安倍首相の3選を迎えて21日、各紙が出した社説のタイトルにはその強硬性・独善(断)性を批判する言葉が溢れました。
「口先でない丁寧、謙虚を」(琉球新報)、「謙虚に国民と向き合え」(南日本新聞)、「国民置き去りは許されぬ」(高知新聞)、「謙虚な政権運営 今度こそ実現を」(愛媛新聞)、「国民に向き合う政治を」(信濃毎日新聞)、「国民の声聴く政治を」(福島民報)、「謙虚な政治の姿見せよ」(北海道新聞)、「国民の声を畏れよ」(東京新聞)、「独善的な姿勢から決別を」(毎日新聞)
という具合です。
それらは安倍政治が国民の目にどう映っているかを示すものですが、あるべき為政者の「像」からかけ離れていることが分かります。
琉球新報の「安倍自民総裁3選 口先でない丁寧、謙虚を」と福島民報の「(安倍総裁連続3選)国民の声聴く政治を」を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説)安倍自民総裁3選 口先でない丁寧、謙虚を
琉球新報 2018年9月21日
事実上、次の首相を選ぶ自民党総裁選で安倍晋三氏が3選された。特に国会議員405票のうち329票と圧倒的な票数を集め、石破茂元幹事長を突き放した。今後3年の任期で安倍氏は憲政史上最長の首相となる。
ただし、地方の党員票は安倍氏224に対し、石破氏が181と善戦した。安倍陣営の圧勝戦略を阻んだのは、森友学園・加計学園問題に表れた政治や行政への批判票やアベノミクスに代表される経済政策の恩恵が地方には届いていないとの不満票だろう。安倍総裁は国民の批判や不満を謙虚に受け止めるべきだ。
総裁選は安倍、石破両氏の一騎打ちとなったが、両者の政策論争は期待外れに終わった。安倍氏は、自身の関与が取り沙汰された森友・加計問題について問題をすり替えたり、はぐらかしたりした。
特に民放テレビの報道番組での安倍氏の発言にはあきれた。司会者が「学生時代の友達でも金融庁幹部とメガバンクの頭取はゴルフをしてはいけない」と指摘したことに対し、安倍氏は「ゴルフに偏見を持っていると思う。今、オリンピックの種目になっている。ゴルフが駄目で、テニスはいいのか、将棋はいいのか」などと反論した。こんなすり替えで、国民は納得すると思っているのだろうか。
ほかにも少子化や財政健全化への対応、地方の振興、災害列島と言われる国の防災、災害復旧策など喫緊の課題は多くあった。異次元の金融緩和策を正常化させる「出口」には総裁任期の3年以内に道筋を付けたいと述べたが、明確な説明はなかった。
間近に迫る沖縄県知事選挙は、自民党が進める米軍普天間飛行場移設に伴う辺野古新基地建設が最大の争点となっている。
石破氏は自身のホームページで、沖縄の基地集中の要因について、日米が本土の基地反対運動を恐れたからだとの見解を示したが、後に削除した。基地集中の理由が地理的優位性や軍事的要因などではないとした主張は正論だ。これを起点に沖縄の基地負担軽減や辺野古新基地建設の妥当性を論じてほしかった。
安倍総裁は開票後、憲法改正に取り組むと明言した。しかし国民は改定には否定的だ。共同通信社が8月に実施した全国電話世論調査では、憲法改正への反対が49・0%と、賛成の36・7%を大きく上回った。
国民のほぼ半数が反対する憲法改正は最優先課題だろうか。それよりも前に取り組むべき問題は多い。地方票に表れた不信や不満にどう応えるのか。
選挙戦では石破陣営の斎藤健農相に対する辞任圧力問題などもあり、安倍一強態勢の弊害もにじみ出た。安倍総裁は「謙虚に、丁寧に」と繰り返したが、この間、丁寧な説明を受けた記憶はない。口先だけでなく実行してもらいたい。
(社説)(安倍総裁連続3選)国民の声聴く政治を
福島民報 2018年9月21日
自民党総裁選は安倍晋三首相が連続三選を果たした。与党第一党の党首として国政を引き続き担う。勝利を受けて憲法改正への意欲を改めて示した。ただ、選挙戦では経済財政、災害対応などへの対策を語る一方、国民生活の根幹を成すエネルギー問題への言及がなかったのは残念だ。
森友、加計学園問題など国民が知りたい件に関して、安倍首相は説明責任を果たしてきたと言い難い。ともすれば数の力に頼った強引な国会対応が目立つ。対立する意見を尊重する謙虚さを欠く。国民の声に耳を傾けて合意を目指す、丁寧な国政運営を望む。
選挙戦で安倍首相は課題解決に期限を区切った。九条改正は「あと三年でチャレンジしたい」と意気込む。六十五歳以上の雇用継続の仕組みや七十歳を超えての年金給付開始を選択できるようにする社会保障制度改革、災害に備える国土強靱[きょうじん]化の緊急対策は、いずれも三年間で実施するとした。人口減少を迎えた地方自治の在り方と地方財政改革は二年といった具合だ。
スケジュール意識を持って仕事をするのは悪くない。だが、合意に至る経過を重視する民主主義のルールの下で、政権の思惑優先で事を運ぼうとするのは独善に陥りかねない。改憲は特にそうだ。国民の間にはさまざまな意見がある。賛否が分かれ、議論が生煮えのまま国会採決や国民投票に持ち込むようなことになれば国論分裂の禍根を残す。
社会保障制度や強靱化対策にしても、財源の問題が避けて通れない。来年十月には消費税率10%への引き上げが控える。景気や家計への影響を最小限度に抑え、国の収支均衡を図りながら、政策をどう実現するのか。わが国の財政は莫大な赤字を抱えている。国民が納得できる説明と慎重な議論が欠かせないはずだ。
北海道地震で電力供給の弱点が露呈したにもかかわらず、選挙戦でエネルギー問題は触れられなかったようだ。道内の発電が停止し、国民生活にも影響を与えたというのに。政府は原子力への一定程度の依存を維持しようとするが、原子力発電所の廃棄物処理に向き合う熱意は伝わってこない。東京電力福島第一原発事故の収束に向けた廃炉や汚染水処理など本県の明日を左右する懸案への対応も聞くことができなかった。
時事通信社の直近の世論調査で内閣支持理由のトップは「他に適当な人がいない」だった。「首相を信頼する」の二倍に上る。安倍首相は「強い指導力」を掲げるが、国民世論を侮った政治姿勢は、いつか行き詰まる。(鞍田炎)