経済学者の高橋乗宣氏が、
「政権のトップがどんなに愚かな人物であろうと、官僚機構がプロとしてシッカリと行政を担っていれば、この国はそうやすやすと愚かな道へと歩みを進めることはない。
ところが今のように官僚がトップに忖度しまくり、政治と行政が一体化し、時の政権の“操り人形”となってしまえば、一国が道を誤る可能性は増す」
と痛烈に批判しました。
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日本経済一歩先の真相
官僚が権力に忖度し中立性を失った国は誤った道へ向かう
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2018年6月8日
森友学園への国有地払い下げを巡る決裁文書改ざん問題で今週、財務省が調査報告書をようやく発表した。改ざんの背景には「私や妻が関係していたなら首相も国会議員も辞める」という安倍首相の国会答弁があったとハッキリ示したものの、それでも「忖度はなかった」「昭恵夫人は関係ない」と結論づけた。結局、財務省は調査報告書でも安倍首相夫妻に忖度したとしか思えない。
財務省と改称される前の大蔵省といえば、かつては超エリート官僚の集団だった。それが今や公文書の改ざん、廃棄に加え、次官のセクハラ騒動と“劣化”の表面化が止まらない。
公文書に手を加えないのは公務員の仕事のイロハのイだ。そんなことは百も承知で行政の実態を国民の目からヒタ隠しにしたのは、どう考えても総理への忖度である。
安倍首相にとって不都合なことは全て書き換え、あるいは消してしまう。かつてのエリート官庁が忖度だらけの役所へと成り下がり、政権に服従する姿は民主主義の根幹である三権分立が、音を立てて崩れ去っていると痛感させられる。
立法府である国会が選んだ政権のトップが、どんなに愚かな人物であろうと、官僚機構がプロとしてシッカリと行政を担っていれば、この国はそうやすやすと愚かな道へと歩みを進めることはない。だからこそ、官僚には政治的中立性が求められ、その順守が大事なのである。
ところが、今のように官僚がトップに忖度しまくり、政治と行政が一体化し、時の政権の“操り人形”となってしまえば、一国が道を誤る可能性は増す。三権分立が有名無実化した以上、日本の民主主義は危機的状況に差し掛かり、時の政権がこの国を誤った方向へと導きかねないのだ。
そもそも安倍首相は民主主義的手続きとは対極に位置する政治家だ。政権に返り咲いて以降の5年以上を振り返れば、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪など現行憲法の定めに抵触しそうな危うい法律を次々と強行的手段で成立させてきた。
安倍首相の家系をたどれば、岸信介元首相に行き当たり、麻生財務相は吉田茂元首相の系譜を継いでいる。この政権の非民主性は、ツートップがいにしえからの権力者の一族に生まれ、その後継者として育てられたことと無関係ではあるまい。
こんな政権が「右へ倣え」と命じる前から、官僚たちが黙って右を向いて整列し、ヘーコラ、ヘーコラとこびへつらう姿を見せつけられると、改めて民主主義の危機を思い知らされる。
高橋乗宣 エコノミスト
1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。