2018年9月6日木曜日

06- 徹底比較 安倍晋三と石破茂 (8) (9)

 日刊ゲンダイの連載記事:「徹底比較 安倍晋三と石破茂 (8)(9)」を紹介します。
 
 対談者の鈴木哲夫氏、野上忠興氏のプロフィールについては、連載1回目
      ⇒ (8月26日)徹底比較 安倍晋三と石破茂 (1)、(2)
を参照ください。
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 徹底比較 安倍晋三と石破茂 (8)
安倍は消去的選択で政界へ 石破は田中角栄の一喝が契機に
日刊ゲンダイ 2018年9月4日
野上 安倍は特攻隊の生き残りだった父・晋太郎とは違って、政治家を強く志していたわけではありません。私の取材に「職業政治家への道をはっきり意識したのは中学の高学年から高校時代にかけてだった」と話していましたが、実際は違うでしょうね。学生時代も何をやろうか迷いあぐねていた。「あまり勉強は好きではなかった」と安倍も言っていますが、要するに勉強が苦手。だから自信がない。進路を決める大学3、4年になっても「政治家になる」と明確な言葉で聞いた仲間はいませんし、卒業後は米国に語学留学。晋太郎の選挙区事情もあって神戸製鋼所に“政略就職”しています。
 
鈴木 政治家を目指していない点は石破も同じです。大学3年の頃に参院議員だった父・二朗に「政治家になる気はあるか」と聞かれ、「まったくありません」と答えている。卒業後は三井銀行(当時)に入行しました。
 
野上 安倍の場合は次男だったことも影響しています。安倍家は選挙区の後援会も含めて、2歳年上の兄・寛信が後継という考えでいた。安倍兄弟は学生時代から選挙を手伝ってきたのですが、社会人になってから寛信が政治家は嫌だと突っぱねたのです。冬の選挙応援で風邪をこじらせ、ウイルスが脊髄に入って3カ月ほど入院生活を送った。衆人環視の政治家の生活にも耐えられないと。それで安倍にお鉢が回ってきたというわけです。晋太郎が外相就任直後にサラリーマンを辞めさせられ、秘書官になったことが政界入りの契機で、いわば消極的選択です。
 
鈴木 石破のターニングポイントは、父・二朗をがんで亡くしたこと。二朗が師事した田中角栄が遺志をくんで葬儀委員長を務めてくれた。石破が後日お礼に行くと、「父親の後を継いで政治家になれ」「君の父親は県知事15年、参院議員7年。君が後を継がなかったら、これまで応援してくれた地元の人に申し訳ないと思わないのか!」と迫られた。当時24歳で参院の被選挙権がない。それを告げると、「再来年は衆参ダブル選だ! そのときはおまえも26歳だろう!」と。欠員が出る衆院選に出馬しろ、と言われたんです。結果的にダブル選にはなりませんでしたが、三井銀を退職して角栄の派閥だった木曜クラブ事務局に勤務。二朗の逝去から5年経った1986年の衆院選で旧鳥取県全県区(定数4)に初出馬し、28歳の全国最年少国会議員として最下位でしたが初当選しました。
 
野上 安倍は、晋太郎ががんで病床に伏す中、出馬準備を始めました。晋太郎は67歳で亡くなり、安倍は当時36歳。2年後の93年7月に臨んだ弔い合戦は旧山口1区(定数4)に8人が立候補する大混戦でしたが、後援会がフル稼働し、2位に約3万票の大差でトップ当選しています。石破と違ってスタートは野党議員となりましたが。(つづく・敬称略)
 
 
 徹底比較 安倍晋三と石破茂 (9)
石破はとことん探求するオタク 安倍はとにかくミーハー
  日刊ゲンダイ 2018年9月5日
鈴木 石破はことあるごとに「オタク」と呼ばれていますよね。眉をひそめてもおかしくないのに、本人は意に介さず、ニコニコと笑顔で応じている。石破はそれが政治家として面白いと捉えているんです。確かに、マンガ、アイドル、鉄道、軍事なんかは非常に詳しい。クラシック音楽にも精通している。ですが、石破が「オタク」と呼ばれるのには違和感があるんですよね。何にでも興味を持って、好きなものをトコトン探究し、自分だけが大好きな部分を見つけることに喜びを感じるタイプ。俗に言うオタクのこだわりとは違う印象です。
 
野上 安倍にはそういうこだわりはないですね。学友たちに聞いても「とにかくミーハーだった」との言葉が異口同音に返ってきたものです。学生時代は麻雀をよくやっていたといいますし、いまはゴルフが気分転換なのでしょう。小学校高学年の頃はよく「映画監督ごっこ」をしていたほど映画は好きです。ダウンタウンの松本人志やHKT48の指原莉乃らと会食したり、芸能界との付き合いも深めています。
 
鈴木 石破は大学時代に「石破のヤマかけ講座」を開いていたくらいで、もともと知的ゲームがすごく好きなんです。例えば、カラオケの楽しみ方も違う。たまたま一緒にしたことがあるんですが、まずテーマを出すんです。「今日は雨が降っているから〈雨〉。それに〈昭和〉を掛けよう」といった具合で、昭和の曲で雨にまつわる選曲で縛りをかける。思いつかないような曲を歌われると「これ来たかーっ」と悔しがり、今度は自分がタイトルに〈雨〉のない曲を入れて、「歌詞に入っているでしょう」と言われると「見抜かれたーっ」と。好きなことに付加価値をつけてさらに楽しむ癖があるんです。軍艦であればこれは大砲が160度しか回転しない、あれは180度回転するとか。鉄道にしたって、何型のSLで車輪のここがどう違うとか。知識の深掘りを楽しんでいるんです。
 
野上 「オタクも極まれり」ですね。周辺によれば、安倍は一時期、バイオレンス映画をよく見ていたといいますし、菅原文太などの任侠モノも時には見ているようです。
 
鈴木 首相動静にその手の映画観賞は出てきませんよね?
 
野上 トップリーダーですから、“公私”は別なのでしょう。今年の元日は六本木で妻・昭恵ら親族と「オリエント急行殺人事件」を観賞していましたが、ストレス解消のために外遊時にスカッとする気分転換用のDVDを持って行くことがあるとも伝え聞いています。ひところは東京・富ケ谷にある私邸の母・洋子が起居する3階の居間で、ソファの真ん中に安倍が陣取り、洋子らと3人並んでバイオレンス映画を一度に何本も見ることもあったそうです。
 
鈴木 自宅の居間で親子並んでバイオレンス映画ですか……。
 
野上 周辺は「血がハデに吹き飛ぶような映画を何本も付き合わされるわれわれもたまらない」とか言っていましたが。  (つづく・敬称略)