2018年9月26日水曜日

『新潮45』休刊 会社として「深い反省の思いを込め」

 月刊誌「新潮45は8月号で自民党の杉田水脈衆院議員による寄稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」を載せました。それは「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」など述べていて、当然激しい批判を浴びました。
 ところが9月18日発売の10月号では、更に開き直って「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」の特集を行い、8月号の杉田水脈氏の論文が「見当外れの大バッシングに見舞われた」と記した上で、杉田氏を擁護する論考などを掲載しました。執筆者は「真正保守」の論客である教育研究者、藤岡信勝氏や文芸評論家、小川栄太郎氏ら7人でしたが、当然それらも批判に晒されました。特に小川榮太郎氏は、LGBTは「性的嗜好」の問題であるとして、「LGBTを認めるなら痴漢の触る権利も保障すべき」というような暴論を述べています。
 
「新顔45」が重ねて批判を受ける中、新潮社の佐藤隆信社長は21日、「ある部分に関しては、あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました」との見解を同社のホームページに掲載(下記)ました。
 雑誌の一企画に対して出版社の社長がコメントするのは異例で、これは担当編集部との調整がないままに発表されたようです。
 
お知らせ(新潮社ホームページ)「21日」
「新潮45」2018年10月号特別企画について
 
 弊社は出版に携わるものとして、言論の自由、表現の自由、意見の多様性、編集権の独立の重要性などを十分に認識し、尊重してまいりました。
 しかし、今回の「新潮45」の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」のある部分に関しては、それらに鑑みても、あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました。
 差別やマイノリティの問題は文学でも大きなテーマです。文芸出版社である新潮社122年の歴史はそれらとともに育まれてきたといっても過言ではありません。
 弊社は今後とも、差別的な表現には十分に配慮する所存です。
株式会社 新潮社  
代表取締役社長 佐藤 隆信
 
 文面からは反省の意は汲み取れますが、編集部は謝罪文ではないとし、釈然としないところがありました。
 
 そうしたところ25日、新潮社名で同社ホームページに「新潮45休刊のお知らせ」が掲載され、その中で、「『あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現(9月21日の社長声明)を掲載してしまいました。このような事態を招いたことについてお詫び致します」と謝罪し、休刊することを告知しました。この休刊は「限りなく廃刊に近い休刊」とされています。
 
 これを伝えたORICON NEWSと毎日新聞の関連記事を紹介します。
 
註 これに似た例として1995年2月、文芸春秋社の月刊誌『マルコポーロ』(花田 紀凱 編集長)が、ナチスドイツのホロコーストを否定する内容の記事を掲載したことに対して、ユダヤ人団体などから抗議を受けて自主廃刊しています。表現の自由にも自ずから限度があるということです。
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『新潮45』休刊 会社として「深い反省の思いを込め」
ORICON NEWS  2018年9月25日
 新潮社は25日、物議を醸していた『新潮45』を休刊することを公式サイトで発表した。
 
 休刊の経緯として「ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていた」ため、「その結果、『あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現』を掲載してしまいました」と謝罪した。
 会社として、「十分な編集体制を整備しないまま『新潮45』の刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて、このたび休刊を決断」した。今後に向けて「社内の編集体制をいま一度見直し、信頼に値する出版活動をしていく所存です」と決意を新たにしている。
 同誌は1985年に創刊した総合月刊誌。8月号で杉田水脈氏が「同性愛者は生産性がない」と主張する内容の寄稿文を掲載し、10月号でも杉田氏を擁護する特集を組んだことで、各方面から批判を浴びていた。
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お知らせ(新潮社ホームページ)「25日」
「新潮45」休刊のお知らせ
 
 弊社発行の「新潮45」は1985年の創刊以来、手記、日記、伝記などのノンフィクションや多様なオピニオンを掲載する総合月刊誌として、言論活動を続けてまいりました。
 しかしここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていたことは否めません。その結果、「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」(9月21日の社長声明)を掲載してしまいました。このような事態を招いたことについてお詫び致します。
 会社として十分な編集体制を整備しないまま「新潮45」の刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて、このたび休刊を決断しました。
 これまでご支援・ご協力いただいた読者や関係者の方々には感謝の気持ちと、申し訳ないという思いしかありません。
 今後は社内の編集体制をいま一度見直し、信頼に値する出版活動をしていく所存です。
2018年9月25日
株式会社 新潮社
 
 
新潮45休刊:「組織ぐるみ擁護に怒り」新潮社前でデモ
毎日新聞 2018年9月25日
 休刊する月刊誌「新潮45」の今回の特集に抗議するデモが25日夜、東京都新宿区の新潮社前であった。デモには、性の多様性を象徴する「レインボーフラッグ」や「差別に抗議する」と書かれたプラカードを持った性的少数者(LGBTなど)や支援者ら100人を超える人が参加した。
 
 元書店員の女性(25)は「(衆院議員の)杉田(水脈)氏や(文芸評論家の)小川(栄太郎)氏の文章はヘイトスピーチそのもので許せない。新潮社の本を書店員としてたくさん売ってきただけに、裏切られた気持ちだ。休刊ではなく即刻廃刊すべきではないか」と怒りをあらわにした。台湾出身で、三重県で大学教員をしている男性は「杉田氏一人の寄稿だけではなく、組織ぐるみで擁護をしたことに怒りを覚えた。新潮社は掲載内容のどこが間違っていたのか、きちんと説明すべきだ」と語気を強め、団体職員の女性(40)は「なぜ時代に逆行するようなことをしたのか」と首をかしげた。【山口敦雄、大原一城】