B型肝炎は、国が1988年まで行って来た集団予防接種の注射器の使い回しが原因で、膨大な人たちが感染しました。
福岡高裁は15日、20年以上前に慢性肝炎になり、いったん治まった後に再発した患者2人が国に損害賠償を求めた控訴審判決で、国に1250万円ずつ計2500万円の賠償を命じた一審・福岡地裁判決を取り消し、民法の定める除斥期間20年(賠償を請求する権利が20年で消滅)が経過したとして、原告側の請求を棄却しました。
原告は、肝炎が20年未満の期間内に「再発したことで」「質的に新たな被害を被った」ものなので請求できるとし、一審で認められました。ところが福岡高裁は、「再発した慢性肝炎が、以前のものと質的に異なるとはいえない」として、初発が除斥期間の起点となり賠償を求める権利は消滅しているとしました。
除斥期間内であれば損害賠償額は1250万円ですが、期間外とされれば治療中であれば300万円、治癒状態であれば150万円に減額されます。
慢性肝炎は必ず再発するものではない以上、再発した時点が除斥期間の起点になると考えるのが普通ではないでしょうか。
厚労省の訴訟対策室は「国の主張が認められた。今後も、B型肝炎ウイルスの肝炎被害の対策を推進してまいりたい」と白々しいコメントを出しました。
20年以上前に慢性肝炎を発症し、その後再発した患者約90人が、他の慢性肝炎患者と同額の給付を受けられないため、全国13の地裁で係争中です。高裁の判決は今回が初めてです。
小宮和彦弁護団長は「極めて冷酷で不当な判決だ」と述べました。上級審に進むほど判決が国の判断に近づいていくのは情けないことです。
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B型肝炎の給付金減額 患者側が逆転敗訴 福岡高裁
NHK NEWS WEB 2019年4月15日
B型肝炎の患者が発症から20年を超えると国の給付金が減額されるのは不当だとして、再発した時期を基準にすべきだと訴えた裁判で、福岡高等裁判所は「再発した肝炎が以前と異なるとはいえない」として、1審とは逆に訴えを退ける判決を言い渡しました。
国によるB型肝炎の救済策では、慢性肝炎になった患者には1250万円の給付金が支払われますが、民法では賠償を請求する権利が20年で消滅することを踏まえ、発症から20年を超えると最大で300万円に減額されます。
福岡県の60代の男性2人は、幼いころの予防接種で注射器を使い回されたことによりB型肝炎ウイルスに感染し、20年以上前に慢性肝炎を発症しましたが、再発したのは20年以内で、その時期を基準にすべきだと訴えました。
1審の福岡地方裁判所は訴えを認め、国に対して1300万円余りをそれぞれに支払うよう命じ、国が控訴していました。
15日の2審の判決で、福岡高等裁判所の山之内紀行裁判長は、「慢性肝炎は、肝機能が良くなったり悪くなったりするのを繰り返すことが多い」と指摘しました。
そのうえで「一度、症状が治まっても、B型肝炎ウイルスへの反応であることに変わりなく、再発した慢性肝炎が、以前のものと質的に異なるとはいえない。賠償を求める権利は消滅している」として1審の判決を取り消し、訴えを退けました。
原告側 上告の意向
判決を受け、小宮和彦弁護団長は「極めて冷酷で不当な判決だ。全国には同様の患者もいるので、この判決に屈することなく、損害賠償の請求権が20年たつと消滅する『除斥』を適用しないよう求めていきたい」と述べ、最高裁判所に上告する意向を示しました。
原告の1人で福岡市に住む平野裕之さん(60)は「きょうでこの裁判は終わるものだと信じて疑いませんでした。判決を聞いて、そんなバカなと思いました。裁判所に対して、かなり失望したのが本音です」と話しました。
もう1人の原告の60代の男性は「いい判決を聞けると思ったので本当に残念です。裁判所に言いたいことは、いいかげんにしてほしいということ以外ありません。われわれの苦しみを知らないのかと思いました。最高裁判所では人間味のある判決をお願いしたいです」と話しました。
厚労省「国の主張認められた」
判決について、厚生労働省B型肝炎訴訟対策室は「国の主張が認められたと承知している。今後も、集団予防接種などの注射器の連続使用によるB型肝炎ウイルスの肝炎被害の対策を推進してまいりたい」とコメントしています。
B型肝炎の経緯と訴訟
B型肝炎は、ウイルスに感染すると慢性肝炎や肝硬変、さらに重症化すると肝臓がんになって死に至る場合もあります。
厚生労働省によりますと、国内には、昭和23年から昭和63年までの間に行われた集団予防接種の注射器の使い回しによって、最大で40万人以上がB型肝炎ウイルスに持続感染したとされています。
患者などが起こした裁判では、平成23年、国と原告団が和解の基本合意を結び、国の給付金は、肝臓がんや重い肝硬変などで3600万円、慢性肝炎の場合は1250万円などとなり、裁判で給付対象だと認められれば和解を行うことになっています。
一方、基本合意では、慢性肝炎の発症から20年が経過した患者については、給付金を最大で300万円に減額するとされました。
民法で損害賠償を請求できる権利が20年経過すると消滅するとされているからです。
このことをめぐって、全国各地で訴えが起こされていて、今回の裁判では、再発から20年以内の場合、裁判所が損害が発生した基準を、1度目の発症と捉えるのか、再発した時点とするのか判断が注目されていました。