2018年6月14日木曜日

歴史的な米朝会談の成功 ~ (世に倦む日々)

 米朝首脳会談の成功に対して、日本のメディアや米国の体制側(CIAに牛耳られている)メディアは、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)への言及がないなどと盛んにシンガポール合意を貶めようとしていますが、それはアメリカ側が北朝鮮に対して明確な体制保障を呈示出来なかったことの裏返しです。
 そもそも戦勝国が敗戦国に要求するようなCVIDを、一体誰が受け入れると思っているのでしょうか。自らは決して核を手放さず(米)、またその核の傘に「守られる」と謳いながらその一方で核の先制攻撃を事実上けしかけている國(日本)に、CVIDを要求する権利はありません。時間的に、それはトランプ大統領の任期中に達成できることでもありません。
 
「汝らのうち罪なき者が、石を持ちこの女を打て」
 約2000年前、キリストにそう言われたユダヤ人たちは、その人を打ちませんでした。せめてその程度の良心は持つべきで、自分たちの判断基準を愧じるべきはそうした日米のメディアです。
 
 ことの始まりからこの米朝首脳会談の成り行きを、慧眼をもって透視してきた「世に倦む日々」氏のブログを紹介します。
(なお、あまり聞きなれない外国語には事務局が勝手に訳語を括弧内に青字で示しましたました。不適切であったらお詫びします。これまでも同じです)
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歴史的な米朝会談の成功 - 最終版で外交ゲームを制した北朝鮮 
世に倦む日々 2018年6月13日
歴史的な米朝首脳会談は成功を収めた。昨日(12日)はずっとテレビを見守った。文在寅は「世界史的な出来事で、平和を願う世界の人々にとっての進歩だ」と歓迎し、「果敢に新しい変化を選択した2人の指導者の勇気と決断に高い賛辞を贈ります」とコメントを発している。私の感想も同じだ。中国外交部も「今回の会談とその成果は、朝鮮半島の非核化と平和と繁栄の実現という目標に向けた正確かつ重要な一歩だ」「米朝の指導者の政治的決断を高く称賛する」と声明を発表している。この所感も私と同じだ。私はずっと、6月12日の合意はアバウトなものになるだろうと述べてきた。アバウトな合意でいいと言ってきた。「アバウトな合意」という言葉を使い、12日の米朝会談の行方と着地を予想してきた。今回の「包括的合意」は、その見通しがピタッと的中したという感があり、何から何まで予想したとおりに進み、期待したとおりの図が実現した米朝外交に昂奮と満足の気分を押さえられない。だが、日本や米国のマスコミは、この歴史的会談の意義を卑しめ、ネガティブキャンペーンに躍起になっている。 
 
今回の米朝共同声明は、長年、戦争状態にあって敵対していた二つの国が、初めて首脳会談の場を持って話し合い、関係正常化に向けての基本的合意を文書にしたものである。われわれ日本の経験に置き換えれば、田中角栄と周恩来が結んだ72年の日中共同声明と同じものだ。72年の日中共同声明は、78年の日中平和友好条約の基礎となったもので、その後の日中関係の土台となったものである。その後の日中関係のすべてを規定する憲法と言ってよく、民間も含めた日中友好の諸事業はこの共同声明の精神に則って積み上げられた。6月12日のシンガポールでの米朝合意は、72年の日中共同声明に比肩するものであり、その意義を軽んじることはできない。よくこの合意文書にトランプは署名したものだと思う。この点で、私はトランプを大いに評価したい。最初、トランプは文書に署名することはないと言っていた。交渉が不具合なら席を蹴るとも言っていた。だが、それはトランプのタクティックス戦術で、北朝鮮に譲歩させるための牽制だった。結局、妥協したのはトランプの方だった。
 
字面を読めば、確かにマスコミが批判するとおり、この共同文書にはCVIDについての言及と記載がなく、北朝鮮非核化という点に着目すれば曖昧で具体性を欠いたものだということになるかもしれない。が、今日(13日)の朝日の記事にあるように、この点は米国がシンガポール現地交渉のギリギリまで求め、しかし最後まで北朝鮮側が折れなかった点である。北朝鮮が交渉で粘り勝った理由は、体制保証について米国が具体的な文言を入れなかったからである。今回のマスコミ報道では一言も出ないが、北朝鮮は米国に不可侵条約の締結を求めている。不可侵条約のスキームとプロセスを外交要求し、それを体制保証の中身としている。だが、米国はこれに応じず、情報のリークすらしていない。北朝鮮が何を求めているかを決して報道の表面に出さず、体制保証の意味を勝手にスリカエて大衆に伝え、朝鮮戦争の終結宣言が体制保証になるだとか、出鱈目な情報を撒いて世論を混乱させている。体制保証が具体化しなかったから、非核化も具体化しなかったのである。外交交渉は国家間の取引(ディール)の場だ。
 
今回、最終版で北朝鮮は見事にトランプに切り返した。前回、会談中止のカウンターパンチでダウンを奪われたお返しとばかり、最後の逆襲で米国側を追い詰めて譲歩させた。あのとき、会談中止の通告を受けて北朝鮮が狼狽したように、今度は逆に、トランプの側が弱みを持っていたのであり、北朝鮮はそこを衝いたのだ。カナダでG7を滅茶苦茶に壊し、同盟国の絆を危うくして国際的孤立を演じたトランプは、シンガポールで失敗することは許されなかった。この会談は成功させるしかなく、米朝和平をアピールする演出と宣伝に努めるしかない。外交には相手がある。一国だけでは成功させられず、成功を得るためには北朝鮮の言い分を聞いて米国が譲歩するしかない。今度はトランプの方が足下を見られた。北朝鮮の方が強気に出て交渉を押し切った。いつもながら北朝鮮はしたたかであり、外交を武器を使わない戦争だと心得ている。事業家で駆け引きの好きなトランプは、北朝鮮のゲームの手法を気に入っている様子で、素直に譲歩を受け入れた。トランプのこういう部分は好感が持てる。ビジネスは互いに対等の立場でゲームするものだ。
 
今日(13日)の朝日新聞を見ると、「正恩氏、『非核化』を約束」と1面に大見出しが打たれている。日本のマスコミ報道は、金正恩が初めて自分の口で米国大統領に非核化をコミットした事実とその意義について正当に評価しない。これは初めてのことだ。4月の南北首脳会談のときの板門店宣言では、「完全な非核化により、核のない朝鮮半島の実現」という目標が謳われていたが、金正恩は記者会見の席で「非核化」の言葉を言わず、マスコミはその本気度を疑っていた。今回は、トランプの口から、金正恩が本当に非核化の意思があることが世界に強調され、エンドース裏書保証されていて、板門店宣言よりも一歩前に進んだと言うことができるだろう。できれば、非核化について、具体的なプロセスやスキームやスケジュールが入った形で共同声明が発表されることが望ましかったが、それを求めるなら、体制保証についても、プロセスとスキームとスケジュールが約束されなければならないことになる。それは次の作業にならざるを得ない。6月12日までに実務者間で確定するのは時間的に無理だった。このタフな交渉を纏めるのはトップダウンだけでは難しい。
 
今回、日本のマスコミは、特にNHKを中心に、拉致被害者家族会の面々ばかりに感想を言わせていた。本当はそれはおかしいだろう。第一にカメラを向けなくてはいけなかったのは、日本で暮らす在日韓国朝鮮人たちである。主役がオミットされていた。2000年の第1回南北首脳会談のときは、ニュースステーションの中継が大阪生野のコリアタウンに入り、住民である2世たちの感動の声を久米宏が聞くという報道をやっていた。今回もそうしなくてはいけなかった。NHKは、有馬嘉男にシンガポールの韓国人会の人々にインタビューさせるくせに、日本の在日の声を伝えようとしない。北朝鮮問題となると、とにかく口を開けば拉致問題ということになり、青バッジのイデオロギーとカルトの世界に染め上げられ、同じ顔の同じ話ばかりがいつものように繰り返される。世界史的な米朝会談の意義は相対化され、日本だけで通用する異常なコード規則とプロトコル手順の空間になり、わけのわからない非合理的な呪術の園に蹲るうずくまる。ナンセンスとしか言いようがない。最近、副島隆彦が、拉致問題については私と同じ主張を言っていることを知った。右と左で立場は違うが、お互いに異端中の異端。
 
左翼リベラルは、青バッジ問題では日本会議と完全にコンバージェンス歩み寄りしていて、同じ宗教(呪術)を信奉している。手の付けようがない。最後に、私は、この首脳会談の成果を楽観視している。日米韓のマスコミは会談の成果を貶しまくり、失敗だ失敗だと騒いでいるが、決してそんなことはない。日米韓のマスコミは、この合意では北朝鮮を非核化させることができないと言っているが、そうした見解は間違いであり、悪意が目を曇らせたところの誤謬である。この合意が国際政治の既成事実となり、中国と韓国の太陽政策外交を勢いづけてゆく。ロシアとEUと国連の対北朝鮮外交を方針づけてゆく。安保理決議での経済制裁は緩和から解除に向かう。北朝鮮は自ら国家の方針を転換したのであり、核のない経済成長をめざす路線に舵を切った。北朝鮮の非核化は、米国が強制で押し進めるのではなく北朝鮮が自ら武装解除することになる。中国的な改革開放の国づくりを進めていく。その礎石となるのが今回のシンガポール合意である。犀は投げられ、ルビコンは渡河されたのだ。ここから世界は確実に変わる。