元厚労相で政治学者の舛添要一氏が、「コロナ対策、日本は完全に『アジアの劣等生』」とする記事を出しました。
コロナの第1波が沈静し緊急事態宣言を解除した5月25日、安倍首相は「僅か1ヶ月半で収束させたことは世界から『日本モデル』として賞賛されている」と自画自賛しました。
しかし「日本モデル」と呼ばれるような特別の施策は皆無だったのが実態で、中でもPCR検査の規模は諸外国に比べ桁外れに少なく、そもそもが感染拡大防止の基本要件を欠落させていたのでした。それでもコロナを鎮静させることが出来たのは、ひとえに国民が文字通り出血をともなう「休業・自粛」を誠実に実行し、集会や演芸等の催しを自粛し不要な外出を避け、手洗いや手指の消毒に励んだからでした。
PCRの検査規模はその後世論の批判を浴びて2~3倍には増やしたようですが、世界の標準から桁外れに劣っている事実は何も変わっていません。その根本的な原因は、厚労省の医系技官たちが検査の拡充に反対し、分科会内の感染研グループが、コロナ感染の情報を独占しようとしているためです。厚労省は、「保険適用」というカラクリを使ってそうした目的を実現しているといわれています。
無為無策のまま第2波を迎えた結果、この3日間(6~8日)の1日当たりの新規感染者数は第1波ピーク時の倍以上で、感染者の累計は、5月25日の16,706人に対して8月8日は47,488人と3倍近く(2・84倍)に達しています。惨状と呼ぶしかありません。
あの「休業・自粛」を再び繰り返したくないというのは、生活をこれ以上悲惨にしたくない国民の共通した思いです。
何よりも経済の動きを止めないために政府が努力すべきことは一にも二にも「感染拡大の防止」であり、感染が大々的に拡大する中で経済を回し続けることは出来ません。そうした基本的な努力を何もしないで、ひたすら経済を回すことだけにしか目が向かないのであれば、もはや政権に就いている資格はありません。
舛添氏の記事を紹介します。
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コロナ対策、日本は完全に「アジアの劣等生」
舛添 要一 JBpress 2020/08/08
国際政治学者
日本列島各地で新型コロナウイルスの感染再拡大が続いている。8月7日には、東京都462人、神奈川県107人、愛知158人、大阪府255人、福岡136人、沖縄県100人など、全国で1580人(*最終発表1606人)という過去最多の感染が判明した。
まさに憂うべき状態だ。たまりかねた沖縄県の玉城知事、愛知県の大村知事、福岡県の小川知事などが、それぞれ独自の緊急事態宣言(福岡は「コロナ警報」)を発出している。
久々の首相会見、内容の薄さに驚き
NHKが8月1日までの1週間のデータを集計して出した10万人当たりの感染者数は、①沖縄県18.38人、②東京都15.72人、③福岡県13.83人、④大阪府13.68人、⑤愛知県12.80人、⑥宮崎県9.51人、⑦熊本県8.98人、⑧京都府6.39人、⑨岐阜県6.24人、⑩兵庫県5.25人となっている。
沖縄県がトップである。沖縄本島以外でも、石垣島、宮古島、西表島で感染者が判明しているが、多くの観光客が来訪していることが背景にある。感染が収束してから行うはずのGo To Travelキャンペーンを7月22日から実施したことも、この感染者増の要因となっている。
沖縄まで来れば大丈夫と考えて気が緩んだ観光客もいるだろうし、とりわけ若い人は、感染者の4分の1が無症状で、本人も感染したという自覚がない。それが感染拡大につながったのであろう。
沖縄は、多くの人が観光で生計を立てている。玉城知事も苦肉の策として緊急事態宣言を発出したのであろうが、キャンセルが相次いで、観光業界全体が青息吐息である。このような状態は、全国でも同様である。感染防止対策と経済活動とをどのようにバランスをとるかが、最高指導者、安倍首相の役割であるが、その務めを果たしているとは思えない。
安倍首相は、8月6日、原爆の日の記念式典に出席した広島で、「直ちに緊急事態宣言を出すような状況ではない」との判断を示しながら、Go To Travelキャンペーンについては、「観光事業者と旅行者の双方に感染拡大防止策を実施してもらい、『ウイズ・コロナ』の時代の安全で安心な新しい旅のスタイルを普及・定着させていきたい」と述べている。
そして、「大変難しい舵取りではあるが、再び、緊急事態宣言を出す事態とならないよう、国民の健康と命、暮らしと雇用を守り抜いていくために、今後も、必要な対応を速やかに講じていく」と述べた。
全国民が不安に思っているのは、何が「必要な対応」なのかを政府が示し、実行しないからであり、それを首相が行わないまま、このような中身の全く無い空虚な言葉を連ねるのなら、何のための久しぶりの発言か分からない。国民に感染防止策の実施を要請するだけなら、政府は不要である。
自画自賛していた「日本モデル」、第二波で惨憺たる結果に
日本の感染再拡大状況が深刻なので、日本人の間では、他国のことは、同じく深刻な状況にあるアメリカくらいしか話題にならないが、日本をアジア諸国と比べて見ると愕然とする。
日本は、第一波では上手く感染を抑えたとして、自慢もしたし、他国も「日本モデル」などと言って称賛した。しかし、第二波が到来した今、統計数字を見てみると、アジアにおける日本の惨状が浮かび上がっている。
欧米に比べて、アジア諸国は、致死率などが低く、その理由としてBCG接種など様々な要因があげられている。8月6日現在の感染者数・死亡者数を見ると、中国8万4528人・4634人、韓国1万4499人・302人、タイ3330人・58人、ベトナム747人・10人、台湾476人・7人であるのに対して、わが日本は4万5006人・1048人となっている。人口比で見た場合、列挙した中で日本が最悪である。とても優等生などと言えたものではない。
なぜ、こうなったのか。基本的には、「検査と隔離」という古代からの感染症対策の基本原則に忠実ではなかったからである。とくに、「検査」が不十分で、それは今も続いていることは、私が一貫して主張している通りである。
参考記事:なぜこの期に及んでもPCR検査は増えないのか
専門家会議は何をしていたのか。厚労省は規制こそすれ、検査の民間委託や保険適用などが容易に可能になる手を打たなかった。また、国民の代表であるべきマスコミも、それを政府に要求せず、大本営発表を垂れ流すのみであった。
その点では、極論すれば、日本に科学も政治もマスメディアも不在なのである。
科学者については、感染症の専門家ですら、「PCR検査を大量に行えば医療崩壊が起こる」として、むしろ抑える勢力に協力していたのではないか。東京の大谷義夫医師が、現場からの声として「PCR検査を増やしてほしい」と、2月中旬にテレビ出演の際に訴えたら、極右などの安倍政権支持者から「政権批判をするのか」と攻撃を受け、診療行為にも支障を来すようになり、テレビ出演を取りやめている。
厚労省は、3月6日に、建前上はPCR検査に保険適用できるようにしたが、実際は感染研の委託業務の形をとっているため、適用にはバリアーがありすぎる仕組みになっている。これこそ、厚労省の規制体質、感染研の情報独占体質なのである。
十分な検査をしないで、感染実態が正確に掴めるはずはない。マスコミは、感染者数のみを垂れ流し、PCR検査数を同時に流すことはしない。歌舞伎町など「夜の街」で感染者数が急増したのは、キャバクラやホストクラブなどでPCR検査を徹底したからである。もっと早く歌舞伎町全体に、この検査を拡大する英断を下していたら、今のように第二波が拡大する前に抑えられていたのではないか。
国の専門家も東京都のアドバイザーも、そういうことを進言したということを聞かない。だから、御用学者だと批判されるのである。
(以下省略)