韓国の文在寅大統領が訪米し、トランプ大統領と北朝鮮の非核化に向けて話し合いましたが、トランプ氏は北朝鮮との対話路線は維持しつつも、北朝鮮の完全な非核化と制裁の解除を一括で合意するという方針を維持すると語ったということです。
額面通りに受け取ればこれは大変な後退で、トランプ氏の真意なのかと疑われます。
一方、金正恩委員長は12日の施政方針演説で、核問題を巡り物別れに終わった2月末の米朝首脳会談では、米側が一方的な要求をしたと批判しました。同時に、トランプ大統領との個人的関係は良好だとし、米国が「正しい姿勢でわたしたちと共有できる方法をみつけるという条件ならば、もう1度首脳会談を行う用意があり、年末までの申し出を待つ」と述べ3回目の米朝首脳会談に意欲を示しましたが、「わが国と人民に関する問題では一切の譲歩も妥協もしない」と述べ制裁に屈しない姿勢を強調しました(東京新聞)。
要するに北朝鮮の非核化は米国との関係で膠着状態に入るということで、日本のメディアがいまこそ日本の出番だと歓迎しているなどは、論外もいいところです。一体 日本に米国と異なるどんなアイディアがあるというのでしょうか。米国は勿論、中・韓・北それにロシアも含めて、そんなことを期待する国は唯の一つもありません、
天木直人氏は、北朝鮮の非核化を進めるためには、もはや文在寅大統領が仲介の労をとる相手は米国ではなく、中国とロシアであるとし、解決手段は米・北・韓・中・ロによる五カ国協議しかないと述べています。
韓国が中国・ロシアと歩調を合わせて北朝鮮の非核化を進めれば、北朝鮮は非核化に応じてくるので、米国も、中・ロと共に北朝鮮との非核化交渉に参加せざるを得なくなるというもので、さすがに慧眼です。
その場合、日本はますます出る幕がなくなりますが、それは当然の成り行きです。
天木直人氏のブログとNHKニュースの記事を紹介します。
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韓国は中国・ロと歩調を合わせて北朝鮮の非核化を進めよ
天木直人のブログ 2019年4月13日
韓国の文在寅大統領が訪米しトランプ大統領と北朝鮮の非核化について話し合った。
それに関する報道を読むと、ひとことでいえば、文在寅大統領の第3回米朝首脳会談の早期開催の要望に対して、トランプ大統領は、北朝鮮との対話路線は維持しつつも、北朝鮮の完全な非核化と制裁解除の一括合意というビッグディール(大口取引)の方針は変えない事が明らかになったということだ。これを要するに、米朝協議は長期戦になるということだ。
その限りでは文在寅大統領の仲介は奏功しなかった。
だから、例によって、日本のメディアは、韓国の仲介役で米朝協議が進むことは遠のいた、よかった、いまこそ日本の出番だと歓迎している。
きょう4月13日の読売新聞に至っては、「韓国は米国と歩調を合わせよ」という見出しで、あからさまに書いている。
北朝鮮が完全な非核化に踏み出すよう、韓国はその重要性を認識し、米国と足並みを揃えなければいけない、と偉そうに注文をつけているのだ。
非核化のカードを小出しにして制裁解除を勝ち取ろうとする金委員長の戦術は変わっていないから、韓国は米国と日本との連携を重視して北朝鮮に転換を迫ることが求められる、と、安倍外交に都合にいいように書いているのだ。
この読売新聞の考えは、朝日新聞も東京新聞も基本的には同じである。
つまり、北朝鮮の非核化は信用できない。北朝鮮に対する圧力(制裁)を緩めてはいけない。韓国は北朝鮮との関係改善に前のめりになるのではなく、日米韓の連携によって北朝鮮に非核化に向けた具体的行動を求めていくべきだというものである。
しかし、それでは北朝鮮の非核化は達成できない。
それどころか、事態を膠着させる事によって、核保有国の北朝鮮を事実上、容認する事になる。
米朝首脳会談が開かれていたちょうどその時、北朝鮮では国会に当たる最高人民会議が開かれ、そこで金委員長は、米国を激しく批判することも、非核化に関する言及も控え、代りに「自力更生」を強調した。
これは金委員長による、明確なメッセージだ。
すなわち、北朝鮮は、核開発より経済開発を優先する事に舵を切ったということだ。
制裁解除に応じてくれるなら非核化をコミットするということだ。
いまこそ国際社会は北朝鮮の非核化に本気で取り組まねばいけない時だ。
仲介役の文在寅大統領はいまこそ大きく舵を切るべきだ。もはや仲介の交渉相手は米国ではない。中国とロシアだ。
つまり読売新聞の言う、「韓国は米国と歩調を合わせて」北朝鮮の非核化を進めるのではなく、「韓国は中国・ロシアと歩調を合わせて」北朝鮮の非核化を進めるのだ。
そうすれば、北朝鮮は非核化に応じてくる。
そうすれば、米国は、中国・ロシアと北朝鮮の非核化交渉に参加せざるを得なくなる。
まさしく、仲介国の韓国を入れた五カ国協議の実現である。
もはや米国が非核化交渉のすべてを握る国ではなくなった。
もはや金正恩委員長もトランプ大統領だけと協議しても早期の制裁解除は困難だと分かった。
五カ国協議しかないのだ。
今度の米韓首脳会談が教えてくれた事、それは五カ国協議に向けた不可逆的な進展である。
それこそが北朝鮮非核化という大事業の最短距離なのだ。
ますます日本出る幕はないと言う事である(了)
北朝鮮 キム委員長が演説 「3回目の米朝会談 行う用意ある」
NHK NEWS WEB 2019年4月13日
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長は、最高人民会議で演説し、アメリカが非核化で一方的な要求をしていると批判した一方で、「正しい姿勢でわたしたちと共有できる方法をみつけるという条件ならば、もう1度、首脳会談を行う用意がある」と述べ、3回目の米朝首脳会談に意欲を示しました。
北朝鮮の国営メディアは13日朝、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が12日に開催された2日目の最高人民会議で演説したと伝えました。
演説の中でキム委員長は、物別れに終わったベトナムの首都ハノイでの2回目の米朝首脳会談に関連して、「わたしたちが対話と協議を通じた問題の解決を重視しているのはもちろんだが、一方的な要求をするアメリカの対話方法に興味はない」と述べ、完全な非核化まで制裁を解除しないというアメリカの姿勢を批判しました。
一方で、キム委員長は「トランプ大統領との個人的な関係はすばらしい」と強調し、「アメリカが正しい姿勢でわたしたちと共有できる方法をみつけるという条件で、3回目の首脳会談を行おうというならば、わたしたちとしても、もう1度行う用意がある」と述べて、米朝首脳会談に意欲を示しました。
キム委員長は「ことしの末までは忍耐心を持って、アメリカの勇気ある決断を待つ」と述べました。
キム委員長は、演説で2回目の米朝首脳会談が物別れに終わった責任はアメリカにあると主張し、譲らない姿勢を強調しましたが、アメリカも北朝鮮の完全な非核化まで制裁を解除しないとする立場を変えておらず、3回目の首脳会談の開催にむけた調整は難航が予想されます。
キム委員長「アメリカとの対じは長期化する様相」
演説の中で、キム委員長は、アメリカなど国際社会からの制裁について「アメリカは制裁にしがみつき、先に武装解除させようとしている。アメリカが制裁解除を条件にして、われわれの利益に反する要求をしている状況なので、アメリカとの対じは長期化する様相で、制裁も続くことになるだろう」と述べて、キム委員長みずからも、制裁解除は容易でないという見通しを示しました。
そのうえで「制裁はわれわれに対する耐え難い挑戦であり、決して許せない。長い間続いた核の脅威を核で終わらせたように、敵対勢力の制裁はみずからの力で一掃しなければならない」と述べて、完全な非核化まで制裁を解除しないとするアメリカに対抗していく姿勢を強調しました。
「南北は同民族」を繰り返し強調
また、キム委員長は演説で、韓国に対して「すでに中断することになっていたアメリカとの合同軍事演習をうわべだけ変えて再び強行している。アメリカの時代錯誤的な傲慢と敵視政策を根本から終わらせなければ、われわれとの関係の前進や平和は期待できない」と述べて、規模を縮小しながらもアメリカとの軍事演習を続けていることを批判しました。
そのうえで、韓国政府が米朝間の対話を促していることについて「仲介者や促進者としてふるまうのではなく、民族の一員として民族の利益を守る当事者になるべきだ。民族共同の利益を侵害している外部勢力に依存した政策を終わらせて、すべてのことを、われわれとの関係改善に傾けなければならない」と述べました。
演説の中で、キム委員長は南北が同じ民族であることを繰り返し強調していて、アメリカに対して制裁解除などをさらに強く働きかけるよう、ムン・ジェイン(文在寅)政権に促すねらいがあるものとみられます。