5月6日を目途として始められた緊急事態宣言下での外出自粛・休業要請は、感染拡大率の縮小が確認できないとして延長される可能性が濃厚です。NHKなどは早くもその覚悟を促すかのようなニュアンスの報道を始めています。
いまとなっては感染拡大を防止するためにそれしかないのかもしれませんが、富裕層・公務員・安定企業のサラリーマンあるいは高額の年金暮らしの人たちならいざ知らず、中小企業・商店などの経営者や従業員、そして非正規労働者などは1回こっきりの1人10万円だけでは生きて行けません。
休業を要請する以上その補償を表裏一対とすべきです。休業(あるいはそれに伴う大不況)によって生きられなくなる国民が多数生じる以上それは国家に課された責務です。
例によって、またも「非常時なのだから政府を批判すべきではない」というような政権擁護の論調が一部から出ていますが、そんな御託は国民が生きられるという最低限の責務を果たすことを確約してからにして欲しいものです。
安倍政権は3月20日過ぎまでは、東京五輪の開催を目指す余り、中国や韓国での大被害とそれに対する奮闘を横目に見ながら、コロナの感染拡大に目をつぶり実質的に何の方策も取らないままに推移しました。そして3月24日に東京五輪の1年延期が決まると、俄かに小池都知事とともにコロナ対策を口にするようになりました。
しかしPCR検査一つをとっても何の改善もなく、軽症者用の隔離施設の確保も結局地方自治体に丸投げしました。コロナ感染症に必須の人工呼吸器やECMOなどの増産も具体的に何か行ったとは聞いていません。3月中旬までに我々に届いたニュースは、官邸トップが3日と空けずに超高級料理店に通っているというようなことでした。
日刊ゲンダイが「緊急事態延長ならば迷走政権と専門家の検証が必要」とする記事を出しました。
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緊急事態延長ならば迷走政権と専門家の検証が必要
日刊ゲンダイ 2020/04/24
「接触機会の8割削減を目指し、より一層の国民の努力が必要だ」――。何だか嫌な教授に落第を言い渡されたような気分だ。緊急事態宣言から2週間が経った22日の政府対策本部。安倍首相は冒頭のように国民をいさめた。
「まだまだ、自粛が足りない」と言わんばかりだが、いつまでご都合主義の要請を強いるつもりなのか。この日は持論の「最低7割の削減」を封印。シレッと「8割」強調の軌道修正はさらなる不信を招くだけだ。専門家会議の尾身茂副座長の会見を聞いても「?」マークが脳裏をよぎった。
「残念ながら3月の連休の頃、私たちの警戒がなんとなく緩んでしまい、都道府県をまたいだ人の流れにより感染が地方に拡大してしまった」
さも3月20~22日の3連休で人出が増えた結果、現在の感染拡大に至ったと言いたげだが、まず自分たちの態度を振り返った方がいい。
ちょうど1カ月前。3月24日に東京五輪の延期が決まる直前、政府の外出自粛要請は控えめだった。安倍は同月14日の会見で「現時点では一定程度、持ちこたえているのではないかというのが専門家の皆さまの評価」「卒業式もぜひ実施を」と訴えていた。
専門家会議だって連休直前の3月19日には「少人数のクラスターから把握し、感染症を一定の制御下に置くことができている」との分析結果を発表。気の緩みを後押ししていたではないか。
安倍が当時、五輪の「完全な形での開催」に固執し、無観客か、延期か、最悪は中止かの瀬戸際だったことを忘れてはいけない。国民の命や生活を守るより五輪にかまけていたツケが今、押し寄せている。誤りを認めぬ専門家に「残念」と言いたいのは国民の方だ。
現場の苦労を知らない専門バカ集団
専門家会議は8割削減に向けた「10のポイント」を新たに提言。その中身たるや「オンラインでの飲み会」「筋トレやヨガは自宅で動画を活用」「会話はマスクはつけて」――と自粛に協力する大半の人々にすれば「とっくに、やっているよ」というものばかりだ。
専門家会議がやり玉に挙げたスーパーや商店街での「3密」回避策についても、とうに店側は自主的な判断で客と店員、客同士の接触を減らす工夫を凝らしてきた。
それでも「民間の自主的な努力だけでは足りない」との危機感からか、専門家会議は混雑時の入店制限を提言。制限して入り口に列ができればそれをさばく人手がいる。多くのスーパーにそれだけの人的余力はないのが実情だ。ただでさえ、感染リスクが高く、心ない客の罵声に耐えながら、働く従業員たちにさらなる負担を強いるのか。
人々の列が密集すればクラスター化の恐れもある。結局は全て現場の自己責任。しわ寄せはコロナ禍でも必死に働く人々に及ぶ。専門家会議はまるで世間知らずの専門バカの集まりのようだ。
緊急事態宣言の期間について、専門家会議のメンバーのひとりは「来月の6日で宣言はおしまいとはならないだろう」と、23日の毎日新聞に匿名でコメントしていた。このまま、無能をタナに上げた緊急事態延長は許されない。延長なら政権と専門家会議の検証が必要である。
病床ひっ迫を招いたコスト重視の緊縮路線
1月中旬の国内初の感染確認から3カ月、この政権は何をやってきたのか。PCR検査ひとつとってもデタラメだ。
安倍は2月29日に「1日4000件超の検査能力がある」とし、3月14日には「3月中に1日8000件に増やす」と表明するも、3月下旬は2000件程度で推移。懲りずに安倍は4月6日に「1日2万件に増やす」と豪語したが、4月中旬でも8000件近くにとどまる。65歳の安倍は“オオカミ老人”さながら。世界と比べると、この国の異常さは際立つ。
100万人当たりの検査数はイタリア約2万5600人、ドイツ約2万5100人、アメリカ約1万2500人、韓国約1万1200人だが、日本はたった1550人に過ぎない。文字通りケタ違いに少ないのだ。
検査拡充による実態把握こそ、感染拡大を食い止める基本だ。検査がこれだけ不十分だと、政府は正確な感染情報をつかめっこない。真っ暗闇の中を手探りで敵と闘うのと同じである。
毎日新聞は「検査を増やし、症状が軽い陽性患者で病床が埋まり、重症者を受け入れられないという医療崩壊が起きるのを避けた」と厚労省幹部の言い訳を報じたが、この国は世界3位の経済大国だ。それでも世界の常道のPCR検査の拡充すらままならないほど、医療を脆弱化させている根本原因は何なのか。
「命を預かる医療の現場にも、効率や生産性などコスト重視の新自由主義に根差した緊縮路線を持ち込んだのが、元凶だと思います」と言うのは、経済アナリストの菊池英博氏だ。こう続ける。
「この7年半で安倍政権は自然増分の削減を徹底させ、少なくとも4兆円以上の社会保障費を削りました。合理化と称して医療機関の再編・統合も進め、今年度は病床削減に取り組む病院を支援する補助金として全額国庫負担で84億円も用意しています。コロナ禍で病床数がひっ迫しても削減方針をまだ撤回しないのですから、もうムチャクチャです」
精神論だけで接触8割削減に突き進む
病床不足に悩む埼玉県では300人以上の感染者が自宅待機を余儀なくされている。うち軽症だった50代男性の症状が急変し、21日に亡くなった。これでは安倍政権の緊縮路線に殺されたようなものだ。前出の菊池英博氏はこう言った。
「首相も専門家会議もテレワークの徹底に執着しますが、中小企業の進捗率は2割ほど。現状を考えれば休業補償を手厚くした方が、接触削減ははかどります。しかし、政府はプライマリーバランスを気にして補償に後ろ向き。専門家すら『向こう1年はこの流行と付き合え』と精神論だけで8割削減を目指そうとする。既に欧州各国は『コロナ対策は人道的に最優先』と政治判断し、緊縮財政を葬り巨額の休業補償を実施済みです。今や先進国で緊縮を貫いているのは日本だけ。安倍政権はコロナ対策の失政を認め、『脱緊縮』にカジを切るべきです」
コロナ危機をきっかけに、7年半の失政の弊害が噴出しているのに、安倍たちは決して誤りを認めようとしない。
感染対策を巡っても、野党は1月下旬から既存の新型インフルエンザ等対策特措法の適用を求めていたが、安倍は無視して感染症法の枠組みで対応。それが息詰まり特措法を使わざるを得なくなると、今度はメンツを保つため、「特措法は改正しないと使えない」と言い出した。改正特措法の成立は3月13日。対策は1カ月半も遅れた。
緊急経済対策もブザマだ。3月16日に安倍は「今週中に発表する」と言ったが、発表は4月7日までズレ込んだ。揚げ句に10万円給付のドタバタで、10日間がムダに消え、補正予算案は異例の組み替え。成立は当初より1週間近く遅れる見込みでその分、給付金の到着も遅れる。国民の混乱と失望が広がる中、ついに安倍は「私が責任をとればいいわけではない」と言い放つ始末である。
「責任は“ある”と言えども取らないのが、この7年半の安倍首相の態度です。今もノラクラ逃げ続けた成功体験が染みついているようですが、この非常時には通じません。自粛、自粛で国民に自主的対応を求めながら生じる損失を手当てせず、自己責任で突き放す。こんな指導者では終息は遠のくばかりです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
自分の過ちを認めず「自粛がまだ足りない」と国民のせいにするとは、つくづく恐れ入る。失敗を認めない集団にさらなるカジ取りを任せるのは、不安だ。