2019年4月14日日曜日

日米貿易協定交渉 米の要求をほぼ丸呑みする危険

 しんぶん赤旗が、15日から始まる日米貿易協定交渉における米国側の構想を克明に報じました。
 米国は、まずは昨年末のTPP11と今年2月の日欧EPAの発効によって後れを取った農産品の関税を、早急にTPP11や日欧EPA以上に有利に設定し、輸出量の回復を目指します。
 米国はTPP交渉から離脱する前には、コメ、牛肉、豚肉、乳製品で計4000億円対日輸出を増やすという目算を立てていたので、当然その実現に向けて圧力を掛けてきます。
 安倍政権は本番である自動車の輸出規制を少しでも軽減させるために、農産物に関する要求は簡単に飲んでしまうだろうと見られています。
 それによる農家への打撃は計り知れませんが、それだからと言って自動車輸出額の「不均衡」の是正を手加減するとは思われません。
 恐るべきはそれらはまだ序の口だという点です。
 
 米通商代表部昨年1221公表した日米貿易協定の「交渉目的の概要」22項目を列挙しています。それは北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で取り決めた米国・メキシコ・カナダ協定の構成に倣っているということで、米国が同じアングロサクソン民族のカナダに要求したことを、日本に対しては手加減するなどということはあり得ません、
 
 22項目は末尾に一覧表で示されていますが、要するに当初米国が参加した中でのTPP交渉時に、識者が危険と指摘した内容がすべて盛り込まれています。ISD条項。為替条項をはじめ、全てのサービスなどに係わる事柄です。
 
 一体「TAG(物品の関税に限定される)」という国内向けの解説はどうなったのでしょうか。そんな面影は全くなく、日本を貪り尽くすための遠慮会釈のない要求が満載されているだけです。国民をだました政府は今こそ自らの政治生命を懸けて米国と戦うべきなのですが、そんなことは安倍政権に関してはないものねだりです。
 
 そもそも、昨年12月1日(日本時間)の日米首脳会談で、「日米二国間貿易交渉FTA」の開始を一も二もなく同意させられた安倍首相に全ての責任があります。
 交渉係にさせられた茂木氏こそいい面の皮で、安倍首相が内弁慶であるのは疑問の余地はありませんが、どうしてこんなに不甲斐ないのでしょうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
始まる日米貿易協定交渉 米の要求で市場差し出す危険 TPPも日欧EPAも超えて
 しんぶん赤旗 2019年4月13日
 日米貿易協定交渉の初会合が15~16日、ワシントンで開かれます。「米国第一」を掲げ、貿易赤字の削減を前面に押し出し、自動車への追加関税を脅しに譲歩を迫るトランプ政権との交渉は、米国の要求のままに、日本市場を差し出し、特に農産物輸入をいっそう拡大する結果をもたらしかねません。また、米国は広範囲の交渉目的を掲げており、物品貿易協定(TAG)交渉だという安倍晋三政権のごまかしは通用しません。 (北川俊文)
 
 パーデュー米農務長官は11日、「農産品をめぐる暫定合意を早期に結ぶことを望む」と述べ、日米貿易協定交渉で農産物の交渉を先行させるよう求めました。9日にも「環太平洋連携協定(TPP)と同じか、それを上回ることを望んでいる」と、TPPを超える水準の関税撤廃などを求めました。
 
“高関税”を指摘 「まず農業分野」
 米通商代表部(USTR)は3月29日、2019年の外国貿易障壁報告書を発表しました。日本の項では、18年9月26日の日米首脳会談で合意した日米貿易協定交渉に言及するとともに、前年とは記述の順序を変えて、かんきつ類・乳製品・加工食品・他の農産物の“高関税”を各論の冒頭に置きました。上院財政委員会で3月12日証言したライトハイザー通商代表も、「まず農業分野に取り組まなければならない」と強調していました。
 
 USTRが3月1日提出した「2019年貿易政策課題」は、課題の一つに日本との貿易交渉を掲げ、「関税・非関税障壁に対処し、より公平でバランスのとれた貿易を実現する貿易協定」を目指すとしました。同時に、「一部の重要な競争相手国が最近、日本と自由貿易協定を結び、米国の輸出企業より強力で、ますます大きな価格優位性を得ている」と指摘。米国を含まない11カ国のTPP11や、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(日欧EPA)の発効で、日本市場で他の諸国より不利になることへの警戒感を示しました。
 実際、18年12月のTPP11発効後、19年1月の日本の牛肉輸入量が前年同月比41・9%も急増すると同時に、占有率ではオーストラリアとニュージーランドが上昇し、米国が下落しました。
 
自動車輸出制限 「数量規制」案も
 日米交渉初会合を前に3日、ワシントンで開かれた米業界団体や元政府高官らの討論会では、TPPを超える市場開放を求める声が相次ぎました。全米豚肉生産者協議会の幹部は、TPP11や日欧EPAの発効で貿易条件が悪化すると懸念。TPPの市場開放水準を対日要求の“起点”とする一方で、早期決着が必要だと主張しました。TPP11に加わらない米国は、対日輸出でオーストラリアやニュージーランドなどより高関税を余儀なくされるからです。また、日欧EPAでは、日本は乳製品など一部品目でTPPを超える譲歩を行っています。
 
 米自動車政策評議会の幹部は、対日貿易赤字の8割を自動車分野が占め、対日輸出台数が少ない現状を「異常事態」と指摘。貿易に有利な通貨安誘導を防ぐ措置に加え、日本の流通制度の規制緩和でTPP以上の成果を求めました。カトラー元USTR次席代表代行は、米国が自動車の対米輸出台数を制限する「数量規制」を日本に求めるとの見方を示しました。
 
 交渉では、日米がすでに合意したTPPを前提に、TPPも日欧EPAも超える譲歩を迫られることになります。交渉担当の茂木経済再生担当相はすでに、一部品目でTPP水準を超えて譲歩する可能性も「否定しない」としています。
 
USTR米通商代表部が列挙 交渉目的22項目
 USTRが昨年12月21日公表した日米貿易協定の「交渉目的の概要」は、22項目を列挙しました。22項目は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を経て署名した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の構成に似ています。19年貿易政策課題は、USMCAを「将来の協定の新たな範例」と位置付けています。トランプ政権は、USMCAをひな型にした日米貿易協定を求めるつもりです。
 
 USMCAは、細かくて厳しい原産地規則に一つの特徴があります。原産地規則とは、協定で優遇する製品の生産地を定めるルールです。19年貿易政策課題は、USMCAの原産地規則の前提は「物品を締約国で積極的に生産しない限り、企業は貿易協定の恩恵を受けるべきではない」ということだと強調しています。
 日米貿易協定の「交渉目的の概要」も、「協定の恩恵が真に米国と日本で製造された製品にもたらされるよう保証する原産地規則を創出する」「原産地規則が締約国、特に米国での生産を奨励するよう保証する」としています。米国で販売するには、企業は、米国での生産を増やし、米国製部品をできるだけ多く完成品に組み込まざるを得ません。
 
 USMCAはまた、この種の協定としては異例の為替操作防止条項を組み込みました。通貨切り下げの操作や為替レート目標への誘導を行わないという約束です。他国の為替操作で、米国が不利益を被っているという主張に基づくものです。
 さらに、メキシコやカナダが中国または他の“非市場経済国”と自由貿易協定を交渉する場合、米国に通知しなければなりません。その際、米国は、中国などと交渉する国に対するUSMCA上の義務を終わらせる選択肢を持つとされます。米国か中国かの二者択一を迫るわけです。
 このようなUSMCAをひな型にして、日米貿易協定交渉は、TPPや日欧EPAを超える水準の市場開放を迫られるものとなります。その結果は、「米国第一」に基づくトランプ政権の対日要求を丸のみにし、日本の経済主権や食料主権を脅かすことになります
 
USTR米通商代表部が示した22項目
 
 
1
物品貿易
 
12
国有・国家管理企業
 
2
衛生植物検疫措置
 
13
競争政策
 
3
税関・貿易円滑化・原産地規則
 
14
  
 
4
貿易の技術的障壁
 
15
  
 
5
良き規制慣行
 
16
腐敗防止
 
6
透明性・公表・行政措置
 
17
貿易救済
 
7
通信・金融サービスを含むサービス貿易
 
18
政府調達
 
8
物品・サービスのデジタル貿易と越境
 
19
中小企業
 
  データ移転
 
20
紛争解決
 
9
  
 
21
一般規定
 
10
知的財産
 
22
  
 
11
医薬品・医療機器の手続き的公正性