2018年6月18日月曜日

戦後政治をぶっこわしてしまった安倍政権の5年間(五十嵐仁氏)

 全農協労連の機関誌「労農のなかま」に掲載された五十嵐仁・法大名誉教授の表記の論文を掲載します。
 安倍政権の5年間は憲法を踏みにじる暴走政治の連続で、安倍氏は戦後最低最悪の首相であると断じています。
 
 ブログ:「五十嵐仁の転成仁語」に3回に分けて転載されたもので、長文です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
戦後政治をぶっこわしてしまった安倍政権の5年間(その1)
五十嵐仁の転成仁語 2018年6月14日
〔以下の論攷は、全農協労連の機関誌『労農のなかま』No.572、2018年5月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕
 
はじめに
 最近の政治・行政の姿を見て、「全般的危機」という言葉を思い出しました。国有財産の不当廉売と国の根幹を揺るがせるような公文書改竄、「お友達」の優遇と行政の私物化、文民統制に反する自衛隊の日報隠蔽、女性の人権を踏みにじるセクハラ・スキャンダルと財務次官の辞任。これらの大罪を嘘で誤魔化し、言い逃れようとする醜態の数々。
 政治の土台がひび割れてしまったのです。政治への信頼が崩れ、行政の前提となる土台は亀裂だらけになってしまいました。戦後最低最悪の安倍首相が発する毒が、少しずつしみ込んで政治の土壌を汚染させてきたということでもあります。
 
 森友・加計学園疑惑など安倍夫妻をめぐる疑惑やスキャンダルよりも重要な問題があるのではないか、国会はもっと法案や政策の議論をするべきではないかという意見があります。しかし、土台が安定していなければ、その上にどんな家を建てても崩れてしまいます。土壌が毒に汚染されていれば、どのような作物や花を植えても育ちません。
 国政の重要問題を議論するためには、その土台となっている信頼を取り戻す必要があります。政策という作物を植えるためには、土壌を改良しなければなりません。丈夫に育てて花を咲かせ実らせるためには、まず土から毒を取り除き、立憲主義や民主主義という肥料をやらなければならないのです。
 
 振り返ってみれば、安倍政権の5年間は憲法を踏みにじる暴走政治の連続でした。「石流れ木の葉沈む」理不尽な日々がつづき、行き着いた先が安倍首相夫妻による政治の私物化であり、それを取り巻く政治家や官僚、「お友達」などによる「忖度政治」でした。世論を恐れず反知性と非常識が大手を振るような時代になってしまいました。
 安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を唱え、「日本を取り戻す」というスローガンを掲げてきました。その主張通り、安倍暴走政治の5年間は、平和憲法に基づく軽武装国家としての「戦後レジーム」を掘り崩し、戦前の「日本を取り戻す」歩みにほかならなかったのではないでしょうか。
 
暴走政治の害悪を象徴する森友・加計学園疑惑
 安倍暴走政治の害悪を象徴するのが、森友・加計学園疑惑です。安倍首相だけでなくその妻である昭恵氏の関与が疑われ、首相夫妻の意向を忖度して政治が歪められ私物化されたのではないかとの不信を招きました。これに対して「おかしい」と異議を唱えれば、前川喜平前文科次官のように私生活をリークされ授業にまで介入されてしまいます。
 森友学園疑惑は籠池泰典前理事長の時代錯誤な教育理念と、教育勅語を園児に暗唱させるような国粋主義的な愛国教育の実践に安倍首相夫人の昭恵氏が共感し感銘したことが発端でした。森友学園の小学校新設を応援しようとして100万円を寄付するとともに設立認可と土地取得、建設費用の融資に便宜を図ったというのが真相だったのではないでしょうか。
 2017年2月17日の「私や妻が関係していたら首相も議員も辞める」という安倍答弁の3日後の20日に「口裏合わせ」の電話があり、その2日後の2月22日に、官邸側の関与を全面的に否定している佐川宣寿前理財局長と太田充現局長(当時財務省大臣官房総括審議官)が菅義偉官房長官から官邸に呼ばれ、国有地売却の経緯などについて説明していたこと、ここには国土交通省航空局次長も出席し、国有地から出たごみの撤去処分費用の見積もりなどを説明したことが判明しています。当然、この場でも決裁文書の改ざんなどの善後策が相談されたものと思われます。
 こうして、森友学園への破格の安値での国有地売却、その経緯を書いた決裁文書の改ざんという前代未聞の「国家犯罪」が実行されたのです。その背後には安倍夫妻の存在があり、とりわけ森友学園が経営する塚本幼稚園で3回も講演し、ホームページに推薦文を書き、一時は新設予定の小学校の「名誉校長」まで引き受けていた昭恵氏の関りは極めて大きなものだったと思われます。
 
 その後、当時の佐川理財局長が「ない」と答弁していた財務省と森友学園との交渉記録が500ページ以上も残っていたことが新たに分かりました。なかには昭恵氏と密接に連絡を取り合っていた記録も残っています。
 昭恵氏の存在と働きかけがなければ、「良い土地ですから進めてください」と昭恵氏が言ったなどと護池氏が圧力をかけることも、建設予定地前で撮った写真を見せることも、それを見た官僚が籠池氏のために便宜を図ることも、慌てて公文書を改ざんすることもなかったはずです。安倍首相夫妻が「関係」していたことは明らかであり、安倍首相は自らの言葉に従って首相も国会議員も辞任するべきでしょう。
 
決定的な証拠が出てきた加計学園疑惑
 加計学園疑惑についても決定的な証拠が出てきて、国家戦略特区での獣医学部の新設計画は最初から「加計学園ありき」だったことが明確になりました。というより、安倍首相の親友である加計考太郎氏が経営する岡山理科大に獣医学部を新設するために国家戦略特区が利用され様々な便宜が図られたというのが真相であると思われます。
 愛媛県や今治市の職員、加計学園事務局長らが2015年4月2日に首相官邸で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と面会したとする文書には、内閣府の藤原豊地方創生推進室次長(当時)とも会ったことが書かれていました。柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べ、藤原氏が「内容は総理官邸から聞いている」「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」「かなりチャンスがあると思っていただいてよい」と発言したなどと記されています。
 すでに昨年のうちに、「総理のご意向」や「官邸の最高レベル」という文言のある文書が発見されていました。これらの異なった性質の文書の全てが偽りでない限り、この問題に安倍首相や官邸が深くかかわっていたことは完全に裏付けられたと言えるでしょう。
 
 4月10日の中村愛媛県知事の記者会見では、もう一つの重要な事実が語られていました。問題の土地にはサッカースタジアムを作るプランだったのに、途中で内閣府から助言があって獣医学部の新設計画を国家戦略特区に申請することになったというのです。岡山理科大に獣医学部を新設する計画は内閣府から持ち込まれたということであり、初めから「首相案件」だったということになります。
 柳瀬元秘書官の参考人聴取でも、首相官邸で加計学園関係者と3回も面会していたこと、特区関係者で面会したのは加計学園だけだったことなど、「加計ありき」を示す新たな事実が明らかになりました。
 加計学園疑惑はクリスマスイヴにワイングラス片手で相談された安倍首相や加計氏による「男たちの悪だくみ」の一つだったと思われます。そのような形で政治・行政を私物化し国会と国民を欺いてきたというのであれば、許されざる背信であり、安倍首相に国政を担当する資格はなく、ただちにその座を去るべきです。
 
戦後政治をぶっこわしてしまった安倍政権の5年間(その
五十嵐仁の転成仁語 2018年6月15
「戦争できる国」に向けての暴走の連続
 安倍政権によってぶっ壊されてきたのは政治への信頼だけではありません。「専守防衛」という国是にもとづく「平和国家」としてのあり方も掘り崩されてきました。特定秘密保護法の強行成立から始まり、武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」の閣議決定、歴代の自民党政権が「憲法違反」としてきた集団的自衛権の一部行使容認、多くの憲法学者や国民の反対を押し切った安保法=戦争法の強行成立などが相次いできました。
 安倍首相がめざす「戦争できる国」を作るためには、システム・ハード・ソフトの各レベルにおける整備が必要とされます。システムというのは戦争準備と遂行のための法律や制度であり、一連の違憲立法とともに日本版NSC(国家安全保障会議)や安全保障局の設置などによっても実施されてきました。9条改憲はこのシステム整備の中核をなし、総仕上げの意味を持っています。
 
 ハードの整備とは戦争遂行のための「実力組織」の拡充であり、米国との軍事同盟の強化と軍備の増強などがその内容になります。沖縄での地元の意向を無視した辺野古新基地建設の強行や過去最高となった防衛費の増大オスプレイや巡行ミサイルの購入、ヘリ空母「いづも」の攻撃型空母への改修計画など、他国に脅威を与える敵基地攻撃能力の確保の動きが強まりました。
 ソフトの整備とは「戦争できる国」を支える人材の育成と社会意識の形成を指しています。すでに第1次安倍政権で教育基本法と関連する学校教育法など3法が変えられ、第2次政権になってから教育改革実行会議による道徳の教科化や学習指導要領の改訂、教育への管理・統制の強化、マスメディアに対する懐柔や恫喝による情報の操作などが進められてきました。
 このような「戦争できる国」作りへの動きに対して、これまで憲法は抵抗の拠点であり、異議申し立てのための武器となってきました。しかし、安倍首相がめざす9条改憲によって自衛隊の存在が明記され、憲法上の位置づけが与えられ正当化されれば、その意味は大きく変わるでしょう。抵抗のための武器から戦争へと動員する手段になってしまいます
 
隠され続けてきた「戦場の真実」
 このような形で「戦争できる国」になれば、自衛隊は海外に派兵され「戦闘」に巻き込まれることになります。イラクへの自衛隊の派遣や南スーダンPKOでの自衛隊の活動の実態は、このような「戦場の真実」を赤裸々に示すものでした。それを国民に知られたくないからこそ、日報が隠蔽され続けてきたのではないでしょうか。
 南スーダンPKOの日報問題で「無い」と言っていた陸上自衛隊のイラク派遣時の活動報告(日報)が「発見」されました。イラクに派遣された陸上自衛隊の現地部隊が報告した日報も見つかりましたが2004年から06年にかけてのもので45%にすぎず、ミサイルが撃ち込まれるなど「戦闘」が激化したときのものは見つかっていません。しかも、イラク派遣関連文書にも改ざんの疑いがあります。
 
 この日報の隠蔽と発見は、この間の安倍政権による情報の隠蔽や改ざんという一連の事案と共通の背景を持っています。知られたくない不都合な情報を廃棄し、隠し、改ざんする。逃れられなくなると渋々存在を確認し公表するというやり方が繰り返されてきました。
 とりわけ、自衛隊の日報隠蔽は知られたくない文書を隠していただけでなく、そのことが防衛大臣に報告されず、事態を全く把握できていませんでした。シビリアンコントロール(文民統制)は機能せず、現場が独走して戦争へと突き進んで行った戦前の過ちや、終戦に当たって公文書を焼き尽くしてしまった間違いが繰り返されているということになります。
 イラク関連の日報隠蔽は「非戦闘地域」に反する実態を隠すためであり、南スーダンでのPKO関連の日報隠蔽は「駆けつけ警護」など戦争法による新任務の付与に影響を与えないためだったのではないかと疑われています。戦争法案はうその説明の下に強行採決されたことになり、これらの日報が当時から明らかになっていればイラクや南スーダンへの自衛隊派兵の正当性の根拠が崩れ、法案が成立しなかったかもしれません
 
戦後政治をぶっこわしてしまった安倍政権の5年間(その3)
五十嵐仁の転成仁語 2018年6月16日
官僚を堕落させ議会政治の土台を掘り崩してきた
 このように、安倍政権のもとで、防衛省、文科省、内閣府、厚生労働省、財務省と、相次いで公文書や内部文書の隠蔽や改ざんが明らかになりました。それについて、政府は各省庁に責任転嫁しようとしています。しかし、政府の知らないところでこのような隠蔽や改ざんが行われていたとしたら、そちらの方がもっと大きな問題です。自衛隊という実力組織や官僚が勝手に暴走していたということになるのですから。
 この政権は同じようなことをくり返してきました。権力の座にしがみつくための隠蔽や偽りが横行し、存在しない、廃棄したと言っていた文書が次々に見つかっています。ばれなきゃ良いとでも思っているのでしょうか。
 とにかく、いったん決めたら世論による批判も国会での審議も一切無視し、立憲主義なんかクソ食らえと言わんばかりに暴走してきたのが安倍政権です。その結果、市場経済も官僚機構も立憲主義も議会制民主主義も、戦後政治が築き上げてきた土台がすべてくつがえされてしまいました
 
 政治家は理念や理想を見失って保身に汲々とし、昨年の総選挙では野党第一党が自壊して生き残りを最優先に信義なき再編が行われました。自民党はスキャンダル続出で、政権党としての責任を忘れ、安倍「一強体制」の下で多くの与党議員は口をつぐんできました。
 官僚は国を支えているという矜持を失い、無責任な「ヒラメ集団」に変わってしまいました。官邸主導で「お友だち」を集めた有識者会議などが政策の大枠を決めて各省庁に丸投げされ、省庁はその「下請け機関」となったばかりか、不都合な公文書を隠蔽しつじつまを合わせるためにデータをねつ造した疑いさえあります。
 そのうえ、自民党議員と文科省による名古屋市の中学校での前川前文科次官の授業への圧力、放送法4条の廃止によるテレビへの介入の動き、おまけに、福田財務事務次官のセクハラ・スキャンダルの発覚と辞任などもありました。議員会館近くで現職の幹部自衛官が民進党の参院議員に「おまえは国民の敵だ」と繰り返し罵倒するという事件まで起きています。地獄の釜のふたが開いたような不祥事の連続です。このような惨状を生み出した張本人こそ、安倍首相その人なのです。
 
破綻が明らかになったアベノミクス
 鳴り物入りで安倍首相が始めた「アベノミクス」でした。しかし、そのために市場経済は瓦解寸前になっています。「2年で2%」という物価上昇率を掲げて異次元の大規模金融緩和という「黒田バズーカ」が発射され、年間60兆円をメドに国債が買われてきました。しかし、この目標達成は6回も延期され、いまだに実現していません。
 安倍政権になってから実質賃金の低下が4年連続で止まっていません。「物価が上がれば賃金が上がる」と言っていたのに、実質賃金は第2次安倍政権誕生以前の年間391万円から377万円と14万円も減っています。円安で輸出大企業が儲けて史上最高益を更新していますが、実質賃金は低下し続け、持てる者と持たざる者との分断が強まり、貧困化と格差は拡大し続けています。大企業の利益は内部留保に向かうばかりで、若干の賃上げがあっても下請けや孫請けの中小企業までには回ってきていません。
 
 この失敗を隠すために、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も動員して年間6兆円規模のETF(上場投資信託)購入を続け、「官製相場」によって株高を演出してきました。しかし、実体経済との乖離は拡大し、米国の利上げやトランプ大統領による鉄鋼・アルミニウムへの関税実施方針などもあって株価は乱高下しています。
 また、2015年の個人消費は実質国内総生産(GDP)ベースで306.5兆円と、安倍内閣が発足した12年の308.0兆円から1.5兆円縮小しました。2年連続で個人消費がマイナスになったわけですが、これは戦後初めてのことです。
 家計消費は15カ月連続のマイナスで、比較可能な2001年以降で過去最長を更新しました。内需は停滞し少子化は止まず、「残業代ゼロ」の高度プロフェッショナル制度の導入などを含む「働き方改革」によって過労死増のリスクが高まろうとしています。安倍政権の愚策によって、日本の経済と生活、労働も大きな危機にさらされているのです。
 
むすび
 この5年間、安倍政権は強権的な手法によって経済と国民生活、民主主義をぶっ壊し、政治と行政を歪めてきました。その結果、日本を「戦争できる国」に変え、貧困と経済格差を広げることになりました。この罪は極めて大きく、その責任を取ってもらわなければなりません。
 得意としてきた外交でも破たんが明らかになってきました。日本周辺の国際環境が急変し、南北会談や米朝会談が決まって北朝鮮と中国との首脳会談が行われるなど、朝鮮半島情勢は緊張緩和と非核化、和解と協力の方向にかじを切りつつあります。
 この間、安倍政権は蚊帳の外に置かれたばかりか、頼りにしていたトランプ米大統領によって鉄鋼・アルミの輸入制限措置を課されました。4月の日米首脳会談でも二国間協議を呑まされるなど、蜜月は幕を閉じ「安倍外交」は漂流を始めています。
 
 通常国会では、過去5年間のうちに蓄積されてきた膿が一気に噴出しました。まるで、底なし沼に落ち込んだような不祥事の連続です。過去の不祥事との違いは、不都合な真実や公文書の隠蔽・改ざん・ねつ造・圧力など、政治がよって立つべき土台が腐ったことによって生じたという点にあります。この土台を取り換えなければ、その上にはどのような建物も建てられません。
 しかも、森友・加計学園疑惑の中心には、安倍首相夫妻が位置しています。この点も、これまでの不祥事とは大きく異なっている特徴です。政治改革による小選挙区制の導入、行政改革による内閣人事局の創設、構造改革による構造改革特区や国家戦略特区の設置など、首相官邸や総理総裁の権限を強化する制度改革が進められてきました。強権的な人格をもつ安倍首相と奔放で暴走する昭恵氏がその中心に座り5年間の長期政権となったために忖度と私物化が横行し、政治の堕落と腐敗が極まってしまいました
 
 日本の政治を立て直すために、安倍夫妻にはきちんとした責任を取ってもらわなければなりません。その罪を償うために、安倍首相に大きな代償を払わせる必要があります。そのための最善の策とは何でしょうか。安倍政権の総辞職こそが、その答えにほかなりません。