田中淳哉弁護士が、政府の「第5次エネルギー基本計画」のポイントと問題点を分かりやすく解説していますので紹介します。
同計画についてのパブリックコメントを今月17日まで募集しているので、多くの声を届けましょうと訴えています。
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つれづれ語り(エネルギー基本計画)
田中淳哉弁護士 2018年6月6日
『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」
2018年6月6日付に掲載された第35回目は、「よりよいエネルギー計画を作り上げるために」です。エネルギー政策については、もはや原発を辞めるか続けるか(which)が問題なのではなく、いつ(when)、どのように(how)原発から再生可能エネルギーに移行していくのかが問題になっていると思います。
よりよいエネルギー計画を作り上げるために
1 第5次エネルギー基本計画案の概要
国の「第5次エネルギー基本計画」の案が、先月16日に示された。
今次の基本計画案は、2030年に向けた基本的な方針と、2050年を見据えたシナリオの二本柱からなる。2030年に向けた基本的な方針では、第4次基本計画がほぼそのまま踏襲されているが、再生可能エネルギーについて「主力電源化を目指す」としたのが大きな特徴だ。
2 方針の明確化が生む好循環
世界ではいま、再生可能エネルギーの普及が加速度的に進んでいる。
事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる「RE100プロジェクト」には、アップル、マイクロソフト、BMW、バーバリー、NIKE等、多業種の大企業が加盟している。またバンク・オブ・アメリカなどの大手投資銀行は、化石燃料関連の投融資を削減し、再生可能エネルギーへの投融資を推進する方針を掲げている。
欧米では、国や自治体が明確な方針を打ち出すことで、再生可能エネルギー・送電・電力制御・蓄電などの分野への集中的な投資が促され、巨大な市場が形成されている。その結果、技術革新とコスト低下が進み、さらに投資が促進されるという好循環が出来上がっている。今や太陽光発電や風力発電は、1キロワット時あたり2円を下回り、もっとも安い電源となった。
これに対し日本では、再生可能エネルギーの送電線への接続が拒否されたり、高額な接続料金を要求されたりする問題もあって、コストが高止まりしている。再生可能エネルギーの接続義務を課すことによって送配電網の整備・再構築を促す、形骸化しつつある電力自由化を実効性あるものに転換する等、行政に出来ることは多い。
何よりも、再生可能エネルギーを主力電源に据えることを明確に示すことによって、市場の不確実性が減り、投資が促進されるようになる。基本計画案に「主力電源化を目指す」との文言が入ったことは、その点から大きな意義がある。
ただ、2030年時点での電源比率が22~24%とされているのは、現時点で既に15%に達していることを考えると、低すぎる。投資促進効果を生み出すためにも、もっと意欲的な数値設定が望ましい。
3 原発
他方で2030年時点での原発の電源比率が20~22%とされているのは、あまりにも高すぎる感が否めない。単純計算で、30基程の原発が稼働しないと達成できないから、運転開始から40年以上経過した老朽原発の運転延長に加えて、新規増設や建て替えも予定されているのだろう。
そもそも、原発の運転期間が原則40年間と限定されたのは、中性子の照射によって圧力容器が脆化してしまうことに基づく。「滅多にない例外」として、最大で20年間の運転期間延長が認められているが、これが頻発するようになれば、安全性の面から問題が大きい。
ただ、安全性とともに経済合理性の観点も考慮せざるを得ないという現実もある。メルトダウンした際に溶け落ちた核燃料を受け止めるコアキャッチャーや格納容器の二重化など、ヨーロッパでは導入済みの技術が規制基準で要求されていないのはこのためである。
果たして、安全性を多少犠牲にしてでも原子力発電を維持・継続していくべきなのか、私たちがいま突きつけられているのは、こうした根源的な問いだ。
福島第一原発事故は、過酷事故が発生した場合の被害の苛烈さを知らしめた。事故から7年以上たった今もなお6万5000人もの人々が故郷を離れて暮らすことを余儀なくされている現実は、重い。住み慣れた場所で生活できることのありがたさ。秤の反対側に乗せて釣り合いのとれる価値とはいったい何だろうか。
4 声を届ける
再生可能エネルギーは、「世界一安全な原発」と比べても、圧倒的に安全である。現状ではコストがかかっても、将来的には間違いなく安くなる。国際的な潮流にこれ以上遅れをとらないためにも、大胆な政策転換が求められていると思う。
今月17日まで募集されているパブリックコメントで多くの声を届けて、よりよい内容に練り上げたい。