2019年4月27日土曜日

安倍外交“破綻”を明らかにする外交青書の衝撃 そこでも隠蔽が

 外務省が23日の閣議で報告した19年版の外交青書で、北方領土について従来用いていた「4島の帰属」の記述が削除されただけでなく、1956年の日ソ共同宣言」や「1993年の東京宣言」「2001年のイルクーツク声明」など、旧ソ連やロシアとの間で交わした政治文書の記述も削除してしまいました。
 外交青書は日本政府が積み重ねてきた外交の記録であり、対外的な主張・姿勢を示すものなので、それを一内閣勝手な判断で変えていいものではありません。自分(たち)に都合の悪いものは隠蔽乃至捏造するという恐るべき特性が、この外交文書でも発揮されたわけですが、それはすぐさま今後の外交に悪影響を与えることになります。
 日刊ゲンダイが「~ 安倍外交“破綻”青書の衝撃」とする記事を載せました。
 
 安倍外交の破綻を少しでも取り繕うために、従来の実績から不都合な項目を削除することの将来的な不都合に思い及ばないとは愚かなことです。
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派手な欧米歴訪にも懸念 安倍外交“破綻”青書の衝撃
日刊ゲンダイ 2019年4月26日
阿修羅文字起こしより転載
「私とプーチン大統領の手で終止符を打つ。必ずや終止符を打つという強い意志を大統領と完全に共有いたしました」
 昨年11月。シンガポールでロシアのプーチン大統領と会談した安倍首相は北方領土問題の解決に向けて、こう大見えを切っていたが、その結果がこのザマとは情けない。
 外務省が23日の閣議で報告した2019年版の外交青書で、北方領土について従来用いていた「4島の帰属」の記述が削除された。河野外相は会見で削除の理由について「総合的に勘案」とか言っていたが、外交青書は日本政府が積み重ねてきた外交の記録であり、対外的な主張・姿勢を示すものだ。それを一内閣が勝手な判断で変えていいはずがない。しかも、「1956年の日ソ共同宣言」や「93年の東京宣言」「2001年のイルクーツク声明」など、旧ソ連やロシアとの間で交わした政治文書の記述も削除してしまったのだからムチャクチャだろう。
 
 河野は「政府の法的立場に変わりはない」とも言っていたが、そうであれば、「4島の帰属」を削除する必要は全くない。5月10日にモスクワで予定されている河野、ラブロフの両外相交渉でも、従来の外交青書の方針に沿って、淡々と日本政府としての立場を主張すればいいだけだ。
 現時点でさえ「歯舞、色丹の2島を返還しても主権は返さない」「第2次大戦の結果を認めるのが先だ」などと主張している狡猾なロシアのことだ。「4島の帰属」が削除された外交青書を逆手にとって、今後の交渉の際に「日本は4島帰属を断念したではないか」と迫ってくるのは容易に想像がつくではないか。
 
ロシアに北方領土問題を政治利用された日本
「前提条件なしで年内に平和条約を締結しよう」。そもそも、北方領土交渉が今のようにグダグダな状況に陥った原因は、昨年9月の極東ウラジオストクの東方経済フォーラムで飛び出したプーチン発言の挑発に安倍がまんまと“引っ掛かった”からだ。日本政府の従来の立場は、4島の帰属問題の解決が、日ロ平和条約締結の「前提」。前提条件「なし」というプーチン発言はハナから論外だったのに、同席していた安倍はヘラヘラと笑ってマトモに反論せず、「ロシア側の領土問題解決の意欲の表れだ」などとトンチンカンな評価をしたことが問題だったのだ。
 
 安倍のトンデモ解釈が誤りだったのは、その後の日ロ交渉を振り返れば一目瞭然だ。交渉開始早々、日本は3000億円もの経済協力を約束させられ、4島返還が2島返還になり、国会では「固有の領土」「ロシアによる不法占拠」という表現も消えた。その上、今回の外交青書の記述削除だから、どこまでヘタレ外交を続ければ気が済むのか。対照的にロシア側の要求はエスカレートする一方。とうとう「日米安保条約の離脱」も公然と言い出す始末だ。こんな状況で進む北方領土交渉の何が「加速」なのか。「後退」しているのは明らかだ。筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「安倍政権は6月のG20大阪サミットまでに日ロ交渉で何らかの成果を得たいと考えていたのでしょう。交渉上手なロシアはそんな日本政府の思惑を知っていたからこそ、交渉決裂やG20不参加の可能性を示唆しながら、(外交青書の記述にも)ダメ出ししたのだと思います。安倍政権は北方領土を政治利用しようとして、逆にロシアに利用されてしまった。最悪の展開になったのです」 
 
ロシア、北朝鮮に対して何ら外交政策を持たない安倍政権 
 今や北方領土問題は、歴代自民党政権や外務省が築いた外交努力が水泡に帰すのも時間の問題になってきたが、19年版の外交青書で大きく変わったのは北方領土をめぐる記述だけじゃない。
 対北朝鮮政策では、18年版にあった「あらゆる手段を通じて圧力を最大限まで高めていく」「重大かつ差し迫った脅威」などの文言が削除され、昨年6月と今年2月の米朝首脳会談を受け、「朝鮮半島の非核化に向けて国際社会が一体となって米朝プロセスを後押ししていくことが重要だ」と強調された。
 圧力一辺倒の方針が転換されたことは大いに歓迎されるべきとはいえ、すぐにでも戦争が始まるかのごとく北の脅威をあおりまくった“戦犯”は他ならぬ安倍政権だ。全国の自治体に呼び掛け、大掛かりに行われたJアラート訓練とは一体何だったのか。
 
 表現が軟化したのは、北との対話路線を進める米国のトランプ政権に配慮しつつ、あわよくば日朝会談も実現したいと考えているのだろう。だが、今回の外交青書でハッキリしたのは安倍政権が北に対して明確な外交政策を何も持っていないことだ。拉致問題だって、本気で解決する気があるなら、韓国との関係改善は欠かせない。ところが外交青書の日韓関係の記述では、徴用工問題や韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射などを挙げて「韓国側による否定的な動きが相次ぎ、非常に厳しい状況に直面した」と指摘。これまでの「未来志向」を含む友好的な表現を削除してしまった。これじゃあ、北と最も近しい隣国を挑発、刺激しかねず、拉致問題解決の足掛かりをつくることさえ難しくなるだろう。外交評論家の天木直人氏がこう言う。
「北朝鮮の金正恩委員長が25日に、プーチン大統領と初会談しましたが、従前の6カ国協議の枠組みで、北と首脳会談していないのは日本だけ。今まで対北外交で何もやってこなかったことが示されたのも同然で、結局、アベ外交というのは口先だけ。他人任せで後は野となれ山となれ、ということなのです」
 
外交オンチの安倍に外遊三昧させるな
 問題だらけの外交青書の中身を大新聞・テレビが批判的に取り上げないのが不思議でたまらないが、そんな外交オンチの安倍がまたぞろ外遊三昧だから冗談ではない。23日にはフランスのマクロン大統領と大統領府で会談。共同記者発表では、仏政府が筆頭株主であるルノーが日産に経営統合を再提案した話には踏み込まなかった――とされたが、怪しいものだ。仏紙の報道によると、ルノーと日産の経営統合案をめぐり、日本の経産省が統合阻止を目的に介入していた、と報じられたからだ。
 
 マクロンとしては当然、日産前会長のカルロス・ゴーン被告をめぐる事件の背景に日本政府の関与があったのかや、ゴーン逮捕直後の昨年12月に会談した安倍が「民間の当事者で決めるべきで、政府が関与するものではない」などと答えた内容の真偽を確認したと考えるべきだろう。大体、安倍はゴーン事件について「日本の刑事事件は、厳格な司法審査を経て適切な手続きのもとで行っている」と言っていたが、モリカケ事件を含め日本の司法制度をぶっ壊しまくっている男がよくぞ言えたものだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
安倍首相の外遊は参院選に向けた政治パフォーマンスが目的でしょう。これまで政権の支持率を支えてきたのは株価と外交。その株価がいよいよ低迷し始めたため、G20で外交手腕を大々的にアピールする必要があると考えている。そのために安倍首相は各国を回り、G20が失敗しないよう地ならししているが、外交は内政のように『隠す』『ごまかす』『ウソをつく』が通用しない。そろそろ国民もアベ外交の正体がフェイクだと気付き始めていると思います」
 
 派手な首脳外交ほどウラがあるのだ。