2018年9月18日火曜日

安倍首相の答弁を信号無視話法で分析すると

 犬飼淳氏による興味深い記事を紹介します。
「信号無視話法分析」というのは、質問に対する答弁の文言を、「質問と無関係なことを述べる、論点すり替え、虚偽を述べる」を赤信号、「質問を復唱する、質問の内容を説明する」を黄信号、「質問内容に回答する」を青信号に見立ててセンテンスまたは単語ごとに分類し、その比率を明らかにする手法のことです(上記分類に入らない「不要な言葉、意味不明な言葉、似た言葉の繰り返し」は「灰色」)。
 
 記事では、14日の日本記者クラブ主催の自民総裁候補討論会第2部での北朝鮮拉致問題に関する質疑3問に対する答弁の分析例が示されています。
 各信号毎に集計した結果は
        安倍氏答弁   44%  30%  21%   5%
        石破氏答弁    0%  35%  65%   0%
 で、「安倍氏は赤信号と黄信号が計74%を占め、質問にほとんど回答できていない」、それに対して「石破氏は青信号が65%を占めており、質問におおむね回答できている」という結果になりました。そして
安倍氏は、質問内容を理解する力が欠如している、また考えを簡潔に言語化するだけの国語力が備わっていない
石破氏は日本語の質問を理解し、話し言葉で回答する点安倍氏より優れている
と結論づけられました。これは我々の感覚と一致し、納得できるものです。
 
 なお、原文では黄信号該当箇所は黄色文字で表示していますが、それだとやや見にくいので、ここでは茶色文字を用いました。文中の太字強調個所は原文に拠っています
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自民党総裁選公開討論会の一部を「信号無視話法」分析してみた

                https://hbol.jp/174942
犬飼淳 ハーバービジネスオンライン 2018年9月16日
窗体顶端
 現職の安倍晋三総理と石破茂・元幹事長の一騎討ちとなった自民党総裁選。9月6日に発生した北海道胆振東部地震の対応を優先するという理由で3日間の総裁選活動自粛を挟んだ一方、投開票日は9月20日のまま延期されなかった。そのため、候補者の討論会が一度も行われないという奇妙な状況が続いてきたが、ようやく9月14日に日本記者クラブ主催の討論会が実現した。討論会の第1部は安倍総理と石破氏による一問一答形式、第2部は記者クラブの代表記者が両者に質問する形式をとった。
 
 本記事では、この第2部での北朝鮮拉致問題に関する質疑3問を取り上げたい。この部分を選んだ理由は、「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言った事はございません」という安倍総理の衝撃的な発言があったにも関わらず、翌15日時点でほとんどのメディアが報じていないためだ。
 また、安倍総理、石破氏の回答は信号機のように3色(はOK、は注意、はダメ)で直感的に視覚化していく。
 

衝撃の「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけなんて言ってない」発言

 
1問目 北朝鮮拉致問題(回答者:安倍総理)
 記者クラブから安倍総理に対し、以下のような質問がされた。
 
「安倍政権は一貫して拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと言われてきた。一体どうなっているのか? ご家族も高齢になっている。現状はどうなっているのか? 見通しはあるのか?」
 
 この質問に対する安倍総理の回答がこれだ。
 
「あの、えー、拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言った事はございませんこれは、あの、えー、ご家族の皆さんがですね、えー、そういう発言をされた方がおられるとは承知をしておりますが、えー、ですから私も大変大きな責任を感じております
 あの、おー、2007年に、いや、2002年にですねま、彼らに5人の被害者の方々が帰国をされて家族の方と抱き合っていた。横田滋さん、早紀江さん。滋さん会長を務めておられましたから、そこにおられた。しかし残念ながらそこにはめぐみさんの姿はなかった。涙を流しておられた。なんとかですね、このご両親の手で子どもたちを抱きしめる日を迎えたいとこう思ってずっとやって参りました。ま、そこで先般、米朝首脳会談が行われました。そしてそこで拉致問題について私の考え方、日本の考え方を金正恩委員長に伝えました。
 次はまた自身が金正恩委員長と向き合い、この問題を解決しなければならないと決意しています。もちろん相手があることでありますから、そう簡単ではありませんがあらゆるチャンスを逃さずに。これはあらゆるチャンスを逃さずにそのチャンスをつかみたいと思っています。あの、今どういう交渉しているかということはもちろん申し上げられませんし、どういう接触をしてるかということも申し上げることはできませんが、あらゆるチャンスを逃さないという考え方のもとにですね、いま申し上げた決意のもとに進めていきたいと思っています
 
 まず、最初の段落。「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言った事はございません」という発言を中心に虚偽の疑いが強いと判断して、赤信号とした。その根拠として、安倍総理の拉致問題に関する発言を紹介したい。
「そして何よりも、拉致問題の解決です。全ての拉致被害者の御家族が御自身の手で肉親を抱きしめる日が訪れるまで、私の使命は終わりません。北朝鮮に「対話と圧力」の方針を貫き、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しの三点に向けて、全力を尽くします。」
(出典:内閣官房内閣広報室 2013年1月28日安倍内閣総理大臣所信表明演説、最終アクセス日時 2018/9/15 15:39
 これらの発言は総理に再就任した2012年12月から翌1月にかけてのものである。誰がどう読んでも、「安倍政権で拉致問題を解決する」という決意に読み取れる
 また、中盤は、回答者でありながら何故か質問内容(拉致問題)に関する経緯を説明しているだけのため、黄信号とした。
 終盤は青信号としたが、「あらゆるチャンスを逃さずにそのチャンスをつかみたい」という非常に抽象的な回答にとどまっている。
 
窗体底端

具体的な回答をしていた石破氏

 
2問目 北朝鮮拉致問題(回答者:石破氏)
 続いて、記者クラブから石破氏にも拉致問題について
「石破さんなら どうします?」と質問が出た。
 これに対する石破氏の回答が以下である。
 
それは平壌に日本、東京に北朝鮮。連絡事務所を置くところから始めなければいけないと思っています。
 つまりストックホルム合意で北朝鮮がいろんなことを言ってきた。だけどこれは信用ならないということで無視することになっちゃったんですよ。そこから足がかりは何にも無くなっちゃったわけですよ。北朝鮮とアメリカがなんで話をするに至ったかかっていうのは、それは圧力が加わったからということもあるでしょうけど中国の後ろ盾というのがはっきりした。アメリカまで届くミサイルの技術に自信を持っている。核の小型化にも。
 拉致問題は日本の話なので外国にお願いしてどうのこうのという話ではありません。そして外交交渉ですから一つ一つ確認をしていかなければ前進はないのであって向こうがいろんな情報を出す。じゃあそれは本当なのかということを日本として確認をしていかなきゃいかんでしょ。一つ一つ積み上げていって、お互いが連絡員事務所を持って、向こうの出す情報をきちんと日本国として確認をしていく。その末にこの解決はあると思っています。着実にやっていかなければならないし、北朝鮮は北朝鮮として体制の生き残りをかけて、ものすごく大きな絵を描いてるんですよ。我々としてそれも念頭に置きながら一つ一つ着実に少しずつ進んだね。その先に拉致問題の解決があるということは絶対に忘れてはならないことです
 
 2段落目は北朝鮮問題に関する過去の経緯の説明のため黄信号としたが、そのほかの大半は質問に対する回答にあたると判断して青信号とした。
 肝心の回答内容は「両国に連絡事務所を置く。日本の問題であって外国任せではいけない」など安倍総理よりは具体的な内容に踏み込んでいた。
 また、安倍総理と比較すると色なし(不要な言葉、意味不明な言葉)が無いことも大きな特徴だ。
 

論点のすり替えを行う安倍総理の回答

 
3問目 北朝鮮拉致問題(回答者:安倍総理)
 さらに安倍総理に拉致問題について再質問が飛ぶ。
 
「安倍総理は拉致被害者を生きて全員奪還とずっとおっしゃってきたが、北朝鮮の言い分では政府認定の17人の被害者のうち5人は帰国済み、4人は未入国、8人は死亡。この事実認識の差を埋める努力をしなかったことが拉致問題を長引かせた要因ではないか。
 拉致問題解決のゴールはどこにあるのか? 何が解決すれば、拉致問題の解決なのか? 安倍さんは『生きて全員奪還』と言ってきたが、確証はあったのか?
 もし不都合な真実が出てきたら、どう責任を取るのか?」
 
 これに対する安倍総理の回答が以下だ。
 
埋める努力をしな、しなかったとおっしゃいましたが、例えば埋める努力というのは、北朝鮮の言い分を私たちが飲めということなんですか?
 これは今、検証するとこうおっしゃいましたね。あのつまり彼らは日本人を拉致したのは彼らです。一体どうやって何人拉致をしているかということは全貌は私たちは分からない。はっきりと認定できているのは今言われた17人であります。ま、そこで、死亡したというですね、確証が我々、彼らが出していないわけです。彼らが送ってきた遺骨は実は違った
 であるならば政府としては生きているということを前提に交渉するのは当たり前じゃありませんか。私たちがそうではないということを疑っていました。ゆうことになればですね彼らは、えー、自分たちが言ってるとおりでしょうということになるわけであります。拉致問題を解決をするというのは彼らがまさに実際に実行しているわけでありますから、それを正直に私たちを納得させるということに他ならないわけでありまして、これはまさに実行したのは彼らであって拉致をされたのは日本側であります。その観点をですね、忘れてはまさに北朝鮮の思うツボなんですよ。この思うツボにはまってはならないわけありまして。我々が死亡ということを確認できない以上は政府としてですね生きているということを前提にですね、交渉しなければならない。これ当然のことなんだろうと思います。そういう観点に立って、いま交渉しているということであります
 
 冒頭の段落は以下のように論点をすり替えているため、赤信号とした。
質問者の意図  :両国の認識差を埋める努力をすること
安倍総理の解釈:北朝鮮の言い分を飲むこと
 その後の2段落目は回答者でありながら何故か質問内容(拉致問題)に関する経緯を説明しており、黄信号とした。
 さらに、3段落目では再び論点のすり替えがされているため、赤信号とした。
質問者の意図:「生きて全員奪還」発言の確証の有無
安倍総理の解釈:全員生存という前提に立つことの是非
 また、「まさに」という表現を3回も多用しているが、分脈から判断して全て不必要なため色なしとした。
 結局、回答と判断できる内容は1文字もない
 
集計結果
 両者の回答内容を集計した結果、このようになった。
        安倍氏  44%  30%  21%   5%
        石破氏   0%  35%  65%   0%
 安倍総理は赤信号と黄信号が計74%を占め、質問にほとんど回答できていない。
 一方、石破氏は青信号が65%を占めており、質問におおむね回答できている
 また、色なし(不要な言葉、意味不明な言葉)は安倍総理のみに現れており、安倍総理がしばしば何を言っているのかわからない状態になる一因になっている。
 これらの集計結果を踏まえて、以下のことが言える。
安倍総理は質問内容を理解する力が欠如している。もしくは意図的に質問に答えていない。
安倍総理は考えを簡潔に言語化するだけの国語力が備わっていない
石破氏は日本語の質問を理解し、日本語で回答する点において、安倍総理より優れている
 

安倍総理の衝撃的発言を報じないメディア

(後  略)