2020年4月14日火曜日

雇用調整助成金を理由に“補償ある”と言い張る厚労省

 政府は「一律休校」で休業した保護者に給料を支払った企業に最大で日額8330円/人を助成、フリーランスには日額4100円を支給するとしていましたが、実際に4月5日までに企業からは1000件申請があったのに対して助成した件数は僅かに6件(交付率06%
フリーランスからは500件あったのに交付件数は僅かに6件(交付率12%)に過ぎませんでした。
 この交付率の度はずれた低さでは助成の制度はないに等しいものです。日額8830円と謳えば助成の一端にはなるかと思わせますが、その実態は「絵に描いた餅」であったわけです。
 これこそが安倍政権お得意の欺瞞であり、PCR検査を「ヤル・ヤル」と言いながら実際には世界中で並外れて低い実施率であるというゴマカシと軌を一にしたものです。

 その問題は企業向けの「休業補償」においても同様です。識者が「補償なき休業要請」と「ヤフーニュース」などで批判していることに対して、厚労省は公式ツイッターで反論しましたが、その内容は言わば「政府の政策の柱を読み上げた」というものに過ぎず、実態とは裏腹なものです。
 そこでいう「雇用調整助成金」は大企業や中小企業の事業主が受け取るもので、「新型コロナの影響を受け、かつ従業員の解雇等をしていない」、「雇用保険の適用事業主であること」、「4月1日から6月30日のあいだに売り上げや販売量などを示す生産指標が〈1か月5%以上低下〉していること」など様々な条件が付けられています。当初は申請書の記載事項は73項目もありました。
 その後批判を受けて38項目に減らしましたが、過去3年間の営業カレンダーやシフト表を提出しなくてはいけないなど、かなり煩雑な作業まだ求められています。大企業であれば応じられるでしょうが、中小企業では困難なところが多いのではないでしょうか。
 雇用主が申請しなければ従業員には何も回ってきません。これでは企業が申請せずに労働者が休業手当をもらえないケース続出することは明らかで、現実にこの1ヶ月ほど「会社が助成金を利用してくれない」という労働相談が非常に多いということです。

 政府は世論のこうした批判を受け止めることをしないで、批判するメディアを逆に政権側がツイッターなどで叩こうとしています。本当に国民に助成を実施する意思があればそんな態度には出ないものです。
 見掛けだけの政策を謳うことと言い、批判を封殺するためにメディア対策などに巨額の予算をつけていることと言い、安倍政権は異常です。
 LITERAが批判する記事を出しました。
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厚労省が「“出勤者7割減”は休業補償ないと不可能」という批判をデマ呼ばわり!  お粗末な雇用調整助成金を理由に“補償ある”と言い張る厚顔
LITERA 2020.04.13
 感染拡大の重大局面に立っているなか、またも安倍政権がメディア圧力に乗り出した。3月に『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)を名指しして番組内容に反論したものの、逆にそれがデマであることを『モーニングショー』が暴き、訂正に追い込まれた厚生労働省だが、その厚労省の公式Twitterアカウントが、昨晩20時8分、またもこんなツイートをおこなったのだ。

〈ヤフーニュースなど、インターネットニュースサイトで、「補償なき休業要請」との報道があり、外出自粛や出勤者の最低7割減は、休業補償がないと不可能だと報じられていますが、正確ではありません。〉

「ヤフーニュースなど、インターネットニュースサイト」という説明なので、どの記事がターゲットになっているのか判然としないが、じつは「ヤフーニュース」の内のひとつである「Yahoo!個人」では、このツイートがなされた同日の朝、貧困問題に取り組む社会福祉士の藤田孝典氏による「安倍総理大臣「出勤者を最低7割は減らして」だから今の貧弱な休業補償では無理だって何回言えばわかるの?」と題した記事が配信されている。今回、厚労省がターゲットとしたのは、この藤田氏の記事のことではないか。
 また、さらにいえば、「Yahoo!個人」では藤田氏以外にも、雇用・労働政策研究者でNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏や、日本労働弁護団常任幹事である嶋崎量弁護士らによる、政府による補償の不備や問題点を指摘する記事が多数配信されている。もしかすると、今回厚労省はこうした労働問題の専門家である筆者による記事をターゲットにしているのかもしれない。
 だが、問題は厚労省の反論だ。厚労省は〈正確ではありません〉とデマ呼ばわりした上、〈正しくは以下のとおりです〉とし、このような投稿を連投した。

〈事業主が労働者を休業させた場合に支払われる休業手当には、政府が助成をしています。新型コロナウイルスへの対策として特例を講じ、この助成率を、中小企業向け最大90%、大企業向け最大75%と、引き上げました〉
〈これにより、事業主の負担が大幅に軽減されますが、さらに手元資金を厚くするため、無担保・無利子で最大5年間据え置きの融資を政府系金融機関で実施しています。民間金融機関でも、債務の返済猶予などの条件変更に応じています。〉
〈また、大きな影響を受けている中小企業等に最大200万円、フリーランスを含む個人事業主に最大100万円といった、過去に例のない給付金を準備中です。〉
〈政府は、事業者の資金事情を支えるための助成を実施しており、事業者がこれを活用して、従業員に休業補償を十分にできるような雇用調整助成金の特例制度も始まっています。是非ご活用ください。〉

 つまり、休業手当を国が助成する「雇用調整助成金」や、中小・個人事業主への現金給付制度を活用できるのだから、「補償なき休業要請」ではない、と主張しているのである。
 だが、この厚労省の反論は、まったく反論になっていない。いや、はっきり言って「デマ」だ。
 そもそも、ターゲットにされたと思われる藤田氏の記事では、「政府も施策を講じている」として、厚労省が書き連ねた雇用調整助成金や中小・個人事業主向け現金給付についてしっかり触れている。その上で〈相変わらず「補償なき自粛要請」〉だと言っているのだ。
そして、この指摘は全面的に正しいものだ。

雇用調整助成金は欠陥だらけ! 企業が申請せずに労働者が休業手当をもらえないケース続出
 まず、厚労省が「事業主の負担が大幅に軽減される」「従業員に休業補償を十分にできる特例制度」だと主張する「雇用調整助成金」だが、本サイトでも繰り返し指摘しているとおり、対象となるのは〈新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主〉(厚労省HP)であり、個人が申請できるものではない。ようするに、事業主が申告してはじめて企業に支給されるものであって、事業主が申請しなければ労働者は受けとることができないのである。

 しかも、すべての事業主がこの雇用調整助成金を受け取れるわけではない。まず、この助成金を受け取るためには、事業主が雇用保険の適用事業主である必要がある(労働者は加入していなくても受けられるよう緩和された)。小さな飲食店や性風俗業などでは雇用保険に入っていないケースも多く、その場合は、労働者も雇用調整助成金の対象にはならないのだ。
 また、この雇用調整助成金は感染拡大を防ぐために営業を自粛した企業がすべてもらえる制度ではない。〈新型コロナウイルス感染症の影響を受け〉て、4月1日から6月30日のあいだに売り上げや販売量などを示す「生産指標」が〈1か月5%以上低下〉していないと対象とならないのだ。安倍首相が言う「出勤者を最低7割減」に取り組むために従業員を休業させて手当を出そうにも、そもそも新型コロナの影響を受けていない会社では国の助成を受けられないのだ。
 さらに、厚労省は「助成率は中小企業向け最大90%、大企業向け最大75%に引き上げた」「これで事業主の負担が大幅に軽減される」と喧伝するが、裏を返せば、中小企業の場合、10%分の休業手当を自分でカバーしなければならないということだ。しかも、「中小90%、大企業75%」という助成率は「新型コロナの影響を受け、かつ従業員の解雇等をしていない」場合のもの。ひとりでも解雇者を出していると、中小だと5分の4、大企業だと3分の2に助成率は引き下がる。

 厚労省はようやく「申請を簡素化」を打ち出したが、「申請書類の記載事項を約5割削減」と謳うものの実態は73事項の記載が必要だったものが38事項に減っただけ。過去3年間の営業カレンダーやシフト表を提出しなくてはいけないなど、かなり煩雑な作業もまだ求められており、簡素化とは程遠い。
 会社側の費用負担がある上に、申請が面倒──となれば、一体何が起きるか。当然、企業は雇用調整助成金を申請せずに、労働者に休業手当を出さなかったり、解雇することになる
 実際、前述したNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏は、12日に「Yahoo!個人」で配信された記事のなかで、雇用調整助成金の問題点について、こう言及している。
〈この1ヶ月ほど、「会社が助成金を利用してくれない」という労働相談が非常に多い。例えば、臨時休業した店舗で働いていた労働者が、「雇用調整助成金を申請して賃金や休業手当を支払ってほしい」と求めても会社から拒否されるといった事例だ。
残念ながら、労働者の生活を守るための制度が整備されても、企業がそれを利用しないために、労働者が制度の恩恵を受けられないという構図ができてしまっている。労働者個人が直接申請することができないことが根本的な要因だ。〉

医療や検査体制を整備せず、メディアや報道への抗議に金や人を投入する安倍政権
 労働者が休業手当を求めても、会社側が拒否する──。安倍政権および安倍応援団やネトウヨは「助成率を最大90%まで引き上げた」ということをもって「手厚い補償策を打ち出している」などと吹き上がっているが、今野氏が指摘するように「雇用調整助成金」は労働者個人が直接申請することができないという構造的欠陥があり、誰もが受け取れる「休業補償」という仕組みにはまったくなっていないのだ。
 中小・個人事業主向けの現金給付についても、「200万円では焼け石に水」「100万円では1カ月分の固定費で消えてしまう」という声があがっているが、この「雇用調整助成金」を含めて、いま政府が打ち出している助成策をもって「外出自粛や出勤者の最低7割減」を実行することなど不可能だ。
 つまり、〈外出自粛や出勤者の最低7割減は、休業補償がないと不可能だと報じられていますが、正確ではありません〉という厚労省の反論はまったく反論になっておらず、デマというべきなのだ。

 それにしても異常なのは、いまは不十分なPCR検査のツケが回って医療機関で感染が拡大、医療崩壊が起きつつあるのに、そんななかで厚労省は貴重なリソースを割いて、真っ当な指摘をしている記事をデマ呼ばわりするという作業をしている、ということだろう。しかも、冒頭にも書いたように、『モーニングショー』を名指しした件ではデマであることを暴かれ、訂正にまで追い込まれたというのに、である。
 こうした特定メディア叩きは安倍官邸、今井尚哉首相補佐官の指示によるものだと見られているが、ようするに安倍官邸はまったく反省がないどころか、これからも報道潰しをつづけようというのである。実際、本サイトが報じて大きな反響を呼んでいるように、安倍首相が打ち出した108兆円の緊急経済対策のなかには、あきらかに国内外メディアによる政府の新型コロナ対応への批判潰しをおこなうためと思われる予算が計上されているからだ。
 この未曾有のコロナ禍にあって、「国民の生活を守れ」とごく真っ当な指摘をおこなう記事をデマ呼ばわりしてバッシングする作業に邁進する安倍政権……。だが、安倍政権が休業補償という本質を無視して国民に「出勤者7割減」の責任を押し付け、それをメディアが無批判に垂れ流しているだけでは、早晩、医療的にも経済的にも、この国の犠牲者はとんでもない数になることは目に見えている。だからこそ、いまメディアは安倍政権によるメディア圧力を徹底して批判しなければならない。そうでなければ、自分たちも国民も見殺しにする共犯者になるということを肝に銘じるべきだ。(編集部)