経済統計学会が会長名で2月21日、厚労省の統計法違反について声明を出しました。
声明は、
『公的統計は,現実の客観的な把握並びに正確な将来の見通しを提供するもので、いかなる権力からも自立した存在であるべきとして、1947年(昭和22年)に統計法が制定された。今回の労働統計を中心とする統計不正は,単なる調査技術上の問題にとどまるものではなく、法制度の仕組みそれ自体の存立基盤を覆すもので、わが国の公的統計と国のありかたそのものを根底から揺るがしかねない問題である。
今回の不祥事の対応を誤ればわが国の公的統計に将来はなく、日本の統計に対する国際社会からの信用を喪失する。関係各機関は,政治権力から独立でなければならないという近代統計の原点に立ち返り,公的統計の社会的使命を改めて確認するとともに、真正な第三者組織による徹底した原因究明が行われることを求める。(要旨)』
とする極めて厳しいものです。
賃金統計に関する重大な不正は、16年5月の第9回経済財政諮問会議(安倍首相が議長)で「経済統計の改善」が謳われたことに端を発し、首相の意向を忖度した官僚たちが統計方法を細部にわたって入念に「改善」した結果が18年の「賃金対前年比大幅アップ」の偽装に結実したのでした。
そして元凶である安倍首相がいまに至るもシラを切り続けているというのが、「わが国」の実態です。
それとは別に総務省は8日、厚労省が所管する賃金構造基本統計の不正に関する調査報告書を公表したので、その概要も併せて紹介します。
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(経済統計学会からの声明)
2019年2月21日
統計委員会
委員長 西村淸彦殿
厚生労働省の統計法違反をめぐる経済統計学会からの声明
経済統計学会会長
金子治平
経済統計学会を代表し,厚生労働省の統計不正問題について声明する。
日本が近代国家としての歩みを開始して以来,一貫して公的統計は,その時々の実態を反映する鏡,将来を指し示す道標として位置づけられ,それはいかなる権力からも自立した存在であるべきとされてきた。戦時期に公的統計がその機能を果たしえなかったことが,わが国を無謀な戦争へと駆り立てたことへの痛切な反省から,戦後の統計再建にあたり基本法規として制定された統計法(昭和22年法律第18号)は,「統計の真実性」の確保を最優先の目的として規定し,そのような法制度の下にわが国の統計行政は遂行されてきた。
さらに改正統計法(平成19年法律第53号)は公的統計を国民共通の情報資産と謳い,それを行政のみならず広く社会の営みの基盤をなす情報と規定している。近年,EBPMとして公正かつ透明な政策立案が強く求められる中,現実の客観的な把握並びに正確な将来の見通しの提供という統計の社会的使命は,一層重要性を増している。
本学会は,その設立以来,内外の統計法および統計制度の研究も含め,公的統計の作成と利用に関して,現実の認識資料としていかにすれば公的統計が公正性を担保しうるか,そして公的統計がいかにしてその社会的使命を果たしうるかを主要な研究領域として学術面から取り組みを行ってきた。本学会のこれまでの取り組みに鑑みれば,今回の労働統計を中心とする統計不正は,単なる調査技術上の問題にとどまるような性格のものではない。
それは,統計の真実性の確保という,統計再建にあたって掲げた所期の目的を達成すべく設計された法制度の仕組みそれ自体の存立基盤を覆すものであり,わが国の公的統計,ひいては日本という国の有り方そのものを根底から揺るがしかねない問題に他ならない。
いうまでもなく公的統計は,調査の企画・実施者のみによって成るものではなく,その質の確保には,地方職員あるいは実査を担当する調査員の日々のたゆまざる奮闘,そして何よりも被調査者である国民の調査協力が不可欠である。1970年代に表面化し,次第に深刻さを増す調査環境の中で公的統計がその品質を維持できているのも,統計法に基づいた統計行政に対する国民の信頼を抜きには語りえない。
このような統計行政の制度的基盤を認識してさえいれば,今回のような不測の事態はそもそも起こりえないものである。にもかかわらず,このような事案が発生したことは,困難な調査環境の中,統計作成の第一線で日々尽力している統計関係者,そして何よりも,これまで調査に協力してきた国民に対する冒涜以外の何物でもない。このような事態によって,わが国の統計行政,ひいては政府そのものに対する国民の不信という形で調査環境の悪化にさらに拍車がかかることが危惧される。また,今回の不祥事が,統計行政そのものの在り方を根底から揺るがす深刻な問題であることから,その対応を誤ればわが国の公的統計に将来はない。それは同時に,日本の統計に対する国際社会からの信用の喪失をも意味する。
関係各機関に対しては,政治権力から独立でなければならないという近代統計の原点に立ち返り,また統計の真実性の確保という戦後の統計法の精神に思いを致し,公的統計の社会的使命を改めて確認するよう願う次第である。同時に,公的統計の品質保証のフレームワークに則り統計作成業務を遂行することを要望する。
今回の統計不正が,2000年代初頭のいわゆる「三位一体改革」以来の統計職員並びに統計予算の削減をその一因としていることは想像に難くない。また,調査の企画・実施者内の制度的な意思疎通の齟齬も影響しているのではないかと考える。これらの問題を含めて,文字通りの第三者の立場が確保された組織による,徹底した原因究明が行われることを求める次第である。同時に,統計委員会,制度官庁を中心に,今後二度とこのような事案が起きることがないように,統計行政の透明性の向上に一層尽力され,わが国の公的統計の信頼回復に向けた真摯な取り組みが政府全体としてなされることを強く要請したい。
以上
「厚労省、順法意識が欠如」 賃金統計不正で体質批判 総務省調査
東京新聞 2019年3月8日
総務省は八日、厚生労働省が所管する賃金構造基本統計の不正に関する調査報告書を公表した。報告書は「順法意識の欠如と事なかれ主義のまん延が問題の根底にある」と指摘。一方で、不正な郵送調査については「始まった時期は特定できない」と判断した。
賃金構造基本統計は調査員が企業を訪問して調査票を配布するのがルールだが、実際にはほとんどが郵送で行われていた。また本来は調べるべき「バー、キャバレー、ナイトクラブ」を対象から除外していた。
報告書は、郵送調査の開始時期について「厚労省が(不正を)公表した時点で判明していた二〇〇六年よりさかのぼるであろうと推測できる」と説明。
バーなどの除外は少なくとも〇八年には始まっており、「統計で示される数字の意味・内容に影響を与え得る問題で、ユーザーの信頼を裏切るものだ」と批判した。
さらに不正が長年放置されたことに関しては、実務担当者レベルでは十年以上前に認識していたものの、統計部門幹部との間で意思疎通不足があったと指摘した。
一月の政府統計の一斉点検時に不正を報告せず、当時担当していた政策統括官が気付かなかったと説明したことについては、「気付かないことは許されない」と断じた。
報告書は厚労省に対し、動員できる人員の限界などの課題を認識し、調査の実施方法や体制について必要な措置を取るよう要請。「組織と運営を見直し、ガバナンスを高めるべきだ」と訴えた。第三者委のガイドラインをまとめていることを挙げ、「樋口氏は適格性を欠いている」と指摘。根本氏は「樋口氏個人の資質に着目した」などと釈明した。【影山哲也】