない危惧もある。

5 当会は、安倍元首相の「国葬」にはこのような憲法理念上の問題点が多々あることから、これに反対し、政府に撤回を求めるものである。


搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める
                               2022年8月3日
             世界平和アピール七人委員会
             大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進
去る7月8日、奈良市内で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相が旧統一教会に恨みをもつ暴漢に銃撃されて死亡した事件は、治安の良さを内外に誇ってきた日本国民に大きな衝撃を与えた。
しかしながら凶行以上に国民を困惑させたのは、80年代、90年代に悪名高い霊感商法で社会問題化した搾取・収奪常習の宗教集団、統一教会が、名称を変えて21世紀の日本で営々と生き延びていたこと、そして親の入信で苦難の人生を強いられた子どもたちの実態が事件によって浮かび上がったことである。
逮捕された容疑者は子ども時代に母親の入信で実家が破産して以降、社会の底辺で逼塞しながら旧統一教会への恨みを募らせ続けたとされている。搾取・収奪常習の教団の信者とその家族は、その特異な価値観のせいで一般社会に受け入れられることはない。そのため二世・三世は精神的・経済的に追い詰められていることが多い。
私たち世界平和アピール七人委員会はまず、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による欺瞞的な勧誘や高額の献金がかくも深刻な社会問題であったにもかかわらず、今日まで等閑にしてきたことに、日本国民として深く恥じ入る。そしてさらに、安倍元首相の祖父である岸信介元首相にまで遡る政治家と旧統一教会の深すぎる関係にあらためて思いをはせ、安倍元首相の国葬を含めて強烈な違和感を新たにするものである。
少なからぬ国民を脅し、騙し、強制し、多額の財産を奪い、家族を崩壊させてきた宗教団体の存在は間違いなく社会の治安をゆるがす問題であり、これを信教の自由で語ることはできない。そのような宗教団体である旧統一教会に、いま現在、元首相や現職閣僚を含む約100人超の政治家が関わりをもち、選挙で多大な便宜を図ってもらっており、何が問題だと居直る者もいる。批判の的になっていた「統一協会」名を隠すことになった名称変更が長年認められなかったのに、文化庁によって認められた2015年当時の文部科学大臣は、深い関係がこのたび明らかになった一人だった。選挙で勝つためには国民の苦難を顧みない政治、国民への加害をいとわぬ宗教団体に寄生する政治と言っても過言ではない。
当然ながら、弱い立場に追い込まれる国民の幸せも、公共的な意思決定を目指す民主主義も彼らの目には入っていない。安倍元首相が晩節を汚した森友問題や桜を見る会の公私混同も、またあるいは困窮者の再起を阻む日本社会の冷たさも、公共の正義を等閑視する政治がもたらした帰結である。
人間のあるべき道義として、旧統一教会に寄生する政治家の即退場を求める。