芸能人などが政権批判をすると、それに集中攻撃を加えてネット上で炎上させることが始まってから、もう久しくなりました。そうすることで次々と政権批判の口を封じていくというのが、自民党が組織したサポーターたちに端を発する、いわゆるネトウヨの目指すものなのでしょう。
彼らはその炎上戦法を、今度は長寿番組の『笑点』(日本テレビ)などにも向けるようになりました。
古来 庶民が権力者に対して抱く怒りや不満を皮肉や風刺の笑いに変えることは、芸人の役割のひとつであり、そういう前提で演芸や娯楽が市民に楽しまれ、発展して来ました。
ところが第二次安倍政権以降、政権批判をするとネットで炎上し、ネトウヨや安倍応援団からテレビ局に抗議が殺到するようになり、どんどん政治風刺ネタが姿を消していっています。
この現象は時期が至れば、いつでも「非国民呼ばわり」に転じることが予想されます。戦前回帰を志向するリーダーにすればそうした演芸や娯楽は許されないのであり、彼の応援団たちもそれを攻撃する尖兵になることに何の抵抗も感じていないわけです。まことに暗く、救いのない話です。
ためらうことなく政治風刺ネタも続けてきた笑点メンバーに声援を送ります。
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『笑点』で円楽、たい平、木久扇が安倍政権批判ネタを連発して炎上!
圧力に屈しないベテラン落語家たちの心意気
LITERA 2018年5月31日
高い視聴率を誇る長寿番組『笑点』(日本テレビ)がネットで炎上した。理由は、5月27日放送で安倍首相や政権への風刺、批判的な回答が連発されたためらしい。
せっかくなので、この日の放送を再現してみよう。まず、司会の春風亭昇太から「人はうるさいと耳をふさいだりなんかしますよね。そこで皆さん、今回耳をふさいでください。で、一言言ってください。私が『どうしたの?』って聞きますから答えてください」というお題が出される。
これに口火を切ったのは、三遊亭円楽だった。声色を安倍首相に似せながらこのように答えた。
「安倍晋三です」
「どうしたの?」
「トランプ氏から国民の声は聞かなくていいと言われました」
続いて、手を上げたのは林家たい平。彼もまたモノマネを交えながら回答した。
「麻生太郎です」
「どうしたの?」
「やかましいぃ〜」
政権批判ネタ三部作のトリを飾ったのは林家木久扇。彼はこのように答えた。
「うるせーなー」
「どうしたの?」
「沖縄から米軍基地がなくなるのはいつなんだろうねぇ」
まさに、安倍政権への痛烈な風刺三連発。そして、回答した三人は連続で座布団一枚を獲得した。
「米軍基地問題はいつなくなるのか」の答えに偏向と噛み付くネトウヨ、安倍応援団
しかし、これが放送されるやいなや、ツイッターを中心に大炎上。ネット上には〈河原乞食が飢えもせず生きていけるのは資本主義社会の賜物なのにな 馬鹿だと思うわ〉〈「笑点」で円楽が政権批判すると司会の昇太が「面白い、座布団1枚」となる。少しも面白くないのにである。笑いまで政治的偏向するようになってしまったのかと思う。最近「笑点」を見なくなった理由の一つでもある〉といった言葉が次々と投稿された。
その典型が、中国や韓国へのヘイト本を多く出版する石平太郎氏である。彼は、その日の『笑点』を見た感想をこのようにツイートした。
〈先ほど家のテレビで久しぶりに「笑点」を見ていたら、「安倍晋三です。国民の声を聞かなくてよいとトランプに教えられた」とか、「沖縄の米軍基地はいつなくなるのか」とか、まるで社民党の吐いたセリフのような偏った政治批判が飛び出たことに吃驚した。大好きな笑点だが、そこまで堕ちたのか〉
三遊亭円楽は楽太郎時代からしばしば政治や社会風刺の大喜利回答をしてきたし、『笑点』とはそもそもそういう番組であるのは、きちんと番組を観てきた人であれば誰もが指摘するところである。〈大好きな笑点だが、そこまで堕ちたのか〉などと言うのは、果たして本当に『笑点』を観ていたか甚だ疑問だが、それはともかく、多くのお笑い芸人が社会風刺のネタに及び腰になるなか、『笑点』は一貫してそういった類のネタも放送し続けてきた。
たとえば、三遊亭円楽は2015年8月9日放送回の『笑点』で、安倍首相を名指しした風刺ネタを披露している。そのときは鍼灸師を題材にした大喜利をしていたのだが、彼はこんな回答を披露したのだ。
「耳がよく聞こえるようにしたいんですね?」
「どこに鍼を打っても、国民の声は聞こえるようにはなりませんよ、安倍さん」
これだけではない。三遊亭円楽は同月23日にも、『24時間テレビ 愛は地球を救う』のなかの1コーナーとして放送された『笑点』にて、「24時間テレビ」に引っ掛けて、「――かん――び」の傍線部分に言葉を当てはめるというお題に対し、このような答えを繰り出した。
「安倍さん、聞いてください、政治に不信“かん”、国民の叫“び”」
三遊亭円楽だけではない。林家木久扇も、16年4月10日放送回にて、安倍内閣を皮肉ったネタを披露している。この日の『笑点』では、「育児休暇」をテーマにしたお題が出た。メンバーがさまざまな職業の人に扮し、「育児休業を取った」と語り、そこで司会の桂歌丸(当時)が「どうなりました?」と聞いてくるのに対して、さらに一言付け加えるというものだ。そこで林家木久扇は「日本の内閣の大臣全員が育休を取りました」と語り、歌丸の「どうなりました?」との問いにこう返した。
「別に支障がありませんでした」
内閣の大臣なぞ、いてもいなくてもどっちだっていいという痛快な皮肉だ。
『笑点』メンバーは一貫して政治家や権力風刺をネタにしてきた
このように、『笑点』メンバーは以前から、政治家や権力をからかい、政治の話題を大喜利に盛り込んできた。しかし、おそらくそれは彼らにとって特別なことではない。庶民が権力者に対して抱く怒りや不満を、皮肉や風刺の笑いに変えることは、芸人の役割のひとつであり、日本でも以前は普通におこなわれてきたことだからだ。テレビで芸人が総理大臣をからかったり、コテンパンに悪口を言うというのも、昔はそう珍しいことではなかった。
ところが、第二次安倍政権以降、こうした政権批判をすると、ネットで炎上し、ネトウヨや安倍応援団からテレビ局に電凸が殺到するようになり、どんどん政治風刺ネタが姿を消していった。
しかし、笑点メンバーは、ネットの反応や安倍応援団の抗議など気にすることなく、一貫して政治風刺ネタを続けてきた。そして、今回は三遊亭円楽、林家たい平、林家木久扇のトリオ芸で、かなり痛烈な安倍政権批判をおこなった。
そう考えると、笑点メンバーの心意気には敬服するしかないが、問題は、こうした社会風刺や権力批判を笑いに変えようとする芸人が、ほとんどいなくなっているということだ。
だが、若手・中堅のお笑い芸人でその役割を背負おうとしているのは、ウーマンラッシュアワーくらいで、林家木久扇や三遊亭円楽など、ベテラン中のベテラン芸人しかいない現状は、あまりにもこころもとない(『笑点』メンバーのなかにいると若く見えるが、林家たい平だって53歳である)。
また、もうひとつ心配なのは、今回の大炎上をきっかけに『笑点』制作サイドにプレッシャーがかかって、政権風刺ネタが制約されたりしないか、ということだ。
せめて『笑点』だけはこれまで通りの姿勢を貫き続けてほしい。 (編集部)