2019年4月1日月曜日

米朝会談中断の原因はトランプ氏側の事情にあった(天木直人氏)

 ロイター通信29、先の米朝首脳会談が2日目に突然決裂したのは、トランプ氏が金正恩に「北朝鮮の核インフラ、化学・生物兵器計画、関連する軍民両用の能力、弾道ミサイル、発射施設、関連施設の完全廃棄」を要求する、強硬な文書を渡したためであると報じました。
 それは英語とハングルで書かれた一枚の文書で、何のことはない、米朝宥和に反対している強硬派のボルトン大統領補佐官がかねてから主張していたことを文書化したものでした。
 
 イラクのフセイン氏やリビアのカダフィー氏の末路を見ている金正恩氏がそんな要求を受け入れるはずがありません。一体何のための第一回会談であり、その後の予備折衝であり、そして第二回目の会談であったのかと、不思議な思いがしたものです。
 端的に言えばトランプ氏はそこまで愚かな人間なのかということです。
 
 31日、天木直人氏がロイター通信の記事をどう解すべきかについてのブログを発表しました。それはそうした全ての疑問を解消するもので、「快刀乱麻を断つ」と形容するのが相応しいものでした。
 ロイター通信の記事(東京新聞)と併せて紹介します。
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全ての核、引き渡し要求 トランプ氏が正恩氏に文書
東京新聞 2019年3月30日
【ワシントン=共同】ロイター通信は二十九日、ベトナム・ハノイで開かれた米朝首脳会談が決裂した二月二十八日、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に、全ての核兵器と核物質を米国に引き渡すことや関連施設の完全廃棄などを求める文書を渡したと伝えた。米政府高官はトランプ氏が初めて金正恩氏に「(米国が求める)非核化の定義を明確に示した」と説明した。
 核兵器などの米国への搬出要求は核拡散を防ぐ狙いもあるとみられる。
 
 トランプ氏が渡した文書は英語とハングルで書かれた一枚で「北朝鮮の核インフラ、化学・生物兵器計画、関連する軍民両用の能力、弾道ミサイル、発射施設、関連施設の完全廃棄」を求めた。
 トランプ氏は完全な非核化と対北朝鮮制裁の全面解除を内容とする「大きな取引」で合意することを目指して提示したという。北朝鮮は非核化と制裁解除を段階的に進めるよう求めている。
 文書は強硬派のボルトン大統領補佐官がかねて主張していた方式に沿う厳しいもので、北朝鮮が反発したもようだ。トランプ氏は北朝鮮が受け入れなかったため会談を打ち切り、予定した昼食会も中止した。
 一方、トランプ氏は三月二十九日、南部フロリダ州で記者団に「金正恩氏との関係は非常にいい。互いを理解している」と強調、二十一日に財務省が発表した対北朝鮮追加制裁を「やめさせようと決めた」と述べた。制裁が実際に取り消されたかどうかは不明だが米朝対話への意欲を失っていないことをアピールした。
 
 
ハノイ会談の中断の原因はトランプ大統領にあった動かぬ証拠
天木直人のブログ 2019-03-31
 今頃になって、2月のハノイの米朝首脳会談でトランプ大統領が金正恩委員長に対して、すべての核兵器と燃料棒を米国に引き渡すよう要求する文書を手渡していたという報道をロイターが流した。
 そして、それがあたかも、米国は完全非核化の方針を変えていなかった、それを読めなかった北朝鮮は会談を決裂せざるを得なかった、といわんばかりの報道につながっている。
 
 しかし、私はそういう見方をしない。
 それどころか、このニュースで私はますます確信を強めた。
 やはりあの中断は。元側近の弁護士の議会証言での裏切りに慌てたトランプが、首脳会談を中断して帰国せざるを得なかったということだ。
 そのアリバイ作りとして、ボルトンが起案した完全非核化を求める文書を手渡して、それを飲めない金正恩に会談決裂の責任を金正恩に押し付けたのだ。
 もちろん、トランプは金正恩に直接伝えているはずだ。
 いまは合意をするタイミングではなくなった。だから米国の原則的立場を伝えていったんは中断せざるを得ない。しかし、ロシア疑惑を乗り切り、政治的基盤を強化した上で、必ず三度目の首脳会談を行うつもりだと
 
 だからこそ金正恩はトランプを批判せず、ポンぺオ、ボルトンを批判したのだ。
 だからこそ、トランプは金正恩を批判せず、政府が決めた北朝鮮への追加制裁を自らの権限で撤回するよう命じたのだ。
 そもそも、最初からトランプが金正恩に完全非核化を求めるつもりなら、2回目の首脳会談などするはずがない。
 そもそも、最初からトランプの要求が完全非核化しか選択の余地がないことが分かっていたら、金正恩は会談の冒頭であれほど楽観的な発言をしなかったはずだ。
 間違いなく、段階的非核化と部分的制裁解除で合意のシナリオは出来ていた。
 しかしロシア疑惑に関する元側近の裏切り議会証言で、トランプは中断せざるをえなかった。
 トランプは、使うはずのなかったボルトン起案の伝言を、土壇場で使わざるを得なくなったということだ。
 
 それから一カ月たって、トランプはロシア疑惑を乗り切り、勢いを取り戻しそうだ。
 このままいけば、トランプは間違いなく北朝鮮の非核化に向けて動き出すだろう。
 そしてその時は、米朝に加え、韓国、中国、ロシアを含めた5カ国による協議になるだろう。
 なぜなら、米国は、何もせずに、このまま北朝鮮の核保有を認めるわけにはいかないからだ。
 だからと言って、非核化に応じないからといって北朝鮮を攻撃する選択は米国にはないからだ。
 ロイターの通信の報道は、その事を教えてくれたのである(了)