厚労省の有識者会議「統計委員会」は28日に会合を開き、今年から賃金の算出方法を変えたため、統計上の賃金が前年と比べて大幅に伸びている問題で、発表している賃金伸び率が実態を表していないことを認めました。
これは、賃金を高く見せるために1月に、賃金統計のサンプル対象の半数弱について、大企業の比率を増やし中小企業を減らす操作をした結果です。この問題は以前にも指摘されていましたが、厚労省は従来ベースの賃金も「参考データとして表示」するから問題ないとしていました。
しかしそんな詐術まがいの方法が問題にならない筈はなく、有識者会議で改めて指摘されました。
追記)ところで参考値は、大企業に入れ替えなかったグループ(半数強)単独の集計値のことを指すようなのですが、大企業に入れ替えなかったということは、もともと大企業であるか乃至はその比率が高いグループなので、その統計も当然従来の値よりも高めを示すことになります。つまり参考値も「参考にならない」ということです。
GDPの計算もそうですが、統計の対象を変えてしまうのは詐術と呼ばれても仕方がなく、あざといやり口と言うしかありません。
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厚労省の賃金統計「急伸」 実態表さずと認める 政府有識者会議
東京新聞 2018年9月29日
厚生労働省が今年から賃金の算出方法を変えた影響により、統計上の賃金が前年と比べて大幅に伸びている問題で、政府の有識者会議「統計委員会」は二十八日に会合を開き、発表している賃金伸び率が実態を表していないことを認めた。賃金の伸びはデフレ脱却を掲げるアベノミクスにとって最も重要な統計なだけに、実態以上の数値が出ている原因を詳しく説明しない厚労省の姿勢に対し、専門家から批判が出ている。
問題となっているのは、厚労省が、サンプル企業からのヒアリングをもとに毎月発表する「毎月勤労統計調査」。今年一月、世の中の実態に合わせるとして大企業の比率を増やし中小企業を減らす形のデータ補正をしたにもかかわらず、その影響を考慮せずに伸び率を算出した。企業規模が大きくなった分、賃金が伸びるという「からくり」だ。
多くの人が目にする毎月の発表文の表紙には「正式」の高い伸び率のデータを載せている。だが、この日、統計委は算出の方法をそろえた「参考値」を重視していくことが適切との意見でまとまった。伸び率は「正式」な数値より、参考値をみるべきだとの趣旨だ。
本給や手当、ボーナスを含めた「現金給与総額」をみると、七月が正式の1・6%増に対し参考が0・8%増、六月は正式3・3%増に対し参考1・3%増だった。実態に近い参考値に比べ、正式な数値は倍以上の伸び率を示している。
厚労省がデータ補正の問題を夏場までほとんど説明しなかった影響で、高い伸び率にエコノミストから疑問が続出していた。統計委の西村清彦委員長は「しっかりした説明が当初からされなかったのが大きな反省点」と苦言を呈した。
SMBC日興証券の宮前耕也氏は「今年の賃金の伸び率はまったくあてにならない」と指摘した上で「影響が大きい統計だけに算出の方法や説明の仕方には改善が必要」と提言している。 (渥美龍太)
<毎月勤労統計調査のデータ補正> 厚生労働省が一定数の企業を選んで賃金などを聞き取るサンプル調査。対象になった大企業や中小企業の割合は世の中の実態と誤差が出るため、総務省が数年ごとに全企業を調査したデータを反映させ、補正する。賃金の伸びを正確に把握するため、このデータを更新した年は過去の分も補正し、連続性を持たせてきたが、今年は「統計改革の一環」(厚労省)として補正をしていない。その結果、規模が大きい企業の割合が多い2018年と少ない17年を比べることになり、賃金の伸び率が実態よりも大きくなった。