室井佑月の連載対談10回目は元経産省官僚の古賀茂明氏です。
なぜ官僚は安倍首相をかばい続けるのかという国民の素朴な疑問に対して、現実に安倍官邸からあからさまな攻撃を受けて、官僚を辞せざるを得ない体験を持つ立場から答えています。曰く
「まず安倍首相の特異性から語らなければならない。安倍さんは“目を合わせてはいけない”というたぐいの人なんです。~ だからなるべく、安倍さんとは目を合わせたくない。官僚もそうした安倍首相の特殊体質を熟知しているんです」
安倍首相は執念深い人で、自分に逆らったり批判した人をいつまでも許さずに、自分の権力の及ぶ範囲で報復し続けるところがあるようです。
みずから官僚を体験しその実態に通暁している人による『官僚論』も明解で、なかなか興味深いものがあります。
今回は対談の前編です。
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室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第10回ゲスト 古賀茂明(前編)
室井佑月が元官僚の古賀茂明に聞く!
「なぜ佐川氏や柳瀬氏ら官僚は安倍首相をかばい続けるのか」
LITERA 2018年6月26日
財務省による森友文書改ざん、加計「首相案件」文書と、決定的な不正が次々と発覚したのに、いまも権力の椅子に座り続けている安倍首相。こんなことが許されているのは、疑惑のキーマンだった佐川宣寿・財務省前理財局長や柳瀬唯夫・元首相秘書官ら官僚が、自分に責任を被せられてもなお、「安倍首相からの指示はない」とかばい続けたからだ。
「なぜ官僚たちは、自分たちがこんなに追い詰められても安倍首相をかばい続けるの? 安倍ちゃんなんて、自分たちよりずっと頭も悪いのになんでへこへこ言うことを聞いてるの?」
こんな疑問を抱いた室井が、今回、「教えを乞いたい」と対談相手に指名したのは古賀茂明氏。周知のように、古賀氏は経済産業省の元エリート官僚でありながら、退官後は政治権力や官僚の失政、腐敗を徹底批判し続けている稀有な存在だ。安倍政権に対してもその対米追従政策や原発政策を真っ向から批判し、官邸からの“圧力”で『報道ステーション』(テレビ朝日)のコメンテーターを降板させられた。
「古賀さんなら、霞が関の不可解な言動の理由を一切の忖度なく、解説してくれるよ、きっと」
そう期待して対談に臨んだ室井だったが、実際、古賀氏からは、佐川氏や柳瀬氏ら官僚に対する的確な分析はもちろん、「安倍さんはものすごく怖い人なんです」という安倍政治の本質をつく指摘も飛び出した。
いったい安倍首相の「ものすごい怖さ」の正体とはなんなのか。戦慄さえおぼえるような対談、まずは前編からお届けしよう。(編集部)
●新宿の焼き鳥屋で「I am not ABE」と言ったら、「イエーイ!」と盛り上がった!
室井 昨日、新宿の焼き鳥屋で飲んでいたら、隣に韓国語を喋っている2人組がいて。それで「文在寅大統領は、弱腰とか言われたり、日本ではあまりいいように報道されないけど、どんな悪口を言われても東アジアの平和のためにちゃんとやって立派だと思いました」と日本語で言ったら、たぶん半分だけ伝わって。最後に「I am not ABE」と言ったら、「イエーイ!」と盛り上がりました。古賀さんの「I'm not ABE」運動は続いています。でも、古賀さんって変わってますよね。官僚だったのに反権力で安倍さんを一貫して批判して。ってか、今日ぜひ聞きたかったのはなぜ森友加計問題で安倍首相は追い詰められたはずなのに佐川さん(宣寿・財務省前理財局長)や柳瀬さん(唯夫・元首相秘書官)たち官僚はなぜあんなに必死こいて安倍さんをかばうのか、忖度するのか。元官僚の古賀さんにぜひその心理分析を教えて欲しいんです。
古賀 それにはまず安倍首相の特異性から語らなければならないでしょうね。安倍さんは“目を合わせてはいけない”というたぐいの人なんです。たとえば、街に暴力団がやってきて「俺が仕切るぞ。逆らったらただじゃおかねえからな」という怖い顔をしていたとします。しかし、みかじめ料を払っておけば難癖もつけられないし、この前まであった喧嘩やゴタゴタもなくなる。商売が順調にできるようになったなと町人は錯覚するわけです。ただ、安倍さんが「この店、俺のものにしたいな」「ここに何か作りたいな」となったとき、「そんなのはダメです!」と反対したり抵抗する人がいると、バッサリやられる。だからなるべく、安倍さんとは目を合わせたくない。官僚もそうした安倍首相の特殊体質を熟知しているんです。そもそも安倍首相と闘おうなんて思っている官僚はいないと思いますよ。
室井 安倍首相は官僚にとっては、怖いヤクザみたいなもんなのか。でも、闘おうという官僚がいないなんて。
古賀 そもそも政治家は官僚から見ると“使うもの”なんだから。
室井 でも第二次安倍政権発足以降、「安倍政権がやりすぎたから俺たちがやっつけないと」と思わないんですか。
古賀 もともと官僚は、正義を実現しようだなんて思っていませんから。正義のためじゃなく、自分たち、または自分の省庁の利益のために働いているんです。
「優秀な俺が、タダ同然で働いてやってる」!? 古賀茂明が分析する官僚たちの本音
室井 素朴な疑問なんですけど、官僚って本来、国のため、国民のために働くものでしょ? 官僚自身にそういう意識はないんですか?
古賀 大義名分として表向きはあるし、みんな「自分は国のために働いている」と信じていますけど、でもそれは嘘です。自分でそう信じようとしているけれど、自分たちが本当は何を求め、考えているのかちゃんと自覚できてない。そして本当はみんな、自分のために働いている。
室井 じゃあ公務員の中で、自衛隊の人が一番純粋かもしれませんね。国のためって思っていそうですもの。
古賀 役人を理解するには3つのタイプを分けて考えるとわかりやすいでしょう。ひとつは、消防士型。たとえば自衛隊だと「統合幕僚長になりたい」という野心がある人もいるだろうけど、消防士にそういうのはあまりない。「消防士になって偉くなりたい」「消防士になって金儲けしたい」という人はいないでしょ? 彼らに「火の中に飛び込んで、火を消して、何が嬉しいの?」と聞くと、「それで人の命を助けたり、家を守ったことで感謝されることが嬉しい」と。これが公務員の原点なんです。金や名誉、地位のためでもなく、「ただ国民・市民のために働きたい」というのが働く動機です。そういう人が報酬として何を求めるのかというと、「ありがとう」の言葉で、こういう公務員は市民から「困っているんです。助けてください」というお願いがあると、一生懸命考える。
室井 そんな人たちに私たちの血税、給料をあげたいです。
古賀 役所の窓口の人や、派出所のおまわりさんでもそうですよね。そういう人がいたら本当に市民は助かります。2つめは、中央エリート官僚型です。その典型が財務省のキャリア官僚です。なぜ公務員になったのか。それは「自分が一番優秀で頭がいいことを証明したい」から。小さいときからずっと、小学校で1番、中学校で1番で、高校も優秀な成績で、東大法学部に入れて勉強して優秀な成績を修めて、一番難しそうな「財務省に行くか」と。それで「財務省に入ったら次官を目指すぞ」というタイプです。そういう人たちは、給料は外資系のコンサルタント会社に行ったほうが高いですが、それよりも「すごーい!」と言ってもらうことが嬉しいんです。それが報酬なんです。上から目線でいられれば嬉しいし、「自分が一番」という思いが強烈だから、「自分たちはタダ働きしている」と思っています。
室井 は?
古賀 要するに、「俺たちは一番優秀で、こんなに国のために働いてやっているのに給料は安い」「だから天下りがあって当たり前だ」と。逆に「天下りをなくせという方がおかしい」と、それは不公平だ、という考え方です。特に財務省は強烈で「天下りは自分たちの権利」という感じなんですね。だから市民が「あれやってください」「これやってくれないと困ります」と来ると、どう思うかというと、「タカリだ」「またたかってきた」という思考回路になる。俺たちはこんなにいろいろ考えて、難しいことも調整してやっているのに、それでも、まだ、あれが欲しいとか言うのか!またタカってくるのか! と。
室井 でも柳瀬さんや、佐川さんは正義や真実解明ではなく、自分のために国会で堂々と嘘をついたってことですか?
古賀 官僚はみんなそう思ってますよ。そして、「よくそんな細かいことでぐちゃぐちゃ言ってくるよな」という気持ちが根底にあると思います。「こんなことくらい別にどうってことないよ」と。それは麻生さん(太郎・財務相)も同じでしょう。
室井 わたしたちの税金で食わせてもらっているという感覚はないんですか?
エリート官僚は上から目線で国民を見下してるってことですよね。
古賀 そうです。こんな安月給で働いて「やってる」、という感覚だから、ありがたいなんてこれっぽっちも思っていないですよ。こんなはした金でこれだけ働かされて。俺たちがちょっと本気になればどれだけもらえると思っているんだ、と。
室井 こっちからすると、はぁ!?って言いたくなりますよね。「ありがとうございます」と思うのが普通なのに、「働いてやってる」って。じゃあ3つ目は?
古賀 凡人型です。なぜ公務員になったかというと「食いっぱぐれがないから」。このタイプは多くて、一番大事なのは安定した収入と天下りが確保されていること。そこしか関心がない。
古賀茂明「安倍さんはものすごく怖い人物。執念深くて残虐」
室井 なんか普通の人や民間のサラリーマンと感覚が違いますね。
古賀 だから面倒なトラブルからは逃げるし、新しいことには関わりたくない。財務省の文書改ざんにしても、官僚からみると、「情報は国民のもの」ではなく「俺たちのもの」なんです。
室井 だから、モリカケでも、安倍さんをかばうという以上に、自己保身なんですね。国民なんてみんなバカなんだから、情報を与えてもしょうがないって意識が。ムカムカしてきた。
古賀 国民に情報を与えることは「危ない」とさえ思っているのでしょう。危険物だと。●●●に刃物、みたいな(笑)。
室井 安倍さんのほうが危険物だと思いますけど。しかも柳瀬さんや佐川さんって、みんな一生懸命勉強して東大を出て官僚になり偉くなった人でしょ。それなのに生まれた家柄だけで首相になった安倍さんのコマ、いいなりになって悲しいと思わないんですか?
古賀 確かに柳瀬くんも佐川くんも着々と上り詰めてきた。だけど、ここで安倍さんに逆らったらどうなるかというと、すべてが潰えてしまうわけです。次の人事で「あなたは勇退です」と簡単に切られる。いや、それで済めばまだいいけど。というのも安倍さんはものすごく怖い人物なんです。執念深くて残虐。これが安倍政権の異常性です。
室井 ……古賀さん、それを知っていて歯向かったんですか……!? テレビの生放送(『報道ステーション』)で「Iam not ABE」って……。それとも、歯向かってから残虐だと知ったんですか?
古賀 そうですね。安倍さんの残虐性は最近わかったかもしれない。
室井 怖い! ちょっと、この対談、やめようかな。
(後編に続く)