2019年4月16日火曜日

16- 藤井聡 消費税を凍結・減税すべし! (日刊ゲンダイ) バックナンバー

 日刊ゲンダイ週1連載記事「藤井聡 消費税を凍結・減税すべし!」の バックナンバー<1> ~ <> をまとめて紹介します。
 消費税増税が全くの間違いであることを分かりやすく説明しています。
 
 9日の記事「消費増税待ったなし!は全くのデタラメは、シリーズ <4>の「消費増税待ったなし!というデタラメを叫ぶ愚か者」でした。以後は <5> 以降を順次紹介します。
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藤井聡 消費税を凍結・減税すべし!  
<1> 今年10月の消費増税など論外中の論外である
日刊ゲンダイ 2019年3月14日
 わが国は今、年々その凶暴さを拡大し続けている自然災害や同じく年々深刻化しつつある諸外国との外交問題度、そして、北朝鮮や中国等の周辺諸国の脅威など様々な危機に直面している。しかしそれでもなお、現時点の我が国日本において、何よりも緊急に対処せねばならない最大の危機は、「2019年10月の消費増税」問題である。
 この問題を日本国民が気付かず、「消費増税を試みる勢力」の思惑通りに消費増税が敢行されてしまえば、日本経済は、中長期的に、あらかたの国民が想像だにしていない最悪の悪夢的状況に至ることとなる。結果、貧困はさらに蔓延し、格差はさらに拡大し、国際社会における日本のマクロ経済力は激しく衰弱すると同時に、税収が下落しかえって国家財政が「悪化」していくこととなろう。
 
 筆者はこうした危機感から、消費増税問題について論ずるシリーズ「消費増税を凍結・減税すべし!」を始めることとした。
 筆者がなぜ、消費増税が最悪の悪夢をもたらすであろうことを確信しているのかについては、このシリーズで論ずる一つ一つの議論をご覧いただければ、理性的な方々ならば誰もが、深くご理解いただけるものと考えている。ついては、是非、本シリーズを毎週、お目通しいただきたいと思う。
 なお、筆者は昨年の10月に、『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』(晶文社)を出版している。本シリーズでは、この書籍で紹介したさまざまな議論に加えて、最新のデータや議論をご紹介する事を通じ、今、消費増税の延期・凍結、そして減税が如何に強く求められるのかについて、論じていきたいと思う。
 その第一回目となる今回は、なぜ、10%消費税が、日本経済を破壊するのかについての概要をまず、紹介しよう。
 
■2014年消費税で失われた実質賃金
 そもそも現政府が認めているように、消費増税は日本の消費を激しく減退させ、その必然的帰結として日本中のあらゆるビジネスの売り上げを縮小させる。同時に、消費増税によって物価が強制的につり上げられる事もあり、国民の実質的な賃金が確実に大きく下落する。たとえば、2014年の消費増税を通して、私達の実質的な賃金が実に4.1%も下落している。年収500万円の方なら、消費増税のせいで年間20万円もの賃金を失ったわけだ。つまり、消費増税を通して経済が低迷し、国民が貧困化するのである。
 ただでさえ、経済状況が低迷している中での消費増税は、こうした激しい経済下落をもたらすのだが、今年は、増税するには最悪のタイミングでもある。
 第一に、今年は「働き方改革」が本格化し、残業代が大きく制限され始める。その結果、労働者の賃金は圧縮され、最大で8.5兆円も労働者の所得が減るのではないかと言われている。
 さらに第二に、東京オリンピックの投資が、今年後半から終了していくことが見込まれている。オリンピック後に、多くの過去の事例でその国の経済が不況に陥ってしまうことが知られているが、わが国においても同様の現象が生ずることが大なる可能性で危惧されている。
 
■大規模な景気対策こそ必要
 以上の国内要因を考えるだけでも、今年の日本経済は、かりに増税などしなくても、不況化していくことが懸念される極めて厳しい状況にあるわけだが、海外に目を移せば、日中貿易戦争やブレグジットで、英国を中心とした欧州や中国の景気が低迷していくリスクがあることも見て取れる。そうなれば、対欧州、対中国輸出が冷え込み、それが日本経済に打撃を与えることになる。対米貿易については、トランプ大統領の対日貿易赤字を減らせという圧力がまさに今から高くなっていくことは必定だ。それもまた、日本経済の下振れリスクをもたらしている。
 つまりわが国は今、国内についても海外についても、「消費増税をすべきかどうか」なぞという悠長な話をしているような状況にはまったくなく、それ以前に、大規模な景気対策をしなければならないような状況なわけだ。逆に言うなら、こんな最悪のタイミングで消費増税を敢行してしまえば、97年や14年における「不況状況下での消費増税」の時のよりも、さらに激しい経済低迷、実質的な賃金の下落がもたらされる事が深刻に懸念される。
 筆者が本シリーズを、ここに始めるに到った基本認識がここにある。こうした当たり前の状況認識さえあれば、今年10月の消費増税など、論外中の論外だと言わざるを得ないのである。
 本稿を皮切りに始まる本シリーズを通して、一人でも多くの国民、官僚、財界人、言論人、政治家達が、消費増税を巡る「真実」を的確に認識し、日本経済を破壊する消費税を凍結する適正な世論と政治の流れの形成にわずかかなりとも貢献しうることを、心から祈念したい。
 
 藤井聡 京都大学大学院工学部研究科教授
1968年、奈良県生まれ。ニューディール政策等についての安倍晋三政権内閣官房参与に2012年着任、10%消費税増税の深刻な問題を指摘しつつ2018年12月28日に辞職。著書に『経済レジリエンス宣言』(編著・日本評論社)『国民所得を80万円増やす経済政策──アベノミクスに対する5つの提案 』 『「10%消費税」が日本経済を破壊する──今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』(いずれも晶文社)など多数。
 
藤井聡 消費税を凍結・減税すべし! 
<2> 増税は全く確定していない 延期や凍結は普通に有り得る
日刊ゲンダイ 2019年3月22日
官邸のメッセージを読み解く
 今年の10月の消費増税については、増税を前提とした連日様々な報道がなされている。そうした報道を見ていれば、もはや増税は決定事項であり、変えられないのではないか、という方も多かろうと思う。
 実際、霞が関や永田町の方々に聞いてみても、増税はもう決まったことでしょう、という意見が大半だ。
 しかし、これまで首相官邸から出されてきたメッセージを一つ一つ読み解けば、増税はまったく確定していない、ということが明らかだ。
 まず、首相官邸から、消費増税を予定通り行うというメッセージがあらためて出されたのは、昨年の2018年10月15日であった。この時、増税引き上げに伴うさまざまな対策を行うべし、という総理指示を出したのだが、メディア各社はこぞって、その総理指示を巡る一連の総理発言を「安倍総理、増税を表明」という論調で報道した。しかし、この時安倍総理は必ずしも、増税することをあらため決断し、その決意を表明した、と言うような話ではまったくなかった。
 むしろ、この時、安倍総理の発言と同時に、菅義偉官房長官は閣議後の記者会見で「リーマン・ショックのようなことがない限り引き上げる」との改めて発言していることの方が重要だ。総理発言と菅発言の双方を並べて考えれば、この時首相官邸は、「増税対策の総理指示は出すが、メディアや世論が、増税確定と誤解するのは困るので、官房長官からあらためて、何らかの景気悪化状況があれば、増税はやめるというメッセージを出しておこう」と判断していたと解釈することの方が妥当だろう。
 
 さらに、2019年の年明けのラジオ番組で、菅官房長官は、増税するか否かの判断は、今年3月の予算決定が一つの重要なタイミングとなるだろう、とも公言している。
 こうした正月における官房長官発言は、決して、「口を滑らせた」という類のものではなく、戦略的に、計画的に口にした言葉だと判断することの方が適当であろう。
 そうである以上、官房長官がわざわざ年明けにこうした発言をするということは、官邸は「われわれ官邸は、予算成立までは、増税を延期するとかしないとかいう話は、口が裂けてもしない。ただし、予算が成立したら、その限りではない。延期も十分あり得る、ということだ」というメッセージを発していると解釈することの方が自然だと言えよう。
 
マスメディアに騙されるな
 官邸からのメッセージを普通に読み解けば、増税延期や凍結、場合によっては実質的な減税すら十分に可能性があると考えざるを得ないわけだが、大手の新聞社やテレビでは、そういう情報は全くといっていいほど伝えられていない。
 さすがに、今年に入ってからの景気が下落していることを受けて、増税延期もあるのかも、という趣旨の報道はちらほらみられるようになったが、それでも、一部の例外を除く全ての報道が増税を前提としたものだ。
 こういう状況になっているのは、一面においては、単なる記者の勉強不足であり、官邸からのメッセージを読み解くリテラシー(解読力)が不足しているという原因はあるが、それだけではない。
 とりわけ大手新聞社においては、それぞれの社の方針として「消費増税賛成」という論陣を張っていることが大きい。
 
 なぜ、新聞社がそんな消費増税推進論を展開するのかと言えば、その背後には、主として二つの理由があると指摘されている。
 第一の理由は、京都大学のマスメディアの情報バイアスに関する博士論文研究から明らかにされたものだが、新聞社はとりわけ、財務省の強力な圧力を受けており、財務省にとって望ましくない情報は報道されにくいという構造がある、というものだ。財務省の意にそぐわない報道があれば、その新聞社やテレビ局が査察に入れられたり、最新の財務省情報が入ってこなくなるのではないかという恐怖心をメディア各社が持っているのである。
 そして第二の理由は、新聞にだけ軽減税率が適用されている、というものだ。実は増税時の軽減税率は、食料品だけではなく、新聞も対象となっているのである。つまり、増税されても、新聞社だけは負担が増えないのである。こうした「恩義」を新聞各社は財務省側に持っていることから、増税反対論を展開しずらいということがしばしば指摘されている。
 つまり、大手メディアの増税についての情報は歪められていると考えた方が適当なのだ。
 そうした認識でメディア空間の情報を冷静に読み解けば、明らかに官邸は、増税しない可能性があるというメッセージを出し続けている。
 無論、増税する可能性もあるわけだから、(増税回避に向けては)気が抜けないところではあるが、少なくとも今、このタイミングで、増税されてしまうことを「諦め」て、受け入れる必要など何一つないのである。 
 
藤井聡 消費税を凍結・減税すべし!  
<3> もう「リーマンショック級の出来事」は起こりつつある
日刊ゲンダイ 2019年3月30日
次年度予算は成立したが
 3月27日に、予定通り国会にて次年度予算が成立した。
 この成立にあわせて、政府は改めて「リーマンショック級の出来事がない限り、予定通り消費税を引き上げる」という立場を明らかにした。
 つまり、政府が「リーマンショック級の出来事」の存在を正式に認定すれば消費増税は延期・凍結されるという基本方針があらためて確認されたわけだ。
 もちろん筆者は、デフレが完全に脱却していないうちの消費増税は、そこにリーマンショック級の出来事があろうがなかろうが絶対にあってはならないと考えている。デフレのままで増税が断行されれば、われわれの経済は回復しがたいとてつもない被害を受け、庶民の所得は大きく下落し、各企業の収益は激しく落ち込むことは必定だからだ。
 とはいえ、少なくとも今の政府の立場をそのまま字義通りに受け取るなら、消費増税が行われるか否かは、つまり日本経済に破壊的被害がもたらされるか否かは、「リーマンショック級の出来事があると政府が正式に認定するか否か」にかかっているということになる。
 では、「リーマンショック級の出来事」とは一体何なのか。
 
■合わせ技で「リーマンショック級」も
 まず第一に、文字通りリーマンショックのような経済ショックが勃発するというものが考えられるし、第二に巨大地震が起こるということも考えられる。実際、東日本大震災は「リーマンショック級」の被害を日本経済にもたらした。
 しかし「リーマンショック級」というのは、こうした単発のイベントによるものだけではない。
 今、最も生ずる可能性が高い、というよりも場合によってはほぼ確実に生じつつあるとすら言い得る第三の可能性が、「合わせ技リーマンショック級」とでも言うべきものだ。
 そもそも、リーマンショックの折り、GDP(国内総生産)が3.7%下落したのだが、さまざまな要因を重ね合わせることで、GDPの下落リスクがこの水準に達すると政府が想定すれば、それで「合わせ技リーマンショック級」の出来事の事実認定が可能となると期待されることになる。
 
 まず、今わが国では、中国の経済不振や米中経済摩擦のあおりを受けて輸出が大幅に下落しており、実際に1月期だけで、対中輸出が昨年比で約1兆円も縮小した。こうした対中輸出の縮小が年間10兆円規模に達する可能性も否定できない。
 さらに米国やEU(欧州連合)の中央銀行は今、今後の経済先行きの不透明感が濃密にあるとの判断で、金利引き上げを断念しつつあるが、これもまた、対米、対EU向けの輸出が縮小するリスクを直接的に意味している。
 こうして米中欧といった海外主要国の経済が冷え込んで行けば、日本資本が海外で稼いだカネを海外の投資に回す傾向が低下し、「日本に送金する圧力」が高まることになる。そうなれば、必然的に円高がさらに進む。これにブレグジット(英国EU離脱)などの海外での不安要素が重なれば円高はさらに加速し、その結果、輸出の縮小はさらに拡大すると同時に、輸入が拡大し、GDPがより激しく下落する。
 
懸念される国内要因
 これらの複合的な「海外要因」によって、GDPが1・数%~3%程度下落するリスクがあるわけだが、これに加えて今年の春闘における賃金のベースアップ、いわゆる「ベア」が前年割れとなった。ここ数年、政府は経済界にベアの拡大を申し入れていたのだが、今年の経財界は、「官製春闘」と呼ばれることを嫌い、その申し入れを蹴ったことが、響く格好となった。この産業界のベア縮小によって、消費は確実に昨年よりも縮小する。これが0・数%のGDP下落をもたらすことが懸念される。
 あわせて、4月に公表される日銀短観における民間企業の設備投資の当面の見通しもまた、0・数%のGDP下落を示唆するものとなる可能性が濃厚にある。
 そして何より、今「確実」視されているのが5月20日に公表されることが予定されている1月から3月期のGDP統計における「マイナス成長」だ。このマイナス成長がどの程度に達するかは確定してはいないが、年率で0・数%から1%程度のマイナス成長は確実に予期される状況にある。
 
■4月、5月の公表値にも注目
 このような足元の景気状況に加えて、今後の海外環境、経済界の賃金・投資環境などの外的要因を重ね合わせれば、マイナス3・7%というリーマンショック級の経済下落が必然的に十分に予期されることとなるのである。
 まるで雨乞いや神頼みの様な話だが、とりたてて大きな経済ショックや、野党や国民にフランスの黄色いベスト運動のような大きな国民運動が無くとも、粛々とした政府判断だけでも「増税延期」が必然的に導かれる可能性が十分に予期できる状況にあるわけだ。 
 もちろん、大きな経済ショックや消費増税に対する大きな反対運動が巻き起これば、増税延期はより確実なものとなっていくわけだが、いずれにしても、政府が如何なる判断を行うのかを占う意味でも、今後公表される様々な経済統計を一つ一つしっかりと確認していくことが必要だ。次なる重要な公表値は4月の日銀短観、そして、先に触れた5月のGDP統計の速報値だ。今なすべき経済政策についての公論をさらに活性化していくと同時に、的確な状況判断を行うためにも、それらの統計値の動向に大きく着目頂きたいと思う。