蓮池透氏は、拉致被害者家族会の副会長を務めていましたが、早くから安倍氏を厳しく批判し続けたため、安倍氏の気持ちを忖度した「家族会」によって除名されました。
当時は「家族会」は安倍氏を全面的に信頼していたためですが、いま皆さんはそのことをどう思っておられるのでしょうか。
LITERAが蓮池透氏にインタビューしました。
インタビューの中で蓮池氏は
「そもそも北朝鮮は拉致問題の再発防止を約束した2002年の平壌宣言(の第3項)に基づいて『解決済み』としている。一方、安倍首相はここにきて『平壌宣言に立ち戻る』というキーワードをしばしば持ち出しているが、それにのっとれば、日本政府は北朝鮮のいう『5人生存、8人死亡』を認定せざるをえない。安倍首相が『全員の即時帰国』を要求するのなら、これは矛盾」、と述べています。
また、「安倍首相が本気で拉致被害者を取り戻そうとしていないのは、日本政府の準備体制をみてもわかる」として、その理由を具体的に述べています。
さすがに拉致問題について、当事者の視点で一番よく考えておられることが良く分かります。
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元家族会副会長・蓮池透インタビュー
米朝会談でもトランプ任せの安倍首相に蓮池透が怒りの告白!
「安倍首相は本気で北朝鮮と向き合う気がない」
LITERA 2018年6月15日
歴史的な米朝首脳会談が終わった。既報のとおり、安倍首相はこの間、「米朝会談は拉致問題解決の千載一遇の機会」と喧伝してきたが、蓋を開ければ米朝の合意文書では拉致問題は一言も触れられず、トランプ大統領も「提起した」と述べただけで、具体的な内容は一切明かされなかった。
にもかかわらず、安倍首相は「拉致問題について明確に提起していただいたことについて、トランプ大統領に感謝したい」と尻尾を振りながら、「やり取りについては、今の段階では詳細について申し上げることはできません」と煙に巻いた。
すでに拉致被害者の曽我ひとみさんがマスコミ向けのコメントで「とても残念としか言えません」と失望を表明しているが、拉致被害者の家族はいま、どのように感じているのか。
米朝会談から一夜明けた13日、本サイトは元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)副代表・蓮池透氏にインタビューを行った。周知のように蓮池透氏は、2002年に帰国した拉致被害者の蓮池薫さんの兄であり、近年では、安倍首相らによる拉致問題の政治利用と圧力一辺倒を真っ向から批判している。
米朝会談は蓮池氏の目にどう映ったのか。日本政府はどのようにして北朝鮮と向き合うべきか。安倍首相の言う「拉致問題の解決」は可能なのか。蓮池氏は「批判のための批判」ではなく、具体的方策を示しながら、現状の問題点を鋭く指摘した。ぜひ、最後まで読んでいただきたい。 (編集部)
米朝会談の揚げ足取りばかりのNHKはじめマスコミはどうかしている
──まず、米朝会談について率直な感想を聞かせてください。
蓮池透氏(以下、蓮池) 米朝会談自体は評価していますよ。マスコミは揚げ足とりばかりしていますが、平和を望んでいないんですか、と言いたくなってしまう。だいたい、昨年まで戦争が勃発するとまで言われたんですよ。それなのにわずか1年足らずで、両国トップが握手をして、これから平和を目指そうという、そうした外交的にもダイナミックな合意のはずなのに、まったく評価しないなんてどうかしています。
とくに驚いたのが、米朝会談の後、NHKで過去の核合意破綻の歴史をVTRで繰り返し流していたこと。結局、あなたがたは、また破綻させたいのか。いや、本当に破綻を望んでいるとしか思えない。合意についても「譲歩しすぎだ」とかのイチャモンばかりです。トランプ大統領を手放しで支持する気はないけれど、こと今回に関しては「これが始まりとなる」と言われている。だったら、一定の評価をしたうえで、これから合意の具体化に向けて関係各国、とくに日本はどのような役割を演じなければならないのか、例えば後押しをするとか、監視をするとか、を前向きに論じること、そういう誠実な態度をとるべきでしょう。
むしろ、マスコミが批判すべきは、米朝首脳会談はそもそも拉致問題を議論する場ではなく、それを必死でごまかそうとしている安倍首相の態度です。
──たしかに、安倍首相が拉致問題の進展がなかったのをごまかしていたのはミエミエでしたね。
蓮池 前回の日米会談の時と同様、今回も安倍さんはトランプ大統領からの電話報告について「詳細について申し上げることができない」と言っていましたが、言うことがなかっただけでしょう。何もないから。
それなのに、「拉致問題をトランプ大統領は提起してくれた」などと胸を張っている。
だからなんなんでしょうか。ようするに「トランプ様、拉致問題を取り上げてくれてありがとう」と言っているだけ。いつまで他人事にしているのか、と呆れました。
会談前からそうでしたよね。「トランプさんから『100%保証する』と言われた」なんて自慢して。
トランプ氏も「自分でやれ」って思っているのではないですか。実際、トランプ氏は日米会談の時、拉致問題については「安倍総理のグレイト・パーソナル・インポータンス」と言っている。当然でしょう。その言葉の裏は「お前、自分のことは自分でやれ。俺に頼るなよ」ということですから。だいたい、日本が当事者なんだから、拉致問題をアメリカに頼むなんて筋違いだし、ありえない話で、大変恥ずかしいことです。そういう意味では、米朝会談は「安倍外交」の敗北なのだと思います。しかも、安倍さんや政府は、ただのアメリカ頼みなのに、家族や国民に過大な期待を与えている。ほんとうに罪作りだと思います。
──しかし、マスコミはそのことはほとんど追及しません。
蓮池 一昨日のトランプ氏の会見だって、日本のメディアは拉致問題についてほとんど質問していないでしょ、質問したのは上杉隆さんの「ニューズ・オプエド」ですよ。安倍首相が拉致問題で語ることがないから、質問しないという忖度でもしたのでしょうか。
マスコミはアメリカ任せの安倍首相に対してもっと「日本のことは日本でやれ」と突っ込まければならないんです。トランプ氏任せの日本政府はおかしいと思わないのならば、もう、日本は独立国家じゃなくて従属国家ではないですか。でも、テレビも新聞もそれを指摘しない。NHKなんて「トランプ大統領が日本の拉致問題を取り上げた」などと嬉々としてニュース速報を打っていた。言及しただけで何もわからない。ましてや合意文書に一言も入っていなかったのに、ですよ。
マスコミは結局、安倍首相の宣伝をしているだけ。ネットでも話題になっていましたが「会場をシンガポールにセッティングしたのは安倍総理」なんていう話を流したり、番組でもトランプ大統領の中継の最中に突然、安倍さんの会見へ切り替えたり。本当に露骨すぎます。
安倍首相は今頃「北朝鮮と向き合い」って臆面もなく言っているのか
──そういえば、マスコミはこの間、日本が米朝の橋渡しをしたなんていう報道も繰り返してきました。
蓮池 そんなこと言ってるのは、国内の御用メディアだけ。国際社会では逆ですよ。ただただトランプ氏にべったり、それが「安倍外交」と言われているもののすべてではないですか。上杉さんは「フェイク外交」と呼んでいましたが、その通りだと思います。
しかも、安倍・トランプの関係は完全に安倍さんの「片思い」ですからね。片思いだから、結局、相手の都合がよいときにうまく利用されてしまう。会談の際の金委員長とトランプ大統領の握手を見ましたか。手厚い握手でしたけど、対等な感じがあった。それに比べて、トランプと安倍さんの握手って、なんなんですかね、あれ。まるで犬がご主人さまに「お手」をするような感じ。トランプ氏が手のひらを広げて、そこに安倍さんが「ポン」と手を置く。びっくりするぐらい情けない。まあ、握手はともかく、今回のことで、日本は完全にアメリカの従属国家だということが、あらためてわかりましたよね。
──トランプ大統領は「非核化費用は日本と韓国が払う」と言っていましたが、結局、その従属関係で、日本は金を払わされるだけになってしまうのではないかという懸念もされています。
蓮池 いや、お金を出すのはいい、と思います。ただし、別の名目でですが。つまり、私は北朝鮮に対する戦後賠償が拉致解決のために日本が切れる唯一の交渉カードだと主張してきました。しかし、それは日本が独自に北朝鮮と交渉する過程で切るべきカードであって、金正恩委員長の請求書をトランプ大統領が預かってきて安倍首相に渡すなんてことになったら、そのカードが使えなくなる。それがいちばん怖かった。今回、トランプ大統領からの請求書が非核化費用で、戦後賠償カードが残ったことは救いですが、こういうかたちでは、関係の改善には繋がらないでしょう。つまり北朝鮮が「お金を出したのは日本。だから日本を評価します」とはならない。あくまで金委員長が約束を交わしたのはアメリカのトランプ大統領とですから。
──この調子だと、今後、拉致問題が解決に向かうか不安ですね。安倍首相はようやく「日本が直接、しっかりと北朝鮮と向き合い、二国間で解決していかなければならない」などと言い始めましたが。
蓮池 「北朝鮮と向きあい」という言葉を聞いたときは、一瞬、進歩なのかな、圧力だけでなく少しは対話の必要性がわかったか、と思ったのですが、でも、すぐに思い直しました。たぶん、トランプ大統領に自分でやれ、と言われたからオウム返しに言っただけで、安倍さんは本気でそんなこと考えてない。圧力から対話へ路線転換した、と明言しない。
だいたい今頃になって「北朝鮮と向き合い」って、臆面もなく言っているのか、という話でしょう。だったら、最初からなぜ向き合わないのか。小泉訪朝から16年も経って、ようやく北朝鮮と向き合うってどういうことですか、この態度の豹変は。だったら最初から向き合ってください、としか言いようがない。
結局、安倍さんには、北朝鮮への圧力一辺倒でこの状況になり、そのツケがまわってきたという自覚がないんです。それで、トランプ氏が動いたから、ポチよろしく北朝鮮と向かいあう? あなたのバカの一つ覚えのような圧力が拉致被害者、そして家族の現在の惨状を招いているんですよ。その自覚がまるでない。その姿勢が変わらないかぎり、安倍首相が北と向き合って首脳会談をやったとしても、同じことの繰り返しですよ。
圧力一辺倒で北朝鮮との交渉カードをもっていない安倍政権
──たしかに、北朝鮮は基本的に「拉致問題は解決済み」という姿勢を崩していない。交渉はかなり難航しそうです。
蓮池 そもそも北朝鮮は拉致問題の再発防止を約束した2002年の平壌宣言に基づいて「解決済み」としているわけですね。一方、安倍首相はここにきて「平壌宣言に立ち戻る」というキーワードをしばしば持ち出していますが、それにのっとれば、日本政府は北朝鮮のいう「5人生存、8人死亡」を認定せざるをえない。安倍首相が「全員の即時帰国」を要求するのなら、これは矛盾です。
だから重要なのは解決済みと言わせない情報をいかにもっているかなんです。インテリジェンスですよね。拉致被害者の誰がどこにいるのかという情報を独自に掴み、水面下で北朝鮮に突きつけて「これで解決済みと言えますか?」と迫る。それが外交というものでしょう。こうした情報を突きつける以外に、方法はない。それができないのなら、元の木阿弥です。
ところが、日本はその突きつけるべき情報を全然もってない。特に安倍政権は圧力一辺倒で、そういう努力をまったくしてこなかった。
──ほんとうに日本政府は情報をもっていないんですか?
蓮池 弟は日本政府がインテリジェンスをもっているはずだと言いますが、わたしは経験上、そうは思えない。日本政府が誰から情報収集をしているかといえば脱北者、韓国国家情報院関係者、中朝国境の朝鮮族、その程度ですよ。そのような人たちから、情報が取れるわけがないじゃないですか。ガセネタつかまされるだけです。海外への多額の経済支援の一部を使えば、十分に可能だと思うのですが。それと、情報を取るためには、官僚が動くしかないのですが、その官僚が安倍政権下では機能していないですからね。財務省や経産省だけでなく、外務省も「忖度官僚」ばかりになってしまった。しかも、拉致問題については、「下手に動いたら、田中均さんの二の舞になる」という恐怖がある。
──たしかに、独自ルートを使って小泉訪朝を実現させた田中均・外務省アジア大洋州局長(当時)は、そのあと、当時の官房副長官で反北の急先鋒だった安倍氏の扇動によって「北朝鮮の手先」「国賊」という大バッシングを受けました。
蓮池 いまでは日本はもっと安倍支配が進んだから、それ以上のバッシングになるのが目に見えている。とにかく、安倍首相が圧力、圧力と言っているときに、忖度官僚が水面下で対話して情報を取るなんてやりっこない。そんな状態で時が経って、今頃になって、急に情報もってこいといわれて、取れるはずもないですしね。
──じゃあ、このまま、安倍首相が金正恩と首脳会談をやったとしても、日本が「全員返せ」、北朝鮮が「解決済み」と水掛け論で終わる可能性が高い、ということですか。
蓮池 というか、それ以前に、安倍首相が日朝首脳会談を本気でやる気があるかどうかも疑わしいですよね。金正恩氏に解決済みと言われて帰ってきたら、それこそ政権がもたない。いま6月でしょ、総裁選を控えて大胆なことはやらないのではないでしょうか。
だいたい、安倍首相が本気で拉致被害者を取り戻そうとしていないのは、日本政府の準備体制をみてもわかりますよ。日本政府には、いまも被害者がもし帰国したらというシミュレーション、受け入れ態勢すらない。それでただ拉致被害者の帰国と言っている。弟が帰ってきたときと受け入れ体制は変わっていないんです。月額十何万円出すから自立しろって、その方針は変わっていない。そんなことで、帰ってきますか? 帰れますか?
もう一点は、拉致されて40年以上も経って、むこうでファミリーが構成されているわけですよね、子どもや孫もいるし。家族の誰かが北朝鮮の人と結婚していたりしたら、ファミリーのなかから、被害者だけをピックアップして、「あんただけ帰ってください」と言われて帰れますかね?
そこまで考えてないんですよ。受け入れ態勢やバックアップの問題を、これを前回の被害者帰国からまったく学んでいない。「帰国したら一生面倒みます」くらいのことをしないと駄目だし、ファミリー全員連れ帰るのは無理でしょう。当事者が「わたしは家族と北朝鮮で曲がりなりにも暮らしているんで、生活が不安な日本には行きたくない」と言うかもしれない。子どもや孫の環境、語学、学校の問題だって発生する。そういう場合、どうするのですか? 国交があれば行ったりきたりできるけど、それがない。拉致問題を本当に解決しようと思えば、ピンポイントで被害者だけ帰ってこいというだけではなく、国交正常化や被害者とその家族が行き来できるような特別措置とか、よく考えておかなければならない問題なんですがね。
「外交の安倍」は嘘、「口だけ外交」「フェイク外交」の正体が明らかになった
──安倍首相はずっと「拉致被害者を全員取り戻す」と言ってきましたが、結局、ただのパフォーマンスにすぎなかったということですね。
蓮池 だから「外交の安倍」なんて大嘘なんです。安倍さんの外交というのは「かっこつけ外交」「口だけ外交」「フェイク外交」にすぎない。
ロシアの(フィギュアスケート女子金メダリスト)ザギトワ選手に秋田犬を贈ったときの一件も呆れましたよ。あれは、ザギトワ選手が秋田犬を気に入ったことを知った民間団体がプレゼントしたものですが、安倍首相はわざわざロシアでの贈呈式に参加して、まるで「私があげたんだよ」って感じでしたよね。いや、それは違うでしょ(笑)。
安倍さんはこういうふうになんの実体もないのに自分の手柄のように見せてきたわけですが、それが今回の米朝会談であらためて露わになった。
いま、やらなければならないのは、そうした安倍首相の欺瞞を批判して、パフォーマンスでない、ほんとうに拉致問題の解決に向けた戦略、行動を後押しすることなんです。
ところが、マスコミはそうした肝心なことを指摘しないで、2人の身長差ではハグは難しいとか、金委員長のシークレットブーツ疑惑だとか、そんなことを堂々と報道している。どうでもいいでしょ、そんなことは。とりわけ北朝鮮の話になると日本のマスコミは幼稚化するんですね。
いや、幼稚だけならいいですが、安倍政権を忖度して、あいかわらず北朝鮮がいかにこれまで裏切りを続けてきて、信用できないか、金正恩氏がいかにとんでもないかだけをがなりたてている。わたしも金正恩氏の政治体制を支持するつもりはまったくないですが、それで、何か解決するんですか? しないですよ。
結局、日本国中が、安倍首相とその忖度マスコミに煽られて、北朝鮮を普段の不平不満のはけ口にしているだけなんじゃないですか。安倍さんもマスコミもまあひどい。心の底からがっかりしました。
──かなり悲観的な状況であることはよくわかりましたが、それでも拉致問題を少しでも前に進めるためには、どうしたらいいんでしょう。
蓮池 安倍首相に辞めてもらって、もっとプラグマティックな外交戦略を持った総理大臣に就任してもらうのが一番早道でしょうが、それができないなら、現政権できちんと情報を入手する努力をしてもらって、国交正常化を同時並行して進めていくことを期待するしかない。安倍さんには、一縷の望みと最大限の皮肉を込めて、「“外交の安倍”というなら、その手腕をいまこそ発揮してください」と申し上げたいですね。
(聞き手、構成・リテラ編集部)