2019年4月19日金曜日

「I LO創設100年」(田中淳哉弁護士の“つれづれ語り”)

 今週の田中淳哉弁護士の「つれづれ語り」は「I LO創設100年」というタイトルです。
I LO(国際労働機関)」はときどき耳(や目)にはしますが、普通の人には殆どなじみがないのではないでしょうか。意外なことに日本は常任理事国(10か国】で駐日事務所も持っているということです。
 1919年の第1回I LO総会で採択された第1号条約は、労働時間18間、週48時間(現在は40時間に)に制限した条約でした。日本は条約の採択にあたり、後進国だからとして、日本についてのみ基準を緩和する条項(第9条)を挿入させたのですがその条約すら批准しなかったということですところが100後の現在も日本は同条約を批准していません。それどころかI LO全条約189のうち、わずか49しか批准していないということです。常任理事国として恥ずかしくないのでしょうか。
 
 興味深い話でもっといろいろ知りたいところですが、連載コラムのため字数枠が決まっているのが残念です。
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つれづれ語り(ILO創設100年)
田中淳哉弁護士 2019年4月17日
『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」
2019年4月17日付に掲載された、第57回は、「ILO創設100年」です。
最近、重要な法律や制度の改正・変更が数多くなされているせいか、近視眼的な思考に陥りがちだったのですが、このコラムを書くなかで、原点や原理・原則に立ち返ったり、長いスパンで考えたりすることの大切さを改めて感じました。
 
なお、今年6月のILO総会でハラスメント禁止条約が採択される見込みですが、日本はこの条約についても批准する意思を表明していません。4月25日に日本労働弁護団の主催で条約の批准を求めるイベントが開催されますので、よろしければご参加ください。
 
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ILO創設100年
 
永続した平和を確立するために
今年は、ILO(国際労働機関)の創設から数えてちょうど100年目にあたる。
ILOは、第一次世界大戦の終結後、恒久的な平和体制の構築を模索する流れの中で創設された。ILO憲章では、「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」と謳われている。ここで言う「社会正義」とは、貧困と不公正の根絶であるとされており、ILOは、労働者の生活状態や権利保障を改善・充実させることを通じて、それらを実現しようとしている
 
条約と勧告
ILO条約は、労働条件に関する国際的な最低基準を定める。「条約」を批准した国は、条約を遵守する義務を負うから、その内容に適合する様に国内法を整備することになる。条約の批准国を増やすことによって、労働条件の国際基準を底上げすることができる訳だ。
勧告」は、条約よりも高い水準の努力目標を掲げたり、条約実施の細目を定めるものだ。条約の実施・適用が十分でない批准国に対して、条約の遵守を求める内容の勧告を出すこともある。
 
100年前の条約すら
ILO条約は現在189あるが、そのうち日本が批准しているのは、わずか49に過ぎない。つまり全体の4分の1程度しか批准していないということだ。この49という数字は、OECD諸国の平均批准数75と比べて明らかに少ない。
未批准の条約の中には、中核的労働基準を定めているために全加盟国に批准が要請されるものも含まれている。
未批准条約で象徴的なのは、1919年の第1回ILO総会で採択された第1号条約だ。これは労働時間について、1日8時間、週48時間の制限を定めた条約である。日本は、同条約の採択にあたり、後進国としての特殊性を主張して、日本についてのみ例外的に基準を緩和する条項(第9条)を挿入させた。しかし、特別扱いを認めたその条約すら批准しなかった。日本は、その後著しい経済発展を遂げたが、条約の採択から100年が経過した現在に至ってもなお、同条約を批准していない
 
客観的な物差しを
先般、働き方改革関連法が成立し、極めて不十分ながら、「同一労働同一賃金」や労働時間の上限規制に関する規定が盛り込まれた。
しかし、同一労働同一賃金の原則は、1919年に作られたILO憲章の前文において、その承認が「急務である」とされているから、今回の法改正は「100年遅れ」ということになる。また、労働時間の上限規制とともに導入された高度プロフェッショナル制度は、労働時間規制の対象外となる労働者を新たに生み出す点で、「100年以上の遅れ」ということになろう。
 
聞こえのいいキャッチコピーに繰り返し触れていると本質を見失いがちになる。客観的な物差しを用いて実情をリアルに把握することの大切さを、国際機関の節目の年に改めて感じた。