2022年8月9日火曜日

有田芳生氏「統一教会は毎月1億円の『対策費』で『政治の力』に頼った」

 統一教会問題に最も詳しいジャーナリストの有田芳生氏が日刊ゲンダイの「注目の人 直撃インタビュー」に登場しました。

 統一教会は、かつて解散命令が出されたオウム真理教と同様に犯罪に塗れた教団でありながら何故司直の手が入らずに現在まで放置されて来たのか、いま最も熱いインタビューと言えます。
 後半では、安倍政権が最大の課題としながら一歩も進められなかったばかりか、後退させた拉致問題についても語られていて、安倍政権は政権基盤の強化に拉致問題を利用しただけで、政権にとって不利な情報を隠蔽したことで結局頓挫させたのでした。
 小泉政権時代に官房副長官として登場した安倍氏は、以後その恐るべき利己主義によって拉致被害者もその家族も蹂躙したのでした。
 有田氏は「政権は代わった。日朝平壌宣言、ストックホルム合意に立ち返り、外務省主導のオーソドックスな外交で再始動する必要がある」と述べています
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注目の人 直撃インタビュー
有田芳生氏「統一教会は毎月1億円の『対策費』で『政治の力』に頼った」
                         日刊ゲンダイ 2022/08/08
 有田芳生(ジャーナリスト/前参議院議員)
 統一教会(現・世界平和統一家庭連合)をめぐり、一体どんな「政治の力」が働いたのか──。教団の実態を暴き、社会問題化の端緒を開いたジャーナリストの発言に各方面で衝撃が走っている。統一教会との距離を見誤り、凶弾に倒れた安倍元首相の負の遺産は「内閣の最重要課題」だったはずの北朝鮮拉致問題もまたしかりだ。統一教会、そして拉致問題。この間、何が起きていたのか。渦中の人に改めて聞いた。
                ◇  ◇  ◇
 ──教団をめぐる約30年前の刑事摘発の動きについて、「政治の力」が阻止したという趣旨の発言をされました。1980~90年代の社会問題化、オウム真理教に対する95年の宗教法人解散命令、96年の改正宗教法人法施行、2007~10年に相次いだ霊感商法摘発。いくつか波がありながら、教団は事実上、野放しにされてきた。なぜ追い詰められなかったのでしょうか。
 順を追って説明すると、95年3月にオウムが地下鉄サリン事件を引き起こしたことなどで、当時の警察庁最高幹部や警視庁公安部幹部と情報交換する関係ができました。間もなく教祖・麻原彰晃が逮捕・起訴され、局面は捜査から公判へと移った。そうした中、警視庁幹部から「統一教会についてレクチャーしてほしい」と呼ばれたのです。「集まっている人間がどこの誰かは聞かないでほしい」との条件付きで。霊感商法から赤報隊事件まで1時間ほど話した後、幹部ら3人で食事をした。「今日の集まりは何だったんですか」と聞くと「オウムの次は統一教会を摘発する予定だ」と。「何から入るんですか」と重ねると、「経済問題だ」と返ってきた。

 ──いまだ続く霊感商法も大問題ですが、70年代には教団幹部が正規手続きを経ず、数億円の小切手を韓国に持ち出した神戸事件(証拠不十分により無罪)がありました。
 入り口は霊感商法なのか、海外送金なのか。そこはハッキリしなかったけれども、カネの問題から入るとは言っていましたね。

■「有田さんには税金かけたなあ」と
 ──しかし、当局に表立った動きはありませんでした。文化庁は統一教会に対する解散請求を議論したものの、断念。一方の教団は97年以降、名称変更を求め続け、第2次安倍政権下の15年に認証されました。
 05年に警視庁の幹部らと居酒屋で飲む機会があった。「10年経った今だからこそ話せることを教えてください」と言うと、最初に返ってきたのは「有田さんには税金かけたなあ」と。

 ──どういうことですか?
 当時、テレビ出演した僕の発言を公安部がチェックし、危ういことを言ったと判断すると、尾行をつけていたと言うんです。朝から晩まで、僕が帰宅するまで。1日延べ50人態勢だったと。全然気づかなかった。たまに行きつけの居酒屋に顔を出したこともあった。「そういう時はどうしてたんですか?」と聞くと、「近くにいたよ」って。

 ──それだけ教団の動きを警戒していたんですね。
 ただ、肝心なところは語らず、「政治の力ですよ」と言われた。要するに、政治家から圧力を受けて統一教会本体の摘発はやめたと。ですが、公安部は重点対象を絞り込み、リスト化していた。幹部の名前や住所のほか、運転免許証や前科の有無、活動歴など幅広く調べ上げていた。統一教会は間違いなくターゲットだった。推測にはなりますが、警察官僚出身の有力議員が動いたからコトが起きなかったのか。

■「空白の30年」が安倍元首相の銃撃につながった
 ──刑事裁判で教団の組織的犯行が認定された09年の新世事件(特定商取引法違反)では横やりが入り、松濤本部は家宅捜索を免れたとされます。
「いよいよ来たか」と思ったんですけどね。宗教法人格の認証が取り消されて当然なのですから、統一教会が「政治の力」に頼ったとしか考えられない。統一教会の内部文書のひとつに、毎月の海外送金や国内経費を項目ごとにまとめたものがある。07年は「PRチーム」に毎月500万円。国会議員に対するロビー活動向け予算です。それに対し、「対策」は毎月およそ1億円。警察に影響力を持つ国会議員に対するロビー活動と裁判に向けた経費です。07年1月9000万円、2月1億円、3月1億円、4月1億円、5月8000万円……。

 ──摘発が加速していた時期ですね。
 松濤本部、つまり統一教会本体に捜査の手が迫らないよう手を打っていたということ。統一教会関連の報道があふれたのが92~93年。95年のサリン事件発生で「カルトオウム」の図式が出来上がり、統一教会への関心が薄れ、僕が言うところの「空白の30年」が生まれてしまった。この間、ノーマークだった統一教会は政治家にさらに接近、浸透。霊感商法も献金集めも続けていた。政治やメディアが統一教会をチェックしてこなかったツケが銃撃事件という形で噴き出してしまった。オウム事件もそうですが、銃撃は日本の歴史に刻まれる事件。統一教会はこれまでにない最大の危機に直面している。かなり動揺していると聞きます。
  
 ──岸田自民党は銃撃事件を「民主主義への挑戦」と強調し、教団の存在や関わりをうやむやにしようとしています。
 安倍さんの決定的ミスは統一教会の関連団体のイベントにビデオメッセージを送り、(教祖の妻の)韓鶴子総裁に「敬意を表します」と言ったばかりか、「家庭の価値」に2回も言及し、「高く評価」したことです。母親の法外な献金によって家庭が崩壊した山上徹也容疑者からすれば、「何を言っているんだ」となるでしょう。もっとも、統一教会の影響力については冷静に評価すべきです。過小評価も過大評価もいけない。等身大の統一教会を見なければ。宗教保守の中で特異なのは事実です。68年設立の政治団体「国際勝共連合」を通じて政治家に近づき、主に自民党に対して伝統的にロビー活動を展開し、秘書などを無償で差し出すなどして助けを求める関係をつくり上げてきた。自民党からすれば、支援してくれる上、タダ働きをいとわない組織。持ちつ持たれつの関係が続いてきた。ですが、第2次安倍政権以降の自民党、ひいては日本の政界が牛耳られているかのように見るのは、統一教会を大きくとらえすぎている。

 ──アベ政治を振り返ると、拉致問題はむしろ解決から遠のきました。新著「北朝鮮 拉致問題」(集英社新書)では、〈拉致被害者に対する聞き取り〉と題した政府の極秘文書(04年作成)をひもとき、安倍政権の取り組みを批判的に検証されています。官邸外交が問題だったと。
 小泉元首相の電撃訪朝を受け、拉致被害者5人が帰国したのは02年10月。まもなく20年が経とうとしています。当時の背景を説明すると、外務省の田中均アジア大洋州局長が、小泉首相にアジアで唯一残った北朝鮮との国交正常化の実現を提案。北朝鮮側のいわゆる「ミスターX」と極秘交渉を1年間重ねて初の日朝首脳会談を実施し、日朝平壌宣言、被害者帰国につなげた。外務省主導のオーソドックスな外交、質の高い「ヒューミント⇒民間人の諜報」に基づいた外交によって果実を得たのです。一方、安倍政権は外交経験の乏しい官邸外交にシフトし、後退させてしまった

 ──政府の極秘文書が生かされなかったとも指摘されています。
 あの文書は、拉致の実相を被害者の証言によって明らかにした資料的価値の高いもの。安倍さんも「全文、何回も読んでいる」と国会答弁していた。安倍さんは拉致被害者が現実にどういう状況に置かれていたかを理解していたと思います。にもかかわらず、事態は動かなかった。端的に言えば、政権基盤の強化に拉致問題を利用したのです。

 ──14年5月のストックホルム合意あたりまでは前進しているように見えました。
 決定的だったのが14年秋から15年にかけての動きでした。ストックホルム合意に基づき、外務省が北朝鮮側と交渉する中で、認定拉致被害者の田中実さんと特定失踪者の金田龍光さんの生存情報がもたらされた。2人とも結婚し、家庭を持っていると。田中さんの結婚相手は日本人で、息子が日本風の名前だということも分かってきた。そうした情報が盛り込まれた中間報告を受け取り、現地に職員を派遣して田中さんらに聞き取れば、奥さんが被害者なのかも含め、拉致問題をめぐる新たな情報を収集できた。解明に向けた重要な手掛かりをみすみす捨ててしまったのです。

 ──「中間報告を受け取れば幕引きされる」とアナウンスされたものですが、象徴的な存在である横田めぐみさんらの生存情報が含まれていなかったためとも聞きます。
 そういうことです。世論が納得しない、政権への打撃になると判断したのです。ボールは日本側にある。北朝鮮側は朝鮮学校の授業料無償化外しや朝鮮総連幹部の再入国禁止などの改善を求めている。日本側の動きが局面打開のカギなのです。政権は代わった。日朝平壌宣言、ストックホルム合意に立ち返り、外務省主導のオーソドックスな外交で再始動する必要があります

有田芳生(ありた・よしふ) 1952年、京都府生まれ。立命館大経済学部を卒業後、出版社勤務を経てフリー。週刊誌などで統一教会やオウム真理教事件などを報道。2010年の参院選に民主党から立候補(比例区)し、初当選。再編に伴い、民進党から立憲民主党へ。22年7月まで参院議員を2期12年務める。北朝鮮による拉致問題、差別やヘイトスピーチ対策などに尽力した。「『神の国』の崩壊」「テレサ・テン十年目の真実」「ヘイトスピーチとたたかう!」など著書多数。