2020年4月15日水曜日

15- 声明:新型コロナウィルス感染拡大防止策における人権保障を求める

 ヒューマンライツ・ナウは7日、感染拡大が進む日本の現状において政府が感染防止策を取るにあたり、人権の観点から、施策を要望する声明を発表しました。
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声明:新型コロナウィルス感染拡大防止策における人権保障を求める
2020年4月7日
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界と日本の人々の命と健康が損なわれていることに深刻な懸念を表明し、この事態に立ち向かう医療従事者その他のサービスセクターの尽力に心より敬意を表明します。
そのうえで、感染拡大が進む日本の現状において政府が感染防止策を取るにあたり、人権の観点から、以下のとおり、施策を講じることを要望します。

1 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って発生する人々の経済的損失に対する適切な補償を進めること
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「イベント自粛要請」「外出自粛要請」により、多くの産業が活動停止や大幅な縮小を余儀なくされ、事業が立ちゆかなくなる事態に直面しています。
新型インフルエンザ対策等特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されれば、経済活動への打撃はさらに決定的なものになります。
食や観光、エンターテイメント、スポーツ等は特に打撃を受け、古くから守り育ててきた企業ブランドや大切な事業、文化的活動そのものが、壊滅的危機に瀕しています。こうした事業の損失は経済的損失であるだけでなく、社会的、文化的損失です。また、多くの人が職を失えば、生活は危機に瀕し、住居を追われ、教育の機会を失うなど、居住、教育、労働、生存権が侵害される事態も広範に発生すると予想されます。このような生活基盤の損失への不安が解消されなければ、感染のリスクを冒して出勤・外出する人も大量に生じかねません。
憲法25条は、すべての国民に、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障しています。また、社会権規約11条は、自己とその家族のための適切な食料・衣類・住居を内容とする適切な生活水準についてのすべての者の権利を認めています。
法律に基づく自粛要請等によって経済活動の停止や大幅な縮小を余儀なくされたことで、勤労によって自らの生活を支えることができなくなった人に対しては、生活保護の制度を柔軟に適用する、家賃や光熱費の負担を国の負担において当面免除する、個々人とその家族のための食料確保のために必要な費用を国が支給するなどの施策を迅速に取るべきです。感染という生命・健康への権利を守るために何人もその生活基盤である事業、住居、教育などを奪われることがないよう、生活水準を不均衡に低下させることなく従前の生活を送れるよう、十分な支援と補償がなされるよう要請します。
中小企業やフリーランス、個人事業主、芸術家へのまとまった支援をするとともに、非正規雇用者、技能実習生をはじめとする外国人労働者など、経済的打撃を受けやすい層が苦境に陥らないような支援が必要です。
OECD諸国を中心に、市民の苦境に対応するため、かつてない経済的社会的支援策が導入されています(別表参照)。[1]日本でも、人々の生存と生活を守るため、誰もが取り残されない十分な生活支援策の実施を早急に行うことを求めます。

2 検査と治療へのアクセスを保障すること
健康に対する権利を確保するため(社会権規約12条)に、政府は市民に対し、可能な限り、検査と治療の機会を提供し、アクセスを保障することが求められています。PCR検査は疑わしい症状を呈するすべての人に対し、差別なくアクセス可能なかたちで提供される必要があります。
英オックスフォード大学の研究者らでつくるグループの調査から、日本でのPCR検査の数が他の感染拡大国に比較して数として著しく少なく、特に人口比で検査を受けた人が著しく少ないことが明らかになっています。
月4日までの統計で人口100万人当たりの検査数は韓国が8600件以上、フランスが約3412件、日本が約312です。[2]
国は検査の抑制は行っていないとしていますが、検査を受けるためのハードルは高く、疑わしい症状にり患した者がどこへ行けば検査を受けられるのか、情報も不足している状況です。
政府が軽症者を病院以外の施設に移す方針を決定したのは積極的なニュースですが、今後感染拡大防止のための効果的な措置を、時機を逸することなく講じ、治療につなげるために、検査をよりアクセス可能なものにすることを要請します。

3 差別禁止と脆弱な人々の保護を徹底すること
政府による支援策と健康のための措置は、性別、性的指向、年齢、障害の有無、民族、国籍の差別なく実施される必要があります。
高齢者・障害者・妊産婦など、特に脆弱な立場に置かれた人への配慮とともに、こうした事態で後回しにされやすい、特に入管や拘置所などの施設に収容されている人々や外国人、言語的・民族的マイノリティ、非正規雇用労働者、貧困状態にある人たちに対して特別の配慮がなされ、取り残されることがないように支援されるべきです。ホームレス、ネットカフェ難民、住居を失う人たちへの住居などの支援は急務です。
また、雇用調整助成金を受給した企業が非正規雇用労働者の雇用の維持にはこれを活用しないような制度の悪用を監視し、労働者の安全と雇用を守ることが求められます。
さらに、危機的状態で特に影響を受けやすい脆弱な立場の人々への特別の支援策も拡充される必要があります。外出制限によりDVや虐待が増加することは諸外国でも明らかになっており、日本でも相談件数が増えています。欧州等諸外国では緊急な施策が導入されています(別表 DV対策の項参照)。
日本でも支援を抜本的に拡充すること、自宅待機といった状況でもアクセスできる、終日対応可能な相談窓口の設置といった実効性のある対策の導入と、支援団体への即時の支援が求められます。
経済的な理由で子どもたちがオンライン授業などの教育の機会を奪われることのないよう、教育の支援も求められます。
危機においては排外主義や差別が深刻化しやすい傾向が見られますが、政府は外国人や民族的マイノリティにも等しく支援をすることを明確に表明し、ヘイトスピーチとは闘うべきです。

4 感染拡大を防止する当局の権限が濫用されないよう、適切な歯止めがかけられ、モニタリングがなされるべきこと
日本における現行法に基づく緊急事態宣言では、大幅な私権制限は想定されていません。しかしながら、国と地方自治体の長に多大な権限が集中することが懸念されます。当局による権限行使は法律を逸脱しないこと、濫用されないこと、目的達成に必要最小限度の私権制限にとどめることが意識されなければなりません。危機に乗じたプライバシー権や表現の自由の制約は許されません。
言論統制や言論への圧力は到底あってはなりません。適切な歯止めがかけられ、モニタリングが機能するよう、政府は情報開示を徹底し、自らの意思決定過程の透明性を確保し、メディアの役割を尊重すべきです。
自由権規約4条は「国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合においてその緊急事態の存在が公式に宣言されているときは、この規約の締約国は、事態の緊急性が真に必要とする限度において、この規約に基づく義務から逸脱する措置をとることができる。ただし、その措置は、当該締約国が国際法に基づき負う他の義務に抵触してはならず、また、人種、皮膚の色、性、言語、宗教又は社会的出身のみを理由とする差別を含んではならない。」と定め、さらに私権制限の歯止めを明確にしています。
ヒューマンライツ・ナウは政府と当局に対し、この義務を誠実に履行することを要請します。
以上
別表 国際比較:新型コロナ下での市民への支援施策

新型コロナは人々の健康と生活に甚大な影響をもたらしています。世界各国の政府は、人々が感染の危機にさらされないよう、外出制限などと併せて機動的な生活支援を進めています。日本の施策は大きく遅れを取っていることから、HRNボランティアチームは急遽各国比較をまとめました。4月4日時点に知りえた内容を書いていますが、網羅できているわけではないものの、まずは知ること、知ったうえで日本の施策を分析することが必要と考え、公表します。