8日現在、米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると世界のコロナ感染者数は4月2日に100万人を上回り、ほぼ一週間ごとに50万人が上積みされている状態ということです。感染者数は米国が約43万人と世界最多で、スペイン、イタリア、ドイツの欧州各国がいずれも10万人を超えています。
米国疾病管理予防センター(CDC)はクルーズ船内の感染拡大が問題になっていた頃に、まだ国内感染者がほぼゼロのうちから感染拡大を警告していましたが、何故か警告した事態をもたらしてしまいました。
医療費が桁外れに高いことや無保険者が6千万人もいるなど、原因は色々あるようですが、2日付のウォールストリートジャーナルによると、米政府が何週間にもわたって脅威の深刻さを否認し「検査の拡大で後れを取った」ことが大きいとしています(現時点のPCR検査数は220万件で世界のなかでトップ。千人あたり6・6人)。それに比べると日本は現在でも検査数が桁外れに少なく主要国の中で最低です。
公衆衛生の専門家でWHO事務局長上級顧問を務める渋谷健司医師(英国キングス・カレッジ・ロンドン教授)が、ダイヤモンド編集部の取材に応じ、「東京は手遅れに近い、検査抑制の限界を認めよ」と警鐘を鳴らしました。
渋谷氏は、日本はこれまでPCR検査数を抑制し「クラスター対策」のみを続けているが、感染が広がっていない初期段階では非常に有効であっても、感染が拡大した段階で大都市でクラスター対策を行うのは不可能だとし、検査を抑制することで逆に「市中感染」を見逃してしまったため、それが院内感染につながっていると述べています。
韓国や台湾、シンガポールでは検査をどんどん実施し、アプリを使って感染者とその周辺の人々を追跡しているのに対して、日本は保健所からのファクスのやりとりで行うという前時代的な手法=人海戦術 が基本になっているとも述べています。
初期の段階では「感染経路」を明らかにするのにそれほど労力を要さずにその成果を可視化できるメリットがありますが、1日毎の新感染者数が増えれば追跡は物理的に困難になります。保健所の多くの人員をそちらに振り向けて、その結果検査数を抑制するというのは本末転倒ということなのでしょう。
ダイヤモンドオンラインの記事を紹介します。
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「東京は手遅れに近い、検査抑制の限界を認めよ」
WHO事務局長側近の医師が警鐘
ダイヤモンドオンライン 2020/4/9
新型コロナウイルス感染症の急拡大を受けて4月8日、ついに日本政府は東京など7都府県に対する緊急事態宣言発令に踏み切った。遅過ぎるという声が漏れる中で、日本の社会と医療は持ちこたえることができるのか。元の生活を取り戻すことはできるのか。公衆衛生の専門家で、英国キングス・カレッジ・ロンドン教授、WHO(世界保健機関)事務局長上級顧問を務める渋谷健司医師に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 片田江康男)
● 緊急事態宣言は効果薄い 対策強化なしでは死者は数十万人にも
――7都府県に緊急事態宣言が出されました。日本政府のこの措置によって、新型コロナウイルスの感染拡大の終息は期待できるのでしょうか。
東京は宣言すべきタイミングから1週間以上遅れてしまいました。この差は大きいです。そして、この緊急事態宣言に効果があるかどうかは疑問です。それは先日話題になったグーグルの位置情報を基にした人の移動データを見れば明らかで、東京は「自粛」といってもほとんど効果がありませんでした。欧米ほど在宅勤務は増えていないし、飲食店には依然として人が集まっています。
これまで日本政府はパニックを抑えるために「今までと変わりはない」ということを強調していたのでしょうが、それは逆効果だったと思います。
日本の現状は手遅れに近い。日本政府は都市封鎖(ロックダウン)は不要と言っていますが、それで「80%の接触減」は不可能です。死者も増えるでしょう。対策を強化しなければ、日本で数十万人の死者が出る可能性もあります。
英国のボリス・ジョンソン首相は短いテレビ演説で、「とにかく家にいてください」と訴えました。NHS(国営医療制度)を守り、国民の命を守るために、危機感の共有とシンプルで強いメッセージが必要だったのです。
それを意識したかどうかは分かりませんが、8日夜の安倍晋三首相の記者会見は、今までになく素晴らしかったと思います。明確なメッセージを伝えることができたのではないでしょうか。
──都市封鎖(ロックダウン)は必要ないという政府の方針は間違っているのでしょうか。
どうもロックダウンは、「絶対に外出禁止」というイメージがあるようですが、必ずしもそうではありません。国によってさまざまなロックダウンのやり方がありますが、基本は外出の禁止です。
日本は法的に強制的な外出禁止にはできませんが、ロックダウン中の英国も同様に外出禁止を強制することは困難です。罰則といってもそれほど大したことはなく、騒いでいる人がいたら警官が注意をする、それでもひどかったら30ポンドの罰金です。その程度なんです。それでも人々は外に出てはいけないと認識していて、それを守っている。なぜか。みんな危機感を共有しているからです。
重要なのは「社会的隔離をいかに効果的にやるか」ということです。
ロックダウンは経済・社会に大きな影響を与えるものです。そういうことを考えて、ロックダウン的な手法を取ることが難しかったのだと思います。
欧米の例では、最初は社会的隔離をやったが、結局うまくいかずロックダウンせざるを得ないというケースが多いです。
● 大都市でのクラスター対策は破綻 「3密」のメッセージは妥当性に疑問
──政府は2週間後に感染者数をピークアウトさせて、引き続きクラスター対策を強化する方針を掲げています。
現在のような「外出の自粛」をベースとした緊急事態宣言によって、2週間で感染者数がピークアウトするとはとても思えません。2週間後でも感染者数が増え続けている可能性さえあります。
既に大都市でのクラスター対策は破綻しています。これまでPCR検査数を抑制し、クラスター対策のみを続けていましたので、市中感染を見逃してしまい、院内感染につながってしまっています。今まさに院内感染から医療崩壊が起き始めています。
国は検査数を増やせば感染者が外来に殺到して医療崩壊が起こると言っていました。しかし、ここまでの流れは全くの逆です。検査をしなかったから、市中感染を見逃して、院内感染を招いているのです。
そもそも、クラスター対策の中で出てきた「3密(密閉・密集・密接)」を避けるべきという指針についても、これだけに固執するのは危険です。3密は一つの仮説です。クラスター対策の限界を認め、方針を転換しない限り、感染拡大は止まりません。
──今までの日本政府の対応は失敗なのでしょうか。
これまでのクラスター対策については、感染が広がっていない初期段階では非常に有効でした。感染者が少ないときは検査数を多くする必要はないし、北海道などでは感染経路の特定(コンタクトトレース)も比較的容易だったからです。
しかし、東京のような大都市ではそれは非常に困難です。「3密」だけではなくドアノブや荷物など、何が経路となって感染が拡大しているか分からないこともあります。
韓国や台湾、シンガポールでは、検査をどんどん実施し、アプリを使って感染者とその周辺の人々を追跡しています。一方で、日本では検査数は増やさず、保健所からのファクスのやりとりで、コンタクトトレースも前時代的な手法です。疫学の手法が昔ながらのやり方、つまり人海戦術が基本になっています。
世界で「3密」と言っている国はありません。もちろんその条件がそろうと感染のリスクが高いというのは正しいと思います。ただそれ以外にも感染の可能性があることは考える必要があります。
海外では、基本は社会的隔離で全ての感染経路の可能性を含めたメッセージを継続しています。「若者クラスター」「夜のクラスター」「3密」などという事象にばかりフォーカスする日本のメッセージは、その妥当性に懸念が残ります。
● ロックダウンは不可避 医療崩壊は既に始まっている
──緊急事態宣言の効果に疑問が残り、ロックダウンもしない日本では、感染拡大を止められないということでしょうか。
このままでは止められないでしょう。ロックダウンのような社会的隔離政策を取らなければ、感染拡大は止まりません。その先にあるのは、医療崩壊です。
──医療崩壊というのは、具体的にはどういう状態なのでしょうか。
定義はいろいろありますが、二つのことがいえます。一つは患者の急増で医療のキャパシティーを超えることです。検査反対派は検査をすることで患者が病院に殺到することを懸念していました。今後は検査をするかどうかを議論する前に、感染者が急激に増えて軽症も含めた患者が殺到し、重症患者を救えなくなるでしょう。
もう一つは、院内感染などで医療提供側が医療を行えなくなることです。院内感染で病院が閉鎖されると、救急も閉鎖され、新型コロナウイルス感染症以外での死亡者数が増えていきます。
実際には、後者の医療崩壊が多発していくでしょう。今、医療の現場からは悲鳴が上がっています。これは検査をしてこなかったことの弊害です。
──検査に関しては、おっしゃるように検査数を増やすことに対して疑問の声があります。
WHO(世界保健機関)は一貫して「検査と隔離」を徹底するように言い続けています。日本はその原則を徹底しませんでした。もう今からそれをやるしかありません。他にチョイスはない。「検査と隔離」をきちんとやった国であっても第2波、第3波が懸念されています。
結局、社会的隔離やロックダウンを繰り返しながら、「検査と隔離」を徹底して、感染拡大を抑えるしか方法はないのです。ワクチンができるまで、かなりの時間がかかります。もうそれ以外に方法はないのです。
日本では「検査と隔離」を徹底せずに感染が爆発的に増加して、医療と社会が崩壊する危機的な状況です。緊急事態宣言の対象外の地域でも、対岸の火事と考えていてはいけません。交通を遮断しないということは人の移動が可能で、人の移動とともにウイルスは広がります。ロックダウンしないということは、それはもう、どこに行ってもいいというメッセージです。人とウイルスの動きを止めることは非常に難しい。それを想定して対策を立てるべきです。
もちろん、医療と社会の崩壊を目の当たりにして、ロックダウンに踏み切ったら経済はより甚大な被害を被ります。それでも多くの国ではロックダウンをやっています。それは、ロックダウンを後にすればするほど、被害は甚大になることが分かっているからです。だから、早期のタイミングでやると決意したわけです。
──米国では死者10万人という試算もあります。
米国では何もしないと死者が100万人を超えるという推計が出たために、ロックダウン的施策に至りました。社会的隔離を2カ月続けてようやく10万人規模に抑えられると予想されています。
先ほど言いましたように、日本の緊急事態宣言では、自粛ベースであまり効果はないでしょう。いずれロックダウン的な施策をせざるを得なくなります。その際には休業補償などもしっかりとやらなければなりません。
ロックダウンはやるかやらないかではなく、やるしかないということです。本来であれば4月初めにロックダウンすべきでした。今からやっても遅過ぎますが、やるしかない段階です。
スウェーデンなどの一部の国はロックダウンせずにうまくやっていると評価するメディアがありますが、欧州はもともと在宅勤務がすごく進んでいます。ロックダウンしなくても家にいるわけです。日本はどうでしょうか。あれだけ自粛しろと言われていても、在宅勤務は9%しか増えていないといわれています。欧米各国とは働き方などが比較になりません。
● 指揮系統をはっきりとさせ 検査を増やし、医療従事者を守れ
──今から日本はどうするべきなのでしょうか。
日本はクラスター対策にこだわってしまいました。水際対策とクラスター対策で国内まん延を防ぐことができるという考えがその根本にあったのでしょう。
しかし、市中感染と院内感染がこれだけ広がってしまえば、水際対策をやっていてもほとんど意味はありません。空港でPCR検査を大量にやっていますが、リソースの無駄です。市中にどれだけ感染者がいるか、院内感染をどうやって防ぐかが今は最も重要です。
このパンデミック(世界的流行)はすぐには終わりません。数週間、数カ月間で終わるはずはなく、終息には年単位の時間が必要でしょう。人々はウイルスと共生する新しい生活に慣れていくしかありません。
今は戦争や大災害並みの国難です。想定内で準備をしていてはダメ。英知を集めてやり直すしかない。そうでなければ、このウイルスとの戦いに敗退するしかありません。
ただ、核戦争後の世界とも違います。全く外に出られないというものではありません。今までの常識が通用しないということです。新しい生活に適応するしかありません。
まずやることは三つです。一つ目は政府の指揮系統をはっきりとさせる。今は官邸や危機管理室、専門家会合、厚生労働省などバラバラです。二つ目は、検査数をしっかりと増やす。三つ目は医療従事者への防護服の配布を徹底して、彼らを守ること。医療が崩壊したら日本社会は持たない。
──個人としてできることはあるのでしょうか。
今はとにかく外出をしないこと。そして、よく手を洗うことです。いわゆる「3密」を避けることも有効です。運動は距離を保てれば1日1回程度なら全く構わない。よく寝てよく食べて運動する。やれることはそれぐらいでしょう。 ダイヤモンド編集部/片田江康男