技能実習制度で来日した外国人が日本の職場で不当に差別され、極めて安い賃金で働かされている実態が、昨年 野党議員により取り上げられて大問題になりました。
外国人がそうした劣悪な職場から逃げられないのは、彼らが出国する際に事務手続きを請け負う現地の悪質ブローカーから、数年分の年収に相当する手数料を借金の形で背負わされているためです。
政府はそうした悪質ブローカーを排除するために、労働者を送り出す相手国との間で協力覚書を3月中に交わすと説明しましたが、実際には改正法が施行されて1月近くが経つのに、まだ9カ国中、5カ国としか締結できていません。しかも合わせると全体の7割の労働者を送り出している肝心のベトナムと中国とは締結が出来ていません。
それでも政府は労働者の受け入れを最優先させ、労働者保護策が整わないまま見切り発車しました。
政府が覚書の締結にどれほど努力したのか分かりませんが、それが不調であっても経済界の要望だけは優先させるというのでは事態の改善は望めません。
東京新聞の記事を紹介します。
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<働き方改革の死角>外国人特定技能制度1カ月 悪質仲介者の排除進まず
東京新聞 2019年4月27日
4月1日から始まった外国人労働者受け入れのための特定技能制度で、悪質なブローカー(仲介者)を排除するため送り出し国と交わす協力覚書が開始後1カ月近くたっても9カ国中、5カ国としか締結できていないことが明らかになった。政府は26日、カンボジア人女性2人について制度開始以来初めて特定技能の資格で在留することを認めたと発表しており、同制度は労働者保護策が整わないままの見切り発車の様相が鮮明だ。(矢野修平)
従来の技能実習制度などでは送り出し国の仲介者が多額の手数料を徴収、実習生が重い借金を抱えて来日することが劣悪な職場でも逃れられない元凶となっている。
覚書は、相手国との連携で悪質仲介者を排除する目的。政府は「三月中に締結すべく交渉している」(山下貴司法相)と制度開始までに締結を完了させると説明してきた。だが、これまで結んだのはミャンマー、カンボジアなど五カ国だけ。技能実習制度では全体の四割の十万人が在留するベトナム、三割の八万人がいる中国など主要送り出し国とは結べていない。政府は未締結国からも受け入れる方針で既に試験や技能実習生からの資格転換手続きを始めている。
覚書の効果自体も疑問視されている。日本政府は情報提供するだけで実際に取り締まるかは相手国次第。
政府は技能実習制度でも同様の覚書を各国と結んでいるが、悪質ブローカーはまん延している。
本紙が入手した、年初に技能実習生として来日した二十代のベトナム人女性が母国の仲介会社と交わした誓約書では、同国の平均年収の三年分にあたる計八十五万円の手数料支払いを約束したと記されている。一方、日本側への申請書に仲介手数料として記されたのは約三十六万円と実額の半分未満。ベトナム政府は仲介手数料の上限を三千六百ドル(四十万三千円)としており、仲介会社が違反を隠すため虚偽の額の記入で「過少申告」したとみられる。
現行の覚書では日本政府が申請の真偽を確認する手段はなく、特定技能でも同様の手法で入国するケースが出てきそうだ。
<特定技能> 外国人労働者拡大のため新設された在留資格。建設や外食など人手不足が深刻な14業種が対象。「1号」取得には一定の職業知識と日常レベルの日本語能力が必要。家族帯同は認められず、在留期限は通算5年。家族が帯同できる「2号」は熟練技能者対象。政府は5年間で約34万5000人の外国人受け入れを想定。福島原発の廃炉作業に従事させる東京電力の計画も明らかになっている。
◆外国人受け入れ 残る悪質仲介「劣悪労働、借金で逃げられず」
「豊かな日本に憧れていたのにひどい環境で家畜のように働かされイメージは変わった」-。外国人労働者から多額の仲介手数料を徴収する悪質ブローカーの排除策で各国との覚書締結が進んでいないことが明らかになった。技能実習生として来日した三十代のベトナム人女性ファン・リエンさん(仮名)が劣悪な環境から逃げられなかったのも手数料による借金の足かせのためだった。
本国では短大を卒業、大手企業で中国語通訳を務めていたファンさん。二〇一四年から大阪府内のゴム製品メーカーで技能実習生として働いた三年間は、想像以上に過酷だった。
午前八時から午後九時まで工場で十三時間、ゴム製品を検査。寮に帰ってもプラスチック製品をくりぬく作業を「内職」としてやらされる。作業が終わるのは午前一時だ。毎日十七時間働いて月約二十万円程度。時給換算で四百円台と最低賃金の半分未満だ。一室に技能実習生の同僚六人で住まわされ、工場の油で皮膚病になっても休日まで病院に行かせてもらえない。社長に苦情を言うとどなられた。「嫌ならベトナムへ帰れ」
それでも我慢したのは現地仲介会社に約百万円を払って来たためだ。平均月給二万円程度の同国では年収四年分に相当する。銀行などへの借金で工面しており、「強制帰国させられたら借金が返せない。それが怖くて我慢するしかなかった」と悔しそうに振り返る。ファンさんは今、最低賃金未満の分を未払い賃金として払わせようと弁護士と共に会社と交渉している。
日本での労働は条件は過酷でも自国より相当高い賃金が稼げるのは事実で経済界などから「外国人が自主的に来るなら問題ない」という意見もある。
しかし、外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士は「外国人を劣悪条件で働かせることを容認すれば最低賃金など労働者を守るルールが骨抜きになり、日本人の労働条件も落ちていく」と指摘。ブローカー排除のため政府が直接、あっせん業務を担う韓国の例などを参考にした抜本改善策が急務と主張する。 (矢野修平)