2019年3月8日金曜日

ゴーン被告保釈 「人質司法」から脱却をと各紙が社説

 最高裁が示すデータによると、勾留された被告が否認している場合、初公判前に保釈する割合は89%にとどまり、国際基準からかけ離れています。
 高野隆弁護士によれば、「アメリカの司法統計によると、重罪(殺人、レイプ、強盗などを含む)で逮捕された容疑者の62%は公判開始前に釈放されている。身柄拘束が続く残り38%の内訳をみると、32%は裁判官が設定した保釈金が用意できないために身柄拘束が続いているのであり、保釈そのものが拒否されるのは6%に過ぎない」ということです(ブログ 人質司法の原因と対策 高野隆) 
 
 上記のブログによれば、日本の刑事司法が「人質司法」にほかならないことは半世紀近くにわたって内外の法曹関係者や国際組織から繰り返し批判されてきたことで、この事態についてすでに70年前に当時の国会議員が強い懸念を表明しその予防策を講じようとしたのですが、結局実らなかったということで、高野氏は「われわれはまこそ抜本的な改革に乗り出すときでこのままでは日本は国際的に孤立してしまう」と述べています
 
 ゴーン被告の突然の保釈に当たり、6日、7日の各紙は一斉に「人質司法」を批判する社説を掲げました。そうした社説を掲げた新聞は、分かっているだけで下記の通りです。
琉球新報沖縄タイムス熊本日日新聞西日本新聞徳島新聞中国新聞神戸新聞京都新聞信濃毎日新聞北海道新聞朝日新聞東京新聞毎日新聞
 
 上記以外でも多くの地方紙が同様の社説を掲げたであろうことは容易に推測されるところです。それにもかかわらず人質司法への反対運動が起きないのは何故でしょうか。その主な原因は法務省の記者クラブが完全に法務省に牛耳られているためで、これは多分記者クラブが解散されないことには改善されないでしょう。メディアに良心があるのであれば、せめて「外圧」を呼び込む努力だけはして欲しいものです。
 
 最近では籠池夫妻が299日に渡り不当に勾留されました。かつては佐藤優氏が500日以上勾留され、鈴木宗男元議員や村木厚子元厚労省次官なども長期に勾留されましたが、それぞれ冤罪につながる自白を拒否しました。それは勿論強固な意志を持っていたからで称賛に値しますが、彼らには長期勾留されても残された家族が飢える心配がなかったということも大いに幸いしました。
 異常に長期の勾留はそれ自体が言語に絶する人権侵害ですが、一家の稼ぎ手が勾留されれば家族が飢えることになるので、普通の人は長期勾留から逃れるために検察の筋書きを認め、虚偽の自白をせざるを得ません。それこそが検察の狙いでもあり、冤罪の温床といわれる所以です。
 諸外国の刑事訴訟での有罪の確率が70%程度であるのに対して、日本では実に999%です。その差30%はそのまま冤罪の可能性を示しているのではないでしょうか。
 こうした不正義を他ならない司法機関の一画が行っているのは言語道断で、それが検察の面子を保つために事実上公然と許されているに至っては言葉を失います。
 
 琉球新報の社説は、「刑事訴訟法の定めによって、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、保釈は認められないとなっているが、現実には、わずかな可能性でも「疑うに足りる相当な理由」となり得るので、そのことが「人質司法」を常態化させた」として曖昧な解釈を許さない保釈制度に改めるべきと述べています
 
 琉球新報と沖縄タイムスの社説を紹介します。
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<社説>ゴーン被告保釈 「人質司法」から脱却を
琉球新報 2019年3月7日
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が保釈された。3回目の請求でようやく認められた。証拠隠滅や逃亡の恐れが大きくないと東京地裁が判断したのである。
 否認すれば勾留が長引く「人質司法」は日本の司法制度の問題点としてかねて批判されてきた。精神的に追い詰められ、早く釈放されたい一心から、やってもいない罪を認めてしまう可能性もある。冤罪を生む温床ともいえる
 
 国際的な実業家であるゴーン被告の逮捕によって、日本の刑事司法制度の後進性が浮き彫りにされた。否認している限りなかなか保釈が認められない現状は人権上、問題が大きい。「人質司法」からの脱却が急務だ。
 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されたゴーン被告は全ての起訴内容を一貫して否認している。身柄拘束は108日に及んだ。保釈保証金は10億円だ。保釈に際し、住居の出入り口への監視カメラの設置と録画映像の提出、携帯電話の使用制限、海外渡航の禁止、日産幹部ら事件関係者との接触禁止といった厳しい条件が付された。
 監視カメラの設置など、被告の人権を侵害するような措置は異様に映る。
 
 裁判で有罪が確定するまでは罪を犯していないものとして扱う「無罪の推定」原則を思い起こす必要がある。
 元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは、北方領土問題に絡む事件で東京地検特捜部に逮捕され、512日間勾留された経験を持つ。その際、自身を非難する情報が大量に報じられ、事実でないものも多かったと、本紙連載「佐藤優のウチナー評論」で指摘している。ゴーン被告も同じような立場に置かれた。
 佐藤さんが問題視するように、身柄を拘束されていて、反論したり情報を発信したりするすべがない中で、捜査当局側のリーク等によって事件への一方的な印象が形成されるのは公正とは言い難い
 
 メディア側も、被疑者・被告側の主張を対等に報道するよう努めるべきだが、勾留されている被告側の発言が伝わりにくいのも事実だ。
 ゴーン被告の場合、1月に2度保釈を請求しているが、いずれも却下された。証拠隠滅の恐れがあると判断されたことが理由とみられる。
 刑事訴訟法の定めによって、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、保釈は認められない。現実には、わずかな可能性でも「疑うに足りる相当な理由」となり得る。そのことが「人質司法」を常態化させた曖昧な解釈を許さない保釈制度に改めるべきだ。
 争点を絞り込む公判前整理手続きが始まらない段階で、否認している被告の保釈が認められるのは異例だという。それが異例であること自体を、異常と見るべきだ。
 今回の事件を機に「長期勾留」が是正に向かうことを強く望む。
 
 
社説[ゴーン前会長保釈]人質司法改める契機に
沖縄タイムス 2019年3月7日
 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が、保釈保証金10億円を納付し、保釈された。
 昨年11月の逮捕以降、身柄拘束の期間は108日。長期勾留に対する国際的批判の高まりは、日本の特異な「人質司法」の問題を浮き彫りにした。
 ゴーン前会長は、自身の報酬を有価証券報告書に少なく記載した金融商品取引法違反と、私的な投資で生じた損失を日産に付け替えるなどした特別背任の罪に問われ、拘束されていた。
 東京地検特捜部が捜査した事件で、全面否認のまま保釈が許可されるのは異例のことという。
 今回で3回目となった保釈請求を東京地裁が認めたのは、新たに選任された弁護人が外部と接触できない手段に知恵を絞ったからだといわれる。「住居の出入り口に監視カメラを設置」「インターネットへのアクセスやメールの利用禁止」などの行動制限が奏功した。
 とはいえ、過去2回の請求から保釈判断に影響を与える事情に大きな変化がなかったことを考えると、人質司法に厳しい視線が注がれていることへの影響もあったと推測される
 ゴーン前会長は地裁の保釈決定に際し「推定無罪の原則」に触れながら、「私は無実だ」との声明を発表した。検察と真っ向から対決する構えだ。
 起訴内容を巡っては立件の難しさを指摘する専門家もおり、裁判の行方は見通せない。状況を冷静に見守る必要がある。
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 捜査の中心が取り調べに置かれ、長期間拘束し自白を得ようとする人質司法が、冤罪(えんざい)の温床となってきたことは否定できない。
 最高裁によると、勾留された被告が否認している場合、初公判前に保釈する割合は8・9%にとどまり、国際基準からかけ離れている。
 受託収賄罪などで有罪が確定した鈴木宗男元衆院議員は逮捕から保釈されるまで437日を数えた。
 詐欺などの罪で起訴された「森友学園」の籠池泰典前理事長の勾留は299日に及んだ。
 米軍基地建設への抗議活動で逮捕・起訴された沖縄平和運動センターの山城博治議長の場合も152日間にわたった。
 国連自由権規約委員会は日本に対し起訴前の保釈などを再三勧告している。人権保護の視点からも問題の多い長期間拘束は改めなければならない。
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 厚生労働省の村木厚子元局長冤罪事件をきっかけに取り調べの可視化など刑事司法改革が進んだ。しかし人質司法の問題はそこからこぼれ落ちた。
 自由権規約委員会は弁護人が取り調べに立ち会う権利を保障すべきだとも勧告している。欧州をはじめ既に多くの国で確立されている制度である。
 今回の事件で長期勾留に対する疑問が一般市民の間にも広がる。制度改革につなげる契機とすべきだ。